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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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nocturne

「一応、ここまでが私の見解となるのだけど、どう?」


 他国の大気魔気の調整の仕方と、この国の問題点を説明してくれた真央先輩は、その言葉で説明を終える。


 アリッサムの大気魔気の調整の仕方は、恐らく、一番、この世界に即したものなのだろう。

 王族を中心として、国民たちが常に、それぞれの意思で現代魔法を使っている。


 現代魔法なら、大気魔気を取り込んで体内魔気と融合させた上で、大気の中に人体に害のないモノへと変化させることができるのだ。


 セントポーリアはその手が足りないために、魔石を代用させ、その補助としている。


 大気魔気を魔石によって吸い取り、無意識に放出される体内魔気も無駄なく回収し、そのバランスをとろうとするのは、この世界の仕組みを知らなければできないことだろう。


 情報国家イースターカクタスもそれを知らないとは思えない。


 いや、セントポーリア国王陛下との仲の良さを見た限り、セントポーリア城の仕掛けは、あの王さまの入れ知恵である可能性すらある。


 ストレリチアは王族だけでなく、神官と呼ばれる人たちがいる。


 各国が不都合だと消して来た事実(歴史)も、大聖堂(神の聖域)という、どの国も立ち入れない場所によって護られた。


 大気魔気、体内魔気は法力や神力とは違うようだけど、そこに神さまと呼ばれる上位の存在が絡めば、法力国家はどの国よりも情報(知識)を持っているかもしれない。


 カルセオラリアは、もともとそこまで魔力が強い国ではないが、スカルウォーク大陸は、国家の数が一番多い。


 それは言い換えれば、大陸神の加護を持つ国が分散されているのだ。

 そして、カルセオラリア自体がずっと創意工夫をしてきた国でもある。


「この国、大丈夫か?」


 全てを聞き終えた後、水尾先輩の口から出てきたのはそんな感想だった。


「大丈夫じゃないよ。だから、既にあちこちに弊害が出てきているみたいだね」


 真央先輩は、苦笑する。


「弊害……、だと?」


 だが、水尾先輩は厳しい顔を崩さない。


「ルカなら分かるでしょう? ここまで、大気魔気が不安定だと、国内の維持も大変だってことぐらい」

「そうだな」


 真央先輩の言葉に、少し考えた後、水尾先輩はそう答えた。

 大気魔気が不安定だと、真っ先に影響を受けるのは生態系だ。


 セヴェロさんが言っていたようにアリッサムが消えてしまった後、フレイミアム大陸は砂漠化が進んでいたという。


 もともと砂漠だった場所に建てられたのが、アリッサム城であることをわたしも知っている。

 気も遠くなるほど昔の風景を見せられたから。


 その場所から、大気魔気を調整していた人間たちが消えてしまえば、その砂漠化はますます進んでしまったことだろう。


 尤も、そこにあったはずの大気魔気が濃い場所、「神気穴(しんきけつ)」と呼ばれるものも一緒に消失してしまったらしいから、一気に広がったわけでもないとは思っている。


 ただ、大気魔気が不安定になれば、気候にも影響する。


 もともと、フレイミアム大陸は火の大陸と呼ばれるほど乾燥しやすい大陸なのだ。

 その場所がますます気温が上がり、雨も降らなければ、砂漠化は進行してしまう。


 そういう話なのだと思う。


「大気魔気の調整が不十分な地域がどうなるか、ルカは知っている?」

「その地域が荒れる」

「その通りだね。一番影響を受けやすいのは、当然ながら大気。そしてそれによる気候変動。次いで、そこで生まれ育つ動植物も少なからず影響を受けるから、生態系も変わってしまうわけだ」


 まさにわたしが考えている通りの話を真央先輩と水尾先輩がしている。


「このウォルダンテ大陸は、魔獣が多種多様で、さらに言えば、それなりに手強いモノが多い。それもこの大気魔気の調整が上手くできていないためだよ」


 そんな真央先輩の言葉に対して……。


「手強いか?」

「さあ? オレは他大陸の魔獣を倒したことがないので分かりません」


 水尾先輩と九十九(一般から外れた者たち)が、そんな会話をしている。


 ちょっと待って?

 九十九って、魔獣を倒したことがなかったの?


 あれ?

 ミヤドリードさんによって、幼い頃、雄也さんと共に魔獣の前に放り出されたとか言ってなかったっけ?


 それに、セントポーリアとジギタリスの国境付近でアリッサムの人たちに襲われた時は、あれは召喚獣だったし、気絶させただけだったか。


「あ~、一般人にとっては、『サルの魔獣(カーカム)』が単体で出てきても、十分、脅威だからね?」

「あ? 『サルの魔獣(カーカム)』は集団で出てきても、雑魚だろ?」

「魔法騎士団が集団(レギオン)戦闘(バトル)に臨むような飛竜型魔獣(ネラヴィアウ)の群れを、年齢一桁時代に単独討伐するような人外は黙っていて?」


 そんなどこかで聞いた話が飛び出してきた。


飛竜型魔獣(ネラヴィアウ)の群れを、年齢一桁時代で……?」


 そして、九十九が茫然としている。

 それほどのことらしい。


「その魔獣って強いの?」

「飛竜型魔獣……、シオリ様にも分かるように言えば、ドラゴン……、いや、ワイバーンが近いですね。私は会ったことがありませんが、どの大陸にも人の住む地域から外れた地にいると言われています」


 ワイバーンやドラゴンが例に出てくるほどの魔獣だったらしい。

 セヴェロさんの話では、二十八頭の単独退治だったというから、確かに普通の人ではない。


飛竜型魔獣(ネラヴィアウ)なんか、羽を落とせば楽だろ?」

「黙れ、人外。珍しく大規模魔法を構築していた当時の聖騎士団長たちに謝れ」

「もたもたしていたから、早く片を付けただけだ」


 過程も結論も、どこかズレている。

 確かに規格外、人外の感覚だろう。


「高田だってできることだろ?」


 そんな水尾先輩の言葉に……。


「やりませんよ」

「させませんよ」


 わたしと九十九が同時に答えた。


 そんな意味もなく生き物の命を奪うようなことはしたくない。

 自分や大事な人たちの命が危険に晒されない限り、そんなことはしないと決めている。


 言い換えれば、命の危険があれば、迷うつもりはない。


 魔獣がわたしを殺しに来るような状況なら、相手だってその逆の覚悟だってしているだろうから。


「まあ、一般から逸脱している人間のことは放っておいて、普通の、か弱い、人間は、魔獣一体でも、十分、怖いの。震えるの。逃げたいの。だから、強い人に頼るしかないの。そこで納得しておいて? 話が進まないからね?」


 真央先輩は念を入れるかのように、その一言、一言に力を込めた。


「城下でこんな話を聞いたことはない? 『昔と比べて魔獣が強くなった』、『これまで通じていた魔法の効果がなくなった』みたいな噂」

「ないな」

水尾(ルカ)さんは、噂に興味を持ちませんからね。オレはその噂に似たようなものならいくつか聞いています」


 真央先輩の問いかけに対し、水尾先輩はあっさり否定したが、九十九は呆れたように肯定した。


 噂、噂か~。


「それが、生態系が変わっている分かりやすい証拠だね。魔法耐性も多分、上がっていると思うよ」

「もともとの魔法耐性を知らん。このウォルダンテ大陸で、フレイミアム大陸ほどの強さを持つ魔獣はまだ会ったことがない」

「あ~、うん。そろそろルカは黙ろうか? 貴女の基準がおかしすぎて、話が進まないよ」


 まあ、水尾先輩(ルカさん)は、この世界でもトップクラスの魔法使いだ。

 普通の基準が当てはまるはずがない。


「失礼な。高田よりは普通の規格に収まっている」


 なんですと?

 今、水尾先輩から酷いことを言われた。


 だが、九十九もどさくさに紛れて大きく頷かなかった?


 いつもは背後にいる護衛だが、今はわたしだけの護衛ではないために、わたしの視界に入る場所にその姿がある。


 だから、その反応がよく見えてしまって、かなり複雑な気分だった。


「高田は規格外。ルカは基準超過。こう言えば満足?」


 さらに重ねて酷いことを、笑顔で言う真央先輩。


 何故、わたしが巻き込まれているのかが分からない。

 その言葉に心当たりがあったのか、水尾先輩は押し黙り、九十九は納得したように手を打つ。


 でも、真央先輩や水尾先輩はともかく、さっきから、わたしの護衛の反応も結構、酷くない?


「まあ、いろいろと言いたいことはあるかもしれないけど、暫くは黙っていて。反論は後から聞くからさ」


 真央先輩はそう言いながら、水尾先輩に向かって笑みを深めたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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