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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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識別魔法

 長い長い時を経れば、変わってしまうものが多い。


 そんな歴史の中で、「聖堂」は、常に独自路線を貫いていたと恭哉兄ちゃんからは聞いている。


 この世界の「聖堂」とは、それ自体が一種の宗教のようなものではあるけれど、創造神さまが人界、聖霊界、聖神界の間を隔てた頃には既に、人界に存在していたらしい。


 そして、気が付けば、全世界のあらゆるところに「聖堂」と呼ばれるその建物は建造されている。


 人間界の宗教と違って、特定の神さまに対する信心を押し付けることはしないというのがこの世界の「聖堂」だ。


 改めて思い出せば、「救国の神子」たちが生きていた時代には、既に存在していた。


 風の神子ラシアレスさまと鏡越しに会話していたっぽい神官たちの姿を思い出す。


 その神官たちは、白黒写真のような画面内で、黒の衣装からそれよりも薄い色になった後に人が替わっていた。


 それが5人。


 なんとなく、その最後の一人は恭哉兄ちゃんに似た雰囲気を持つ人だった気がするけど、白黒写真内の鏡のようなモノに映った表情だったから、本当に似ていたかは自信もない。


 あの時代の神官たちについては、音声も聞こえなかったからほとんど推測の話。


 あの神官たちは、正黒(せいこく)の祭服をまとった正神官から、誠茶(せいちゃ)の祭服を纏う上神官になった後、代替わりをしていたのだと思う。


 そんな昔からあるのに、「聖堂」はずっと変わらない。


 そこで働いている神官たちがどれだけ替わっても、「聖堂」という存在は変わっていないのだ。


 どれだけ長い時が流れても、その空間は変わらずそこに在る。


 ストレリチアが「神教国家」から、「法力国家」へとその異名を変える前も、変わった後も。


 それは「聖堂」というものが、誇張なく、神さまの御手によって護られた領域だということなのだろう。


「そこに保管されていた書物の中に、『闇の大陸』と呼ばれる地から、不思議な魔石が届けられたことが書かれていたんだよ」


 だから、雄也さんのその言葉にも驚きはなかった。


 雄也さんが「魔封石(ディエカルド)」と呼ばれる魔石の産出大陸を知っていて、「聖堂」のことを匂わせた時点で、そんな気はしていたから。


「それが、この『魔封石(ディエカルド)』ということですか?」


 雄也さんの手の布越しに存在する「魔封石(ディエカルド)」の原石。

 直接、触れなければ大丈夫ってことなのだろうか?


「それ以外にも、いろいろな魔石や魔法のことについて書かれていたよ。多分、一般的には知られてないものもあるんじゃないかな」


 そう言いながら、その「魔封石(ディエカルド)」の原石を収納する。


 触れると体内魔気の動きをおかしくさせるというその石も、収納魔法を使うことは可能のようだ。


 いや、周囲を布で覆っていたから、その布のおかげかな?


「雄也はどこの聖堂でその知識を得たのですか?」

「大聖堂だね。そこに勝る場所はないかな」


 それは雄也さんが大聖堂の書庫に入ることができ……、いや、大聖堂の書庫自体は許可を取れば、誰でも入れるのか。


 そして、恭哉兄ちゃんはそれを拒むような人でもない。


 簡単に入れないのは「神触の間」と呼ばれる神々の姿絵が大量に貼られた部屋と、王族と神力を持った人しか許可が下りない「寵児の間」だった。


 それでも、他国の人間が、そんな歴史の裏側に等しい史書まで見ることができたのだろうか?

 そこは雄也さんだからってことだろうか?


「それならば、雄也は何について驚いたのですか?」


 先ほど、雄也さんは「驚いた」と言っていた。

 でも、それは「識別」結果についてではなかったらしい。


「栞ちゃんの『識別魔法』について……、だね」

「わたしの?」


 先ほどわたしが使った「識別魔法」については、九十九から報告を受けていたはずだ。

 九十九からもらった道具が必要なことも知っていた。


 だから、今更、何を驚くというのだろうか?


「先ほど『識別』した結果については、覚えているかい?」

「この紙に書いたことまでは覚えていますが、内容についてはほとんど、記憶に残っていません」


 紙に書いた内容を確認したことは覚えている。

 後は、ダーミタージュ大陸で産出した魔石だったということも。


 これは、ずっと会話の中で口にしていたためだろう。


「その能力は本物だ。そして、なかなかに興味深い話でもある。まるで、ナニかが知識を与え、そして、そのナニかにとって不都合なことは忘れるようになっているかのようだね」


 雄也さんは、「誰か」、ではなく「ナニか」と言った。

 それはもしかしたら、人ではないモノが関わっている可能性もあるってことだ。


 そんな気がしてはいたけれど、九十九だけでなく雄也さんもそう思ったことに、改めて、ゾッとしたものを覚える。


 あのゲームに似ていると呑気に考えていたけれど、思ったよりもずっと怖い魔法なのかもしれない。


「でも、かなり有益な魔法であることは間違いないようだ。そうなると、これ以上の詮索は不要かな」

「これは、一般的な『識別魔法』は違うのでしょうか?」

「それについては、俺には分からないと回答しようか。識別、鑑定などの魔法は、使える人間が本当に少なく、使用者も公言しないようだから、ソレがあることは知られていても、それがどんな魔法かは知られていないんだ」


 九十九もそんなことを言っていた。


 それらはかなり稀少な魔法だと。

 魔法書自体が隠されている可能性が高いとも言っていた覚えがある。


「でも、それなら、なんでそんな魔法があることは知られているのでしょうか?」

「俺たちはミヤドリードから聞いたからだろうね。運よく魔法書を見つけ、どちらかに適性があれば、今後、役に立つと言っていた覚えがある」


 彼らの師であるミヤドリードさんは、情報国家の王妹殿下だ。

 だから、それを知っていることに不思議はない。


「だから、栞ちゃんもその『識別』魔法については、秘匿に努めて欲しい。特に、情報国家に知られては面倒なことになるだろうからね」

「分かりました」


 それは九十九からも再三、言われたことだ。

 だから、ワカにも、恭哉兄ちゃんにも伝えていない。


 尤も、恭哉兄ちゃんは精霊族の血を引いているためか、人の心が伝わってくるという性質を持っている。


 もしかしたら、既に知られている可能性もあるけれど、あの人が、わたしにとって不利益に繋がることを誰かに話すとは思えなかった。


「水尾先輩や真央先輩にも隠した方が良いでしょうか?」

「うん。彼女たちは大丈夫だと思うけれど、念のためだね」


 つまり、雄也さんは真央先輩にも話さないってことらしい。

 最近、かなり仲良しさんになっていたけれど、線引きはするってことか。


 もともとわたしにとって「識別魔法」はそこまで重要なものでもない。

 九十九がいなければ使うこともなかった魔法だ。


 全てを知りたいとも思えないしね。

 使用する物は、その名前と一般的な効果だけ知っていれば良い。


「だから、絶対に俺や九十九以外の人間の前では使わないこと。良いかい?」

「承知しました」


 周囲に人気(ひとけ)がなくとも、誰がどんな手段をもってそのことを知るかは分からない。


 だから、護衛以外の前で使わない方が良いだろうというのはわたしにも分かることだ。


 もしかしたら、城下の森にいた時に、わたしのストーカーを自負するライトが、いつものように何らかの手段でその光景を視ていた可能性はあるけれど、あの人も、わたしの不利になることを誰かに言うことはないと思っている。


「この『識別魔法』について、もう少し確認しておきたいことがあるのだけど大丈夫かな?」

「はい」


 雄也さんのことだ。

 先ほどの識別結果だけでは足りないのだろう。


 九十九もそうだった。

 あの城下の森にいた間、かなりの量の識別をした覚えはある。


 植物から始まり、あの時、九十九が持っていたほとんどの物は識別したと思う。


 尤も、それらを識別した記憶はあっても、その結果のほとんどは、覚えていないのだけど。


 そして、その兄である雄也さんも好奇心、探究心が強い人だ。

 一つの魔石を視たぐらいで満足するとは思っていない。


 わたしの識別魔法は、この道具さえ使えば、魔法力の消費はほとんどないことは分かっている。


 だから、時間が許す限り、使うことはできるのだ。


「何を識別しますか?」


 わたしは、気合を入れて、雄也さんに確認するのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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