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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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2203/2801

嫌がらせの思惑

 さて、今回の主人に対する扱いに関しては、ロットベルク家の当主や前当主夫妻たちを含めて、ロットベルク家の意思ではないと思う。


 オレが知る情報のほとんどは、兄貴とトルクスタン王子からの伝聞ではあるが、それぞれの話を統合すると、このロットベルク家において、彼女は歓迎されていることになるだろう。


 まず、この家の意思決定をする立場にある当主は、主人が千歳さん……いや、セントポーリア国王陛下に仕える「チトセ=グレナダル=タカダ」様と繋がりがあると気付いたらしい。


 当主は、二男につり合う魔力よりも、国内外における身分を重視していたようだ。


 だから、今回来る相手が望んでいたカルセオラリアの王族ではなく、庶民だと知って、拒むつもりだったとも聞いている。


 だが、あの主人が、チトセ様の縁者である可能性を示唆した途端、その手のひらを返したような態度に変わったらしい。


 チトセ様は、セントポーリアにおいて、公式的な身分はないが、その地位は高くなった。


 それは、あの会合で、他の中心国にも広く知らしめたことだろう。


 これまでセントポーリアでは、城の内々の雑務はともかく、外交にまで出てくる女の文官はいなかったらしい。


 あの真面目な上、融通が利かないことで他国にも広く知られているセントポーリア国王陛下が、堂々と連れ歩く黒髪、黒い瞳の若い女の文官。


 勿論、異性ということで、実は国王陛下の愛人ではないかと疑う視線も少なからずあるようだが、陛下のもともとの性格と、城内で見かけるあの二人は、多くの仕事を受け持つ上司と部下であり、色気とは全く程遠い関係でしかない。


 ()でるだけの女にあれだけの仕事量を任せるとは思えないし、王の寵愛を受けるだけことが目的ならば、文官たちの前で堂々と国王陛下に助言どころか諫言までも口にしないだろう。


 そのためか、少なくとも、城内にいる文官の間では、男女関係の疑いを持っている人間が一人もいなかったことに驚いたほどだった。


 何より、あれほどの仕事をこなすことができるなら、仕事人間な国王陛下に気に入られるのは自明の理らしい。


 そして、他国に密偵、情報収集している人間を派遣している国なら、それらのことも伝わっているだろう。


 それほど、セントポーリア国王陛下とチトセ様は、事情を知っているこちらも首を捻りたくなるほど、事務的(ビジネスライク)な関係にしか見えなかった。


 そして、チトセ様自身は、あの情報国家の国王陛下から知識を試された上で、即、その場で引き抜きを図られたような文官である。


 その能力は疑うべくもない。


 まさか、チトセさんの実の娘とは思わなかったようだが、姉妹とか、少なくとも親類縁者だと当主は認識したようだ。


 この世界の人間以上に、年齢不詳だからな、チトセ様。


 主人と並んでも、その容姿だけなら姉妹に見えるし、この世界の人間たちが判断基準とする体内魔気からは、あの二人の血が繋がっているとは思えない。


 これは、チトセ様の魔力が弱いため、主人には強すぎる父親の魔力が色濃く出たせいだろう。


 チトセ様のその出自は、セントポーリアでも謎に包まれたままだ。

 出身国どころか、出身大陸すら不明である。


 主属性が火のように視えるために、恐らくはフレイミアム大陸出身……?

 そう思われているらしい。


 まあ、当然だな。

 あの方は人間界出身なのだから。


 だから、他国の人間が、チトセ様と繋ぎを取ろうとしても、国王陛下以外の窓口がないのだ。


 そのために、ロットベルク家当主は主人を利用しようということなのだろう。

 まあ、貴族として、その判断は間違いではない。


 他国の能力ある文官。

 それも、セントポーリアを劇的に変えたと周囲から目されるような女傑だ。


 そんな謎多く名高い文官と繋ぎを付けることができれば、この国の……、少なくとも、ローダンセ国王陛下の覚えは良くなると考えるだろう。


 本当は、いろいろなタイミングがあった結果で、チトセ様がその全てを行ったわけでもないのだが、情報国家の国王陛下自ら、他国の文官たちを差し置いて迷うことなく引き抜きを図られたというのは、それだけ大きいと言うことらしい。


 そして、前当主夫妻は完全に能力主義だったようだ。


 魔力が強い二男からの魔法に全て耐え、長男からは無恥な条件を付けられ、さらに卑劣な手段を使っての模擬戦闘でもあっさりと制圧して見せた時点で、その心は決まったらしい。


 寧ろ、当主夫人の方は、暫く、候補であることを望んだ主人を説得しようとしたほどだったと聞いている。


 だが、トルクスタン王子の話では、主人のあの容姿が、前当主夫人の御眼鏡に叶った可能性が高いとも言っていた。


 前当主夫人の子は息子しかいない。

 その子供たち……、自分にとって孫に当たる者たちも男ばかりだ。


 ()()()()()()()()()()()な前当主夫人からすれば、そこにやってきたあの主人は理想的だったといえるだろう。


 さらに、()……、いや、ロットベルク家の長男も主人のことを大層、気に入った。


 それも周囲が引くほど気に入り過ぎたらしい。

 始めから執拗に絡んだ上、恥知らずな申し出をして見事に返り討ちにあったと聞いている。


 浅慮で諦めの悪い男だとも聞いているから、今夜あたり、すぐにでも夜這いを仕掛けるんじゃないかと思っている。


 まあ、それをやすやすとさせる気もないし、成功の見込みもない話だ。

 それでも、そのチャレンジ精神だけは買っても良いだろう。


 どこをどう聞いても完全(パーフェクト)試合(ゲーム)で負けるような相手に何度も挑む無謀さは普通の人間が持つものではなかった。


 それにしても、主人の男運の悪さは気の毒に思えてくる。

 どうして、そんなヤツらばかり積極的に接してくるのだろうか?


 オレもその一人なのかもしれんが、それでも、正気の状態なら、彼女の気持ちが第一になる。


 だから、辛うじて、マシな方だと、自分では思っているが、周囲からすれば同じなのかもしれない。


 そして、肝心の婚約者候補だが、この男が一番、読めなかった。

 主人に対して、それなりに友好的な態度ではあるが、所々で、癪に障る言動をする。


 その最たるものが、「妻として愛することはできない」という発言だ。


 どれだけ、自分に価値があると思っていれば、そんなことを真顔で口にできるのか?


 自国で自分に釣り合う婚約者を見繕うことができない時点で、貴族としては致命的であるはずだ。


 それなのに、始めから主人を拒絶した上で、この縁談を自分だけの意思でぶち壊そうとしやがった。


 主人の覚悟も何も聞かぬまま、独断専行しようとしたのだ。


 尤も、今となっては、この話をぶち壊したところで、何も得るものはないことは本人が一番、よく分かったことだろう。


 今回の縁談は、あの男にとって得しかない相手なのだ。


 自分の要望と条件を丸呑みしてくれた上で、主人からはその一時的な立場だけで良いと言っていたらしい。


 あの男がどんなつもりで「妻となる女を愛すつもりはない」と言ったのかは分からないが、彼女はそれに対して、それで良いと頷いたのだ。


 そんな都合の良い女はそう多くないと思う。


 自分の主人を「都合の良い女」と言いたくはないが、これは事実だから仕方ない。


 これらの状況から、ロットベルク家としては、あの主人を追い返したり、排除したりするつもりはないと推測できる。


 そうなると、嫌がらせは別の思惑が絡んでいるはずだ。


 それが、集団によるものか、個々による集合体なのかはまだ掴めないが、それらも近日中に明らかになるだろう。


 既に兄貴が動き出した。


 もともと得ていたローダンセ国内の情勢と、ロットベルク家の内部事情。

 さらには、実際、当事者たちの言葉を聞いた上での情報。


 予言しても良い。

 ほんの数日で、ロットベルク家の面々は兄貴の手によって丸裸にされる。


 既に入国前から機密であるはずの財政状況すら掴んでいるのだ。


 それ以外ならば、国内用の外面、家庭環境、親戚や他家との繋がり、さらにここで働く者たち人間関係と表と裏の顔。


 隠したいことほど入念に調べ上げる。

 そして、当事者たちは裸にされていることにも全く気付ないだろう。


 それぐらいのことはやってのける男だ。


 トルクスタン王子も多少は動くが、血族と言うこともあって、甘くなってしまう部分はあるし、前当主はともかく、その夫人には頭が上がらないところを見ている。


 だが、兄貴にそんな(しがらみ)などはない。


 そして何より、今回のことは、オレより兄貴の方が怒り心頭に発している状態だと思っている。


 トルクスタン王子からの結果報告を聞いている間、ほとんど表情を崩さなかった。


 口元に笑みを浮かべ、必要以上に言葉を発しない。

 そして、先ほどの主人の扱いを報告した後も同じ顔をしていた。


 この国に対して、容赦することはないだろう。

 本当に敵に回したくない。


 それにしても、主人はオレのことを過保護だって言うけれど、兄貴だって大概だよな?


 オレは誰かに同意を求めるように、そう思うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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