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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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Amazing grace

 魔法国家アリッサム。

 その国がこの世界から消えてしまって、一体、何年経ったのだろうか?


 三年だ。

 それは長いようで短い。

 そして、短いようで長い。


 その間に目まぐるしく、この世界は形を変えていた。


 まず、フレイミアム大陸が荒れたらしい。

 それはカルセオラリアにいた時から聞いていた。


 そして、その話を聞いた時、私は、四カ国もありながら、アリッサムがたった一国で担っていた荷物も背負えないのかと呆れたものだった。


 だが、違ったのだ。

 残された四カ国は、その荷物の背負い方すら知らなかった。


 アリッサムの王族たちは、後を継ぐ嫡子、第二子(スペア)だけでなく、第三子(それ)以降も王族としての大気魔気の調整の役割を教養として学ぶことになる。


 だから、かつて王族だった者の血を引く貴族たちやそれ以外の魔力が強い人間たちも、王族の責務として知っているし、何より、アリッサムの玉座を中心に広がる城は、かなり濃密な大気魔気に満ちていた。


 だから、女王陛下はほとんど玉座の裏に隠されている私室から離れることはないし、城内へと広がる大気魔気を女王陛下や王族たちが何らかの形で抑え込んでいることは、視る者が視れば分かるほどだった。


 そして、あの国にいて、城内に立ち入れるような人間に視えない者などいるはずもなく、当然ながら、王族に感謝しない者はいなかった……と記憶している。


 まあ、腹の内までは分からないけれど。


 だからこそ、あの国は多少、歪な所があっても、王族は尊ばれ、中でも女王陛下には誰もが膝を折ることが自然だったのだ。


 だけど、他国はそうではなかった。


 私が暫くお世話になったカルセオラリア城は、確かに国内でも大気魔気が濃い場所にあったと思う。

 それでも、アリッサム城ほどではなかった。


 だが、その代わりに国内のあちこちに一見、そうと分からないような魔法具が設置されており、そこには国王陛下自らが魔力を込めた上質な魔石が装着されていた。


 それを定期的に取り換えることが、国王陛下以外の王族たちの仕事らしい。

 だから、王族たちは国内のあちこちに足を運んでいたりする。


 尤も、移動魔法が得意な王族たちだ。

 それは苦にもならないだろう。


 その装置は、空気を正常化させ、国内の気候を安定させるための大事な装置だとカルセオラリアの王族たちは習い、代々、引き継いでいるらしい。


 その場所に何度か足を運んだが、確かに少し、他の場所よりも大気魔気が濃い地だったと記憶している。


 過去にその魔石に目が眩んだ王族が、代わりに質が劣る魔石を設置しただけで、短期間でその付近が荒れたという。


 その王族がどうなったかは記録されていないし、名前すら残されていない。


 だが、その極端な気候の変化から、カルセオラリアは学んだ。

 その装置に、誤魔化しは効かないと。


 相手は自然だ。

 人間のように甘くはない。


 それを教えてくれた人は、今、もういないけれど、いつか、自分の役目になるだろうと、魔石に魔力を込める修練を重ねていたことを今、思い出してしまうのは何故だろうね。

 

 不思議な縁で向かうことになったストレリチア城も、大気魔気は濃かったが、アリッサムほど濃い場所はなかった。


 いや、ストレリチア城は、どちらかというと、大聖堂の方が、大気魔気が濃かった気がする。


 ストレリチア城内部に大聖堂があるから同じようなものと考えられるかもしれないけれど、玉座がある方向よりも、大聖堂の……、それも祭壇と呼ばれているところが、一番、近付きたくない気配を放っていたのだ。


 恐らくは、その祭壇にある聖櫃と呼ばれているモノに、大気魔気に近いモノを放つナニかが納められている気配があるのだが、それを確認する勇気はなかった。


 多分、私でも耐えられないナニかがそこにある。


 因みに、ストレリチア城に行くきっかけになった後輩にソレについて尋ねたことがあったが、目を逸らされた。


 そして、そこを護る大神官と呼ばれる存在も、「神の遺物」としか答えてくれなかった。


 つまりは、触らぬ神に祟りなしということなのだろう。


 セントポーリアについては、私も人伝でしか聞いていないが、大気魔気が最も濃い場所は、やはり玉座付近であり、「契約の間」は、その真下にあるためか、大気魔気が濃いそうだ。


 そして、カルセオラリアのように魔石に国王陛下が魔力を込めて各地に置くのではなく、城に吸魔石を置き、その濃密な大気魔気と、城に住んでいる人間たちが放出する体内魔気を吸い取るようにしているらしい。


 そして、セントポーリア国王陛下は正しく、王族の役目を理解していると聞いた。


 もともと、第二王子だったセントポーリア国王陛下は、後を継ぐ兄王子のために、古文書を読み込んでいたらしく、王族の役目……というか、魔力を持つ人間の役目として、定期的に契約の間にて、魔法を放っているらしい。


 そして、玉座やそこに近い、契約の間で放出された国王陛下の体内魔気は、その場所を通して、セントポーリアの国内各地に分散されている。


 その機能は恐らく、古代から護られているものだろう。


 アリッサムと同じだ。

 歴史と伝統のある国は、その機能を護り続けている。


 もしかしたら、情報国家イースターカクタスもそうかもしれない。

 あの国の国王陛下がそれ知らないとは思えないから。


 だが、同じ中心国であるはずのこのローダンセはそうではなかった。


 その機能も、何故、「契約の間」が不自然なほど濃密な大気魔気で満たされているのか、その意味を知らないし、知ろうともしない。


 確かに人が住めるところが少なく、魔獣が多く住む大陸ではあるのだけど、魔獣が多ければ、それだけ退治するために魔法を使って、大気魔気を減らし、体内魔気を放出させることになるのだ。


 それは、この大陸を生かすために、世界が生み出した仕組みだったのかもしれない。

 魔法を使えば、この大陸の気候は落ち着くはずなのだから。


 だが、魔獣が多く出るために、効率的な退治の仕方を学ぶ人間が増えてしまった。

 魔獣は魔法以外でも倒せるのだ。


 そこは仕方がない。


 魔獣の害は、決して小さくもないのだから、この地で生きていくためには、少しでも楽な方法を生み出すのは自然な流れだ。


 だが、そのために魔力が小さく、魔法力も少ない国民たちが率先して動いた。

 この国の王侯たちは、すぐに動いてくれないから。


 城下以外の集落が訴えて、訴えて、訴えて、その地に住む貴族たちだけの力では、どうしようもなくなってから、初めて、城下に一報が齎されるそうだ。


 いや、下手すれば、その地に住む貴族たちは動くこともなく、城下に丸投げすることもあるらしい。


 この国の貴族たちは、必要以上に守られているため、戦いに不慣れであることが原因だろうと、最近、女装をして城下に下りては妹ともに魔獣退治に勤しんでいる青年が言っていた。


 この国で最も、大気魔気が濃い場所と思われるのは、玉座から遠く離れた契約の間らしい。

 それは、この国に出入りする機会が増えた他国の王子が言っていた。


 他者の魔力に対してはやや鈍い面があるが、空間に満たされる大気魔気に関しては、魔法国家並の感覚を持つ男の言葉だから、信じても良いだろう。


 だが、私は、今いるこの場所も、結構、濃いと感じていた。

 それなのに、その契約の間も、この場所も人が立ち寄らないのだ。


 この国の人間は、下手すると、カルセオラリアの人間たちよりも魔力が弱いように思える。

 だから、無意識に大気魔気が濃い場所を避けてしまうのだろう。


 あまりにも濃すぎる大気魔気は、身体の調子を狂わせるらしいから。


 カルセオラリアは確かに魔法が不得手な人間が多く集まっているが、それは決して魔力が弱いわけではない。


 道具に魔力を込めたり、魔法を付加したりする能力の方が高いだけの者が多いだけだ。

 少なくとも、私はそう感じている。


 そして、このローダンセはカルセオラリアのような対策も取っていない。

 そんな状態で、大気魔気の調整ができるはずもない。


 確かに王族を増やすことで、この周囲の大気魔気は少しぐらいマシになるだろう。


 だが、その誰もが最も濃いはずの契約の間に入ろうとしなければ、効果は半減よりももっと悪い。


 そして、同時に、別方向からの情報も耳にする。

 それを聞いた時、私は、この国の正気を疑うことになるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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