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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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2225/2804

三者三様の意見

 さて、部屋替えである。


 前に案内された部屋の場所の位置については、正直、自信がなかったが、ルーフィスさんもヴァルナさんも、その位置図だけで場所を覚えたらしい。


 ぐぬう。

 わたしにその把握能力をください!!


 そこの部屋には、例の侵入可能な洋服ダンス以外にも、様々な問題点があったらしく、ルーフィスさんは終始顔を顰めて作業をしていた。


 美人さんが怒ると迫力である。


 逆に、昨日、その現場を先に見ていたヴァルナさんは、無言で、その部屋の端に置いていたわたしの物を纏めていた。


 そして、再び、地下へ戻ると……。


「うわ……」


 思わず、漏れてしまう驚きの声。


 先ほどまで弓道場だった場所は、やはり、弓道場のままではあったのだけど、少しだけ変化していた。


 手前の広さ、というか、長さは変わらない。

 奥の方に的が見えるところも同じだ。


 だが、少し離れた場所が明らかに変わっていた。


 手前に比べて、近い場所に壁があってその下部に的が張りつけてあったのだ。

 大体、半分ぐらいの距離だろうか?


 だが、わたしが驚いたのは、そこではなかった。


 近くなったその的の傍で、何やら真面目な顔で意見を交わし合っている殿方たちの姿があったからだ。


 しかし、その内容は理解しがたいものだった。


「どうやら、あの()()()()()()()()()()()()()()が、シオリ様に新たに用意された部屋のようですね」


 そして、それを笑顔で無視するルーフィスさん。

 それはどこをどう見ても、いつもの雄也さんでしかなかった。


 その堂々とした姿に、思わず安心を覚えてしまったが、今は、そんな状況ではないだろう。

 もはや、ツッコミどころしか存在しない。


 この世界には魔法がある。

 だから、いきなり、弓道場の中に新たに居住空間ができても、おかしな話ではないのだろう。


 そして、わたしや新たに侍女となった二人を一時的に外させたのは、その方法を見せないためだったということはなんとなく、理解できる。


 ここをセヴェロさんが作り替えると言っていたのだから、魔法以外の方法を使った可能性もあるだろう。


 あるいは、この空間は、外に魔力が漏れないようになっている。

 それは、かなりの確率でカルセオラリアの技術だ。


 その加工方法をカルセオラリアの王族であるトルクスタン王子は知っている可能性があって、わたしたちにそれを漏らさないという意味もあったのかもしれない。


 だから、広々とした空間だった一部が、不自然ではない程度に、弓道場の近的? の場所となったこと自体は気にしないようにする。


 だが、そこで、何故、殿方たちの協議の場に発展しているのかがよく分からない。


 いや、声は聞こえるのだから、その内容は分かるのだ。

 ……分かりたくないけれど。


 表情だけ見れば、本当に凄く真剣な話し合いに見える。

 だからこそ、その声をオフにしたい。


「シオリ様はあまり、気にされない方がよろしいかと存じます」


 ルーフィスさんがにこやかにそう言うが……。


「わたしの部屋の話を、気にするなというのは無理だと思います」


 思わずそう答えてしまった。


「シオリ嬢は落ち着いた色合いを好む。だから、俺は藍色を主とした部屋を推す」


 そう言っているのは、トルクスタン王子。


 確かに、カルセオラリア城は藍色の物が多かった覚えがある。

 転移門すら、濃く深い青の光を放っていた。


「いえいえ、シオリ様はセントポーリア出身だと伺っております。それならば、シルヴァーレン大陸の主色とされるオレンジ色を基調とした方が、魔法力の回復や精神的な落ち着きの意味でも良いとボク……、いえ、私は思いますよ」


 そう口にするのは、セヴェロさん。

 パステルピンクは()めてくれたらしい。


 だけど、一番、気になったのは……。


「シオリ嬢は、清楚で可憐、儚げなイメージがあるから、薄桃色の部屋が似合うと思う」


 そのアーキスフィーロさまの発言だった。


 清楚?

 可憐?

 儚げ?


 誰に対する形容詞ですの?


 どうやら、アーキスフィーロさまの目に、わたしはそう映っているらしい。


 そして、例のパステルピンクはアーキスフィーロさまの趣味だったようだ。

 意外に少女趣味というか、ロマンチストっぽい?


 でも、なんで、そんな風に思われているのかがさっぱり分からない。


 わたしは、この家に来るなりアーキスフィーロさまに対して、断りにくいような取引を持ち掛けたようなものだ。


 しかも、その後、アーキスフィーロさまの兄であるヴィバルダスさまを魔法勝負であっさりと倒している。


 さらに、寝ている間にやってきたらしい侵入者を撃退して、そのことすら覚えていないほどの女だ。


 改めて思う。


 清楚?

 可憐?

 儚げ?


 申し訳ありませんが、その欠片も見当たりませんよ?


「それでは、アーキスフィーロ様。トルクスタン王子殿下。シオリ様が戻ってきたので、改めて、本人の希望をお聞きましょう」


 セヴェロさんが、わたしの方を見ながら、そう言った。


「あ。戻っていたのか」


 トルクスタン王子は気付かないほど、議論に集中していたらしい。


「シオリ嬢は、青系統が好きだったよな? 青や藍色の部屋はこの国にも合っているが、どう思うか?」


 わたしが青系統の色を好きなことを覚えていてくれたことは素直に嬉しい。

 透明感のある青は、綺麗で落ち着く色だと思っている。


「青色は綺麗だと思いますが、この遊技場を通り抜けた先にある色としては、ちょっと違和感があるかと存じます」


 トルクスタン王子の問いかけに対して、わたしはそう答えた。


 この明らかに和風な弓道場の奥に、真っ青な部屋。

 配色を間違えると、大変、目に痛くなりそうだと思った。


「青い部屋が嫌いというわけではないのですが、この遊技場の雰囲気は好きなので、少しでもそれを損ねたくはないのです」


 奥は壁にしか見えないから、本当の意味で雰囲気を損ねることはないだろう。


 でも、自分の中に違和感は残る。

 青は確かに好きな色だけど、少しで良い。


 視界の全てを埋め尽くす青色は、海と空だけで十分だ。


「あ~、この遊技場との兼ね合いまでは考えなかったな。壁を隔てているから大丈夫だと思ったが、シオリ嬢()、この部屋に引き籠って生活する予定ではないからな」


 トルクスタン王子は納得するかのように頷く。


「それならば、やはりオレンジ色をベースにするのはどうでしょう?」

「案としては面白いと思いますけれど、それはちょっとやり過ぎではないでしょうか?」


 シルヴァーレン大陸の象徴色(シンボルカラー)である橙色。

 それで魔法力の回復量が変わることは知らなかった。


 わたしはオレンジ色の服を持っていないわけではないけれど、そんなに多く着ることはなかった。


 唯一、持っている「神装」はオレンジ色だけど、それって確か、雄也さんが選んだ色だったはずだ。

 もしかして、知っていたかな?


 なんとなく、ルーフィスさんの方向を向きたくなるのを我慢する。


「それに、わたしにとって、橙色は、()()()()()なので、一面に覆われてしまうと、落ち着いて休めない気がします」


 シルヴァーレン大陸の象徴色(シンボルカラー)である橙色ということは、セントポーリア城でもよく使われている色でもある。


 何より、セントポーリア国王陛下が、重要な場面で身に纏う外套(マント)の色でもある。

 城に飾られた肖像画も橙色の外套(マント)を身に着けていた。


 一部ならともかく、その全てがオレンジ色に染まるのは、夕日に染まった時だけで良いと思うのだ。


「何より、()()()『青』に()()()と思われている身でもあります。いつまでも、オレンジ色の(もと)から抜け出せないと思われているのは、アーキスフィーロさまに申し訳がありません」


 この先、どうなるかは分からないけれど、婚約者候補から、婚約者、配偶者と出世魚の如く、わたしの肩書きが変わる可能性が高いのだ。


 それに、この部屋に出入りするようになるのは、この場にいる人たちだけではない。

 ロットベルク家から付けられる侍女さんたちだっているのだ。


 それなのに、シルヴァーレン大陸の象徴色(シンボルカラー)に覆われているというのは、外聞が良くないだろう。


「なるほど。シオリ様は、見た目以上に思案される方ですね」


 セヴェロさんがそう言ったので……。


 ―――― それって、わたしは考え無しに見えるってことですね?


 わたしが()()、そう思うと、セヴェロさんは、ぶはっと勢いよくいろいろなものを噴出した。


 どうやら、しっかりと伝わったらしい。


「セヴェロ……」


 アーキスフィーロさまが何かを察したかのように睨む。


「あ、アーキスフィーロ様。これ、は、シオリ様を、()()()()()()()()()!!」


 まるで、息も絶え絶えに……、といった感じで、笑いながら、セヴェロさんはそう言った。


 これは真央先輩と良い勝負かもしれない。

 彼女も結構、不思議な所で笑うから。


「お前の娯楽のために、傍に置くわけでない」

「理由、なんて、どう、でも良いの、です!! こんな、女性、もう、いません!!」


 どれだけ、面白い生き物扱いされているのでしょうか?

 珍妙枠?


「チン!? ああ、それは、ああ、珍妙……、うん、珍妙」


 どうやら、かなり笑いのツボに入ってしまったらしい。

 昨日と同じように咳き込むほど笑われた。


「アーキス……。この従者、大丈夫か?」

「能力だけはありますし、私の傍にいたいという珍しいモノなので、問題はありません」


 そんなトルクスタン王子とアーキスフィーロさまの会話が、笑い声に混じって弓道場で聞こえたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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