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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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まさかの伏線

 珍しく、わたしと九十九、雄也さんでお茶をしている時である。


 今回、お茶菓子はない。


 皆で集まっていた時に話をしながらも御菓子を食べ過ぎていた感があるから、九十九に出さないようにお願いしたのだ。


 アリッサムの王女殿下たちの胃袋に付き合って食べてしまうと、自分の限界を忘れそうになる。


 それなのに、あの二人の細さはどうなっているのだろうか?


「確認したことはなかったけれど、栞ちゃんはダンスを踊ったことはある?」

「ダンスですか?」


 そんな雄也さんの問いかけで、頭の中に最初に浮かんだのは、小学校の運動会で踊ったフォークダンスだった。


 次いで、中学校の体育の授業でやった創作ダンスである。


 だが、それらは、恐らく雄也さんの意図するものとは違う答えであることぐらいは分かる。


「踊りについては、ストレリチアで習った『神舞』ぐらいです」


 だが、あれは創作ダンスに近い。

 だから、多分、これも違うだろう。


「小学校の時に踊った『オクラホマミキサー』とかは、社交ダンスに入る?」


 念のため、九十九に確認する。


 彼は小学校の同級生だ。

 だから、これでも通じるだろう。


「『オクラホマミ()サー』は、フォークダンスの踊り方のことだな。お前が行っているあの音楽の正式なタイトルは、『Turkey in the Straw』という」

「た~き~いんざすとろ~?」


 そんなタイトルだったっけ?

 わたしは「オクラホマミキサー」で覚えていた。


 そして、さり気なく九十九は「オクラホマミクサー」と言い替えたね。


「日本語訳なら、『藁の中の七面鳥』だ。他にも『コロブチカ』とか、『ジェンカ』、『マイム・マイム』は小学校で踊った覚えがあるな」

「コロブチカは、あれだよね? 落ち物ゲームにも使われていた曲」

「その覚え方はどうなんだ? 普通はロシア民謡を思い出すよな?」


 アレは友人から携帯ゲーム機を借りて、楽しんだからよく覚えている。


 フォークダンスも、どんどんテンポが早くなるために、ちょっと慌ててしまうけど楽しかった。


「フォークダンス以外の、社交ダンスと呼ばれる踊りの経験は?」


 やはり、社交ダンスだったか。


「ワルツやルンバ、チャチャチャという種類があるぐらいは知っているのですが、踊ったことはありません」


 そもそも社交ダンスなんて、中学生が習うものではないと思う。


 少女漫画で、小学生でもそれを習うことができるのは知ったけれど、そこまで興味もなかった。


「ワルツはともかく、ルンバやチャチャチャがあることは知っているのか。それ以外の有名なダンスならタンゴかな」

「タンゴなら……、赤鬼と青鬼の踊りをテレビで観たぐらいですね」


 もしくは黒猫?

 それらなら、公共放送で流れる歌で観た覚えがある。


「いや、それは絶対違うだろ」


 ツッコミ体質の黒髪の青年はそこに気付いてくれたらしい。


「実はね。ローダンセで、今、『社交ダンス』と呼ばれる踊りが嗜みとして流行っているらしいんだよ」

「はい?」


 今、不思議な言葉が聞こえた気がする。


「正しくは、ここ十年ほどで、王族や貴族は『ワルツ』と呼ばれる種類のダンスを踊ることが教養の一つとして見なされるようになったらしい、かな」


 なんですと!?

 ワルツって三拍子って知識しかないよ!?


「そういえば、トルクが言っていたな。舞踏会がどうとかって。でも、音楽とかどうするんだよ?」

「ローダンセは金管楽器も弦楽器も充実している」


 つまりは生演奏で踊るってことですか!?


 しかも、舞踏会って何?

 どこのお貴族さまだ!?


 いや、そういう世界だった。


「そ、そんな、わたし、ダンスなんて本当にフォークダンスの経験しかないですよ?」


 わたしが震えながらそう言うと……。


「そうなると、十日間、みっちり練習か?」

「いや、全くの初心者ならば、できれば、もう少し欲しい所だな」


 何故か、そこまで動揺していない九十九と、同じく雄也さん。


「トルクは踊れるのか?」

「知らん。だが、ヤツは他国の人間だ。踊れなくても言い逃れはできる」


 トルクスタン王子はカルセオラリアの王子さまである。

 つまり、踊れなくても、問題はないのだ。


 だけど、わたしはそういうわけにはいかない。


 ローダンセ国内の人間とお見合いするなら、当然ながら、その国に染まる必要があるわけで……。


「九十九と雄也は踊れるの?」

「「少しは踊れる」」


 なんでこの有能な護衛たちはそんな技術までマスターしているんですかね!?


 この世界は音楽が少ない。


 ストレリチアにある大聖堂で聖歌を歌ったり、神舞を踊るために「大型木管風琴」と呼ばれる楽器があったり、旅芸人が作ったり、それ以外では個人が趣味で作ったりするぐらいだと聞いていた。


 それなのに、なんで、わたしがこれから向かう先にピンポイントで存在するのか!?


「俺は単純に趣味だね。この世界にないはずの物で、人間界の身分の高い人間たちの嗜みだったらしいから、興味を持ったかな」


 雄也さんは趣味。

 いつもの好奇心らしい。


「中学の時に、そんな兄貴に巻き込まれて、ワルツの基本的なステップを叩き込まれた。だから、男女とも足運びぐらいはできる」


 そして、九十九は完全に巻き込まれたらしい。


 しかし、どうして、バレエではなく、社交ダンスなのか?

 バレエなら、少女漫画の題材として溢れていたから、用語は少しぐらい分かるのに!!


「このリプテラでも広場でダンスを踊ったり、楽器を使った音楽が増えていたから、確認したら、そんな話だったんだよ」


 ああ、そう言えば、アックォリィエさまと会った時にも人間界でやった創作ダンスのようなマスゲームを踊る人たちがいた。


 他にも、楽器の演奏をしている人たちもいたね。


「まさかの伏線」


 思わず、そう言うしかなかった。

 まるで、漫画や小説のような話である。


「いや、それらはローダンセで流行っているから、普通に流れてきたんだと思うぞ」


 ツッコミ体質の九十九は呆れたようにわたしの言葉に突っ込む。


「アックォリィエ様にお願いして、暫く、社交ダンスの先生を雇う方法もあるけど、どうする?」

「お願いします」


 雄也さんの申し出にそう答えるしかない。


 単純に流行っているというだけなら拒否はできるだろう。

 だが、貴族の嗜み、教養とされるなら、そんなわけにはいかないのだ。


「あの女に借りを作るのか?」

「いや、あの方には、主人に対する迷惑料(借り)を返してもらうだけだ」


 ぬ?

 借りを返してもらう?


 わたし、アックォリィエさまに何か貸していたっけ?


「それに、俺もお前も、社交(ボールルーム)ダンスは人間界で覚えたものだろう? だから、この世界とは違うかもしれん。郷に入っては郷に従えという。この機会に改めて学んだ方が良い」

「それはそうだな」


 おおう?

 なし崩し的に話がまとまっていく。


「でも、アックォリィエさまが承諾してくれるでしょうか?」


 ここにいないけれど、そこが問題ではないだろうか?


 雄也さんが言う「借り」がどんな種類のものかは分からないけれど、ダンスの講師を紹介してもらうなら、結構、大ごとだと思う。


「栞。お前があの女に頼めば、一発だと思うぞ」

「ほへ?」


 九十九の言葉に首を傾げる。


「そうだね。俺たちが頼むよりは確実だと思うかな」


 さらに、雄也さんが賛同した。


「先輩風を吹かせろって話?」


 確かに体育会系の繋がりはあると思う。


 わたしと水尾先輩のようなものだ。

 だけど、彼女にも、それが適用されるかどうかは分からない。


「良いから。後で、あの女の手でも握って、上目遣いで頼んでみろ。即、了承されるから」

「???」


 なんだかよく分からないけれど、九十九からそんなことを言われた。

 雄也さんも頷いていた。


 だから、言われるがまま、わたしはアックォリィエさまに「申し訳ないけど、短期間、ワルツの講師を紹介して欲しい」と頼み込んだら、即おっけ~が出た。


 それもかなり興奮気味に。


 確かに、彼女から好意を向けられていることは理解していたつもりだったけれど、ここまで反応される理由はやはり分からないままだった。

「オクラホマミキサー」については、作者も曲名だと信じていました。

実は、フォークダンスの踊り方で、しかも、「オクラホマミクサー」が用語としては正しいそうです。

「コロブチカ」は落ち物ゲームのBGMですよね?


「タンゴ」は赤鬼と青鬼が好きです。


そして、実は、1730話「この世界では必要がないのに」に、彼らのダンス事情にさらりと触れています。

これが本来の伏線です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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