表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/2779

身近な人間を……

 バルディア隊長さんが告げた言葉は「身近な人間を殺してしまう恐怖」だった。


 その言葉が持つ意味はなんとなく分かる。


 でも、それに対して記憶と魔力を封印され、魔法を使えない身である以上、そんな簡単に答えなんて出せるはずが……。


「そんなの考えても仕方ないですよ」


 そんな風に頭の中を巡らせていたわたしの思考は、あっさりと横で即答した少年の声でかき消されてしまった。


「その苦悩とやらは大きな力を持つ者特有の悩みであって、微力なオレたちが思い悩んだところで何一つ解決しません。当事者にとっては邪魔なくらいでしょう。考えるだけ無駄です」

「簡単に結論付けるね」


 九十九の飾らない言葉に、バルディア隊長さんは呆れたように肩を竦める。


「下手な慰めを言ってもどうしようもないことですから。それの解決策なんて、大きな魔力を持つ人間は、極力他人と関わらず、外れた場所で隠居しておけってことぐらいしかないとも思います」


 なかなか辛口な意見だ。

 周囲と関わって傷つけることを悩むぐらいなら、初めから他人に近づくなってことだろう。


 でも、それってなんか嫌だな。


「結局、どこに行っても起こる可能性があることでしょう。あの方がオレたちと共に行っても、ここに残っても。どちらかと言うと、残る方が、万一の時、死体の山は増えるでしょうけど」


 そう言って九十九は笑う。


「……どういう意味かな?」


 バルディア隊長さんの目が少し光った気がする。


 でも、九十九は気にせず言葉を続けていく。


「魔法国家の民は確かに魔法の耐性は他国に比べて高い。でも、王族ってやつはそんな常識すら吹っ飛ばすような馬鹿げた存在です。単純に母数の問題ですよ。村に定住……、人の中にいる分、被害者が多くなるというだけです」


 九十九は何故かわたしに一瞬、視線を送り、肩をすくめた。


「それに、戦闘状態に入った状況でも、オレ程度に簡単に倒されるような方々が、盾になれるとでも?」

「キミなら倒れないとでも? それは、我が王女殿下を甘く見過ぎではないかな?」


 どこか挑発的な九十九の言葉に、バルディア隊長さんは笑みを浮かべたまま答える。


 でも、その瞳は既に笑っていない。


 だけど、九十九はさらに言葉を続ける。


「既にミオルカ王女殿下は一度、セントポーリア城下で暴走しかかってます。それを押さえ込んだのが、そこにいる娘の母。そのおかげで、ミオルカ王女殿下は誰一人傷つけていません」

「は? 今、なんと?」


 九十九の言葉は心底、意外だったのだろう。

 バルディア隊長さんは、目を丸くして九十九を見た後、わたしを見た。


「王族どころか魔法国家の人間でもない女性が魔法国家の第三王女殿下の暴走を止めた、と言いました。アリッサムの王女殿下も人間です。お仲間が多かった方々と違ってたった一人。置かれた状況に混乱して暴走しても不思議はないでしょう」

「暴走したあの方を押さえ込んだ? それも一人の怪我人も無く? そんなこと我が国だって……」


 バルディア隊長さんが何やら呟いている。


「この辺りについては王女殿下自身にご確認をお願いします。オレはその場に居合わせただけですから」


 九十九が言っているのは、水尾先輩が目を覚ました時のことだろう。


 わたしはその場にいなかったけど、後から少しだけ話を聞いている。


 でも、バルディア隊長さんの反応を見る限り、わたしがその場にいたら、かなり危なかったことはよく分かった。


 魔法に強いはずの魔法国家の人間でも、怪我をしてしまうほど、水尾先輩の暴走状態というのは危険だったのだ。


「なるほど、私もキミたちを少々、見誤っていたと言うことか。まだまだだな……」


 そう言って、バルディア隊長さんは溜め息を吐き……。


「我が無礼をお許しください、御二方」


 膝も付いた。


「……だとよ。どうする?」

「ほ? 何が?」


 突然の彼女の行動も、それに対する九十九の言葉も意味がよく分からない。


「素直に罰を受けるそうだ」

「……なんで?」


 その展開も、なんでそんな解釈になるのかも分からない。


 それ以上に何の罰?


「お互いの立場を考えなくても、この隊長がお前にやったことは良いことだと思うか? 自国の王女殿下のためとは言え、何も害を与えてもいない人間を、そこの崖に突き落としてるんだ」

「九十九がいるから大丈夫だと思ったんじゃないの?」

「そんな保証はどこにもない。オレがもっと鈍かったら、この高さの崖ならお前は聖霊界(あの世)行きになる可能性はあったぞ」


 ううっ。

 九十九の言葉と目がいつもより厳しい気がする。


「そ、それでも、本気で殺す気なら、九十九の同行を許可してないだろうし、何らかの形で動きを止める方法だってあったと思う。それに結果、無事だったわけだしね」

「……殺されかけたのに本当にお前は呑気なヤツだな」

「わたしはちゃんと生きてるから! 九十九のお陰で!!」


 そこを強調しておく。

 何事もなかったのだから、罰を与えるとかそんなことはしたくない。


「っっ、それはただの結果論だ」

「良いんだよ、結果論で。それとも何? わたしに何らかの罰をこの場で言い渡せと? 無理無理! そんなの柄じゃないよ」


 そんな単純な問題でもないのだろうけど、自分にイヤなことがあったからって、その報復として相手に何かしろというのはどこか違う気がする。


「……兄貴に任せる方法もあるが?」

「なんとなく、それはシャレにならない状況になりそうだから止めておこうか」


 なんとなく、雄也先輩に任せてしまうと、とんでもないことをやってくれそうで怖い。

 自分のことで、想像もつかない方向へ話を進められるのもなんかイヤだし。


「……と、我が主が言うので、この件に関しては不問にします」

「そう口にしている少年自身はかなり不服そうに見えるけど?」


 膝の土を両手で払いながらバルディア隊長さんはそんなことを言う。


「不服……とは違う気がしますね。自分も、少し危機意識が欠如していたので、反省しているだけですよ」

「それだけ動揺と油断を誘ったからね。その辺りは経験の差というヤツだよ」

「ああ、そう言えば自分の二倍以上のおと……」

「それ以上は言わない方が良いよ」


 バルディア隊長さんのにこやかだが棘のある台詞。


 九十九が慌てて口を止めたのも、何かを察したようだ。


「シオリさまは思ったより動揺しなかったね。話の内容的にもう少し困惑するかと想像していたんだけど。どちらかと言うと、少年の方が慌てていたかな」

「動揺するほどセントポーリア国王陛下のことをよく知らないので」


 素直に答える。

 わたしがあの方と関わったのは、セントポーリア城で話した時、ぐらいだ。


「なるほど。でも、あれだけ真面目で勤勉な国王陛下を知らないというのも勿体無いね」

「……そうなんですか?」

「うん。私が知る限り、昔から、勉強家で努力家な方だよ。そして、自分の信じる道を行く素晴らしい方だ」

「そうなのか」


 そんなこの国の王の好評価を、わたしは今まで身内から以外に耳にしていない。

 そのためか、なんとなくくすぐったく感じて九十九を見る。


 その九十九はしきりに何やら頷いていた。


「配偶者に恵まれなかったのが大変惜しいね。そして、自分の枷となるような人間を切り捨てる非情さがなかったことも」


 だけど、セントポーリアの国王陛下にその非情さとやらがなかったから、わたしや母は生かされている気もする。


 特にわたしという人間の存在は、どう考えたって、そんな他国からも人間性を評価されるような人の汚点部分ではあるのだから。


 だが、それを自分から口にするわけにはいかない。


 例え、相手がわたしの出自に見当が付いていて、それを口にしていたとしても、それを自ら認めるような言葉を言うのは悪手にしかならないだろう。


 わたしが認めなければ、確定ではないのだから。


「さて、詮索についても、この辺までにしておこうか。下手なことを口にすると危険な気がする。それにさっきの会話で私の気も済んだし、キミたちもこれ以上語ることなどないだろう?」


 そう言って、バルディア隊長は微笑んだ。

 わたしも九十九を見ながら頷く。


 こうして、アリッサムの聖騎士団隊長自らの審査は無事、終わったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ