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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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更に努力する者たち

「勿論、主人と認めた相手に恥じないように、どこまでも努力する所存でございます」


 そんな言葉を聞いたなら、もともとの主人の立場にある人間としては、否が応でも気合が入ってしまうというものである。


 常に努力する護衛たち。

 それなのに、まだ努力すると言うのだ。


 彼らの主人としても、恥ずかしくないようにしたいと思うのは当然だろう。


 それも、本来の性別を偽ってまで、わたしの近くにいて護ってくれるというのだから。

 どこまでも頭が下がる思いである。


 そして、わたしの護衛はもう一人。

 その人は今、わたしの婚約者候補であるアーキスフィーロさまの前に立っている。


 先ほど、アーキスフィーロさまが放った「水魔法(water)」は、九十九(ヴァルナさん)によって、跳ね返されかけた。


 実際は、跳ね返すことなく飛び散っただけだったが、相手の魔法耐性が高くて効果がなかった時とは全く違ったのは、離れて見ていたわたしの目にも分かった。


 そして、それは、魔法以外の技術によることも。


 魔気の護り(魔法耐性)の強化と、魔法を使っての魔法防御は相手の体内魔気や周囲の大気魔気の動きが全く違うのだ。


 本来は、相手の体内魔気を測るための行為だった。

 だが、相手は素直に魔法を食らわず、寧ろ、それを利用して攻撃を返そうとしてきたのだ。


 アーキスフィーロさまがそれに気付いていれば、次に使う魔法はこれまでのお試し魔法とはかなり違った種類のものとなるだろう。


 相手を試していると思っていたのが、魔法の修練相手として試されていると分かったのだから。


「次の魔法、いきます」


 これまでのアーキスフィーロさまは、水系魔法か氷系魔法を強めることで相手の魔法耐性を測っている。


 そんなアーキスフィーロさまが、今回は「強める」ではなく、魔法を使うことを宣告しただけだった。


 その疑問はすぐに解けることになる。


 そして同時に、わたしは思わず息を呑んだ。


 そこにあったのは、昔、見た姿。


 足を開き、構え、静かに両拳を持ち上げる。

 流れるような静と動の動き。


 動きが止まっても、その一連の動きが途切れたようには見えず、滑らかに次の動作へと続いて行く。


 こんなにゆっくりとした動きは、実戦はもとより、普通の模擬戦闘でもできないだろう。


 こんなにゆったりとしていては、確実に的になるから。


 だが、今は模擬戦闘ではない。

 そして、これらの所作は、周囲から音と時を奪うには十分だった。


「射法八節」


 近くにいた雄也(ルーフィス)さんから、呟きが漏れる。

 

 それは、わたしも聞き覚えのある言葉。


 ―――― あいつらは「射法八節(しゃほうはっせつ)」をしっかり身に付け


 その言葉が、覚えのある誰かさんの声で再生される。


 それを口にしたのは、誰だったか?

 そして、何の話をしていた時だったか?


 ―――― 中学生が大会で「皆中(かいちゅう)」させるだけでもすごいことなんだが


 その時のわたしは「皆中(かいちゅう)」の意味が分からなかった。

 一般的な言葉でもなかったし。


 だけど、別の場所で聞いてその意味を理解する。


 皆中……、()()()()()()、四射中、全てを的に()てること。


 こちらも、何の話をした時かは分からない。

 魔法か何かの話だったと思う。


 でも、その言葉の意味を教えてくれたのは、先ほど呟きを零した人だった。


 つまり、そこで構えている人は、必中の腕を持つ人。

 必ず()てる。


 何を?

 その技術を身に付けている人が見せる技など、そう多くはない。


 あれだけ、鷹揚に構えることができるのには、相応の理由と自信があるのだろう。


 今から放つ魔法は、決して避けられることはない、と。

 そして、当たれば相手はただでは済まない、と。


 その指先には誰にでも分かるぐらいはっきりと、水属性の魔力が集中していく。

 大きく構えられた両の手には可視化できるほどのナニかがあった。


 わたしはそこに、この世界にはないはずのモノを幻視する。


 和弓。

 それは、日本と呼ばれる国で作られた歴史ある弓。


 召喚されたわけではない。

 純粋な魔力だけで形作られたのだ。


 わたしが、自分の魔力だけで光の棍棒(バット)を振り回したように。

 かつて、護衛が、雷撃魔法の剣を振るったように。


 魔力だけで作られたモノは、時として、本物(オリジナル)を凌駕する。


 それは、これに対する想いだけは、誰にも負けないという強く絶対的な自信(思い込み)


 だから、迷った。

 だけど、()()()


 いつだって、誰かの自信を打ち崩すのは、別の誰かによる強すぎる信念(思い込み)


激流(torrent of)の矢(arrows)


 そんな言葉と共に、放たれた矢は、わたしが視認できないほどの速度で目標物に向かう。


 それはあまりにも早過ぎて、今度は息を呑む間もなかった。


 だが……。


 ―――― バシャンッ!!


 まるで水風船が地面に叩きつけられたかのように、水の矢は地に落ち、床に沁みが広がった後、消えていく。


 その瞬間は何が起きたか分からなかった。


 それだけ高速の攻防。

 文字通り、目にも止まらぬ速さで起こった出来事。


 見ると、九十九(ヴァルナさん)は足を広げて腰を落としているが、右手で何かを払いのけたような姿勢を取っていた。


 それは、ロングスカートを穿いた女性としては如何なものかと、わたしでも思ってしまうような体勢ではあるが、その型に物凄く見覚えがあった。


 ―――― 空手の型


 わたしは、それを何度も繰り返し見た。


 この世界に来る前は一度も見たことはなかったはずなのに、何年も護衛と過ごすうちに、見る機会が増えたのだ。


 毎日、自主鍛錬を行う護衛と過ごす時間が長くなれば、それは自然な流れだろう。


 同時に思った。

 あの動きは、向かって来る攻撃を払いのける動きだったのかと。


 いや、組手と呼ばれるものではなく、一人で型の確認をしている所しか見たことがなかったので、何の動きか分からなかったんだよね。


 拳を突き出す、回し蹴りをするなど、分かりやすい攻撃の型なら分かるけど、腕を回すなどの動きは見ていても、何をしているの本当に分からないのだ。


 しかも、その動きは高速である。


 型の確認中はまだ手足の動きそのものは辛うじて理解できるのだけど、明らかに対人戦を意識したものになると、文字通り、目にも止まらない速さで動き出す。


 まるで、格闘漫画だと思って見ていたのだった。


 そして、確信できる。

 ヴァルナさんはやはり、九十九だ。


 全く同じ動きができる人間が、そう何人もいるはずがない。

 しかも、この世界にはない空手を使っている。


「ルーフィス、解説」

「アーキスフィーロ様が放った魔法をヴァルナが払い落しました」


 わたしにとっては予想通りだったけれど、トルクスタン王子が聞きたかったのはそんなことではないだろう。


「いや、普通は払い落とせないよな?」


 わたしもそう思うが、実際、払い落とされたとしか言いようがなかった。


「つまり、あれは魔法か?」

「いいえ。あれは魔法ではありません。勿論、身体強化はしていますが、腕だけ魔法耐性を大幅に強化して、自分に向かって飛んできた魔法の軌道を変えただけです」


 しかし、弓道に対して、空手で対抗するとか。

 異種格闘技にも程がある。


「体術の一種か?」

「そうですね。ヴァルナは、優秀な師の(もと)、徒手空拳を数年学んでおりました」


 確か、小学校から空手をやっていたと聞いている。


 その空手道場の師範さんが優秀だったかは知らないけれど、その動きは、今も九十九の中に根付いているらしい。


「但し、今回は減点ですね。あんな姿を晒すなど、侍女としての余裕がありません」


 まあ、空手の型は、本来、ロングスカートでするものでもないからね。


「厳しいな」

「これは()()()()()ですから」


 苦笑するトルクスタン王子の言葉に雄也(ルーフィス)さんは平然と答えた。


 そこで、わたしも思い出す。

 これは、魔法勝負でも、異種格闘技戦でも、模擬戦闘でも何でもないのだ。


 アーキスフィーロさまが、二人を侍女として見極めるための話だった。


 だけど、どうだろう?

 そもそも、侍女に対して、魔法耐性を測ること自体がそう多くないと思う。


 侍女に対して求められるのは、護衛としての能力とは違うはずだ。

 そして、明らかにアーキスフィーロさまが放った魔法は、その域を超えていた気がする。


 わたしも先ほどの魔法を食らえば、魔気の護り(自動防御)が働かない限り、倒れていると思う。


 目に見えない速さで飛んでくる魔法なんて、どうやって回避すれば良いのか?


 これまで、大きな魔法ばかり見てきたので、先ほどのような魔法の対策が全く思いつかなかった。


「アーキスフィーロ、まだ続けるか?」

「いいえ。もう十分です」


 トルクスタン王子の言葉に、アーキスフィーロさまは構えを解いて、答える。


「お二人の魔法耐性はかなり強いことが分かりました。しかし……」


 そして、さらに続けられた台詞に、わたしは思わず首を傾げてしまったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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