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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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円卓のお茶会

「さて、ローダンセ行きの件だが……」

「待て。何故、お前が取り仕切る?」


 トルクスタン王子の言葉に、雄也さんが突っ込んだ。


 ここは、リプテラの管理者のお屋敷の一室。

 早い話がアックォリィエさまのご厚意で、彼女の屋敷を使わせていただいている。


 この世界は協議などに使われる部屋に置かれている机って、不思議と丸いものが多い。


 世界会合の時もそうだったし、それ以外でも結構、四角い長机よりも円卓を見かける気がする。


「俺はこの中で一番、身分だけはあるんだぞ!?」

「自分で身分しかないことを認めるな」

「友人が(ひど)過ぎる!!」


 こんなノリも久しぶりだ。


 言われてみれば、トルクスタン王子は現役の王子さまである。


 それならば、既に国が消えてしまった水尾先輩や真央先輩よりも、身分は高いと言えるだろう。


 時々、変に庶民的な部分があるし、妙に親しみやすいから、忘れそうになるけどね。


「先輩、いちいち突っ込むな。話が進まなくなる」


 水尾先輩が溜息を吐いた。


「そうそう。せっかく、トルクが仕切りたいって言うんだから、任せてみようよ」

「マオ……」

「必ずしもその意見を受け入れる必要はないんだからさ」

「幼馴染も酷かった!!」


 確かに酷い。


 だが、わたしが何も言わないのは、暫く、何も言わないようにという雄也さんからの指示である。


 だから、お口にチャックをしている。

 九十九も何も言わない辺り、似たような指示が出ているのだろう。


 まあ、わたしが口を出してしまうと、水尾先輩と真央先輩はともかく、雄也さんと九十九は従わなければならなくなる。


 それだと困るからだろうね。

 勢いは大事だけど、勢いだけでは駄目なのだ。


「早く、お前の意見を話せ」

「分かったよ」


 雄也さんの言葉にトルクスタン王子が従う。


 はて?

 誰の身分が一番、高いんですっけ?


 いや、公式的に知られていないだけで、雄也さんは情報国家イースターカクタスの王兄殿下の息子なのだから、王族と言えば王族なんだよね。


 だからなのかな。

 普通に座っているだけだというのに、そこはかとない気品がある気がする。


 これはわたしがその出自を知っているせいだろうか?


 だけど、もう一人。

 同じ出自の青年がいる。


 だが、わたしの傍に立っている護衛青年は、同じ血が流れているというのに、どう見ても執事だ。


 控えめに言っても従僕だ。

 そして、家令には見えない。


 何故、彼が立っているのかと言えば、まあ、うん、給仕ですね。


 この中では、九十九が一番、お茶の淹れ方が上手く、さらに、美味しいお茶菓子を多種類提供できてしまうのです。


 雄也さんもある程度はできるのだろうけど、どちらかと言えば、今回、話し合いの参加者だ。


 だから、トルクスタン王子の横に座っている。


 それなら、会話に参加する予定がないわたしも手伝おうとしたのだけれど、九十九からやんわりとお断りされた。


 ぐぬう!!


「別にローダンセに行く必要はないだろ?」


 水尾先輩が目の前にある焼き菓子を摘まみながら言った。


「いやいや、必要だぞ!?」


 今回の焼き菓子は、一口サイズの手軽に摘まめる「シュークリーム」。

 それがお皿に山盛り状態となっている。


 九十九が作った物にしては、珍しく、「~もどき」や「~のような」が付かないお菓子だ。


 なんでも、シュークリームって、「キャベツの形をしたクリームの入ったお菓子」って意味らしくて、今回はそれに該当するとのこと。


 相変わらず、わたしの護衛は妙なところで拘りがあるようだ。


 しかし、キャベツ?

 個人的にはジャガイモやカボチャっぽいと思うのだけど、昔の人にはこれがキャベツと思ったらしい。


 それにしても、いろいろな種類があるな、キャベツ型のお菓子。

 いや、確かに形は同じなのだけど、デコレーションのバリエーションがおかしい。


 料理の過程で状態変化をしてしまうこの世界で、どうして、これだけ飾り付けすることが可能なのか?


「トルクの都合だよね?」


 真央先輩は、黒いチョコレートっぽいシュークリームがお気に入りのようです。

 表面はちょっと苦味があるのに、中がとろ~り甘くて美味しいやつだね。


「違う! 俺なりにいろいろ考えた結果だ」

「高田を嫁に出すことが?」


 対して水尾先輩は、ノーマルタイプ。

 飾り気がないものがお好みのようです。


「シオリをこいつらにくれてやるよりマシだろ?」


 そう言いながらトルクスタン王子が取ったのも、水尾先輩と同じシンプルで飾り気のないシュークリーム。


 一口サイズなので、既に口に放り込んでいた。


「「こいつら?」」


 水尾先輩と真央先輩が声を揃えた。


 流石、双子。

 息がぴったりである。


 だけど、見ている方向が違う。


 水尾先輩は九十九を。

 真央先輩は雄也さんを見ていた。


 えっと……?

 トルクスタン王子にとって、わたしがこの護衛兄弟の傍にいるのは勿体ないって話ですかね?


 くれるもの何も、わたしも彼らの物ではなく、彼らもわたしの物ではないのに。


「シオリの魔力の強さ、魔法力の大きさを考えれば、嫁ぐなら王族が望ましいが、俺は既に断られている」

「「当然だな」」

「当然だね」


 水尾先輩と雄也さんが声を揃え、真央先輩も同じように言った。


「そうなると、年齢の近い他国の貴族ってことになるが、そのツテはローダンセしか持ってない」

「いや、そこは他国の王族を当たるべきじゃないのか?」


 水尾先輩が7個目のシュークリームに手を伸ばす。


「俺がフラれたっていうのに、なんで、他国の王族に譲らないといけないんだ?」

「心が狭過ぎる」


 真央先輩が笑いながら、()個目のシュークリームを口にする。


「譲るも何も、主人は元からお前のものではない」


 雄也さんはシュークリームを一つだけ摘まんだ後は、ずっとお茶ばかり口にしていた。


 シュークリームが嫌いというわけではなく、水尾先輩と真央先輩にできるだけ譲るつもりなのだろう。


 彼女たちは甘味が好きだし、量もよく食べるから。


「俺の心も狭いけど、ユーヤも十分、心が狭いよな?」


 そうかな?

 雄也さんは心がかなり広いと思うけど。


「俺が狭量なのは認めるが、お前の度量ほどではない」

「酷い!!」


 確かに酷い。

 久しぶりだけど、雄也さんの攻撃性が増している気がする。


 わたしはズズッとお茶を飲む。

 薄い鮮紅色のお茶は、人間界を思い出す。


 尤も、この世界のお茶は、砂糖やミルクのように味の調整ができない。

 出された物をそのまま、飲むしかないのだ。


 いや、九十九なら、出された後からでも味の調整ができるし、それ以上に、出す時点で、一人一人の好みに合わせているような気もするけど。


「どうした? 苦手か?」


 九十九がわたしの視線に気付いて、声を掛けてくる。

 お茶の味が合わないと思われたらしい。


「いや、大丈夫。このシュークリームに合っていて美味しいよ」

「それなら良かった」


 九十九が柔らかく笑った。


「「「「…………」」」」


 ぬ?

 視線?


 気が付くと、雄也さん、水尾先輩、真央先輩、トルクスタン王子の視線を独り占め状態になっていた。


「こいつら、また仲を深めてないか?」

「まあ、ずっと一緒だったから当然だろうね」


 水尾先輩と真央先輩がわたしたちに聞こえるような声で、こそこそと話している。


 動きは耳元で手を添えるようにという感じでこそこそとしているのだけど、声が大きいのだ。


 いや、これってわざとだよね?

 揶揄いたいだけだよね?


「これで一度もヤってないとか、嘘……だるぉっ!?」


 トルクスタン王子の発言に、その場の雰囲気が変わった。


 それにしても、真央先輩の部活は吹奏楽だったはずなのに、円盤投げがお上手ですね。


 トルクスタン王子は慌てて避けたけど、見事に何も載っていないお皿が、先ほどまで、顔があった位置に投げられた。


 そして、お皿は壁に当たってそのまま落ちる。

 割れるような材質ではなかったことが幸いだったと思う。


「チッ、外しちゃったか」


 当てるつもりだったんですか? 真央先輩。


「皿を掴んだ分、マオの次の行動が読みやすかったからな。鈍いトルクでも避けると思うぞ」


 水尾先輩はお茶を飲みながら、そう言った。

 食べる物がなくなったのだ。


「九十九。皿が無くなったから、新しい皿を頼む」

「了解。また皿を借りて新しい菓子を()ってくる」


 さらに淡々と進められる会話。


 そして、九十九。

 ここはアックォリィエさまのお屋敷だよね?


 なんで、既に馴染んでるの!?


「誰一人、俺の心配をしてくれない!!」


 叫ぶトルクスタン王子。


「さっきのはトルクが悪い」

「少なくとも、食べている時にする話題じゃないよな?」

「女性の前でする話題でもない」


 真央先輩も、水尾先輩も、雄也さんも心配する気も擁護する気もはないらしい。


 まあ、発言内容がいろいろ悪いよね?

 真央先輩が怒って、水尾先輩が呆れて、雄也さんが窘めたくなるのも分かる気がする。


 しかし、わたしと九十九はそんなに仲が深まっているように見えるのかな?

 自分ではよく分からなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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