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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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当主との対面

 ()()()()()

 これをまさか、現実で見ることになるとは思わなかった。


 それが、わたしの第一印象である。

 こんな見事な形をしているのは、写真や漫画でしか見た覚えがない。


 髪の毛と同じ濃い茶色の立派なお髭の方が、ロットベルク家の当主、エンゲルク=サフラ=ロットベルクさまらしい。


 その執務室の机には、アーキスフィーロさまの机ほどの書類はない。

 部屋の中に書棚すらなかった。


 寧ろ、これは本当に執務室なのだろうか?

 そう疑ってしまうほどだ。


 わたしが知る執務室……、政務室は、セントポーリア城のものしかないが、セントポーリア国王陛下は、執務室も私室ですら、置かれている書棚にが、みっちり本が詰まっていたから余計にそう思ってしまうのだろう。


 その壁に添うようにして並んで控える数人の男女。

 男性は燕尾服、女性はメイド服を着ている辺り、執事とか侍女とかだと思う。


 男性は普通の容姿で3人。

 女性は整った顔立ちの方ばかりで、6人もいる。


 執務室なら、逆の人数の方が良いと思うのだけど、女性でも仕事ができる方がいるから、その辺はなんとも言えないところだ。


 男性優位社会と言われているローダンセで女性の方が執務に携わっているというのは不思議な気がしたけれど、能力主義と言うことなのだろうか?


 そのロットベルク家の当主の机の横の立派な椅子に座っているお二人が多分、アリトルナ=リーゼ=ロットベルクさまとフェルガル=デスライン=ロットベルクさまの先代当主夫妻だと思う。


 アルトリナさまと思われる茶色の髪の女性は、明らかに、アーキスフィーロさまとトルクスタン王子を除いて、この場でも体内魔気が強く感じる。


 しかも空属性の気配だ。

 だから、ほぼ間違いないだろうけど、そのお顔は、兄であるカルセオラリア国王陛下にはあまり似ていない。


 そして、思ったよりも若く見えた。

 わたしよりも年上のお孫さんがいるとは思えないほどに。


 フェルガルさまと思われる金髪、オールバックな男性は……、武人! ……って感じの迫力があった。


 見た目から、ガッシリ系。

 これまで、ここまでしっかり武人な体型の人を見たことがないので実に新鮮だ。


 シミュレーションRPGで傭兵から勇者へと上級職に進化(クラスチェンジ)しそうな感じである。

 いや、フェルガルさまと思われる男性の頬に、傷はないけどね。


 そして、エンゲルクさまの机の前に若い男性が立っていた。


 立派な服装と妙に自信ありげなその表情から、ヴィバルダス=ミール=ロットベルクさまではないだろうか?


 ご挨拶をするのは、当主さまと前当主夫妻ぐらいだろうと思っていたのだけど、何故、この場にいるのだろうか?


 そして、何も知らなければ、この場で一番、身分が高そうなお顔をして立っていらっしゃるのも不思議だった。


 実際、この場で一番身分が高いのは、他国の王族であるトルクスタン王子だろう。

 次いで、ロットベルク家の当主さま……かな?


 アルトリナさまは、カルセオラリア国王の妹ではあるが、既にこの国に嫁いだ身だ。

 そして、現当主ではなく、隠居した前当主の夫人である。


 この若い男性が、アーキスフィーロさまの兄君だとしたら、魔力も容姿も……、服の趣味さえも、弟君には似ていない。


 見た目は、全体的にちょっと派手だ。


 髪は金色だけど、根本が黒いから、地毛は黒いのだろう。

 何故、わざわざ金に染めるのか分からない。


 いや、これをファッションと言われてしまえば、何も言えないのだけど。


 服装は装飾過多。

 金細工にいろいろな石が付いているが、色の統一性がなく、意匠の方向性も分からない。


 綺麗な顔立ちで、鍛えられている身体をお持ちのアーキスフィーロさまに対して、その若い男性は、少し()()()()()()()でいらっしゃる。


 いや、エンゲルクさまも少しばかり豊かな体型だから、これは遺伝的なものもあるかもしれない。


 思い込みは良くない。


 でも、服装だけでは、顎の下って誤魔化せないんだね。

 エンゲルクさまよりも、若い男性の方が、顎と首の境目が分かりにくい。


 そして、魔力の気配すら違うのは意外だった。


 いや、基本的な部分は似てはいるから、血族なのは間違いないのだけど、強さとか、属性とかそういったものがちょっとズレている感じ?


 感覚的なものだから、上手く表現できない。


 しかし、この場にいる方々は、わたしが今まで出会ったタイプと印象が違うために、実に絵を描く資料の参考になる気がした。


「久しぶりだな、トルクスタン王子殿下」


 最初に口を開いたのは、その若い男性だった。


 こういった時って、身分が一番高い人、もしくは、客人を案内してきたアーキスフィーロさま、百歩譲って、当主が最初に口を開くんじゃなかったっけ?


 少なくとも、ローダンセの作法的には、一番、身分の高い人が口を開くまでは、それ以外の人間は言葉を発することができないと習った。


 客人を案内した人が、当主に向かって「客人を連れてきた」と礼をすることもある。


 そこから、身分の高い人のお言葉……だったと思うけど、違った?

 わたしの記憶違い?


「ソレが例の女か?」


 さらに言葉を続けられても、どうすれば良い?

 教えて、指導者さん(雄也さん)


 だが、この場にはその雄也さんがいなかった。

 そして、トルクスタン王子もアーキスフィーロさまも何も言わない。


 どうやら、この若い人の独り舞台を観劇するしかないらしい。


「ふん、()()()()()()()な」


 ぬ?

 今、わたしは褒められた?


 でも、ここまで嬉しくない褒め言葉も珍しい。


「見た目だけなら、アーキスフィーロには勿体ないな。庶民でなければ、俺が貰ってやっても良いが、ああ、少し味見ぐらいはしてやっても良いか」


 だけど、その若い男性は次々と言葉を紡いでいく。


 この場合の味見って、えっと、その表情から卑猥な方向の意味かな?


 いやいや、弟の婚約者候補に向かって何を言ってらっしゃるの?

 そろそろ、誰か、止めてください。


 そう思うのに、当主さまも、それ以外の方々も止める様子はなかった。


 これって、何か、試されている?

 それとも、躾けの一環ってやつ?

 いや、ただのセクハラ行為?


 初対面だというのに、こんな態度の方は今までにお会いしたことがないので、ちょっと判断に困る。


 ただ、侍女さんたちの中に、ニヤニヤとした表情を隠さない方がいることは分かった。


 表情を外に出している辺り、貴族っぽくはない。

 侍女って貴族のイメージがあったけど、家格の問題なのだろうか?


 でも、王族を娶れるほどの家柄なんだよね?


「流石はトルクスタン王子殿下の()()だな」


 しょうふ……、「ゆめ」のことか。

 だが、今の言葉は聞き捨てならない。


「トルクスタン王子殿下。先に発言することをお許しくださいませんか?」


 わたしは小さな声で確認する。


「あれぐらいのこと。放っておいても、良いのだぞ?」


 トルクスタン王子は苦笑して答えてくれる。


 ああ、やっぱり聞き逃すつもりなんだね。

 だけど、さっきのは駄目だと思うのです。


 わたしのことはともかく、トルクスタン王子を下に見て良い理由など、この家の人間ならば、ありえない!!


「カルセオラリア第二王子トルクスタン殿下より許可をいただき、僭越ながら、ロットベルク家当主閣下にご挨拶申し上げることをお許しください」


 そう口にしながら、わたしは机の前に進み出た。

 若い男性が目を見開いたのが分かったが、無視する。


「……許そう」


 カイゼル髭の御仁は、若い男性に一瞬だけ目をやったが、そのままわたしを見た。


「トルクスタン王子殿下よりご紹介に預かりまして、ロットベルク家第二令息アーキスフィーロさまの婚約者候補として貴家に参りました、シオリと申します」


 早口にならないように、でも間延びしないように気遣いながら、一音、一音をしっかりと口にする。


「市井の出であるため、不調法な身ではありますが、誠心誠意()()()()()()()()()()()お仕えさせていただきますので、よろしくお取り計らいください」


 そして、ローダンセの礼を取ると、周囲の気配が変わった。


 多分、息を呑んだのだと思う。

 だが、顔は上げない。


 頑張れ、鍛えられしわたしの体幹!


「この女……」


 何かが動く気配。

 まさか、こんなところで何かする気だろうか?


 わたしの体内魔気が動く気配がしたので、意識的に押さ込む。


 身を護るためとはいえ、当主の前でその息子に向かってぶっ放したら、いろいろアウトだろう。


 仮令(たとえ)、その息子が悪くても。


 だが、その息子はどこまでもなんとかだったらしい。

 礼を取った姿勢のままでいたわたしに向かって、手を振り上げるような気配があった。


 だから、わたしは、この姿勢を保つことは諦め、目を閉じて、「魔気の護り(自動防御)」が出ないようにする方向へ全力で移行(シフト)するのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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