国の解決方法
『国内で一番、大気魔気が濃い所に、幼い頃のアーキスフィーロ様を放り込んで、付近の大気魔気を調整させていたのでしょう』
セヴェロさんはそう言いながら……。
『どうやら、ボクたちが考えていた以上に、この国の王族は頼りないらしいですよ、シオリ様』
アーキスフィーロさまではなく、わたしに向かって冷たい笑みを見せる。
「ルーフィス。今、この場で、ローダンセの王子、王女の年齢をお願いします」
だけど、わたしはそれを無視して、背後にいる侍女に声をかける。
「お名前は?」
それまでずっと黙ってわたしたちの話を聞くことに徹していた有能な侍女は、動じることなく、わたしに言葉を返す。
「数が多いのでしょう? そちらは後で学ぶから、今は年齢だけを教えてもらえますか?」
「承知しました」
ルーフィスさんは一礼して……。
「第一王子殿下24歳。第二王子殿下が先日23歳になられました。第三王子殿下22歳。第一王女殿下21歳。第四王子殿下20歳。第五王子殿下は来月19歳になられます」
つらつらと、わたしが欲しい情報をくれる。
恐らく、ここまでがアーキスフィーロさまと同年ってことだろう。
ここまでで6人。
現在のローダンセ国王陛下の御子は12人という話だったから、後は下に6人いるはずだ。
「第二王女殿下15歳。第三王女殿下12歳。第六王子殿下9歳。第七王子殿下5歳。第八王子殿下は二歳になられました。第四王女殿下は十カ月。それ以外にもご懐妊され五カ月と三カ月の身重となったご側室がおられます」
『ちょっ!?』
「なっ!?」
何も見ずに淀みなくそれらの情報を告げるルーフィスさんに、セヴェロさんとアーキスフィーロさまが同時に驚く。
うん、それが普通だと思う。
この人の情報網、本当に怖い。
『側室様、ご懐妊されているのですか!?』
「いや、そんな話は……。それに側室の数が……」
『ああ、引き籠りに最新情報を求めるのは無理でしたね。懐妊されていなかったご側室は一人だけでしたが、この一年で陛下が寝所に召した女性は5人増えました。しかし、いずれも側室には上がっていなかったはずですが……』
セヴェロさんとアーキスフィーロさまがそんな会話をしている。
側室の数が多いことは知っているけれど、陛下が寝所に召すって……、つまりは夜伽とかそんなお務めですよね?
それを仮にも未婚女性であるわたしの前でされるのはどうかと思います。
いや、これがお国柄といえばそうなのだろうけど……。
「ライサ=マニアン=トリスキー様が、妊孕五カ月。エレナ=アヴィル=チェルヴィナ様が三カ月に入ったと伺っております」
さらにルーフィスさんが補足してくれたけど、「妊孕」ってなんですの!?
いや、前後から、「妊娠五カ月」とかそんな意味だとは思うけどね?
『あ~、ライサ様とエレナ様か~。陛下好みの豊満な身体で、通いも多かったみたいですから、当然といえば、当然ですかね~』
この国の国王陛下は豊満な女性がお好みらしい。
どこにも活用できない情報が増えてしまった。
「セヴェロ」
『なんですか?』
「女性たちの前だ。言葉に気を付けろ」
『……おっと、失礼しました。ついアーキスフィーロ様しかいなかった時のような感覚で話しておりました』
セヴェロさんは流石に気まずそうな顔でわたしを見た。
『しかし、シオリ様。今の話は一体……?』
確かに、これだけでは分からないだろう。
「アーキスフィーロ様が幼少期に、王城で大気魔気の調整役を担った理由を知りたいと思いまして……」
『……と言うと?』
「わざわざ外の人間に頼むということは、王族だけで、大気魔気の調整ができなかったということですよね? つまり、王族の魔力が足りていなかったのだと思いました」
フレイミアム大陸のアリッサムは魔法国家だし、もともと王族の魔力は潤沢。
さらに言えば、国民の魔力も総じて強かった。
セントポーリアは国王陛下一強だけど、魔力を使わない貴族が放出している体内魔気を無駄にしない工夫を城のあちこちにしている。
それに、ジギタリス、ユーチャリスもいろいろありそうだけど、王族の魔力がそこまで不足している話はない。
ストレリチアはもともと一国だし、グランフィルト大陸内を多くの神官たちが歩き回るシステムを確立している。
見習神官を含めれば、神官の数は万を超えるし、信者と呼ばれる法力のない人たちも聖跡巡礼は行っているらしい。
一人一人の体内魔気は小さくとも、数が集まれば、それなりになるということだ。
それに、近年では、大聖堂に魔力が強い人間たちが数人、長期滞在していたことも大きいだろう。
アリッサムがなくなり、魔力の強かった聖騎士たちが来なくなって久しいが、その間もかなり大気魔気が安定していたそうだ。
ライファス大陸は、もともととある国が、王族を含めて行動的であるため、大気魔気が一番安定している大陸だと聞いている。
イースターカクタスだけでなく、それ以外のオルニトガラムとアストロメリアにも不安はない。
それに、その部分に関して、どこよりも知識がある情報国家が、何の対策もしていないはずがないと思っている。
恐らくは、セントポーリアのように何かしらの処置をしていることだろう。
スカルウォーク大陸は、もともとカルセオラリアだけでなく、連合国のように各国がそれぞれ補い合っていた。
各大陸の中で、一番国家の数も多いということは、それだけ王族も多くなる。
だけど、次いで国家の多いウォルダンテ大陸はそうではなかった。
まず、人が住める土地が他大陸よりも少ない。
その割に魔獣の種類も量も多いと言うことは、大気魔気が濃い場所については、決して少なくないのだろう。
それを支える王族たちは魔力の強い人間たちの手が足りないというのはそういうことになる。
「アーキスフィーロさまが王城にご招待された時期がいつ頃かは存じませんが、10歳未満と言うことは、王族も他国滞在時期と重なり、その数も少ない時期だったのではないかと思います」
一番離れている第一王子は、他国滞在時期から除外されるが、確か側室との御子だったはずだ。
それでも魔力は強いだろうけど、国の大気魔気の調整を支えられるほどではなかったのだろう。
そして、それ以外の年上の王族は、四歳差が二人、三歳差、二歳差ときて、次に同じ学年。
他国滞在期間は10歳から15歳の間なのだから、その間は、この国から魔力の強い王族は減っていることになる。
それよりも年下の王族たちは、アーキスフィーロさまよりも魔力が弱いと考えて、年上の王族の中でアーキスフィーロさまよりも魔力が強い人はどれだけいるだろうか?
しかも、アーキスフィーロさまに城の地下の契約の間の大気魔気を調整させる必要があったってことは、王族たちの使用頻度が低いかもしれない。
そうなると、本来、王族が受けるべき、魔力の感応症をアーキスフィーロさまが受けている可能性があるわけで……、それがこの方の魔力の強さに結び付いている?
でも、肉体が、それに耐えられないから暴走している?
「アーキスフィーロさま。他国滞在期間中、この国に戻ったことはありますか?」
「はい。何度か、王子殿下の供で……」
そう言えば、第五王子殿下の側近だったか。
あの頃ならともかく、今は全く交流している様子がないから、忘れかけていた。
「それは、どれぐらいの頻度でしたか?」
基本的に他国滞在期はそれなりの事情がない限り、戻れないはずだ。
「三カ月に一度……ぐらいでしょうか? 王子殿下が呼び出された時に、一緒にお戻りする形でしたので、定期的に戻っていたわけではないのです」
三カ月に一度……。
月一ではなかったか。
でも……。
「セヴェロさんなら、分かりますよね? ローダンセの『神気穴』から溢れたものは、どのぐらいの期間でその場所に溜まりますか?」
「神気穴」は神官が言うところの、神の御力が溢れている場所だ。
つまりは、大陸神たちの御力……、大気魔気が濃い場所。
別名、各国の城とも言う。
ルーフィスさんに聞こうと思ったけれど、恐らく、国によって異なるだろう。
多分、この国にいるセヴェロさんの方が確実だ。
まあ、知らないと白を切られる可能性はあるけれど、事はアーキスフィーロさまに関わることだ。
それならば……。
―――― セヴェロさんは無視できないでしょう?
この二人の主従関係は一見、かなり歪である。
特にセヴェロさんはアーキスフィーロさまに対して、辛辣だ。
だが、そこに信頼はある。
セヴェロさんは、どんな事情かは分からないけれど、アーキスフィーロさまのことを思っていることは理解できるわけだからね。
『誓って言いますが、ボクは、幼少期のアーキスフィーロ様を存じません』
まあ、そうだとは思う。
その頃からの付き合いなら、城に向かうのを止めていただろう。
なんでそんなことになっているのかはか分からないけれど、このご主人様は、明らかに、この国の王族たちから利用されているから。
『その上でお伝えします。誰も調整しなければ、三カ月が限度だと』
だから、セヴェロさんの言葉にも納得したのだった。
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