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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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初めて見る……

 気にならないと言えば、嘘になる。

 でも、気にしても仕方ないよね、というのが本当の話。


 過去に拘ったところで、何かが変わるわけでもない。


 この世界を作り出した神だって、過去に干渉はできても、自分の手で変えることはできないっぽいのだから。


 だから、これまで特に意識していなかった。


『この朴念仁の主人は、前の婚約者のことは、基本、放置の人間でしたから』


 そうセヴェロさんから言われるまでは。


 ―――― マリアンヌ=ニタース=フェロニステさま


 それが、アーキスフィーロさまの前の婚約者の名前だと聞いていた。


 だが、まさか……、放置?

 この人が、そんなことをしていたとは思わなかった。


 いや、アーキスフィーロさまって、結構、気遣いの人だと思っていたけど、違うの?

 その時の失敗を教訓に、わたしを気遣ってくれるだけ!?


『酷い話ですよね~。政略的な婚姻契約だとしても、酷過ぎるって評判だったんですよ』


 セヴェロさんは呆れたようにそう言う。


 評判と言うことは、周囲もそれを知っていたということだ。


 確かに意味なく放置だったら酷いと思う。

 でも、本当にそうなのだろうか?


『だけど、本当は……』

「セヴェロ」


 さらに続けようとしたセヴェロさんの言葉を強く止めるアーキスフィーロさま。


 明らかに漂う気配は怒りを含めたものだ。

 それだけ触れられたくないことだったらしい。


『本当のことでしょう?』

「それをこの場で言う理由にはならない」


 強まっていく圧力。

 それはまるで、深く深く水の中に沈められて行くような息苦しさを覚える。


『シオリ様には聞く権利があると思いますよ~』


 だが、その息苦しさは、セヴェロさんにはないらしい。

 そのペースは全く変わらなかった。


()()()()()()()()()()()()()、難しいことは学んだのではなかったのですか~? それとも、その様で護り切れるとも? いや、シオリ様はお()()()()()()()って思ってます?』


 さらに挑発と思える言葉を続けていくセヴェロさん。

 ここまでくれば、わたしは、セヴェロさんの狙いも分かる。


 彼はアーキスフィーロさまの前の婚約者さんの話をしたいわけではない。


 これは……。


『甘いな、人間。()()()()()()()はそんな願望叶えちゃくれねえんだよ』


 その言葉で、ナニかが弾け飛ぶ。


『ヴァルナ! ルーフィス!!』


 その言葉で、思わず、背後にいた二人がいつものようにわたしの前に出て護ろうとするが……。


()()!! わたしの護りよりアーキスフィーロさまの()()()()!!』


 わたしがそう叫ぶと、二人は瞬時に攻撃体勢に切り替わった。

 咄嗟の言葉だったのに、少しも迷わなかった二人に拍手したい。


 そして、わたしは……。


「水属性魔法完全無効!!」


 二人に向かってそう叫んだ。


 彼らなら、攻撃手段が多い。

 それなら、わたしは二人の補助に回った方が良いと判断して。


「風属性強化をお願いします」

「それならば、(わたくし)は光属性強化を」


 ルーフィスさんは笑みを零しながら、ヴァルナさんは表情を変えることなく、それぞれの願いを口にしてくれる。


 そう、口にしてくれたのだ。


 この二人が()()()()()()()()()()

 わたしを戦力に入れてくれた。


 そこに喜びを感じないはずがない。


 いや、喜んでいる状況じゃないね。


「風属性魔法強化!!」


 そうルーフィスさんに叫び……。


「光属性魔法強化!!」


 そうヴァルナさんに叫んだ。


 同時に同じ属性を望まなかったのは、相手にどの属性が有効なのかが分からなかったためだろう。


 それなら、わたしは一つずつ、丁寧に。

 そして、確実に二人の能力を底上げする。


『ちょっと! 三人とも、何をなさる気ですか!?』


 あからさまな戦闘態勢になったわたしたちに向かって、何故か、セヴェロさんが叫んだ。


「「「決まってます」」」


 奇しくも揃う三人(わたしたち)の声。


 力には力を。

 それがこの世界の鉄則ならば……。


「「「確実に(())留める」」」


 ぬ?

 今、二人して、変な単語を混ぜなかった?


 一音、追加されただけで意味が大分、変わってしまう気がする。


 まあ、いいか。

 二人の手を汚させないように、わたしが見張れば良いだけだ。


 さあ、頑張ろうか。

 荒れ狂うわたしの婚約者候補(アーキスフィーロ)さまを止めるために!! ――――って……?


「ちょっと()()~~~~っ!?」


 その光景に思わず、わたしは再度叫ぶ羽目になった。


 何故ならば……。


『なんで、ルーフィス嬢もヴァルナ嬢も、迷いもなく、()()()()()()()()()んですか!?』


 そう。

 二人は何故か、真っすぐセヴェロさんに向かって行ったのだ。


『ちょっ!? アーキスフィーロ様の魔力の暴走の方を止めるべきですよね!? シオリ様もそう言いましたよね!?』


 ルーフィスさんの風魔法を捌きつつ、セヴェロさんは叫ぶ。


「そちらは主人にお任せする方が、効率は良いと判断しました」


 ルーフィスさんは優雅に微笑みながら、隙間なく、風刃魔法を展開する。


 わあ!?

 アレは、光球魔法のカーテンより、視認しにくいわ~。


『それなら、何故、ボクに!?』

()()()()()()()()()()()()後々、厄介事に繋がらないでしょう?」


 それまで、表情を変えることがなかったヴァルナさんが、可憐な笑みを零しながらも、物騒な言葉を吐く。


 その手には雷撃魔法の準備が整っているようです。


『ちょっ!? その魔力量、マジで()りにきてませんか!?』


 その威力を瞬間的に看破したセヴェロさんは、流石に慌てたようだ。


「こちらは足止めしておりますので、シオリ様はアーキスフィーロ様を止めてください。そうですね。『鎮静魔法』辺りがお勧めです。今のシオリ様の魔力なら確実に押しきれます」


 ルーフィスさんはわたしに向かってそう言った。


 先ほどから、「風刃魔法」と思われるモノをセヴェロさんに当てているが、決定的なダメージは得られていないようだ。


 セヴェロさんは時々、よろめくものの、体勢を整えている。


 そのことから、実戦慣れはしていないことが分かる。

 少なくとも、慣れている人の動きや反応ではない。


 そして、ルーフィスさんも本気ではないようだ。

 その威力を見た限り、手加減しているように見える。


 いやいや、わたしはそれよりもアーキスフィーロさまを止める方に集中だ。

 集中!!


 ルーフィスさんは、「鎮静魔法」と言った。


 つまり、精神的に落ち着かせろと。

 そして、わたしなら魔力(パワー)負けしない、と。


 雄也(ルーフィス)さんの言葉なら、わたしは信じられる!!


 そう思って、わたしは身構える。

 アーキスフィーロさまは明らかに正気ではなく、ふらり、ゆらりと立っている。


 以前、ゆめの郷(トラオメルベ)で見たミオリさんの状態は、我を失っていても、意識があったから魔力の暴走とは言えないということが分かる。


 つまり、これが初めて見る魔力の暴走……ってことか。


 意識のないアーキスフィーロさまの身体を、激しい水の渦が包んでいる。


 確かに凄い魔力の渦だ。

 だけど……、こんなの。


 セントポーリア国王陛下の足元にも及ばない!!


『シオリ様、何を!?』


 背中の方でセヴェロさんがまた叫ぶ。


「アーキスフィーロさまに攻撃する気はありませんから、安心してください」


 それだけを口にして向き合う。


 あの水の渦を掻い潜って、鎮静化させることが、わたしの役目。


 彼らは、わたしならそれができると判断した。

 それならば、ちゃんとやり遂げねば!!


 ここで問題となるのは、わたしの「魔気の護り(魔法防御)」が、アーキスフィーロさまの暴走状態を上回れるかどうかだ。


「ああ、この魔法は、()()()()()ですので問題ありませんが、今から放たれるヴァルナの雷撃魔法の方は、素手で受けない方が良いですよ」


 背後で声が聞こえる。

 それはどこか、警告にも取れる言葉。


()()()()()()()()()()しますが、既に貴方の身体は、何度も()()()()()()()()()()でしょう?」


 ああ、セヴェロさんは水鏡族だから、水を使って防御しているのか。


 そして、当たっていたのは、ルーフィスさんの風刃魔法。

 ごく普通の魔法に見えたその中に、実は、何かを仕込んでいたってことかな?


 でも、それぐらいやってもおかしくない人だった。


『ちょっ!? ()っ!? ここ、めっちゃ屋内!!』


 さらに焦りが強くなる声が背後で聞こえる。


 背後は二人に任せた。


 ルーフィスさんとヴァルナさんなら、このままセヴェロさんの足止めをしてくれるだろう。


 だから、振り向かず、アーキスフィーロさまを見る。


 直後、耳を(つんざ)くような音と光。

 背後で何が起きたか分かるような事態だが、今、ここで振り向くのは憚られた。


 えっと、やり過ぎて……ないよね?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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