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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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戦いは終わらない

「鎮静!!」


 わたしは、アーキスフィーロさまに飛びつき、その身体を倒した後、そう叫んだ。


 すると、一瞬だけふるりと震えた後、するり、とその肉体が弛緩する。

 全身が脱力し、床に手足がだらりと伸びた。


 そして、そのまま、アーキスフィーロさまは動かない。


 でも、その黒い瞳は閉じられているけど、呼吸は一定で、念のためにその胸に手を当てると、力強い鼓動もしっかりと伝わってくる。


 生きてはいるようだ。


「終わった……?」


 それでも、確信が持てずに、なんとなくそう呟いた。


 ()()……。


 ドゴンッ!!

 ドゴゴンッ!!


 背後から尋常ではない殴打音? 打撃音? ……のような音が聞こえた。


「な、何事!?」


 思わず振り返ると、そこには……。


『い、今のこそ、マジで死ぬかと思った』


 そう言いながら、壁を背に、かなり昔に流行ったという土曜の夜にフィーバーしそうなディスコポーズによく似た姿勢となった状態で、涙目で震えているセヴェロさんと……。


「「……」」


 そのセヴェロさんの身体を縫い留めるように、片腕を壁に向かって無言で突き出しているルーフィスさんとヴァルナさんの背中があった。


 えっと、この状態は一体?


 わたしからは、右腕で繰り出した正拳突きを壁に向かって放ったルーフィスさんと、その逆の左腕で正拳突きを同じく壁に向かって放ったヴァルナさんの後ろ姿が見えるだけである。


 その二人の間が腕を突き出した先に、たまたまセヴェロさんの身体があったのか、セヴェロさんの身体を二人の突きが囲んだ結果なのかはこの状態ではその現場を目撃していないから分からない。


 多分、後者だとは思うけれど。


 そして、二人の表情は見えないが、その背中から何かを感じるのは気のせいか?


 それは、怒りのオーラとかそんな感じの種類のもの。

 動きは止まったが、二人の戦闘モードはまだ解除されていないようだ。


『し、シオリ様、ヘルプ~』


 わたしが見ていることに気付き、二人の突きに挟まれていたセヴェロさんは、そんな情けない声を出しているが、その声に表情程の切迫感はなかった。


 先ほどの雷撃魔法はどう捌いたのだろうか?

 直接見ていないけれど、結構な効果音と光だったのに。


「えっと、美人さんに囲まれて羨ましいです?」


 声を掛けられて、無言で返すのもちょっと失礼だと思ったので、そう口にしてみる。


『間違ってないけど、違う!! ボクはもっと優しい囲われ方を望みます!!』


 その言い方はどうかと思うが、理解はできる。

 

 わたしも美人さんに、右腰と左肩を掠めるように拳を突いた状態で囲まれているのは、ちょっと嫌かな。


「ヴァルナ、ルーフィス。そこまでにしてください。アーキスフィーロさまも落ち着きました」


 わたしの下で倒れているアーキスフィーロさまは、少なくとも、先ほどのように動き出す様子はない。


 何より、体内魔気は落ち着いている。

 どうやら、わたしの「鎮静魔法」? ……は、他者の魔力の暴走を抑えることができそうだ。


 だが、それがわたしの護衛たちのように動きが早い人たちや、魔法国家の王女殿下たちのように魔法耐性が強すぎる人たちにも通用するかは分からない。


 だから、誰に対しても大丈夫だと過信するのは止めておこう。


 わたしの声が届いた二人は、こちらをゆっくり見ると、目を見開いた。

 そして……。


 ドカカッ!!


 何故か、互いに向かってハイキックを繰り出す。


 格闘ゲームかな?


 背の高さは違うけれど、ルーフィスさんとヴァルナさんの両御御足(おみあし)が、見事にクロスしている。


 そして、見事なロングスカートの広がりではあるが、恐ろしいことに、二人とも、少しもその中身が見えない。


 下に、スカート型下着(ペチコート)とか履いてるはずなのに!!


 でも、中が見えなくてもロングスカートでハイキックは止めた方が良いと思うし、そもそも、何故、互いに攻撃し合ったのかが分からない。


 いきなり鍛錬を始めたとも思えないけれど、もしもそうなら、こんな場所では止めていただきたいと思う。


『シオリ様、アーキスフィーロ様を()()()()なんて、なかなか積極的ですね~』


 自分の両脇から、脅威がなくなったためか、セヴェロさんの軽口が復活した直後に……。


 ドカカッ!!


 返す刀じゃないけれど、二人が同時に鏡のように回転したかと思うと、ルーフィスさんは顔の真横にハイキックを、ヴァルナさんは腰の真横にミドルキックを放ち、セヴェロさんを再び、先ほどの壁に張りつけてしまった。


 水泳競技にシンクロナイズドスイミングと言うものがあるのなら、空手のように動きが一致するような状態はなんというのだろうか?


 実に無駄なく見事な動きだった。

 思わず、拍手を送りたくなる。


『シオリ様、感心していないで、この凶暴な二人を止めてください!!』


 まあ、確かに見ていて、凄いとは思うけれど、気持ちの良いものでもない。


 意味のない攻撃はただの暴力である。

 今の二人は戦闘状態に入っているのか、口より先に手が出る状態らしい。


 ずっと無言のままだし、殺気立ったまま、どこか余裕がない感じの二人は、ちょっと珍しい気がする。


『ああ、それとも、そんなにアーキスフィーロ様の上は居心地が良いですか?』


 懲りない人だ。

 その軽口が、二人の気に障っていることは分かっているだろうに。


 基本的に、ルーフィスさんもヴァルナさんも真面目で、女性を馬鹿にするような言い方を好まない。


 これはお国柄なのかもしれないけれど、先ほどから苛立っているのは、わたしが微妙に馬鹿にされている感じがするからだろう。


 だが、先ほどの発言によって、さらに二人がゆらりと動く気配があったので……。


「ルーフィス! ヴァルナ!! ストップ!!」


 今度は、制止の意味を込めて強く叫んだ。


 二人の動きがそのままピタリと止まる。


 攻撃体勢じゃなく、準備動作の時に止められて良かった。

 完全に攻撃の動きとなれば、わたしの制止は絶対、間に合わない。


 まあ、間に合わなくても自業自得ではある気がするけど、やはり、今後の付き合いを考えると、アーキスフィーロさまの従者に対して、婚約者候補であるわたしの専属侍女たちが敵意を抱くのはあまり得策とは言えないだろう。


「よっこいしょっと」


 とりあえず、いつまでも倒れているアーキスフィーロさまの上に跨っているというのはどうかと思う。


 流石に意識がない相手とはいっても、お行儀の良い体勢ではないことは、わたしにも分かっているから。


 しかし、あんなに大量の水に包まれていたというのに、身体どころか服も全く濡れていなかった。


 直接、触れても、しっとりともしていない。

 身体が冷えているのか、ひんやりとはしていたけれど、それは水の感覚ではなかった。


 でも、わたしに向かってきたのは鎌や鞭は、ちゃんと水の性質を持っていたのだ。


 やはり、魔力って不思議だよね?


『いや、シオリ様。いくらなんでも、男の身体の上から降りる時に、『よっこいしょ』って言葉はあんまりじゃないですか?』


 セヴェロさんはそんなことを言うが、そんな掛け声にまでツッコミを入れられても困る。

 何も考えずに出た言葉なのだから。


『こう! もう少し、色気たっぷりに!!』


 何故、こんな所でそんなものを求められているのだろうか?


 色気?

 男性の身体から降りる時に?


 いや、普通、男性を押し倒すって機会はないだろうけど。


「例えば、どんな風に?」


 本気で分からないので聞いてみる。


『えっ!? ど、どんなって、男にそんなものを求めないでくださいよ!!』


 求められたから問い返したのに、そんな答えが返ってきた。


 ぬう。

 でも、殿方だって、色気ある人はいるよね?


 なんとなく、ルーフィスさんを見る。


 先ほどまで、ヴァルナさんとともに大暴れしていた人と同じ人間とは思えないほど優雅で、そして、妖艶に微笑まれた。


 うん。

 殿方だって、色気を出せる人はいる。


 わたしはそう確信したのだった。

今話の「シンクロナイズドスイミング」という言葉は、今は「アーティスティックスイミング」に変わっていることは承知ですが、例によって、主人公が人間界にいた年代までの言葉として使用しております。

ご承知おきください。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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