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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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変わった要望

 目の前にいるかつて、同じ学び舎で学んだ間柄の青年は言った。


「私は、貴女を妻として愛することはできませんが、それを承知していただけますか?」


 そんな変わった要望を。


「アーキス!!」

「アーキスフィーロ様!?」


 その言葉に反応して、トルクスタン王子と、先ほど部屋に入れてくれた少年が叫んだ。


 ふぬ?

 そんなに()()()()()()()かな?


 先に本心を言ってくれただけだとわたしは考えたけど、周囲は違ったらしい。


 トルクスタン王子だけでなく、水尾先輩の表情は険しいものに変わっているし、真央先輩も笑みを深めている。


 雄也さんもいつものような穏やかな笑みを浮かべているが、その瞳は笑っていない。


 変わらなく見えるのは九十九だけだった。


 尤も、九十九は表情こそ変わっていないけれど、わたしを気遣うような気配を漂わせている。


「お前、なんてことを言うんだ!?」

「本当のことです。後で伝わるよりは良いでしょう?」


 うん。

 わたしもそう思う。


 話が進んで、婚儀を行った後になって、「自分は貴女を愛せないけどよろしいか?」とか言われても、それではもう遅いだろう。


「ふざけるな!!」


 アーキスフィーロさまに詰め寄るトルクスタン王子。


 でも、アーキスフィーロさまはふざけていないと思うのだ。

 これは、この方なりの誠意の表し方なのだろう。


 中学時代から、言葉が少なかった同級生。

 その顔と物言いから誤解されることも少なくなかった覚えがある。


「ふざけてはいません。それを承知してもらえる相手以外と婚儀をするつもりはないと言っているだけです」


 まあ、最初に自分の要望を伝えることは大事だね。

 後から、実はこうして欲しかった……、と言われるよりはずっと良いと思う。


 ただ、問題は、先ほどの台詞の真意だ。

 いろいろな意味に受け取れる。


 でも、この様子だと、回答の文字数も少なそうだね。

 そうなると、回りくどい言葉を並べるよりは、ストレートな方が良さそうだ。


 なんとなく、九十九から怒られそうな気はするけど、この場で怒られなければそれで良い。


「トルクスタン王子殿下、わたしも発言してよろしいでしょうか?」


 黒髪の青年に詰め寄っているトルクスタン王子に伺いを立てる。


「ああ、存分に胸倉を掴んで抗議しても良い」

「そんなことはしませんよ」


 冗談にも程がある。

 わたしはトルクスタン王子の幼馴染たちほど手が出る女ではありませんよ?


「もう少し近付いてもよろしいでしょうか? アーキスフィーロさま」


 このままでは話しにくいし、伝えにくい。


「いえ、そのままの距離でお願いします」


 ありゃ、断られちゃった。

 それなら仕方がないか。


「では、このまま、先ほどのお言葉について、お聞きしたいのですが……、それは精神的な意味の話でしょうか? それとも、肉体的な意味の方ですか?」


 わたしがそう言うと、別方向から、ぶはっ!! と、吹き出す音が聞こえた。


 見ると、真央先輩が口を押さえて肩を震わせている。


 水尾先輩もその横で、口は押さえていないのだけど、その綺麗な顔を真っ赤にしているのだから、我慢しているのだろう。


 そんなに変なことを言ったかな?

 でも、雄也さんと九十九は変化していな……、いや、九十九はちょっと顔が引きつっている。


 これはあれだ。

 やはり、わたしの言葉がストレート過ぎたことに抗議をしたがっている顔だ。


 でも、他に誤解なくどうやって伝えれば良かったの?


 今、彼らの補助が頼めないのだ。

 自力で何とかする以外、ないよね?


「し、シオリ嬢!?」


 トルクスタン王子も慌てている。


「大事なことですよ? わたしと子供を作る気あるかどうかという話に繋がりますから」


 相手が「愛せない」と言うのなら、最初に考えるべきはそれだろう。


「子供ができなければ、周囲から責められるのは女性の方だと聞きます。子供を作る気がないなら、予め、その心づもりをしておかなければならないでしょう?」


 この国に限らず、子供ができなければ女性が責められるという話を聞いたのは、確かカルセオラリアだったと思う。


 実際、不妊の原因は男女のどちらも半々の確率だと聞いているが、不妊の検査を受けるのが女性の方が圧倒的に多いことを考えれば、その確率が本当かどうかも怪しい。


 誰だって、自分のせいだって思いたくはないから。


 でも、始めからできない、作る気がないのなら、責められるのを覚悟しておけば、後はどうとでもなる。


「シオリ嬢。貴女は……」


 でも、トルクスタン王子の顔は蒼褪め、その声も震えている。

 そんなに変なことを言った?


 えっと、こういう結婚って、なんだっけ?


 精神的に愛せないというのなら、子供だけ作るってことになるかな?

 まあ、政略結婚っぽいよね。


 それは()()()()()()()()()()()()だ。


 肉体的にも愛せないというのなら、偽装結婚とか仮面夫婦って言われているものになるのかな?


 でも、そっちの方なら、ある意味、気が楽だね。


 子供ができないことを周囲からいろいろ言われそうだけど、そんな言葉は耳栓しておけば良いのだ。


「貴女の思っている通り、私は、精神的にも肉体的にも愛するつもりはありません」


 ほほう?

 偽装結婚をお望みということですね?


 いっそ、清々しい。

 そして、会ったばかりなのに、変に過剰な愛を囁く神官たちよりは信用できる。


「なるほど、承知しました。ご回答ありがとうございます」


 わたしは頭を下げた。

 誤魔化すこともなく、真摯な回答である。


「その言葉を呑み込めば、アーキスフィーロさまは今回の話を進める方向と言うことでよろしいでしょうか?」


 一応、確認しておこう。


 先ほどまでの話は、実は、わたしとのお見合いが嫌で、遠回しにお断りされていた可能性もある。


 わたしが確認すると、アーキスフィーロさまが一瞬、驚いた顔をした。


 ぬ?

 やはり、お断りされていた?


 だが、違ったらしい。


「いや、この話を続ける前に、先に、貴女の身体を試させて欲しいです」


 少し、戸惑いながらもそう告げられた。


 ぬ?

 わたしの身体を試す?


 どういうことかな?


「ちょっと待て!! アーキスフィーロ!! それは()()()()()()()()()()だ!!」


 何故か、トルクスタン王子が焦っている。


「何故でしょうか? 私にとっては、大事なことです」


 アーキスフィーロさまが不思議そうに問い返す。


「私のモノに耐えられなければ、話にならないでしょう?」

「お前、そんな品のないことを言う男だったか!?」

「品の無い?」


 トルクスタン王子の言葉に首を傾げるアーキスフィーロさま。


 さて、考えてみよう。

 アーキスフィーロさまはわたしの身体を試したいと言った。


 はたして、その真意は?


 アーキスフィーロさまのモノ?

 この場合はなんだろう?


 トルクスタン王子は焦っているっぽいけれど、多分、それは違うようだ。


「出会ったばかりで、即、()()()()()()とか、いくら、ローダンセがある程度、その方面に寛容だとしても、それは俺が許さん!!」


 トルクスタン王子が叫んだ。


 はい!?

 何の話?


 ああ、身体を試すってそんな意味があるの!?


 わたしは体力とか、魔力とか、魔法とか、いろいろ限界チャレンジ系で考えていたよ!?


「トルクスタン王子殿下は一体、何をおっしゃっているのですか?」


 ひんやりとした声。

 ああ、この青年はこんな声も出せたのか。


 初めて聞いたわ~。


「身体を試したいってことは、身体の相性とかそういう意味だろう? 確かに閨事の相性は重要ではあるが、それはもう少し待って欲しいと言っている」


 トルクスタン王子はまたも同じことを繰り返す。


「相性という意味では否定しませんが、そのような意味で口にしたつもりはございません。大体、肉体的に愛せないと言っている人間がそんな申し出をすると思われたのは何故でしょうか?」


 おおっ!?

 長台詞!!


「いや、普通はそう受け取るぞ?」


 そうなのかな?

 なんとなく、背後を見た。


 水尾先輩と雄也さん以外の人たちに目を逸らされた。

 ……従僕の少年にまで。


「高田さんは如何(いかが)思いましたか?」

「浅学で申し訳ありませんが、体力とか、魔力とか、魔法の種類とかそんな話かと考えました。その……、トルクスタン王子が言うような方向性の話でしたら、ご辞退願いたいのですが……」


 好きかどうかはともかく、婚約するかどうかも分からないような相手に、お試しでえっちをさせてくれと言われても、それは流石に受け入れられない。


「高田さんの言う方向性で間違っていません」


 わたしの言葉にアーキスフィーロさまが微かに笑ってくれた気がした。


「私が配偶者となる女性に最も求めるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを貴女は持ち合わせていますか?」


 そして、さらにそんな言葉を続けたのだった。

主人公の誕生日になんとか、主人公視点に戻せました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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