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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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魔力の暴走

 背後で激しすぎる雷撃音が聞こえた。


 少なくとも普通は、部屋の外ならともかく、室内で聞くような音ではないし、同時に眩しすぎる光に、耳だけでなく、目もおかしくなりそうだ。


 何より、今、後ろを振り向くのが怖い。

 どんな光景が広がっていることやら……。


 本来、屋内で落雷や雷撃魔法は使われないらしいけど、それを平気でやってしまうのが、わたしの護衛(ごえ)……、いや、専属侍女らしい。


 ここが、魔法が外に漏れないという「契約の間」に似た性質を持った部屋でなければ流石にやらないとは思うけれど。


 いや、集中!!

 わたしは、今から、自分の仕事をしなければならないのだ。


 セヴェロさんの言葉によって、アーキスフィーロさまの魔力が暴走してしまったっぽい。


 勿論、セヴェロさんの方には、何か考えがあったのだと思うのだけど、それでも、何の心構えもなく、巻き込まれた側としては、いろいろと言いたいこともある。


 確かに、少しぐらいは痛い目を見ていただきたいと思う気持ちも、分からなくもない。


 だが、今はこの状況をなんとかしよう。


 アーキスフィーロさまは魔力暴走によって、その身体が、水の渦に包まれてしまった。

 それは水の鎧にも見えるけれど、そんなにしっかり人の形はしていない。


 鎧というよりは、スライムの着ぐるみ?


 それも、某RPGのあの可愛い雫型形状ではなく、3DダンジョンRPGから落ち物パズルゲームのタイトルにもなった丸型のぷよっとした形状でもなく、RPGの祖となった魔法を意味する3DダンジョンRPGに出てくる正統派ゲル状スライムっぽい感じである。


 つまり、正直、見ていて気持ちの良いものではなかった。


 アーキスフィーロさまのその足は、水に浮いているため、床から離れている。

 全身が揺れているその状態は、水の中に閉じ込められているようにも見えた。


 自分の魔力から作られたものだから大丈夫だと思うけれど、呼吸は大丈夫だろうか?


 苦しそうには見えないけれど、水の中で身体がゆらゆらしている。

 その様子から、意識はなさそうでもあった。


「アーキスフィーロさま!!」


 念のために呼びかけたけど、反応はなし。


 やっぱり、意識はない気がする。

 いや、水の中って聞こえにくいからそのせい?


 でも、目も開いているかどうかも分からない。

 水が渦巻いているから、そのお顔が隠され、見えなくなっている。


 もっとよく見ようとして、近付くと、その気配に気付いたのか、水の渦の一部が、まるで、大鎌のような形状に変わった。


 水で作られた大鎌は透明で、室内灯を反射しているために、不思議な光を放っていた。


 水晶やガラス細工を思わせるような、不思議な凶器の迫力に、思わず呑まれそうになるけれど、それでも、火の大鳥がわたしに向かってくる時ほどの恐怖はない。


 バシュッ!

 パァンッ!!


 自分の近くで何かが弾け飛んだ。

 キラキラとした飛沫が目の前を横切る。

 

 よし!

 わたしの魔気の護り(自動防御)は、アーキスフィーロさまの魔力の暴走にも、負けていないようだ。


 だけど、魔気の護り(自動防御)が反応したってことは、あれは、普通の魔法耐性だけでは耐えられないってことか。


 気を付けよう。


 さらにアーキスフィーロさまを包む水の渦が変化した。

 それは蛸の足のような形で、その動きは鞭のようにしなっている。


 うねうね動くよりは、そっちが良いね。

 その形状の気持ち悪さより、動きの鋭さの方に目がいくから。


 そして、それらは不規則に、でも確実にわたしに向かってくる。


「邪魔」


 そんなわたしの言葉に合わせて、水の鞭は次々と、見えない壁に弾かれ、散っていく。


 それが一言魔法の結果なのか、それとも、先ほどの状態を見て、無意識に強化した自前の魔法耐性なのか、自動防御が働いているのかも分からないけれど、アーキスフィーロさまの暴走した魔力では、わたしの身体を傷つけることが容易ではないらしい。


 先ほどから自分に向かってくる水の鞭は、結構な速度、威力があると思う。


 これらを全部打ち落とすのは難しそうだったから、少なくとも、自動防御に任せることができそうなのはありがたい。


 しかし、ここからどうすれば良いのだろうか?


 遠くからでも魔法は効果が出ることは知っている。


 わたしの護衛など、本来、手で触れることが一般的な治癒魔法すら、離れた場所にいる人へ放つことができるほどだ。


 相手は、魔力でできた水の渦の中にいる。

 見た目にもなかなかに防御が厚い。


 だから、わたしの魔法がアレを突き破って、アーキスフィーロさま本体に届く保証はなかった。


 あの水の渦に阻まれれしまう可能性を考えると、やはり、身体に直接触れた方が効果的だとは思う。


 だが、どうしようか?

 その水の魔力は、先ほどから、わたしに攻撃しているのだ。


 幸い、わたしの魔気の護り(自動防御)によって、ダメージはなくても、何度も、目の前でビシバシ攻撃されるのはちょっと邪魔だし、弾く音は結構激しくて、耳にくるものがある。


 それでも背後で起こった雷撃魔法の音よりはマシだけど。


「ふむ……」


 じっと見ていたが、わたしに細かい分析能力なんてなかった。


 魔力の流れとかも大雑把にしか視えないし、この水の渦がアーキスフィーロさまの魔力を視覚化したものということしか分からない。


 そうなると、突っ込む?


 わたしの「風の盾魔法」は同じ風属性の魔法で中和しながら入ることができることを思い出す。

 そもそも、アレは攻撃魔法ではないから、らしい。


 水魔法を身に纏えば、同じ方法でいける?

 今のわたしはそれも可能だ。


 一言魔法は「水の鎧」……、いや、「水の着ぐるみ」?


 鎧だと全身を覆う板金鎧(プレートアーマー)が良いだろうけど、言葉に引きずられて、金属製の鎧を思い描きそうだ。


 そもそも水の防御なんて、某RPGのシリーズに登場する女性専用装備の羽衣しか見た目のイメージができない。


 あの某RPGは公式ガイドブックのイラストがすっごく充実していて、装備なんか、絵の参考資料にもなったから、よく買っていたんだよね。


 いやいや、今はそんな阿呆なことに思いを馳せている場合ではなかった。


 このアーキスフィーロさまの水の渦は、一部形状を変えて攻撃はしてくるみたいだけど、この水そのものが攻撃してくるわけではない。


 魔力の暴走って言うほどだから、てっきり纏っている水全体で攻撃してくるかと思ったけれど、ちょっと違うようだ。

 

 もう一歩、足を進めようとした時、水の動きが止まる。


「あれ?」


 思わず、自分も動きを止めようとして、その蛸の足のような水たちが一箇所に纏まった後、一斉に押し寄せてきた。


「ある意味、予想通りですね!!」


 まるで、生き物のようだと思った。

 これって、本当に意識がないのだろうか?


 これが駄目なら、他の手段に切り替えるってところが、知能のある生物っぽい気がする。


 もしくは、無意識にそう変化させてしまうほど、アーキスフィーロさまに根付いた攻撃方法ってことかな?


 だが、その割に()()の形にはならない。

 一番、威力がありそうなのに。


 そこも不思議だった。


「土嚢袋!!」


 迫りくる大量の水に、そう叫ぶ。

 いつかのように、目の前で土嚢袋が次々と現れ、(うずたか)く壁のようになる。


 そして、魔力の水がぶち当たると消えた。


 流石、土嚢袋。

 洪水に滅法、強い。


 大量の土嚢袋が消えると同時に、魔力の水を使い切ったのか、無防備になったアーキスフィーロさまの姿が現れる。


「今だ!!」


 そう思って、アーキスフィーロさまの方に向かったが、そこからさらに、水が勢いよく噴射される。


 アーキスフィーロさまが魔法力切れを起こしている様子はなかったから、これも予想はしていた。


 だが、始めのように厚みある水でなければ、このまま飛びつくのには全く問題ない!!


 わたしに、その水は決して、届かないのだから。


 そして、噴出される水が自分に向かってくるのを確認しながらそのまま突進して、アーキスフィーロさまの身体にタックルする。


 そして……。


「鎮静!!」


 わたしはそう叫んだのだった。

今回の話にある落ち物パズルゲームのアレはスライムじゃなくね? と思いの方。

実は、あのモンスターはスライムの別名らしいのです。

それが書かれた取説までは探しきれませんでしたが、スライムについて調べていたところ、某インターネット百科事典にそうあったので、今回、こっそり(?)使いました。

ご承知おきください。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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