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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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2167/2803

対面

 トルクスタン王子が扉を叩くと、中から、ひょこりと男の子が出てきた。


 そう、男性ではなく男の子だ。

 しかも、わたしと変わらないぐらいの背丈である。


 この世界は年齢不詳が多いけれど、多分、12、3歳ぐらいかな?


「先に声を掛ける無礼をお許しください。貴方さまは、と、トルクスタン王子殿下にお間違いないでしょうか?」

「ああ、間違いない」

「きっ、機械国家カルセオラリアの王子殿下に、こ、ここまで足を運ばせてしまって申し訳ありません」


 声を震わせながらも、そう言うと、ペコリと頭を下げた。


「中に入っても良いか?」

「はい! 勿論です!!」


 元気の良い応答。

 ちょっと元気が良すぎる気もするけど、これは緊張しているせいだろう。


 男の子に案内されて部屋に入る。


 契約の間は、一つの大広間であることが多いが、学校の体育館並みの広さとなれば、王城ぐらいだ。


 一般家庭、貴族のお屋敷は本当に魔法の契約をして、試しに魔法を使う程度の場所となるので、そこまでの広さはない。


 それでも、バスケットコートぐらいの広さはあるのだけど。


 そして、この「封印の間」とやらは、意外にも部屋は一つではなく、王城にある部屋のようにいくつかに分かれているようだ。


 なんとなくセントポーリア城を思い出すような作りである。


 そうなると、部屋主はこの奥の部屋かな?


「主人は、奥にいます。その、出迎えもせず、申し訳ありません」


 ぬ?

 この少年が、出迎えてくれているよね?


「いや、こちらが押しかけているようなものだ。ここにいないのなら、アーキスフィーロは寝室か? 書斎か?」

「書斎の方に」


 さっき、奥って言ったから、地下に書斎があるらしい。

 そうなると、主人が持つ書斎以外にもあるってことかな?


 この世界では本は滅茶苦茶貴重品というわけではないが、個人で大量に持つとなれば話は変わってくる。


 この世界の貴族の……、それも息子なのに、結構な環境だと思う。

 セントポーリアのダルエスラーム王子殿下並ではなかろうか?


 地下だけど。


 二男にこれだけのことをしているのなら、長男……お兄さんにも同じぐらいのことをしているだろう。


「シオリ嬢、行こうか」


 そう言って、また手を差し出すトルクスタン王子。


「はい」


 言われるまま、手を載せる。

 確か、信用している証だったっけ?


 正直、通路ならともかく、部屋の中でまで付き添い行為(エスコート)など要らないと思うのだけど、体面って大事なんだろうね。


 少年に先導されて、わたしたちは隣の部屋の扉の前に来る。


 ぬ?

 自室のはずなのに、ノッカーがある?


 それだけ、この部屋の主は、この奥の部屋に引き籠っているということだろうか?


「アーキスフィーロ様。お客様がお見えになりました。こちらを開けてもよろしいでしょうか?」


 む?

 今、何か変じゃなかった?

 開けたら駄目な時もあるの?

 お客さんが来ているのに?


 わたしが首を捻っていると……。


「アーキスの()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ」


 なるほど。

 お客さんに会う前に伺いを立てなければいけない程、体内魔気が常に不安定なのか。


 チラリと水尾先輩を見る。


 わたしも魔力の封印を解放された直後は、不安定だったことを思い出す。

 それを助けてくれたのが、水尾先輩だった。


 自分で制御できない体内魔気というのは、勝手に体内から出ようとする魔力の塊でしかない。


 あれは怖かった。


 しかも、わたしの場合、初めて解放された直後は、すぐ傍にいた九十九だけでなく、雄也さんや、魔法国家の王女である水尾先輩すらふっ飛ばしてしまったのだ。


 あの感覚を味わったなら、簡単にその恐怖は拭えない。

 それで、親しい人たちを攻撃してしまったなら尚更だ。


 わたしには幸い、魔法国家の王女殿下がすぐ傍にいた。


 魔法に関してのプロ。

 しかも、そう簡単には吹っ飛ばせないような相手。

 遠慮なく吹っ飛ばせるならふっ飛ばしてみろと挑発的に言ってくれるような人。


 いや、寧ろ、体内魔気を制御できなければ、自分を焼き尽くしてしまうような紅い炎を持つ相手。


 わたしはこんな所でも恵まれていたことを実感する。


 そして、その怖さを知る人間はこの世界でもそう多くないだろう。

 本来、魔力は少しずつ肉体と共に成長するものだから。


 その怖さを知った後、閉じこもってしまいたくなる気持ちはよく分かる。


 わたしも逃げたかった。

 それを強引に引きずり出したのは、今、背後にいるわたしの護衛だった。


 嫌がるわたしを無理矢理、結界の外に連れ出してくれたのだ。

 その結果、ふっ飛ばすことになったのは本当に申し訳ない。


 この部屋の主がわたしと同じ症状かは分からないけれど、少なくとも、この場には魔法国家の王女が二人と多彩な方面の雑学を持つ知恵者たちがいる。


 だから、暴走の理由みたいなものは何か分かるかもしれない。


 前の扉が開かれる。

 まず、最初に目に入ったには、そこにいた……、いや、そこにあった書類の山。


 あれ?

 この状態、セントポーリア城で見たことがあるよ?


 いや、なんで、この家の御子息と思われる方が、大量の書類に埋もれた机にいるんですかね?


 そんな疑問が湧いた瞬間だったと思う。


 ――――っ!?


 自分に向かう白いナニかが見えた気がした。

 わたしには、それがナニかは分からなかった。


 そして、わたしの「魔気の護り(自動防御)」は発動もしていない。


「おっと」


 そう言いながら、わたしの前に立って、トルクスタン王子が結界魔法を展開してくれたからだ。


 いや、透明な何かを広げたように見えたから、今のは防護魔法かな?

 だから、わたしに見えたのはその背中だけ。


 自分の視界に入ったいつもと違う後ろ姿に少しだけ不思議な感覚がある。


 さて、通常、「魔気の護り(自動防御)」というのは、基本的にその名の通り、勝手に発動するものである。


 当事者の恐怖心とかに反応することもあるが、完全に無意識で出た時は、自分に害意を向けられた時、もしくは、当たると怪我する可能性が高い時らしい。


 それでも、それを超えるほどの魔法や物理攻撃を加えられたら、やっぱり怪我をするわけだけどね。


 自分ではその辺りの判定もよく分かっていないのだけど、九十九が言うには、わたしの「魔気の護り(自動防御)」は、かなり優秀なものらしい。


「相変わらずだな、アーキス」


 わたしに背を向けているため、トルクスタン王子がどんな表情でその台詞を口にしたのかは分からない。


 それでも、そこにあるのは労りの感情だと思う。


「申し訳ありません、トルクスタン王子殿下」


 トルクスタン王子の背中越しに聞こえたその声に、少しだけ耳と、頭、そして、胸が反応した。


 記憶にある声よりも幾分、低い音。


 人間界で出会った同級生男子は、一部を除いて中学時代の記憶で止まっている。

 だけど、男性はかなりの確率でその前後に変声期を迎えるのだ。


「お前の婚約者候補を連れてきたぞ」

「本気……、だったのですね」


 トルクスタン王子はわたしよりも背が高い。

 そんな人が、わたしの前に立っているために、まだ相手の顔が見えないでいた。


 多分、向こうからもそうだろう。

 本当にいるのか? ……と、思われていないだろうか?


 でも、あまり積極的に顔を出すのも何か違うよね?


「アルトリナ叔母上からの要請だったからな。俺の方としても、誰も連れてこないまま、簡単に断ることもできん」

「我が祖母がご無理を言ったようで、他国の貴方にまで迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」


 うん。

 この時点で既に、()()()()()()()()()()()()()気がする。


 それだけ、あの頃の彼は無口だったのだ。


 必要以上に口を開かなかった黒髪の男子生徒を思い出す。

 会話はほとんどない。


 だけど、真っすぐに人を見つめる不思議な人だった。


「後ろにいる背の高い女性ですか?」

「あ? いや、それは()()()。聞いていないのか? お前に会わせるのは……、あ? シオリ嬢? どこに行った?」

「シオリ嬢?」


 どうやら、あちらはわたしの名前と特徴を聞いていなかったらしい。

 不思議そうな声があった。


「真後ろです、トルクスタン王子殿下」


 さっき庇ってもらったからね。


 そして、真後ろ過ぎて、わたしの存在が見えなかったらしいが、どうやらお相手のお顔を拝見してもよろしいらしい。


 わたしは、トルクスタン王子の横に移動する。


 目の前には書類の山と一体化……、違う、書類の山から頭を出している状態のトルクスタン王子によく似た面立ちの黒髪、黒い瞳の青年。


 記憶にある時よりも幾分、背は伸びている気がするけれど、その顔そのものはそこまで大きな変化はない。


 強いて言えば、ちょっと大人びた……、かな?

 なるほど、あの姿は素だったらしい。


 この国は黒髪、黒い瞳の人が多いと聞いているから、その可能性は高いと思っていた。


 雄也さんが断言したのも、体内魔気の気配だけでなく、その容姿もあったのだろう。


 そして、その青年が分かりやすく目を見張る。


 うん。

 わたしの方はほとんど変わっていない。


 人間界にいた時、ショートボブだった髪の毛は、肩よりも長くなっているけれど、この人は、わたしのもっと長い時代すら知っているのだ。


「貴女は……」


 その青年が口を開くよりも先に……。


「先にお声掛けする非礼をお許しください、アーキスフィーロ=アプスタ=ロットベルクさま」


 そう言いながら、わたしは右手首に左手を添えて膝を折りながら頭を下げたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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