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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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印象

 流石に、舞踏会本番がこれからだというのに、あのままでは気の毒だと、わたしは正妃殿下の侍女さんから髪のセットと、化粧直しをしていただくことになった。


 化粧も崩れていたのか……。

 いや、かなり変な汗をかいた自覚はある。


 自分では髪はともかく、顔の変化までは分からないので、お気遣いに感謝したい。

 正妃殿下が心優しい方で良かったと思う。


 そして、今回のでびゅたんとぼ~るの参加者が他にいなかったことも幸いだった。


 流石に国王陛下にぶん回される女など、鮮烈なデビューにも程があるだろう。

 目撃者は少ない方が良い。


 成人済み(15歳以上)の王族たちや、一部のお偉いさんとかに見られたことは仕方ないけれど、状況的には同情されると思う。


 さて、本日、でびゅたんとぼ~るを迎えたのが、一組だけということもあり、予定されていた時間がかなり余ることになったらしい。


 その余った時間を使って、わたしは、化粧直しのために、「藍玉の間」の横の通路を通り、いくつもある控室の中の一室を借りることになったのである。


「国王陛下は、ダンスをお気に召したようですが、その……、少しばかり元気が良すぎるもので、パートナーになってくださる方がいないのです」


 髪型をセットし直してくれた侍女さんからそんな情報をいただきましたが、今、それを知ったところでどうしようもない。


 でも、その理由があんなに激しいダンスにあるのなら、そちらの方を事前情報としていただきたかった。


 あれはダンスのリフトじゃない。

 あれは絶叫マシンと言うのです。


 せっかく、髪も顔も、ルーフィスさんが綺麗にしてくれたのに、ボロボロになってしまったことを、わたしは鏡を見て理解した。


 これは、確かに酷い。


 ドレスは、修復魔法によって、新品同様にしてもらえたけれど、顔と髪は魔法で元に戻せるものではなかったようだ。


 やはり、専属侍女たちが言うように、髪と肌は繊細なんだね。


 尤も、話を聞いた限り、貴族子女であっても、国王陛下と円舞曲(ワルツ)を踊る機会なんて、今回のでびゅたんとぼ~る以外にはないそうだ。


 実はかなり貴重な機会だったのですよ、と言われても、当然ながら嬉しくなかった。

 寧ろ、替わっていただきたかった。


 国王陛下ともなれば、そうそう人前で踊ることはないし、踊るとすれば舞踏会の開会挨拶後に行われるファーストダンスだろう。


 だけど、正妃殿下が頑として踊らないそうだ。


 それはそうだ。

 あんな風に人前でぶん回されるなんて、正妃殿下としては避けたいところだろう。


 そうなると、ファーストダンスは他の王子以下の王族たちが務めることになるが、踊れる年齢の王族が圧倒的に男性の方が多い。


 だから、つい最近まで、王族が行う舞踏会のファーストダンスの女性側(パートナー)は、第一王女殿下しか踊れなかったそうだ。


 対して、社交デビューを済ませた男性王族は5人もいる。

 そして、厄介なことにいずれも婚約者がいない。


 それとなく、国王陛下が隠居……、譲位の話をしたが、まだ誰が後を継ぐか決まっていない状況である。


 ローダンセは月に一回、最も王の座に近い王子を発表する場があるらしいが、その内、二カ月に一度はそのファーストダンスを踊った王子らしい。


 いろいろ、ぶっ飛んだ国だと思う。

 いや、今回ぶっ飛ばされたのは、間違いなくわたしだが。


 風魔法以外で吹っ飛ぶ経験なんてもう二度としたくない。


 いや、風魔法でふっ飛ばされた時の方が、ずっと加速もついているのに、そちらの方が全く怖くなかった。


 人力って怖いんだね。


 しかし、飛んだ社交デビューだろう。

 文字通り飛ぶなんて思わなかった。


 こんなの、予測できない。

 予測不可能で回避不能だった。


 今回の反省すべき点は、円舞曲(ワルツ)では決して、目立ってはいけない……、だろうか?


 でも、自分たちのペアしかいない状況でもあった。


 他の人たちの実力が分からなかったら、恥ずかしくないように全力を出した方が良いって考え方はおかしいかな?


 因みに、円舞曲(ワルツ)だが、上手い人たちは、やはり、いるそうな。


 そうれなければ、国王陛下がリフトなんて技術を知る機会はなかっただろう。

 だけど、どんなにお上手でも、あの国王陛下の御相手は務まらないらしい。


 理由は、精神的な耐性である。

 まさか、魔法以外で耐性が求められる場面があるとは思わなかった。


 だが、あんなにもぶんぶん、ぐるんぐるん振り回すようなダンスに耐えられる女性が、そんなに多くいるはずがない。


 気絶しなかった女性はわたしが「初」って言っていたからね。

 今後、またお相手をさせられないことを切に願おう。


 少なくとも人前ではないとは思う。

 正妃殿下とファーストダンスを踊らない以上、国王陛下は舞踏会で踊ることができないらしい。


 要は、仕事をしないで趣味だけ楽しむことはできないということだ。


 そして、正妃殿下は、始めに気絶して以来、国王陛下と円舞曲(ワルツ)は絶対、踊らないと公言しているそうな。


 いや、誰か、国王陛下にちゃんと言ってくださいよ。


 あなたのソレは円舞曲(ワルツ)じゃないって。

 加減をせずに、王さまの力を全力で振るえば、誰だってああなるって。


 その上、無意識に身体強化を使っちゃっているんじゃないかな?


 そうでなければ、いくら軽くても数十キロの重さがある人間が、そう簡単に宙を舞うことはないだろう。


 うん。


 加減大事。

 自重大事。

 配慮大事。


 そして、上に立つ人は、その自覚大事。


 それにしても、流石は正妃殿下付きの侍女さんである。


 わたしのことを庶民と知っているのに、お仕事に手を抜いた様子もない。

 それどころか、国王陛下の扱いが酷かったためか、どことなく、同情されているようにも見えた。


 いや、あの国王陛下に悪気はないということは分かっている。


 なんというか、脳構造が単純明快というか、筋肉でできているんじゃないかって思ってしまうほど真っすぐではあった。


 タヌキというよりも……、イノシシ?

 いや、でもやっぱりタヌキ?


 だけど、今日、接したことで、一年ほど前に、あの世界会合で見ていた印象と、随分、変わったことは分かる。


 あの時はもっと落ち着いた人だと思っていた。


 でも、違った。

 割と、いや、かなり変な人だった。


 脊髄反射で動き、人の心の機微に疎い国王。

 恐らく、周囲の都合や、そのための様々な調整も気にするタイプではないだろう。


 強引なのは、どこの王さまも同じだけど、それぞれの国王陛下たちは、それでも周囲はちゃんと見ている。


 まるで、子供のままの王さま。

 思わず、この国、大丈夫か? と心配になってしまった。


 これは、確かにいろいろと物申したくなるかもしれない。

 だけど、同時に結び付かないこともある。


 あの王さまは、アーキスフィーロさまに何も伝えずに、利用するだろうか?


 勿論、必要ならば利用することも迷わないだろうけど、それならそれで、堂々と、正面突破する印象があった。


 やっぱり、この国はよく分からない。

 同時に、王族たちにはやはり関わらない方が良いと思った。


 いや、こんな機会でもない限り、国王陛下に直接お言葉を交わした上で、接することなんてないのだろうけど。


「シオリ様、終わりました」


 不意に背後から声を掛けられた。

 目を閉じて、考え事をしていたためか、脳の処理速度が遅くなっていたらしい。


 今、わたしに話しかけたのは、化粧直しをしてくれた侍女さんだったようだ。

 正妃殿下付きの侍女さんはそれぞれ、役割が違うらしい。


 ドレスを修復してくれたのも、髪をセットし直してくれたのも、お化粧のやり直しをしてくれたのも、全員別の人だった。


 いわゆる、専門職ってことになるのかな?


 いや、もしかしなくても、着付けも、ヘアセットも、化粧も、何でもできてしまうわたしの専属侍女たちが、かなり、おかしいのかもしれない。


 うん、知ってた。


「ありがとうございます」


 わたしは座らされていてた椅子からゆっくりと降り、礼をする。


 化粧の雰囲気も、髪型も先ほどとは違う。

 正妃殿下付きの侍女たちのお仕事だ。


 だから、まあ、ちょっとばかり、髪型も化粧も、この国のお貴族さま風味が漂うものに仕上がってしまうのは仕方ない。


 好みではないが、おかしなものではなかった。

 正妃殿下の髪型と化粧に似ている。


 それでも、やっぱり、ルーフィスさんが今日のためにしてくれた髪型と化粧の方が良かったなと思ってしまうことだけは許して欲しい。


 口には出さないから。


 でも、本当にこの国、大丈夫なのだろうか?

 わたしはそう思うと溜息を吐きたくなるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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