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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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剣の舞

 暫く来ていないうちに、随分と貴族の質が落ちている、と思うのは、もう何度目だろうか?


 だが、それは、どうやら、あのロットベルク家だけではなかったようだ。


 気の緩みか。

 統治の緩みか。


 まあ、他国の人間である俺にはどうでも良いことだが、そこでアーキスフィーロやシオリが絡むから面倒だと思う。


「トルクスタン王子殿下。アーキスフィーロは何処へ行ったかご存じですか?」


 いくら待っても、俺からこれ以上の譲歩を引き出せないと判断したのか。

 第五王子は話題を変えた。


「さあ? 俺はヤツに置いて行かれた身だからな。薄情な従甥(じゅうせい)だよ」


 尤も、俺を残したことは、ヤツの意思ではない。


 先導したのはシオリだった。

 そして、その判断は正しい。


 あのまま、あの場に残れば、ヤツらはもっと不快な思いをすることになっただろう。


 アーキスフィーロはそれに耐えてきたし、シオリもあまり、荒立てることを望まないから我慢してしまうと思う。


 だが、俺の幼馴染たちは別だし、シオリの護衛たちは、シオリへの侮辱は許さない。

 かなり、面倒な事態になったことだろう。


 ヤツら四人を同時に怒らせた後のことなど、想像すら恐ろしい。

 それを思えば、俺一人が不快な気分になるのは、まだマシな方だと思う。


 魔法国家の王族が二人。

 貴族並の魔力を持ち、情報国家のように隙が無い男が二人。


 しかも、俺にとっては一番、敵に回したくない男が、全面的にシオリの味方なのだ。


 そんな集団を、一体、誰に止められるというのか?

 シオリしかいない。


「アーキスフィーロの連れの女性については、トルクスタン王子殿下は何かご存じですか?」


 周囲が騒めいた。


 まさか、この第五王子まであの娘に興味を示すとは思ってもいなかったのだろう。


 だが、正面から見ている俺の印象としては、その瞳は異性としての興味ではなく、アーキスフィーロが連れてきたことに対して思うところがあるように見える。


「ジュニファス王子も気になったか? 先ほど、ここにいる者たちにも告げたが、あの娘は俺の友人が紹介してくれた友人だ」


 言葉を選びながら、反応を窺う。


「あの娘は心優しく魅力的であるため、従甥(じゅうせい)のアーキスフィーロを紹介したまでだ。存外、互いに気に入ったようで、安心している。だから、悪いが、他の男どもが入り込む隙などないぞ」


 周囲への牽制を込めてそう言い切った。

 実際、シオリはアーキスフィーロに対して、それなりに心を砕いて接していると思っている。


 アーキスフィーロの方も、かなり気に入っているようで、逆に意外に思えたほどだ。


 そんな二人の間に無理矢理、割り込めるとしたら……、まあ、うん、同じ黒髪の男どもしかありえないだろうと考えている。


 そんなヤツらの考えは本当によく分からない。

 少なくない時間を共に過ごしてきても、あの二人の思考は謎としか言いようがないのだ。


 確かにシオリは、ヤツらの主人ではあるが、あんなにも大事にしている女ならば、簡単に手放すとは思っていなかった。


 だが、想像以上にあっさりと彼女が他の男のものになることを認めたのだ。

 これには、話を持ちかけた俺の方が拍子抜けしたほどだった。


 それだけ、身分というものは、庶民に重く圧し掛かっているということなのだろうか。


 それは、生まれながらにカルセオラリアの王族である俺には分からない葛藤だった。


 カルセオラリアの王族は、身分を重視しないから、俺の妻となる女性も、お互いに心を寄せた相手ならば良いと言われている。


 勿論、最低限の礼儀を知っている必要はあるが。


 そう考えるとシオリはかなり理想的ではあるのだが、残念ながら、何度も求婚を断られている以上、国王陛下からの「お互いに心を寄せる」という条件を満たせないから、仕方ない。


 結果としては、俺の従甥は「婚約者候補」となった。

 だが、それは時が過ぎれば、婚儀の約束相手となり、いずれは婚姻することになるのだろう。


 それなのに、ヤツらはそのまま彼女を護り続けることを選んだ。

 自らの容姿と、性別すら偽ってまで。


 大事な娘が他の男のものになっても、いつまでも見守り続けようと言うのだから、被虐趣味が過ぎる。


「そのような意味ではありません。ただ、あの女性と話がしたかっただけなのです」


 彼女のことを、「娘」でも「少女」でもなく、「女性」と口にした。


 確かに社交デビューをした以上、15歳以上であることは間違いない。

 実際、シオリは18歳だ。


 個人的には、そうは見えないところにも魅力を覚えるが、世間一般的には立派に「女性」である。


「断る」


 俺がそう返答すると、第五王子はそれを予想していたかのようだった。


 周囲の方が喧しい。

 カルセオラリアも貴族らしい人間などいないが、それでも王族たちに敬意は持ってくれている。


 だが、この場にいるヤツらは、そんな気配すらない。


 そこまで大きな声で騒げば、()()()()()()()()()()になるというのに。


「あの娘は俺がアーキスフィーロに託した大事な友人だ。王族たちの横槍など受け付ける気はない」


 暗に、第五王子だけの問題ではないと告げる。


 彼女が扉を閉めた後、真っ先に俺の許に来たのは、第三王子だった。

 第三王子はヴィバルダスの主人だ。


 ヤツから、事前に何かを聞いていた可能性が高い。

 だから、反応が早かったのも納得できる。


 その直後、第二王子が割り込み、見苦しい言い争いを始めたので、場所を変え、他のヤツらにも釘を刺していく。


 他国の王族と侮るなら、それでも良い。

 お前たちが使う魔法具は、どこの国で作られた物が一番多いか知っているのならな。


 あの会合で、セントポーリア国王陛下が教えてくれた。


 ―――― 王族の血を守ることは大切かもしれないが、民あっての王族だ


 ―――― 民が生きていると言うことは、その技術者たちも生きている


 それらの言葉は、あの時の俺にとっても、衝撃的なことで、その言葉を肉声で聞きたかったと思ったほどだ。


 俺は会合に参加できず、部屋に設置されていた映像受信装置(ジャイヴァテレス)と通信珠からしか、あの言葉を聞くことができなかった。


 セントポーリアに滞在していた時は、気付かなかった。

 あの国王の資質に。


 だが、あの場では違った。

 あの方は、情報国家の国王陛下と渡り合えるほどの技量を持っている。


 そして、あの方の考え方は、俺にとって心地よいものだ。


 流石は、市井にいたユーヤとツクモの才を見出して、重用しているだけあるとも思った。

 だから、俺はシオリに惹かれてしまうのだとも思っている。


 女性としての魅力以上に、人間としての魅力がある娘。

 閨で可愛がるための女ではなく、王の横に立って堂々と肩を並べる女性。


 いや、シオリなら閨で可愛がることも(やぶさ)かではないのだが、その前にどこぞの黒髪の兄弟から首元と股間に向けて、揃って刃を押し当てられる気がするので、そこは我慢する。


 流石にムスコを含めて自分の命は惜しい。


「横槍などを入れるつもりはありません。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()のではありませんか?」


 周囲が再び、騒めいた。

 恐らくは、その騒めきにはいろいろな意味がある。


 ただの庶民が、他国に滞在を許されるはずがない。

 単純に王侯か、それに仕える者。


 後は、特別、その国の王に目を掛けられた者だ。


 何も持たないと思われていた娘が、実は、この国以外の王から目を掛けられているという事実は大きいだろう。


 こんな場所で余計なことを口にしやがったと、思わず舌打ちしたくなる。


「知らん。聞いたこともない」


 実際、直接、聞いたことはないのだ。

 だが、そうだろうなと予測はできる。


 俺がセントポーリアに滞在していた時は、シオリと一度も会うことはなかった。


 それだけではなく、ユーヤにはあれほど会っていたのに、その弟であるツクモとは一度も会っていない。


 そして、ニンゲンカイと呼ばれる地へ向かった幼馴染たちとも出会っているし、何より、アーキスフィーロと会わせる前から面識があったようだ


 何より、同じようにカルセオラリアからニンゲンカイへ行かせたはずのイズミとカズトとも会ったらしい。


 それだけで確定だとは思っている。


 だが、言うつもりはない。

 言う必要がない。


「そうですか……」


 第五王子は、鰾膠(にべ)もない俺の応答に対して、居心地が悪そうに目を逸らす。

 だが、俺も居心地の良さを提供する気などない。


 アーキスフィーロが傷付いても動くことのなかった主人(王子)

 あの従甥(じゅうせい)が人間不信になるわけだ。


 婚約者に裏切られた後、友人だと思っていた人間からも見捨てられたのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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