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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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城門を抜けると

 雄也さんは言っていた。

 ローダンセの城下の町並みは、絶対に驚くだろう、と。


 まさにその通りだった。

 だが、今、わたしの頭に浮かんでいる言葉は、「驚愕」よりも、「疑問」だった。


 いや、本当に、何がどうしてこうなった!?


「どういうことだ?」


 水尾先輩も茫然としている。

 彼女も知らなかったらしい。


 真央先輩は何も言わなかったが、やはり驚いているのだろう。


 さて、少し時は遡る。


 トルクスタン王子の魔法によって、わたしたちは、リプテラの街の正門から一気にローダンセの城下の正門前まで移動した。


 この世界では国境を越えることに関しては、人間界のように入国審査等を必要としていない。


 だが、大きな町、特に城下町に入るとなれば、当然ながら、必ず審査が必要となる。


 因みに、城内にある転移門や、聖堂にある聖運門に関しては、それを使える人間が限られているし、何より、事前に予告があるためそこまで審査を必要としないらしい。


「『転移門』を使われなかったのですね」


 だから、カルセオラリアの王族が、城下町の正門にてその審査を受けているのを、門番が驚くのは無理もないだろう。


 王族は普通、「転移門」を使う。


 ましてや、城が崩壊したとはいえ、カルセオラリアは機械国家なのだ。

 「転移門」が不調になるのはどの国よりもありえない。


 そして、一年前、城は崩壊しても、「転移門」自体は数日とかからずに修繕は完了していた。


 確かに外側に大きな損壊はあったようだが、そこは機械国家。

 さらに言えば、技術者の集まりである。


 無意味に無駄な機能を付けようとするのを止める方が大変だったと聞いている。


「お連れ様と従者の数も確認できました。通ってよろしいです」


 いつものように軽い聞き取りの後、門番からそう促されて、ローダンセの城下にわたしたちは足を踏み入れることになった。


 いつも思うけれど、街に入るための審査というのは本当に簡単である。

 尤も、その質問の最中に、しっかり魔気の確認はされているらしい。


 強弱や種類ではなく、害意の有無の判断ができる機械があるらしい。

 トルクスタン王子がそう教えてくれた。


 その街に害意を持って入ろうとすると、そこでその機械が反応するそうだ。


 その機械を使っていることを相手に気付かせないためと、使用する時間稼ぎのために門番たちが審査という形をとって質問しているということは分かったのだけど、それって、言っちゃって良いのかな?


 いや、悪用する気なんてないけれど。


 ただ、入る時点で害意はなくても、町にいる間に害意を持つことはある。

 それだと、町に入門審査にはかからないから注意がいるとも言っていた。


 他にはもともとその町に住んでいる人。

 罪を犯すのは圧倒的にこちららしい。


 外から入ってくる人間が少ないこともあるけれど、やはり、そういった審査もなくその場所にいるというのは大きい。


 住んでいるうちにナニかの血に狂ったり、ナニかの波動に目覚めたりすると、これらは意味がなくなるのだ。


 そう考えると、常時、城下全域に結界が張られているストレリチアは治安が良いと言えるだろう。


 尤も、自分の行いを善と思い込んでいる悪意がない人間の犯罪が起こることはあるために、なんとも言えない気分にもなるけどね。


「お二人は、ローダンセの門から城下に行ったことは?」


 雄也さんが何故か、水尾先輩と真央先輩にそう確認する。


「私は城までですね」

「城下なんて、普通は行かないだろ?」


 それに対して、真央先輩も水尾先輩も即答した。


 彼女たちは王族だ。

 それならば、国を訪問する時は、当然、城内にある転移門を使うことになるだろう。


 そして、他国に来てまで城下に下りることなどしない。


 どんなに好奇心があっても、その行為がどれだけ自国に迷惑がかかることになるのかを知っているから。


 許可を取らずに城下への脱走が許されていたのは、それが自国だったからだろう。


 どこかの大樹国家の第二王子殿下のように、海を越えた他国に船で渡った上で、城下にまで出るようなことはしないのが普通だ。


 尤も、あれはあれで、その国が自分にとって大丈夫な場所だと判断しているからでもあるのだろうけどね。


「そうか。それなら、栞ちゃんだけでなく、二人ともその町並みに驚くことになると思うよ」

「あ?」

「はあ」


 雄也さんの意味深な笑みに対して、水尾先輩と真央先輩は吐き出された言葉こそ違うものの、全く同じ表情をしていた。


 そして、さり気なく、わたしも驚くと言われた気がする。


 はて?

 これまでに数カ国の城下を見ているが、そんなに驚くものが存在するのだろうか?


 わたしがこれまで一番、驚いたのは、大樹国家ジギタリスである。

 まさか、樹の中に城や町があるなんて誰も思わないだろう。


「オレもローダンセの城下は見たことがねえんだが?」

「お前はそこまで驚かん」


 九十九の問いかけに雄也さんは即答する。


 ただ、少し、護衛兄弟がピリピリとした空気を纏っているような気がした。

 それも、無理はない話なのか。


 ここは、ローダンセの城下。

 久しぶりの大きな町である。


 リプテラも大きな町ではあったが、観光地のような場所だったので、外から来た人間に友好的であった。


 しかも、外から来た人間の方が圧倒的に多い。


 だが、この場所は違う。

 どちらかというと排他的らしい。


「およ?」


 正門を潜り抜けると、一面は畑だった。

 薄く細長い黄緑色した葉がにょきっと地面が生えて、わさわさしている。


 それが見渡す限りに広がっていたのだ。


「なかなかに壮観」


 これまでの国は、門をくぐるとすぐに町って感じがしたが、この国は違うらしい。


 あぜ道とは違う整備された石畳が、まっすぐ長く延びていて、そのはるか先に町っぽいものが見えた。


「ああ、これはイシューという植物だ。このローダンセ城下を囲むように植えている」


 わたしの横に並んだトルクスタン王子が答えてくれる。


 イシュー?

 その単語に聞き覚えがあった。

 確か、九十九が好んで使う米みたいな植物だ。


「ああ、おにぎりの材料か」


 背後で水尾先輩も同じことを考えたらしい。


「水を多く必要とし、涼しい気候で育つ植物であるため、この国では育ちやすいらしい」


 言われてみれば、ウォルダンテ大陸は少し涼しい。

 寒くはないけれど、これまでの国が温かかったから、ちょっと不思議な感じがする。


 水は間違いなく多いだろう。

 この国の大気魔気は水属性だ。


 どこかひんやりした空気はそのせいもあるのかな?


「だが、これぐらいで驚くか?」


 水尾先輩が言った。


 確かにこの景色は凄いと思うけれど、そこまで驚くかと言われたら、「う~ん」となってしまう。


「驚くのはこの先だね。俺は『町並み』と言ったはずだよ?」


 雄也さんは微笑みながらそう言った。


「言ったか?」

「言ってたよ。だから、私はまだ何も言ってないでしょう?」


 背後で水尾先輩と真央先輩の会話が聞こえる。


「この大陸は魔獣が多いからね。門から人の居住区域まで離しているんだよ」

「でも、畑が食われるだろ?」

「人間が食われるよりもマシじゃないかな?」


 その言葉にゾッとしたものを覚える。

 それは魔獣の中に人を食すものがいるってことだ。


「いや、畑に気を取られる時点で、そいつらは肉食じゃねえだろ?」


 水尾先輩は特に気にした様子もなく、会話を続ける。

 この辺りの感覚は、わたしとは全く違うものだ。


「この大陸の魔獣は、肉食、草食、雑食だけでなく、()()もいるんだよ」

「「「魔食?」」」


 わたしだけでなく、水尾先輩と真央先輩の声も重なった。


「別名、魔力食い。だから、この魔力を多分に含んだこの『イシュー』が城下を護るように植えられているんだ。本来は魔法力回復の薬草としてその葉が使われるけど、まさか、()()()()()()()()()()()()()()がいるとは思わなかっただろうね」


 その言葉で、料理青年に注目が集まる。


「なんだよ?」


 それまで黙っていた九十九は不機嫌そうに答える。


「俺は人間界でも植栽可能かを検証しようとして持って帰ったはずなのに、まさか、精米して食わされることになるとは本当に予想外だった」


 どうやら、何かの思い出とセットの植物だったらしい。


 精米ってことは、その種子は米……、いや、(もみ)に似ているのだろう。

 実際、九十九は「イシュー」を米のように使っていた。


 現時点では、短いネギ、いや、水仙の葉っぽいけど、土から生えた稲にも見えなくもない。


 その九十九を見ると、なんとなく、その「イシュー」を気にしているようだった。

 そして、先ほどから口数が少ない。


 でも、その表情は、先ほどの雄也さんの話を思い出しているような感じでもなかった。


「どうしたの?」

「いや、この()()()()()()()()()()ことがあって……」

「ぬ?」


 その様子が気にかかって声を掛けてしまったのだけど、どこか心ここに在らずというようなぼんやりした返答だった。


 暫く、その「イシュー」を見ていた九十九は……。


「そうか。()()()()()()()()()な」


 まるで、わたしがここにいることを忘れているかのように、そう呟いたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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