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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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封じられる前の手段

「えっと、こんな時、毎回思う言葉を口にしてもよろしいでしょうか?」

「はい」


 わたしは、すぐ横にいるアーキスフィーロさまに声をかける。


「どうして、こんなことになったでしょうか?」

「ヴィバルダスが、反対したからだな」


 わたしの「どうしてこうなった!?」という疑問に答えてくれたのは、トルクスタン王子だった。


 流石にアーキスフィーロさまの前で、いつものように叫ぶことは無理だった。


 どうせなら、婚約者候補として、今の時点で悪く思われたくない。


 年単位で付き合えば、誤魔化しきれなくなる部分はあるだろうけどね。


「ヴィバルダスさまがずっと反対されているのは存じていますが、それが何故……」


 わたしは目の前を見る。


「ヴィバルダスさまとの模擬戦闘に発展するのでしょうか!?」

「ヴィバルダスが、シオリ嬢の能力を頑なに認めないようとしないからだな」


 ぐう……。

 何故だろう?


 わたしはアーキスフィーロさまの婚約者候補として来たはずだ。

 それなのに、その兄君が認めなかった。


 いや、わたしの容姿を含めて、身内に認められないことはあると思っていた。


 だが、能力?

 わたしの魔力の強さが足りないということだろうか?


「シオリ嬢にまでご迷惑をおかけして、申し訳ありません。兄は一度、思い込んだら周囲の言葉を聞き入れなくなってしまう(あく)()……、頑固な面がありまして……」


 次期当主候補なのですよね?


 しかも、アーキスフィーロさまは、今、さり気なく、「悪癖」と漏らしかけましたね?


「シオリ嬢の魔力が強いことを認められないようです」


 それは、さっき聞いた。

 だから、俺がそれを証明してやる!! ……とも言われた。


 その結果、何故か模擬戦闘という話になったのだ。

 しかも、当主さまと前当主夫妻の立ち合いのもとらしい。


 アーキスフィーロさまにあれだけの書類を押し付けているというのに、実は、お暇なのですか?


「悪いが、付き合ってやってくれ」


 トルクスタン王子は困ったようにそう言った。


「シオリ嬢が叩き伏せれば、流石に納得するだろう」


 さらに簡単にそう言ってくれるが……。


「わたし、攻撃は苦手なのですけど……」


 それは、以前、護衛からも指摘されている。

 わたしは無意識に手加減する、と。


 それが、親しい人間に対してのみ発動しているかは分からない。


 ―――― わたしの魔法は実戦で使えるのか?


 考えてみれば、それを知る良い機会なのかもしれない。


「あれだけ、ミオ(ルカ)に魔法をぶつけていたのに?」


 意外そうな顔で、そう言われるが……。


「ルカはわたしよりも、強いですから」


 トルクスタン王子が言う水尾先輩(ルカ)は、魔法国家の王族だ。


 国が無くなっても、大陸神の加護は失われない。

 今も彼女は魔法耐性が強いままである。


()()からは、わたしが誰かを攻撃魔法で傷つけることは難しいかもしれないとは言われています」

「なるほど。シオリ嬢の性格的にも、その可能性はあるかもしれない。そして、今回は確実に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だな」


 トルクスタン王子も納得してくれた。


「それならば、シオリ嬢は『誘眠魔法』などの補助魔法は使えないのですか?」


 少し考えて、アーキスフィーロさまがそう言ってくれた。


「ああ、それなら大丈夫です」


 そっか。


 傷つけなくても、相手を無力化してしまう方法を、わたしは護衛たちからいっぱい教えてもらっている。


 それなら、使ったことのない魔法を試したいという好奇心もムクムクと湧き上がってくるのは何故だろう?


 いつか、また、()()()()()()()()()()()()()……か。


 一度だけ勝ったことがあるが、あれは不意打ちだった。

 しかも、不意打ちも同然だったのだ。


 胸を張って、あれを勝利とは言いにくい。

 今度はもっと正々堂々と勝ちたい!!


 でも、この場は確実な勝利を目指すために、余計な好奇心出さずに我慢した方が良いかな?


 油断して、負けたらなんにもならないからね。


「だが、言い出したヤツが()()()()()()()のはどういうことだ?」


 そうなのだ。


 ヴィバルダスさまは、わたしに勝負を申し込んだ後、地下にある「契約の間」で待っているように伝えて、そのままどこかに消えてしまった。


 この場にはトルクスタン王子とアーキスフィーロさま。

 そして、当主さまと前当主夫妻の姿しかない。


 いや、前当主夫妻はともかく、当主さまをその息子が待たせた状態というのは良いのだろうか?


 この家で一番、偉い人だよね?


「恐らくは()()()()()()()()()()でしょう」


 アーキスフィーロさまが無感情にそう口にする。


「魔封じ……、ですか?」


 魔法封印とかそんな魔法だろうか?


「ああ。魔封石(ディエカルド)でも持ってるのか?」


 おおう。

 相手はもっと分かりやすい手段で来るところだったのか。


 だけど、わたしの魔力の強さを信じられないような人が、そういった道具を使う気満々なのは、どうなのか?


 それでも、相手が道具を使うようなら、こちらも使った方が良いだろう。


 トルクスタン王子が言った「魔封石(ディエカルド)」という魔石は、確か、触れるだけでも駄目なものだったはずだ。


 体内魔気の動きを阻害する……だっけ?


 一度だけ、その原石を見たことがあるが、妙に嫌な雰囲気が漂っている魔石だったことは覚えている。


 触れないようにするならば、盾で防ぐことが分かりやすいけど、わたしは上手く扱える気がしない。


 わたしが自分で使うのに最も自信があるもの。


 それは……。


「トルクスタン王子殿下、棒をお持ちではありませんか?」

「棒?」

「振り回しやすそうな……、いや、握りやすさを重視した方が良いかも……」


 触れるだけで駄目なら、魔法で創り出したものも消されてしまう可能性がある。


 そして、わたしは物質召喚がまだできない。


 召喚魔法にしても、収納魔法にしても、空属性は本当に難しいと思う。

 移動魔法もまだ使えないしね。


 結界も無理だ。

 だから、予め、道具を借りることにした。


 相手が魔石を使うつもりなら、魔法の付加もされていない道具の使用ぐらいは認めてくれるだろう。


「薬品を掻き交ぜる棒なら何種類か持っているが……」

「それをお借りしてもよろしいですか?」


 それなら、カルセオラリア城でも見たことがある。

 護衛弟とトルクスタン王子は薬品調合をしていたのだ。


「大きさは?」

「大鍋で使うような物が理想ですね」


 以前、見たのはボートのオールのようなものだった。


「シオリ嬢の背丈では大きすぎないか?」


 そう言いながら出されたのは、確かに大きすぎるものである。


 いや、握りやすさを重視したとは言ったけれど、なんだ? ()()()()()()()

 そこの扉ぐらいの大きさはある。


 辛うじて、握る部分は確かに細い。

 だが、これを振り回す気にはなれなかった。


「もっと細身で長さはこれぐらいのものはありませんか?」


 わたしは具体的に手で長さと太さを伝える。


「ああ、それならこれか?」


 そう言って出されたのは、確かに理想的な大きさと形をしたものだった。


「この長さと太さは実に理想的です!!」


 わたしがそう言うと、何故か、トルクスタン王子は変な顔をした。


「それをお借りしてもよろしいでしょうか?」


 あとは重さと硬さを確認したい。


「構わん」


 そう言って差し出されたのは、重さと硬さもなかなか悪くないものだった。

 試しに振ってみると、少し重いけれど、振ることはできた。


「重いけれど、硬さもよさそうですね」


 これなら、なんとかなりそうだ。

 武器としてではなく、防具として。


「こんな棒……、棍棒系の武器をシオリ嬢は扱えるのか?」

「いいえ。この形状は、わたしにとって防具なのです」

「防具? だが、そんなもので、防げるのか?」

「飛び道具なら……、多分?」


 魔法なら、自分の「魔気の護り(自動防御)」が粗方、防いでくれる。


 護衛弟や、水尾先輩の魔法すら反応するのだ。

 でも、その体内魔気そのものを封じ込められては、どうにもならない。


 だけど、護衛兄が言っていた。


 「魔封石(ディエカルド)」という魔石は、高価な物だから、個人で複数所有する人間は少ない、と。


 本来は、犯罪者とか、魔力暴走に使われることが多く、国とか公的な機関が所持しているものらしい。


 万一、個人で複数所持している人間がいたとしても、一人の人間相手なら一つで事足りるから、初見で大量に使われることはないだろう、とも言っていた。


 そう言っていた護衛兄本人は、原石だけでなく加工品も複数持っている気がするのはわたしの考え過ぎだろうか?


「飛び道具を……、これで?」


 トルクスタン王子は訝し気な目を向ける。


「物理的な物なら。でも、目にも止まらぬ速さだとちょっと難しいかもしれません」


 護衛兄弟のように、高速で物を投げる人もいる。


 この世界で銃のような飛び道具は見たことはないから自信はないが、ある程度の大きさがあって、時速140キロぐらいで自分に向かって飛んでくれば、当てるだけならできる。


 魔法が使えない人間界でもそうだったのだ。


 いろいろ身体能力が上がっている今なら、もっと速度があっても、この目は捉えることができるだろう。


「待たせたな!! さあ、始めるぞ!!」


 そんな声が背後から聞こえ、扉が開け放たれる。


 さて、ある意味、初めての実戦だ。

 頑張りますか!!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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