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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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識別魔法の可能性

「何を識別しますか?」


 わたしが、そう確認すると……。


「時間も限られているし、先ほどの識別結果と九十九の報告から、ある程度、栞ちゃんの識別魔法の精度とその性質は理解できたつもりだよ。だから改めて俺の所持品を識別してもらうよりも、今は、報告になかった部分について確認しておきたいかな」


 意外にも雄也さんはそう言った。


 九十九のように、所持品の全てを片っ端から識別させようとするつもりはないらしい。


「栞ちゃんと二人きりの時間はそう長くないだろうからね。もうじき、()()()()()()()()だろうから」


 なるほど。

 どうやら、九十九に知られたくはないことを話すようだ。


 如何にもこの人らしい。


「それでは何の話をしますか?」

「九十九からの報告では、栞ちゃんがセントポーリア城下の森で行った識別は、ヤツが所持していた植物、食材、調理済みの食品、調合された薬品、魔石を含めた鉱物、加工後の服飾などがあったということだけど、そこに間違いはない?」

「多分。それ以外だと、わたしが大神官さまから頂いた『神装』と、『神子装束』を含めた、わたしの装飾品や衣服も識別していたと思います」


 そのほとんどは記憶に残っていない。


 でも、神装と、神子装束については、識別後に何度も書いた内容を確認したためにその結果についても忘れていなかった。


 それ以外の衣服は、うん、忘れている。


 九十九からリプテラで買ってもらった服も識別したと思うけど、その内容については覚えていない。


「その御守り(アミュレット)については?」


 わたしの左手首にある御守り(アミュレット)を差しながら確認する。


「これも、識別したとは思いますが、その内容については覚えていません」


 例によって、ふきだしの色が変わり、そこに表示された文字が漢字とカタカナが混ざったような表記に変化したことだけは覚えている。


 でも、その内容については、やはり記憶に残っていない。


 その結果については、九十九なら知っていると思うけど、その報告はなかったのだろうか?


「植物の識別については報告があったけれど、動物については識別しなかった?」

「城下の森は動物がいなかったので、やっていません」


 セントポーリア城下の森には動物の気配がない。

 あまりにも大気魔気が濃密すぎて、小動物は避ける傾向にあるとは聞いている。


 そして、人間たちが住む城下の中にあるために、ある程度強い魔獣たちも近寄らないのだろうという話だ。


 だから、わたしの識別が動物にも有効かは分からない。


 参考にしたゲームも、襲い掛かってくる魔物(モンスター)に対して「識別」することはなかった。


 それまで数々のダンジョン探索を繰り返してきた主人公たちが、もともと名前を知っている魔物(モンスター)しかいなかったことと、「識別」は()()()()()()()()()()を鑑定するための能力という設定だったためだろう。


 だから、わたしの識別能力は動物に有効かは分からない。


 そう雄也さんに説明すると……。


「それはおかしいかな」


 何故か、そう言われた。


「おかしい?」

「あの城下の森には確かに動物はいない。だけど、栞ちゃんはあの場所で、常に動物と接していたはずだよ?」


 その言葉と表情で、わたしは何故か、察してしまった。

 何故、察してしまったのかは自分でも分からない。


 だけど、この人が言う「動物」に心当たりがあったのだ。


「それは、哺乳類霊長目ヒト科ヒト属ホモ・サピエンスのことでしょうか?」

「話が早くて助かるね」


 遠回しのわたしの返答に対して、さらに笑みを深められても本当に困る。


 つまり、雄也さんは九十九を識別してはいないか? ……と確認したのだ。

 しかし、弟を「動物」扱いするのは酷いだろう。


 そして、先ほどの言葉だけで、その考え方に行き当たってしまったわたしも、どうかとも思う。


「多分、識別はしていないと思います」


 少なくとも、そんな会話をした覚えはない。

 わたしは識別の結果を忘れてしまっても、その前後の会話までは忘れていないのだ。


「わたしは人間の『識別』には自信がないので」


 元になったゲームの影響は勿論ある。


 あのゲームは道具に対して識別するものであって、動物に対して識別することはなかったから。


「なるほど。忌避感があるんだね?」


 雄也さんの言葉にわたしは頷いた。


 ゲームの影響に関わらず、わたしは人間に対してあんな魔法を使いたいとは思えなかった。


 偏りはあるけれど、その対象を細かく、分類、分析してしまうような魔法なのだ。

 鉱物はともかく、植物のように細かな解析をされて良い気はしないだろう。


「九十九の報告結果を見た限りなのだけど、恐らく、栞ちゃんが考えているようなことにはならないと思うよ?」

「ほへ?」


 だが、雄也さんはそんな不思議なことを言った。

 まるで、わたしの迷いを見抜くかのように。


「鉱物に対しては、その名称、鉱物としての分類、結晶系としての分類、色、属性、産出大陸名称が表示されている」


 そうなのか。

 いや、目の前にある先ほど書いた紙もそんな感じだ。


 結晶系の分類というのはよく分からないけれど、形……かな?


「それに対して、植物は、名称、分類、そして、特徴だけでなく、効能まで表示されている。その反面、植物図鑑にあるような自生地域や生育環境等の解説はなかった」


 確かに鉱物よりも詳しい気がしていたけれど、改めてそう説明されると、そこまで詳しいわけでもない気がしてくる。


「さらに加工後は、その説明が変わることも報告されている」


 改めて思い出せば、植物を刻んだり、水に漬けたり、煎じたり、乾燥させたりするだけで名称、効能が変化して、植物の分類が消えたと九十九が言っていた覚えがある。


 つまり、わたしの識別魔法って、結構、雑ってことだろうか?


 そして、何も手を加えていない食材は、植物判定。


 切ったりした食材は加工済み判定。

 料理や薬も同じようなだった。


 しかも、料理や薬として完成された物は、製作者の名前まで出てきたらしい。


 中でも、購入した薬や香辛料などは、全く見も知らない人の名前が出てきたために、九十九が難しい顔をしていたことを覚えている。


「そして、動物系、肉や魚介類などの食材は、加工済みのものとして判定されたらしいね」


 言われてみれば、それらは生きている状態ではないから、動物性たんぱく質ではあっても、食材として識別することに抵抗はなかった。


 加えて言うなら、形が残っている魚介類でも、保存の処理を施しているためにそれは加工済みのものとして識別されたらしい。


 確か、「なんとかの魔獣の肉を切った物」みたいな表記だったり、「なんとかという魚を凍らせた物」という文章だったりしたんじゃなかったっけ?


「それらのことから、動物を識別することは可能だろうし、人間を識別しても、先ほど栞ちゃんが口にしたように、真核生物、動物界、哺乳綱、霊長目、ヒト科ヒト属ホモ・サピエンスのような分類と、固有名称が出るぐらいではないかと推測するかな」

「なるほど……」


 そう答えつつも、「真核生物」ってなんだろう?

 そんな風に考えている自分がいる。


 そして、人間ってそんな分類なのか。

 わたしが知っているのは哺乳綱ではなく、哺乳類という言葉以降だ。


 もしかしたら、もっと細かく分けられているのかもしれないけど、わたしに分かりやすい言葉だけを選んでくれたのだろうとは思う。


 でも、そんな知識ってどこで得るんだろうか?

 人間界?


 多分、「ホモ・サピエンス」って言葉自体が、人間界の名称だよね?


 ああ、でも、例の自動翻訳によって、そんな風に日本語訳されている可能性はあるかもしれない。


「それを踏まえた上で、栞ちゃんにお願いしたい」

「ぬ?」


 わたしが思考していると、雄也さんが改まって……。


()()『識別魔法』を使うことはできるかい?」


 そんなことを願ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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