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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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そこにいるだけで

『まず、シオリ様には何故、王家がアーキスフィーロ様の魔力を利用しようとしていると思ったか、伺ってもよろしいでしょうか?』


 セヴェロさんは、そう問いかけてきた。

 ああ、自分の口からではなく、わたしに説明させる気ですね?


 アーキスフィーロさまがそのことを知らないなら、一般的な知識ではないのだろう。


 そして、セヴェロさんは知っていて、アーキスフィーロさまに伝えていなかったということになる。


 何故、隠していたのかは知らないけれど、そのことについては、わたしが口を滑らせたようなものだから、わたしが説明するのが筋であることは理解した。


「魔力が強い人間は、そこにいるだけで、意味があると聞いたことがあります」

「そこに……、いるだけで……?」


 その台詞から、アーキスフィーロさまにとっては聞いたこともない純粋な疑問だったのだと思う。


 つまり、やはり、一般教養ではないことが分かる。

 そうなると、どこまで話して良いものか?


 そして、背後のルーフィスさんは、口を出さない。

 この様子だと、今回は助け舟を出してくれないらしい。


「この惑星(ほし)の大気魔気は常に不安定な状態にあります。そこに住む人間がいなくなれば、それだけで生態系を含む環境まで変わってしまうらしいため、大気魔気が濃密な所に城を作って、そこに魔力が強い人たちを集めているとも聞きました」


 全ては伝聞の話。


 だけど、それを口にしている人たちがとんでもない知識を持っていたら、その話に信憑性が出てくると言うものである。


 尤も、これらはアリッサムの王族たちも知っているようなことだ。

 だから、国によるかもしれないが、特別秘匿していることではないのだろう。


 だけど、その不安定な大気魔気の気配を、そこで生活している人たちの体内魔気の放出によって、蓋をしているようなものであることについては、口にしない方が良い気がした。


「実際、わたしはこれまでに、セントポーリア、ストレリチア、カルセオラリアと中心国の城を見てきましたが、いずれも大気魔気が濃密な場所に建てられていると記憶しています」


 いずれも、見ただけで分かるほど濃密な魔力の気配があった。

 そして、城に入れば、はっきりと分かる。


 いや、正しくは、城の地下、契約の間と呼ばれている場所だ。


 わたしは、まだ三カ国の城の地下しか知らないが、それらの場所は、かなり大気魔気が濃かった。


 そして、一般家庭の契約の間を知った今では、あの部屋の大気魔気の気配は、明らかにおかしいと言い切れる。


 水尾先輩の話では、日常的に使われている契約の間ならば、使用者の体内魔気、魔法によって、大気魔気が澱む……、大気中の魔力が必要以上に濃くなることはないらしい。


 セントポーリア城は国王陛下以外、城の契約の間をほとんど使わない。


 ストレリチアは王城の方ではなく、大聖堂の地下の契約の間だった。

 魔法を使うこと自体が少ない神官たちは使わない。


 カルセオラリア城は王族も魔法がそこまで強くないため、そこまで使うことはない。

 だから、大気魔気が消費されることが少なく、そこに溜まっていたってことだろう。


 リプテラに住むアックォリィエさまの別邸にあった契約の間でも、それなりに大気魔気の気配が濃かった。


 本邸ではなく、別邸は、客人や管理以外の用途で立ち入ることはなかったと聞いている。


 尤も、あの場所は、水尾先輩が使っただけでかなり室内の大気魔気を変化させてしまったので、それに気付いた雄也さんが慌てて、大気魔気を上書きする形になったらしい。


 かなりの魔石を使うことになったと苦笑しながらも、トルクスタン王子に請求書を回していたのを見ている。


 だが、ロットベルク家の契約の間は、魔法の気配こそ外に出さないだけで、大気魔気は外と変わらないのだ。


 下手すると、部屋にずっといるアーキスフィーロさまの書斎の方が、水属性の大気魔気の気配が濃くなっているかもしれない。


 体内魔気は、他者の魔力ではなく、大気魔気にも影響を与えることは間違いないだろう。


 それも一種の感応症みたいなものなのかな?


 わたしがお借りしている部屋もそこだけ風属性が強まるのではないかと心配になったが、ルーフィスさんのお仕事に抜かりなどあるはずがない。


 もともと、わたしは抑制石で体内魔気の放出をかなり押さえている身である。


 頻繁に同じ場所で、大きな魔法を使い続けない限り、そう簡単に大気魔気を塗り替えることなどできないそうな。


 加えて、契約の間はどんな魔法を使っても問題ない空間と認識している魔法国家の王族にその辺りの気遣いなどあるはずがないとも言っていたので、リプテラのことは雄也(ルーフィス)さんの心にかなり引っかかるものがあったことは間違いないだろう。


 これまで長期滞在していたストレリチア、カルセオラリアは事情を知っている人たちばかりだったから、見逃されていただけってことなんだろうね。


「大気魔気が常に不安定というのは本当の話ですか?」


 アーキスフィーロさまの疑問は当然なのかもしれない。


 この世界に住んでいる人たちは、その状況を知らないのだ。

 常に安定しているこの世界の大気魔気は常に、誰かの努力によって支えられている。


 それは、主に王族たちによるもの。


 この世界が「救いの神子(礎の聖女)」たちによって救われた時、大気魔気の濃密なところには、人が多く住まうように大きな建物が立てられていた。


 勿論、歴史上、その全てを維持し続けることができなくて、既に今はない国もある。


 ストレリチアのあるグランフィルト大陸がその例だ。

 かつて小国が乱立していたとされる国は、今、たった一国で大陸を支えている。


 大聖堂、法力の修行を餌に各国からいろいろな人間を呼び寄せて、しかも聖地巡礼という名の元に、各国の跡地を巡らせ、大気魔気を整える補助としたのは、数千年も前のこと。


 その場所が不便だと別の場所に城を建てた結果、天変地異などの自然災害が多発して、神の怒りを買ったと思われたのは、確か情報国家イースターカクタスのあるライファス大陸だったはずだ。


 その当時に「情報国家」と呼ばれるイースターカクタスはまだなく、それ以降、歴史を調べ始めたのが、情報国家と呼ばれる国の興りだったと記憶している。


「アーキスフィーロさまは、魔法国家アリッサムのことをご存じですか?」


 この世界で生きているわたしたちの年代なら確実に知っているはずの国の名前を出したためか、アーキスフィーロさまは一瞬、目を丸くした。


「三年前に襲撃され、消滅した……、と」


 それについては一般的な知識か。


 いや、この方は、「消滅」だけでなく、「襲撃」という言葉を使った。

 そちらは一般的な意見ではないのに。


 それは、ある程度、上の人たちと交流を持っているってことなのかもしれない。


「魔法国家アリッサムが無くなってしまったことは聞き及んでいましたが、どこかの国からの襲撃だったのですか?」


 わたしが一応、そう言うと、アーキスフィーロさまは自身の失言を悟ったのか、口を押さえる。


「今の言葉は……、忘れてください」

「承知しました」


 やはり、この国でも伏せられていることだったのか。

 うっかりってやつだね。


「シオリ嬢は、その、アリッサムの王族たちと交流はありましたか?」


 話を変えるかのように、アーキスフィーロさまはそんなことを問いかけてきた。

 しかし、選んだ話題が、そのことだったとは、この方は本当にお優しい。


「第一王女殿下にはお会いしたことはありませんが、第二、第三王女殿下たちには、畏れ多くもご交流を許された上、大変良くしていただきました。わたしの中学時代の宝です」

「第二王女殿下とも……」


 第三王女殿下(水尾先輩)は、わたしの部活の先輩だった。

 しかも、生徒会長で目立つ存在である。


 この方は「捕手要らず」という恥ずかしい異名までご存じだったのだから、わたしがソフトボール部に生徒会長(水尾先輩)とともに所属していたことは知っていたのだろう。


 だが、まさか、吹奏楽部所属の生徒会書記(真央先輩)とも交流していたことはご存じなかったらしい。


「あの方々の身分を知ったのは、この世界に来てからです。しかも、その時は既にアリッサムは消滅したと聞いておりました」


 それらについては一切、嘘がないから気楽なものだ。


 アリッサムの消滅した時期と、水尾先輩との再会については、数日程度の時差しかないが、その身分を知ったのは、そこからさらに数日離れている。


「だから、そのように気遣われなくても大丈夫です。わたしは、今も、彼女たち、いえ、先輩方の無事を信じておりますから」

「シオリ様はお強いですね」

「あの方々の逞しさは、わたしも存じております」


 尤も、わたしは水尾先輩と真央先輩が無事であることは知っている。

 しかも、今は、この国にいることまで知っているのだ。


 だが、世間的にはそうではない。


 彼女たちの顔を知っていた高位の人間たちが、あの世界、あの地に集まっていたのなら、アリッサムの王族と気付いていた者たちもいたことだろう。


 アーキスフィーロさまが気にしたのはその部分だったのだと思う。


「しかし、そのアリッサムと先ほどの話はどうつながるのですか?」


 おや?

 お解りにならないようだ。


「それでは、フレイミアム大陸の現状はご存じですか?」

「フレイミアム大陸の……?」


 なるほど。

 情報量が違うらしい。


「それでは、アーキスフィーロさまの従僕であるセヴェロさんならば、ご存じですよね?」


 彼は精霊族だ。

 精霊族はその種族に関係なく、自然に対することは敏感である。


 だから、離れていても知っていると判断した。

 わたしは話には聞いているが、又聞きだ。


 しかも、そこまで新しくもないし、詳細は知らない。

 それならば、セヴェロさんの方が詳しい可能性が高い。


『そこで、こっちに話を振りますか。なかなか、シオリ嬢は、見た目に反して交渉がかなりお上手ですよね?』


 何より、精霊族は嘘を吐かない。


 その血の濃さにもよるだろうけど、いろいろなものを誤魔化そうとしない辺り、セヴェロさんはその血が薄くないと思う。


 しかし、今、さり気なく言われた台詞は、わたしの見た目は交渉が下手そうに見えるってことでしょうか?


『いえいえ。アーキスフィーロさまの配偶者候補としては、頼もしい限りだとボクは思っています』


 セヴェロさんはそう言いながら笑うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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