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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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魔力が強いだけで脅威

『まあ、気付いているっぽいから言ってしまいますけど、アーキスフィーロ様を煽ったのはわざとです。魔力の暴走を起こさせて、その状態をシオリ嬢に見てもらいたかっただけなのですけどね』


 セヴェロさんは先ほどまでの様子が嘘のように人懐っこい笑みを見せる。


『理性が吹き飛んでいるアーキスフィーロ様を見て、逃げ出すようなら論外。暴れ出した魔力の変化、攻撃的な形状から目を逸らすことも、ボクとしては許せませんね~』

「はあ……」


 よく分からないけれど、暴走状態というか、攻撃体勢に入っている人から目を逸らす、背を向けるってかえって危険だよね?


 あの状態で逃げるって選択肢は元からなかった。


 頭にあったのは、どうやってアーキスフィーロさまを止めるか。

 ただそれだけ。


『ボクもよく知らないのですが、魔力を暴走させた人間で、あそこまで攻撃的な形状になるのってかなり珍しいらしいですよ?』

「そうなんですか?」


 魔力が暴走しそうになった人なら見たことはあるが、実際に、魔力を暴走させた人間を見たのは初めてだからその辺りが分からない。


『普通は体内魔気を放出させてしまうことが大半です。明らかに近くにいる人間を攻撃しようって形は、最早、魔法でしょう? あれで意識がないっていうのは信じがたいらしいです』

「あ~」


 確かに、大鎌も、蛸足のような鞭も、ある意味、一点集中であり、完全に標的がある時の形ではある。


 そんな風に変化させているのから、実は、こいつ、意識があるんじゃないか? と思われてしまうのは自然なのかもしれない。


『アーキスフィーロ様が暴走した姿を見た人間は大半二種類に分かれます。制御できない魔力の強さを恐れる者。そして、自分が恨まれていると錯覚する者』

「恨まれている?」


 魔力の強さを恐れるのは分かるけど、そっちは何故だろうか?


『魔力暴走という大義名分のもとに、隠してきた日頃の恨みを晴らすと思われてしまうんでしょうね。勿論、疚しいことや、心当たりがあるからそう思ってしまうのでしょうが……』

「アーキスフィーロさまはそういうタイプの人間じゃないでしょう?」


 まず、恨みを隠す以前に、他人に対して負の感情を持ち続ける人ではないと思う。


 悪意をぶつけられても、それは自分が悪いからだと思い込んで、相手に対して反撃をしようとか考えそうにない。


 耐え忍ぶ、ひた隠しにするのともちょっと違って、それらの感情を受け流す印象である。


 それは、当主さまや、兄に対する態度、対応からも分かることだ。

 普通なら、この理不尽な状況にキレていてもおかしくはない。


 アーキスフィーロさまは、気が優しすぎるんだろうね。


 そして、貴族としては生き辛いとも思うが、こればかりは仕方がないだろう。


『出会って二週間と経っていないシオリ様にも分かるのに、それが分かる人間は本当に少ないんですよ』


 セヴェロさんは力なく微笑みながら言う。


『まあ、人間は魔力が強いってだけで十分、脅威ですからそこは仕方がない面もあるとは思いますが、身内が率先してそんな態度だから、ますますアーキスフィーロ様は孤立させられてしまいます』


 孤立してしまうではなく、孤立させられる……か。


 セヴェロさんの言い分は分かる。

 今の状態はまさにそうだ。


 アーキスフィーロさまは魔力を制御できないという理由で、ここに隔離、孤立させられている。


 そもそも、侍女だけでなく末端の使用人に至るまで、この家の当主の子息を馬鹿にする言動がおかしいのだ。


 地下に下りるのが罰ゲーム?

 発想が、小学生ですか!?


 その割に、当主も長男も面倒な仕事はしっかり押し付けまくっているし。

 これでもアーキスフィーロさまがキレていないのだから、懐が深すぎるのだと思う。


『アーキスフィーロ様の前の婚約者はこの家に来ることもありませんでした』

「そうなのですか?」


 それは意外だ。


 確かにアーキスフィーロさまが放置気味だったなら、そうなのかもしれないけれど、()()()なら……。


『はい。政略結婚でしたし、ボクが知る限り、マリアンヌ=ニタース=フェロニステ様は、アーキスフィーロ様と必要以上の交流は、いや、あれは必要以下でしたね。つまり、交流はほとんどされていませんでしたよ』


 さらに続けられた言葉に、わたしは首を捻るしかなかった。


 あれ?

 もしかして、わたしが考えている人とは違う?


『まあ、アーキスフィーロ様とニンゲンカイという場所には、この国の第五王子であるジュニファス=マセバツ=ローダンセ殿下の従者として向かっていたらしいですが、ちゃんと一緒にいたかまではボクには分かりません』


 いや、合ってる。


 あの頃、アーキスフィーロ様……、階上(はしかみ)くんと第五王子殿下……、松橋(まつばせ)くんと一緒にいた女子生徒なんて、その心当たりは一人しかいない。


 だけど、この国では交流がほとんどなかった?

 それは何故だろう。


『個人的に、ボクはあの女、嫌いでしたし』

「はっきりと言いますね」

『本当のことですから。アーキスフィーロ様を傷つける女など、死ねば良かったのに』


 うわあ、酷い。

 でも、そう思うだけの何かがあったのだとは思う。


 その言葉に引っかかりを覚えないと言えば、嘘になってしまうけれど、少なくとも、わたしには関係のない話だ。


『見た目より、随分、ドライな性格していますね、シオリ様』

「わたしには関係の話に頭を割いても仕方ないので」


 見た目はウエット(情に脆い)ってことだろうか?


 でも、どんなに美味しそうな話題(エサ)が付いていても、その釣り糸の先には光る針がしっかり見えている。


 そんな釣り糸を垂らされていることが分かっているのに食いついてしまうのは魚ぐらいだ。

 そして、わたしは魚ではない。


 はっきり言わずに察しろ、自ら関われと遠回しに言われるようなことに碌なことはない。

 それならば、始めからそんな話には乗らずに流す方が良いだろう。


『いえいえ、関係があるでしょう? アーキスフィーロ様の過去の女の話。気になりません?』

「なかなか露骨に話題を振ってきましたね」


 元婚約者さんが過去の女なら、現婚約者候補のわたしは今の女ってことだろうか?

 そして、分かりやすいほどの前振り。


 でもな~。


「その話はアーキスフィーロさまから伺ってからにしたいと思っていますので、ご遠慮します」


 これは、ずっと決めていたこと。

 アーキスフィーロさまから話を聞くまでは余計な前知識を入れないようにしたいのだ。


 他者の主観が入った言葉は、判断を狂わせ、事実から離れた話になりかねない。


 それが嫌だった。


 だから、最低限の客観的な知識だけ入れて、それ以上の話は聞かないようにしているし、わたしが知っておくべきこと以外は話さないようにルーフィスさんにもお願いしている。


 アーキスフィーロさまが話したくないなら、それなりの理由があると思って。

 だけど、さっきの状態を見た限り、根が深そうな問題っぽいことは理解できた。


 セヴェロさんの挑発で、アーキスフィーロさまは分かりやすすぎるほど、感情を激しく揺さぶられたのだ。


 それは、元婚約者の人に対する大きな感情が少なからずあるってことだと思う。

 勿論、それが、良い感情か、悪い感情なのかは現時点では判断できない。


『そこで寝ている朴念仁の言葉を待っていたら、最()まで話しませんよ? できれば、逃げたい話題なので、シオリ嬢が口にしないことを幸いとすら思っている可能性があります』

「それなら、それで、わたしには関係のない話だとアーキスフィーロさまが判断されたと言うことでしょう? 無理に聞き出して、セヴェロさんのように、ご機嫌を損ねるような意地の悪い趣味をわたしは持ち合わせていませんから」


 婚約破棄にしても、解消にしても、年単位の月日が流れているはずだ。

 それでも、アーキスフィーロさまの中で揺さぶられる何かがある。


 それが分かっただけでも良かったということにしておこう。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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