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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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2207/2803

【第113章― ドキドキの新生活 ―】全く存じません

この話から113章です。

よろしくお願いいたします。

「昨日ぶりだな、アーキス。そして、シオリ嬢」


 トルクスタン王子がわたしたちの顔を見るなり、そう声を掛けてきた。


「シオリ嬢は、変わりないか?」

「はい」


 先ほどトルクスタン王子自身が言ったように昨日、会ったばかりである。

 余程のことがない限り、変化などそうないだろう。


「まあ、シオリ嬢だからな」


 何故か苦笑された。


「アーキスの方は随分、疲れた顔をしているな?」


 そうなの!?

 思わず、アーキスフィーロさまの横顔を見る。


 わたしには分からなかった。


「この度は、我が家の者たちがご迷惑をお掛けしたと伺いました。大変、申し訳ございません」


 わたしを隠すように前に出て、アーキスフィーロさまはカルセオラリアの礼をする。


「全くだ。昨日一日で、どれだけ、この家は俺を不快にさせるんだろうな?」


 トルクスタン王子は不機嫌な声のまま、そう言った。


「シオリ嬢は、どれだけ話を聞いている?」

「全く存じません」


 そう問われたので、素直にそう答える。


 わたしは手紙がなければ、アーキスフィーロさまの部屋に向かう予定もなかったのだ。

 しかも、何の話も聞いていない。


 だから、何の用件で呼び出されたかも本当に全く分からないままだった。


「全く!?」

「全く」


 何故か、驚かれた。


「どういうことだ? アーキスフィーロ」


 トルクスタン王子の呼び方が、愛称から変化する。

 同時に、少し、部屋の雰囲気が変わった。


「私自身も朝、従僕から知らされるまで、この屋敷で起きたことを何も存じませんでした」

「ずっと部屋に引き籠っているからだ。少しは、邸内に目を向けろ。これまではそれで良かったかもしれんが、これからはシオリ嬢がいるのだ」


 この話ぶりから、それなりの事件が起きたことは分かるが、それを知らなかったのはわたしも同じだ。


 そうなると、同時に、わたしも責められていることになるのだろうか?


 アーキスフィーロさまの婚約者候補となったのだから、これまでのようではいられないってことかな?


「申し訳ございません、トルクスタン王子殿下」

「何故、シオリ嬢が謝る?」

「何も知らないのはわたしも同じです。アーキスフィーロさまを責めるならば、わたしも同罪でしょう?」


 わたしがそう言うと……。


「それは違う」

「それは違います」


 前方から二人分の否定の言葉がありました。


「シオリ嬢は来たばかりで、ここでの手足が何もない。しかも、婚約者候補と言っても、他人の家だ。だから、何も知らないのは当然だ」

「今回のことは私の力不足です。貴女が頭を下げる必要は全くありません」


 トルクスタン王子とアーキスフィーロさまはそれぞれそう言ってくれた。


「まあ、良い。アーキスフィーロが知っていただけ()()()()()()()()()()()。シオリ嬢が知らないのも仕方ない。知らせる必要はないと判断したってことだろう」


 トルクスタン王子は肩を竦めた。


「アーキスは、昨夜の話をどこまで聞いている?」


 そして、アーキスフィーロさまに再び鋭い目を向ける。


 先ほどまで、わたしに向けていた視線よりもずっと冷ややかな種類のものだ。


 忘れてはいけない。


 どんなに親しみを覚えていても、この方は、機械国家カルセオラリアの第二王子にして、カルセオラリアを継ぐ(背負う)者。


 たまたま、水尾先輩や真央先輩(アリッサムの王族)に縁があったわたしも、身内の枠に入れてくれているけれど王族(上に立つ者)としての顔も持っているのが当然である。


「兄と、家人がそれぞれ良からぬことを企てた……、と」

「えっ!?」


 アーキスフィーロさまの兄であるヴィバルダスさまと……、ロットベルク家の人が!?


 前々から、周到に計画を立てていたのだろうか?


「ああ、そこまではちゃんとアーキスには、伝わっているのか」

「邸内のことぐらいは把握しておく必要がありますから」


 アーキスフィーロさまは部屋から出ていないにも関わらず、家の中のことは知っているらしい。


「それなら、今後は()()()()()()()()。知った時にはもう遅い……というのでは笑えん。今後、()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「えっ!?」


 どういうこと?


()()()()()()()()()

「ええっ!?」


 しかも、アーキスフィーロさまがそれを理解している?


「申し訳ありません、トルクスタン王子!! ご説明、願います!!」


 思わず、そう言っていた。

 どこをどう聞いても、話に置いていかれることは理解した。


 でも、自分に関わることなら、簡単に置いて行かれるわけにはいかない。


 これまでは、有能な護衛たちがこういう面でもこっそり助けてくれていたけれど、これからはそれもできなくなるのだ。


 わたしはどれだけ甘えてきたのだろうか?


 こうして話を聞いているだけでも、何度も黒髪の護衛たちの姿を探そうとしてしまう自分がいる。


 その事実に、今更ながら、愕然としていた。


 ―――― 一人でも、もう大丈夫だと思っていたのに


 全然、大丈夫じゃなかった!!


「いずれにしても、シオリ嬢にとっては面白い話ではないが構わないか?」

「はい。わたしに関わることですよね?」

「そうだな。シオリ嬢は、気付いていないだけで、()()()()()()だ」


 ぬ?

 気付いていないだけで被害者?

 それって、あの嫌がらせのようなこと?


 でも、流石にあんなことをされていて気付かないほど鈍くはないつもりなのだけど。


「では、家人の阿呆な話と、ヴィバルダスのド阿呆な話。どちらから聞きたい?」


 トルクスタン王子は何故か、楽しそうに笑った。


 しかし、阿呆な話と、ド阿呆な話とは一体……。


「わたしが被害者だというのなら、深く関わっている方から話をお願いできますか?」


 昨日の模擬戦闘から考えても、ヴィバルダスさまがさらに重ねて何かをしでかそうとしたとしか思えない。


 懲りない人にも程がある。


「では、()()()()()()だな」


 え?

 そっちなの!?


「シオリ嬢はアーキスフィーロの婚約者候補として、仲介者の俺ではなく、ロットベルク家の方がその身柄を預かることになった。ここまでは理解していると思う」

「はい」


 だから、一人だけで、あのホコリ高い部屋に案内されたのだ。


「報告を受けただけでも酷い部屋だったと聞く」

「まあ、そうですね」


 わたしの言葉を受けて、トルクスタン王子はアーキスフィーロさまを睨んだのは分かった。


「十年近く掃除をしていない部屋だったそうだ。報告を聞いた時は、逆によくそれだけの年月を放置していたと感心した」

「なるほど。十年ものだったのですね」


 それならば、あの惨状も理解できる。


「さらには、処分するはずのボロボロの服を用意し、部屋のクロゼットに押し込んでいたそうだ」

「何故、それをご存じなのかを伺ってもよろしいでしょうか?」


 昨日、護衛が侵入した時は、既にある程度、片付け終わっていたはずだ。

 それなのに、そこまで知っているのはおかしい。


「簡単なことだ。俺の従者たちは有能だからな」


 トルクスタン王子は不敵に笑った。

 なるほど、従者たちは既に暗躍しているらしい。


「それをアーキスフィーロさまの前でお話されてもよろしいのですか?」

「俺はもともとこの家を信用していない。シオリ嬢の扱いも酷いものだし、それ以外においても一笑に付すものだ。(いえ)に帰りたいと心底思うのは久しぶりだった。そんな信用のおけない場所でどう動こうと俺の勝手だろう?」


 おっと、王族っぽい発言が出ました。


 気持ちは分かるが、そこではっきりと言い切っちゃって良いのでしょうか?


 わたしの前に立ち、背中を向けているため、アーキスフィーロさまの顔は見えない。

 だけど、拳を握っていることだけは分かる。


 自分の家を信用できないと面と向かって、はっきりと口にされたのだ。

 その心境は如何ばかりだろうか?


「尤も、シオリ嬢はその部屋の状態を自力でなんとかしたようだな。報告を受けた時は感心したぞ」


 しかも、そこまで知られているし。


「つまり、女性(わたし)の部屋を覗き見させていると解釈してよろしいでしょうか?」

「俺がさせているわけではない。ヤツらが勝手にしているのだ」

「それを止めるのが主人のお仕事ですよね?」


 これまでの自分のことは棚に上げて、トルクスタン王子にそう言い返す。


「ヤツらを俺が止められると思うか?」


 思いません。

 わたしも彼ら、そして、彼女たちを止められる気はしません。


「悪いが、これもシオリ嬢を護るためと承知してくれ」


 それも分かっている。

 彼らの本来の主人はわたしで、それを護ってくれていることも。


 いや、思ったより陰からではなく、堂々と、正面から護ってくれている気もする。


 でも、だからこそ、アーキスフィーロさまの前では、できるだけその繋がりを隠したいと思うのは自然ではないだろうか?


「それだけ、この家の人間たちを俺は信じていないのだ、アーキス」


 どうやら、後半はアーキスフィーロさまに言っていたらしい。


「シオリ嬢のことを護りたいという王子殿下のお気持ちは理解しました。それでも、女性の部屋の監視については承服しかねます」

「そう思うなら、早く、専用の侍女と護衛を付けろ。だから、昨日のようなことが起きるのだ」


 トルクスタン王子は大袈裟なまでに深く息を吐くと……。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()とか、この家はいろいろおかしいだろ?」


 そんなとんでもないことを口にしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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