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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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かの国の事情

「そもそも魔力暴走しやすい人間を制御石一つだけで抑え込もうというのが阿呆だ。マオリア王女殿下とミオルカ王女殿下に言ってみろ。どちらもさり気なくかつ自慢気に自身が身に着けている装飾品の数々を見せてくれるだろう」

「あ?」


 兄貴の言葉にオレは思わず、声を出していた。


 制御石を一つしか着けていない?

 どういうことだ?


 オレですら、体内魔気が外に漏れないように、いくつも身に着けている。


 まあ、オレの場合は、暴走を抑えるためではなく、周囲に魔力の気配を気付かせないようにするためだけどな。


 水尾さんと真央さんも同じはずだ。

 二人とも魔力の制御ができないわけではないから。


 ああ、栞は当初、暴走防止の意味もあったが、それでも、彼女自身、魔力制御はかなり上手くなっている。


「何故、一つしか着けていないことが分かるのだ?」

「フレイミアム大陸産出の制御石がたった一月しか持たない理由を考えれば、それ以外はあるまい。購入をケチっているか、単に知識がないだけなのか分からんがな」

「知識がない方だと思うぞ。流石にロットベルク家の次期当主候補に金をかけない理由はない」


 兄貴の言葉に対して、トルクスタン王子は肩を竦める。


「金を持っているカルセオラリアの王族には分からんだろうが、どこの国の貴族も自由になる金を持っているわけではない。現在、ロットベルク家の財政は火の車だ」

「「なっ!?」」


 ちょっと待て?

 何故、兄貴がそれを知っている?


 しかも、推測ではなく断定だったぞ?


「ロットベルク家が火の車だと? アルトリナ叔母上はそんなことを一言も……」


 そして、トルクスタン王子は素直にそれを受け止めている。


 兄貴の言葉に嘘はない。

 だが、それを信じる根拠はどこにある?


「実家とはいえ他国に嫁ぎ先の財政状況を、しかも不利益な情報を伝える阿呆がどこの世界にいる?」

「それはそうだが」

「現当主とその長子は金の勘定もできないらしい。収入よりも支出が大幅に上回れば、どう見積もっても赤字以外にはならんだろう」


 栞の見合い相手はまだマシらしい。

 いや、当主と兄を制御できていない時点で同類か。


「だが、アルトリナ叔母上が嫁いだ時に、それなりの金銭を渡しているはずだ。それに転移門の定期的な管理などである程度、収入が……」

「アリトルナ=リーゼ=ロットベルク様がカルセオラリアから出て一体、何十年経過していると思っているのだ? 既に持参金など残っているはずがない。そして、現状、転移門の管理費用を上回るほどの支出だということだ」

「「どれだけ使っているんだ!?」」


 そして、兄貴は何故、それを知っているんだ!?

 貴族の家の財政状況なんて、極秘にも程があるだろう?


「それだけだな。ローダンセは同じウォルダンテ大陸内の国に比べても、貴族の維持管理にかかる費用がかなり高い。巨万の富を抱えている貴族など、ほんの一部だ」

「貴族の維持管理?」

「品位保持費用ってやつか?」


 兄貴の言葉にトルクスタン王子は純粋な疑問を浮かべ、オレは心当たりがある単語を口にする。


 品位保持費用については、その立場に見合った礼儀や節度や人徳、気高さを維持するために、使う金だ。


 セントポーリア国王陛下からも、栞に使うようにと渡されているが、そのほとんど生活費として使用させていただいている。


 しかも、有り余っている。

 あの女は本当に必要最低限しか使わないのだ。


 着飾るなどの品位保持に興味もないということでもあるのだが。


「貴族としての品位保持に金がかかるのは当然だな。相応の品格を保たねば、民に対して説得力もない」


 オレの言葉にトルクスタン王子も納得する。


「いや、ローダンセに関して言えば、貴族の維持管理は品位保持以外にも金がかかる」


 だが、兄貴は大きく息を吐いた。


「トルクは頭に入れておけ。他国の文化、慣習を知識として身に着けるのは、王族の教養として必要なことだ」

「おお」


 兄貴の言葉にトルクスタン王子は背筋を伸ばす。


「ローダンセの貴族で金がかかるのは主に税金と交際費だ」

「「税金と交際費?」」


 オレとトルクスタン王子の声が重なる。


 税金は分かるが、交際費?

 つまりは人付き合いのことだが、それがそんなに金がかかるものなのか?


「不勉強ですまん。交際費とはなんだ?」


 トルクスタン王子も疑問に思ったようで、素直に問いかける。


「カルセオラリアではあまり耳馴染みがない言葉だが、社交費用のことだ。品位保持も一部含むこともある」

「社交費用?」


 さらにトルクスタン王子は問いかける。


「もっと分かりやすく言えば、人と会うたびにかかる金のことだな。接待、食費、趣味嗜好と多岐にわたるが、ローダンセでは社交界がどの国よりも際立っている。茶会、夜会はともかく、舞踏会などが開かれる国はローダンセぐらいだ」


「舞踏会って、ああ、あの男女が音楽に合わせてクルクル回るやつか。確かに珍しいな」


 世に言う社交ダンスのことをこんな言葉で表現するのは珍しいと思う。

 いや、興味がなければこんなものか。


「ローダンセは舞踏会があるのか?」

「ああ。だが、それはここ十数年の話だ。王族が始めて、顔を繋ぐための交流の場としてかなり広まったらしい」

「つまり、楽器があるのか?」

「金管楽器が主だが、弦楽器もあるそうだ。その辺りは、人間界と変わらん。尤も、曲数は限られているようだがな」


 この世界の住人は、楽器が苦手だと聞いたことがある。

 それを言ったのは、大神官だったか……。


 オレもあまり得意ではないが、それでも、壊滅的な状態から、半壊ぐらいにはなった。

 少なくとも、前のように破壊活動はなくなっている。


 但し、栞の前だけだ。


 彼女がいない場所でこっそり練習をしようとしても、力加減が上手くいかないらしい。


「お前のように楽器を破壊する人間はそう多くない。そして、楽器そのものも現物があれば、その複製は可能だ」

「楽器って、アレだよな? マオが持っているキラキラしたやつ。俺もアレは苦手だ」


 仲間がいたらしい。


「言われている通りに指を動かしているはずなのだが、酷い騒音になる。あまりにも酷過ぎて、マオからぶん殴られたことがあった」


 真央さんは楽器に情熱を懸けているところがある。


 トルクスタン王子が何の楽器に手を出して、そして、どれだけ酷い音を出したのかは分からんが、真央さんの手が出たのなら、相当な状態だったのだろう。


「ユーヤが港町で扱った楽器も無理だった。アレは思うように音が鳴らん。ガリガリッと耳障りな音しかならなかった」


 以前、兄貴が弾いたのはバイオリンだった。

 確かにアレは技術がいる。


「アレは力の入れ過ぎだ。その上、弓の引きが遅すぎる。あの弾き方では、雑音にしかならん」


 兄貴はトルクスタン王子の演奏を知っているらしい。


 だが、どんなに力を入れても、指板を()し折ったり、顎当てがひび割れたり、4弦が同時に切れないだけ、マシではなかろうか?


「ツクモがやっていたワイングラスを鳴らすだけならいける気がするんだが……」


 いや、グラスハープも結構な技術がいるぞ?


 あれは普通の楽器ではないためか、破壊することはなかったが、まともに音を鳴らすまでに時間はかかっている。


「ローダンセは舞踏会だけでなく、演奏会もある。その楽器の購入費も安くはない。そして、社交界に出るためには相応の装いも必要だ。夜会、茶会も主催者、参加者のいずれも金がかかる。それ以外にも友人や知人、身内と会うたびに贈り物を互いに渡す文化もある」

「ああ、そう言えば、ローダンセの人間に会うたび、いろいろ貰うな」


 日本人か?


 いや、身内はともかく、友人や知人に会うたびに何かを渡していたら、大変なことになる気がする。


「なんで、そんなに金をかける必要があるんだ?」

「様々な理由があるが、基本的には体面だな。それが少しずつエスカレートしていった結果が、困窮する貴族社会らしい」

「阿呆か?」


 見栄を張るにも限度があるだろう。

 それで、貧困に喘いでいては、意味もない。


「それもお国柄だ。外野は何も言えん」


 思わず出てしまったオレの言葉に兄貴が苦笑する。


「さらに、ローダンセでは様々なところに税金がかかる。住む場所一つとっても、領地管理税、土地所有税、建物保有税、城下住居税、城内賃借税とある。ああ、城下に一時滞在する人間には城下逗留税もあるな」

「税金……」


 その言葉だけで、なんとなく嫌な感じがするのは、オレが人間界で生活してきた期間が長いからだろうか?


「単純に使用料や宿泊費用と考えればそこまで抵抗はあるまい。単に名前に税金と付いていて、その行先が城というだけだ」

「まあ、国に税を納めるのはそこに住む国民の務めだとは思うが、一時滞在にも税を取るのか」


 トルクスタン王子もその点がひっかかるらしい。


「国に入るにも入国税が課税されるために、神官たちが最も巡礼に赴かない国と聞く」


 ()もありなん。

 行くだけで金をとられたら嫌だよな。


「外からだけでは分からんもんだな」

「お前はもっと学べ、王族」


 兄貴は溜息を吐く。


「それも、今から向かう国なのだ。最低限のことは学んでおかないと、痛い目を見ることになるぞ」


 そんな不吉な予言を口にしながら。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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