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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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恋愛対象

「御三方の恋愛対象は、男性、女性。どちらでしょうか?」


 そんなセヴェロさんの個人的な興味から来た質問(爆弾発言)に対して……。


()()です」


 迷いもなく真っ先に答えたのはヴァルナさんだった。


 そして、即答したってことは、恋愛経験があるってことだよね?


 いや、何度か、それっぽいことを聞かされているけれど、こんなにもはっきりと答えられたことはなかった気がする。


「おや、ヴァルナ嬢は異性愛者なんですね。それならば、このままボクの嫁に来ませんか?」

「断ります」

「またフラれてしまったか」


 ああ、うん。

 ヴァルナさんは、()()()()()()()じゃないですかね。


 殿方の姿のままで迫っても響かないどことか、雷撃魔法を繰り出して逃げると思うのですよ。


(わたくし)も、自分は異性愛者だと()()()()()()()


 何故、断定しないのですか? ルーフィスさん。


 そんなわたしの思考に気付いたのか……。


「男性も女性も魅力的な方が多いので、自分の胸に起こる感情が恋い慕う気持ちなのかがよく分からないのです」


 理由を聞いて納得した。


 雄也(ルーフィス)さんらしい答えだだと思う。

 皆、良いけど、皆、特別ではないと言っているのだ。


「わたしも……、今のところ、恋愛対象は異性ですね」


 女性にもかっこいい人はいるし、尊敬できる人だって少なくない。

 でも、そういった意味で好きになったことは、今のところなかった。


 いや、男性もそう多いわけじゃないけど、近くにいて緊張したり、ドキドキしたりするのは圧倒的に男性が多い。


「セヴェロさんはいかがですか?」


 こちらだけ聞かれるのは何か違うと思って、問い返す。


「ボクは、今、ヴァルナ嬢一筋です」


 軽い。

 そして、背後から一瞬、嫌悪感に近い何かの気配を覚えた。


「え~? そんな不思議そうな顔をするほどのことですか? 料理上手な人間を好きになるって自然でしょう?」


 それは分かる。

 特にこの世界なら尚更だ。


「でも、強いて言えば、男女は関係ないですね。好きになれば性別なんて些細なことです」


 その辺りは、精霊族だからだろう。


「そんなわけで、ヴァルナ嬢。ボクの嫁に来ませんか?」

「お断りします」


 流れるような求婚からのお断り。

 ヴァルナさんは答えを準備していたのではないだろうか?


「え~? 絶対、幸せにするのに~」

「十分です。間に合っています」


 叩き返すような返答。


「まあ、珍しく続けて、二言も頂いたから今回は良いか」


 セヴェロさんはそれでも嬉しそうだった。


 あれ?

 もしかしなくても、本当にヴァルナさんのことが好きなの?


「しかし、思ったよりもあっさりご返答くださいましたね。これまでのことから警戒されると思っていたのに」


 それもそうだ。


 しかも、ヴァルナさんの返答が一番、早かった。

 そのためか、ルーフィスさんも割と普通に答えたし、だから、わたしも答えるべきだと判断したのだ。


「主人のために必要なことなら仕方ないです」


 ヴァルナさんはそう答える。


 はて?

 わたしのため?


「ああ、凄い。ボクがどんな意図を持って聞いたのかも分かっているんだ」


 セヴェロさんが破顔する。


 待って?

 わたしは分かっていない。


「ああ、この様子だと、ルーフィス嬢もご存じのようですが、シオリ嬢はご存じないのですね。近年、この城下に広まる()()()()()を」

「悪しき習慣……ですか?」


 何だろう?

 確かに、わたしはこの国の習慣に明るくはない。


 だけど、このセヴェロさんの口ぶりでは、後ろの二人は知っているっぽい。


「この国は女性も男性も、『同好の士の集い』と呼ばれるモノに参加して、交友を広げ、親交を深めるという慣習があるのですが、それについてはご存じでしょうか?」

「そのような慣習があることは聞き及んでおります。ですが、具体的にはどのような集まりなのでしょうか?」


 確か、この国に来て間もない頃、ルーフィスさんからそんな話を聞いた覚えがある。


 だけど、その時はそれ以上に衝撃的な言葉があって、そちらについて意識をもっていかれたのだ。


「まさか!? もう、奴らの魔の手が!?」

「え? 魔の手?」


 突然、立ち上がり、わたしに掴みかからんばかりのセヴェロさんの動きを間に入って制してくれたのは、ルーフィスさんだった。


「落ち着いてください、セヴェロ様」


 ルーフィスさんは落ち着いた口調でセヴェロさんに言葉をかける。


「シオリ様は何も存じません。何より社交どころか、この家に来てからまだ一歩も外に出ていない主人にどんな働きかけがあると言うのですか?」

「すみません、取り乱しました」


 セヴェロさんは座り直す。


「奴らは腐った肉に群がる死肉を食らう魔獣(ニアスアリアス)のような存在です。そのため、シオリ様がもし、既にその毒牙にかかっていれば、浄化するしかないと思いました」


 ニアスアリアスってなんだろう?

 響きから、ハイエナみたいな生き物かな?


「浄化……ですか?」


 なんだろう?

 ルーフィスさんの質問には警戒の色がある。


 いや、その前に、わたしにその「同好の士の集い」とやらの説明をしていただけないでしょうか!?


「分かり切ったことです。国を滅ぼす考え方など、滅んでしまえば良い」


 宗教?

 しかし、セヴェロさんって意外に過激発言な人だったんだね。


「シオリ様に説明させていただくと、同じ趣味を持つ人間たちの集まりですね。同好会、サークル活動と言えば分かりますか?」

「あ、はい」


 カルセオラリア城での「お絵描き同盟」みたいなやつだね。

 でも、それがセヴェロさんの過激発言に繋がる理由が分からない。


「この国で、4,5年ほど前より、勢力を持ちだした集まりが、『バラとひなげしの会』と聞いております」


 「薔薇(ばら)」と「雛罌粟(ひなげし)」?

 人間界で漢字にしたくない二種類が並んでいる。


 でも、この国にもバラとひなげしはあるのか。

 桜に似た花があるというのだから、おかしくはないと思う。


()()()()()()()()()()()()()がウォルダンテ大陸言語に翻訳され、貴族の女性たちの間でブームになったそうです」

「人間界?」


 ああ、だから、バラとひなげしという人間界の花の名前なのか。

 そして、セヴェロさんのお顔がかなり変化している。


「その集まる女性が好んで持ち寄る書物というものが、男性同士の恋愛を書いたものが多いらしいので、セヴェロさまには受け入れがたいのでしょうね」

「…………ああ、なるほど」


 俗に言うボーイズラブだっけ?

 もしくは、やおいとか耽美系だっけ?


 その方向性のものならば、確かに嫌悪感を覚える人もいるだろう。

 しかし、同好の士の集いとは、言い得て妙だと思う。


 そういうの好きな女性って、結構いるらしいからね。


「アレを受け入れろとか無理ですよ。非生産的です。不合理です。無意味です」


 まあ、生産することが目的ではないから仕方がないとは思う。


 でも、種族の本能とは違うからこそ真実の愛! と、熱く語られた覚えが……って……。


「なるほど」


 唐突に納得した。


 それが理由なら、先ほどのセヴェロさんの態度もある意味、自然な流れだろう。


 でも、趣味嗜好だからな~。

 相容れないのも仕方ないのか。


 その辺りは宗教戦争のようなものらしい。

 合うものは合うし、合わなければ争いも辞さないと聞いている。


 でも、そういうのって、押し付けも良くないから難しい問題だよね。


「どうしました? シオリ様」

「いえ、そのような会があることも存じなかったので、驚いているだけです」


 人間界からその手の書物の輸入とか。


 しかも、4,5年なら、わたしたちよりも少し上の学年の先輩たちが持ち込んだ可能性が高いわけで……、なんて罪深い書物を輸入してしまったのでしょうね。


 下手すると、禁書扱いになりかねないのに。

 いや、この世界って同性愛はどうなんだろう?


 その辺りはきちんと聞いたことはないけど、セヴェロさんの冒頭の質問から考えれば、なくはないのだと思う。


「そうですよね? あんな物、読んではいけません! シオリ嬢が穢れてしまいます!!」


 どんなものを読まされたのでしょうか?

 この様子だと過激なものを読まされているっぽいな~。


 わたしはそこまで興味がなかったし、中学生だったから読む機会はなかったけれど、いろいろなツテを使って買い漁っている人もいたからね。


 しかし、どこかの護衛の言葉じゃないけれど、この国って本当に大丈夫なのだろうか?


 いろいろな意味で心配になってしまうのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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