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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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かの国の結婚観

 この世界では高貴な方ほど恋愛結婚はほとんどない。

 その頂点に立つ人間ほど、周囲の思惑によって決められてしまう。


 魔力優先のアリッサムは、国内最高の魔力保持者。


 純血保持のセントポーリアは、同じセントポーリアの王族同士。


 情報第一のイースターカクタスは、秘密主義の一族。


 法力大事なストレリチアは最も優れた正神女。


 繁栄主義なローダンセは、魔力が強い自国内貴族。


 知識欲旺盛なカルセオラリアは、自国内の技術者。


 そんな基準があるとは言われているが、それは外からの判定であり、真実はその国にしか分からない。


 いずれにしても、基本は政略結婚。

 つまりは、利害関係によって成り立つものである。


「ローダンセか~。私は正直、お勧めしたい国ではないな」

「あそこまであからさまな男社会の国だとな」


 真央先輩と水尾先輩は揃って溜息を吐いた。


 ローダンセは男性優位社会として有名な国である。


 恐らくはそのことを言っているのだろうけど……。


「そんなに酷いんですか?」

「「酷い」」


 わたしの問いかけに対して、二人は声を揃えた。


「まず、王族でありながら、女に王位継承権はない。王女が成人した後は、当人の意思に関係なく、国内の臣下たちに恩賜(おんし)という名目で下賜(かし)されると聞いている」

「女性は要職に就けないらしいね。一番、身分が高いのは王妃であることは間違いないけれど、それ以外の側室……、寵姫と呼ばれる女性たちは、王の子を生んだ後は、時を置かずして、すぐに臣下へ下賜されているらしいよ」

「うわあ」


 水尾先輩の言っていることは理解できる。


 女性に王位継承権がないなんて、人間界の歴史上でもあった話だ。


 そして、臣下たちに下賜するという話も、やはり歴史上にはあったと記憶している。

 女性を物扱いしている辺りが腹立たしいけど、それもお国柄というやつなら仕方ない。


 でも、真央先輩の話は、ちょっと理解の範疇を越えていた。


「多くの妃を侍らせているわけではないんですね」


 九十九の話ではそんな印象を受けていたけど、違ったらしい。


「もともと、寵姫というのは正式な婚儀をしているわけではない相手だからね。表向きはともかく、裏ではどうとでもなるってことだろうね」


 そうは言われても、それでは「寵姫」という言葉も怪しい。


 寵愛を受ける……、特別大事にされているわけでもない気がする。

 本当に子供を産むための道具としてしか見ていないということだ。


「頂点がそうだから、当然、他の王族、貴族たちも似たようなことをする。まあ、国王のように使い捨て……っと、子を生んですぐにってことはないだろうけど、臣下の褒美に自分の愛人を贈ることも珍しくはないそうだよ」

「うわあ」


 思わず漏れる本音。

 かの国は、どこまで、女性に人権がないのでしょうか?


「幸い、今回の相手は貴族の正妻としての話ってことだね。だから、もし、高田がローダンセの貴族に嫁いでも、他の人間に回されることはないと思うよ」

「本当にそこが幸いといえば、幸いだな」


 それが本当に幸いなのかは分からない。


 もしかしたら、その状態を何度も見ることになるのだ。

 自分の結婚する相手が、次々と他の女性を受け入れ、そして、捨てる様を。


 それに自分が耐えられるだろうか?


「ただ困ったことに、かの国は、()()()()()を求めることもある」

「へ?」


 真央先輩の言葉に首を傾げた。


「愛人を取っ替え引っ替えするために、興味のない女性を正妻に据え置くことだね。唯一を決めていれば、それが許される国だから」

「うわあお」


 結婚に夢を見る気はなかったけれど、それは流石に予想外だ。


「それ以外だとそうだね。家長主義でもあるかな」

「家長主義?」


 なんだろう?

 その覚えのない言葉は。


「家督相続なら分かる? その家を継いだものに全ての権利があるって話。身分、財産とかね。そして、女性に相続権はない」

「昔の日本ですか?」


 家督相続の話は、日本の歴史でよく耳にした話だ。

 そして、女性が相続するのは時代によるが難しかったと記憶している。


 まあ、大名とか守護、地頭は自分の領地、領民を護る必要があった。

 そうなると、女性では難しかったためだろう。


 家にいる女子の入り婿とするか、親戚と養子縁組をして、その全てを猶子に引き継がせるとかそんな話もあった。


「もっと悪いよ。一家の長が出て行けと言ったら、その家を出ることになるし、家にいる間は自分が稼いだお金も、全て渡すことになる。そして、勝手に買い物することもできない。何をするにも全て、家長の許可がいる」


 家を出る云々は、昔の日本にもあったことだ。

 稼ぎを家に入れる話も、ないわけではない。


 でも、勝手に買い物できないのは辛いな。

 その家長とやらがケチだったら、何も買えなくなるかもしれない。


「ローダンセは長子相続じゃないですよね?」


 王位継承は、確か、ポイント制のような感じだと聞いている。


 正妃の子である第四王子が25歳になった時点で王位継承権第一位だった者が国王より譲位される……だったっけ?


 その継承順位は月に一度、発表され、しかも入れ替わりもある。

 そして、8人の王子全てに継承権があるのだ。


 しかし、月に一度の発表って、結構、面倒なんじゃないだろうか?


「うん。家長の嫡出子(ちゃくしゅつし)が後を継げる年齢になった時、家長と相続する人間たちの話し合いだと聞いているよ」

「余程の無能じゃない限りは、嫡出子が後を継ぐことになるだろうけどな」

「ちゃくしゅつし?」


 「嫡子(ちゃくし)」なら聞いたことがある。

 確か、長子とも呼ばれ、一般的には跡取り、総領のことだ。


 それとは違うのだろうか?


「嫡出子は正妻との間に生まれた子供のことだね。婚内子(こんないし)とも言うかな。日本でも戸籍上、婚姻関係にある夫婦間に生まれた子って意味で使われている言葉だよ」


 真央先輩が教えてくれる。


「正妻が産んだ長男が跡継ぎの年齢が25歳以上になったら、家長が指名するってことになる。但し、家長が50歳を過ぎても跡継ぎに恵まれない場合は、親戚筋から男子を選んで縁組する、だったはずだ」


 そして、水尾先輩が補足してくれた。


 魔法国家の王女殿下たちは、わたしと年齢が一歳しか違わないのにしっかり、他国のことも、五年しかいなかった人間界のことも勉強して、それを知識として身に着けている。


 この辺り、上に立つ者としての意識と視点が全然違うと思う。


 そして、やはり、わたしは上に立つ者ではないとも思うのだ。

 庶民で良い、庶民で。


 でも、見合い相手のことを考えると、そういうわけにもいかない。


 他国の人間ではあるため、最低限、勉強の機会は与えられると思うけれど、無学、浅学を理由に断られるのはちょっと嫌だな。


 断られること自体が悪いわけではないが、その理由が不勉強だからというのは、一応、わたしのことを気にかけて「勿体ない」とまで言ってくれるトルクスタン王子に悪い気がする。


「そういった背景があるからか、男性が女性を見下す傾向にあるみたいだね」


 それだけ聞くと、単純に男社会というよりも、本当に男尊女卑の考え方があるようだ。

 男女平等を掲げていた国で育った人間としては確かに受け入れることが難しい部分はある。


 女性が殿方を立てるのは良い。

 でも、殿方が、女性を下に見るっていうのは全く別の話だよね?


 そもそも、結婚って、政略だろうが何だろうが、互いに助け合って支え合うことが前提の話じゃないのかな?


 そう思うのは結局、結婚というものに夢を見すぎている?


「そんな国だけど、本当に大丈夫?」


 真央先輩が再確認してくる。

 水尾先輩はそれを黙って見ているけど、その気持ちは同じなのだろう。


 表情が同じだから。


 二人とも優しいな~。

 それだけ、わたしを心配してくれているのだ。


 わたしの考え方は、人間界よりである。

 そして、そのことを二人とも知っている。


 実情はどうであれ、男女平等を謳っていた世界で育った身に、完全に男性優位社会の国で生きていくのは難しいことだろう。


 でも、同じくそれを知っているはずの雄也さんは反対しなかった。

 あの人が何も考えていないとは思えない。


 そして、間に入ったトルクスタン王子にも何らかの思惑があることを匂わせている。


 そこにあるのはわたしがまだ知らない事情があるのだと思う。


 だから、わたしは……。


「現時点では判断できないので、やっぱり、自分の目で見て確かめてみます」


 そう返事をしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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