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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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【第110章― 再会から始まる ―】久しぶりの面々

この話から110章です。

よろしくお願いいたします。

「えっと……?」


 正直、わたしは困惑していた。


 突き刺さるような視線が痛い。

 だが、それも仕方がないのか。


「ミオもマオも、俺よりシオリが良いのか」


 そんな声が後方から聞こえたが、今のわたしは振り向くこともできなかった。


「「当然」」


 真横から聞こえる二重唱(デュオ)

 いや、水尾先輩と真央先輩の声。


「ああ、小さい。癒される」


 酷いことを言ってませんか? 真央先輩


「ああ、小さい。可愛い」


 やはり、酷いことを言ってますよね? 水尾先輩。


「……ぐぐぐぐぐ」


 さらに、正面からどこか恨みがましい顔を向けるアックォリィエさま。


 そんな表情と声は、近くにいる幼い息子さんの教育によろしくないですよと言うべきだろうか。


 でも、下手なことを言って、前みたいに妙な興奮状態に入られても困るので、わたしは何も言うまい。


「そもそも、栞ちゃんとトルクなら、どうしたって栞ちゃんの方が良いだろう」

「友人と幼馴染たちが冷たすぎる!!」


 そんな会話がわたしの背中で交わされている。


「何故、オレが乳児の世話をしているんだ?」


 さらには、そんな声も少し離れた場所から聞こえた。


 個人的にはそのポジションこそ替わって欲しい。


 水尾先輩と真央先輩に両側から抱き締められているのが別に嫌というわけではないのだが、その可愛い存在に触れることもできず、動けない状態はあまり嬉しくない。


 わたしもあのふにゃふにゃした存在に触れたい。


 いや、一ヶ月半、会わなかっただけでも、少しズッシリ感も増していた。

 子供の成長って早過ぎる。


 そして、その成長率は素直に妬ましいほどに羨ましい。


 さて、わたしと九十九は、トルクスタン王子が合流するという知らせを受けた後、セントポーリア城下から戻ることになった。


 セントポーリア城へ行き、国王陛下へのご挨拶と簡単な事務仕事を済ませ、さらには大聖堂にて大神官さまやストレリチアの王女殿下にもかなり世話になったのだ。


 終わってしまえば、二カ月に満たないほどの話。

 だが、実に濃い日々だった。


 いや、この世界に来てから何もなかったと言いたくなるような平凡で内容の薄い時間ってほとんどないのだけど。


 しかし、毎回、眠らされて移動という手段だけはなんとかならないものだろうか?


「さて、再会の挨拶はそれぐらいで良いかな?」

「「「足りない」」」


 そんな雄也さんの言葉に返される三重唱(トリオ)

 左右に加えて正面も追加されました。


「では、そのままで」


 苦笑しながらもこの状況を放置しないでください。


「ユーヤ、部外者がいるようだが?」


 アックォリィエさまのことを気にしたトルクスタン王子が確認する。


「ああ、その方は……」

「私のことなど、お気になさらないでください、()()()()()()()()殿()()。少しだけシオちゃん先輩を堪能したら、すぐに息子を連れてお(いとま)させていただきます」


 雄也さんが答えるよりも先に、アックォリィエさまがそう言った。

 いや、堪能って何!?


「シオちゃんせんぱい?」

「私の目の前にいる史上最高に愛らしい存在です!!」


 誰のことだ?

 アックォリィエさまのテンションがいろいろおかしい。


 そして、トルクスタン王子とアックォリィエさまは面識があったようだ。


 友人の「トルク」としか伝えていなかったのに、さらりと「トルクスタン王子殿下」と返していた。


 考えてみれば、アックォリィエさまはわたしの後輩である椎葉(しいば)菊江(あきこ)さんであると同時に、この国の王族でもあったと聞いている。


 この町の管理者に嫁ぐまでは、アベリアという国の第一王女さまだったということから、カルセオラリアのトルクスタン王子と会っていてもおかしくはないのか。


「ユーヤ、解説」

「そちらのアックォリィエ様は、二年前までこのアベリアの第一王女であり、マオリア王女殿下や、ミオルカ王女殿下、そして、我らの主人と知己であったらしい」


 そして、一言で説明されるわたしたちの関係。


「アックォリィエ。まさか、アックォリィエ=シュバイ=アベリアか!?」

「気付いていなかったのか」

「俺が最後に見たのは十年ほど昔だ。覚えているはずがないだろう?」


 トルクスタン王子の方は気付いていなかったらしい。

 アックォリィエさまの方は気付いていたっぽいのに。


 まあ、こちらも水尾先輩が、「この町で世話になっていた『アッコ』」としか伝えていなかったのだから、逆に気付かなかったのかもしれない。


 そして、十年前なら、トルクスタン王子は十歳ぐらい。

 アックォリィエさまの方は七歳か八歳ぐらいだろう。


 年齢的にも難しいかもしれない。


「いや、お前は各国の王族の姿絵ぐらいは確認しておけ。少なくとも、成人(15歳)時の肖像が掲載されている」


 おおう。

 そんなものがあるのか。


 わたしはセントポーリアの王族の肖像画しか見ていないが、各国の王族の肖像画があるなら話は別だ。


「お前のような男と一緒にするなよ」


 トルクスタン王子は気まずそうに目を逸らすと……。


「いや、それを見ていないトルクの方に私はビックリだよ」

「なんで、お前は見れる立場にいながら見ていないんだ?」


 わたしを抱き締めていた王族二人が、離れながらそう咎める。


「えっと、わたしには知識が無いから、アレなんだけど、どちらが正論?」


 いつもなら九十九か雄也さんに尋ねるところだが、どちらも離れた場所にいた。

 だから、目の前で不思議な構えをしているアックォリィエさまに尋ねる。


「シオちゃん先輩、その前にわたしも抱き締めさせてください」


 心底、断りたい。

 なんとなく、嫌だった。


 そんなわたしの表情から何かを察してくれたのか……。


「他国は存じませんが、アベリアの場合、文部卿が15歳になった王族の肖像画が届いた後、各国王族事典に貼り付ける作業をしていると聞いたことがあります」


 そう答えてくれた。


「まさかの手作業!?」


 剣と魔法、法力、精霊、神などファンタジー感あふれるこの世界なのに!?


「アリッサムは、届いた肖像画を、各国王族肖像画集にそのまま写し取っていたな」

「そうだったね。『複写魔法』の使い手がその仕事をしていた覚えがあるよ」


 流石は魔法国家!!

 こちらは微妙にファンタジーしていた。


「セントポーリアはアリッサムと同じかな。特にここ数年は、15歳になられる王族が多かったから、よい小遣い稼ぎになった」


 ……あれ?

 雄也さんの言葉だけ、ちょっとおかしくないですか?


「ちょっと待て、先輩。それって、先輩がセントポーリアで『複写魔法』を使っていたように聞こえるんだが?」


 真っ先に反応したのは水尾先輩。


「知らなかったのか? ミオ。そいつ、セントポーリアでは文官仕事もしていたぞ」


 ごく普通に答えるトルクスタン王子。


 いや、雄也さんが文官仕事をしているのは知っている。

 そして、かなり手慣れていることも。


 だけど……。


「そこじゃねえ!!」


 そう叫びたくなる水尾先輩の気持ちはよく分かった。


「つまり、ユーヤは、私たちが魔法国家の王族だったことは始めから知っていたのか」


 真央先輩も困ったようにそう口にした。


 15歳で肖像画が各国に届くのなら、確かに水尾先輩のことも、真央先輩のことも知っていただろう。


 ミラージュに国が襲撃され、水尾先輩がセントポーリア城下の森で発見された時、自分の身元が割れるのが早かったと言っていた。


 だけど、実際はそれよりも前に知っていたことになる。


「各国の王族肖像画集などという貴重な書物に対して、自分の魔法が失敗した時、その責任を負いたくない人間が、セントポーリアには多くてね。自分の仕事放棄の口止めの意味を含めて高額で押し付けられただけだよ」


 あ……、想像できた。


 セントポーリアの文官は保守的で、どちらかと言えば、事なかれ主義の人間が多い。

 そして、雄也さんが言うのは今よりももっと文官の質が悪かった時代の話だと思う。


 口止め料を含めてという辺り、救えない。


「お前、稼ぐときは自国でも稼いでいたんだな」

「仕事の対価をくれるというものを断る理由はないからね」


 トルクスタン王子の言葉に、雄也さんは微笑みながら答えた。


 雄也さんとしては、普通に仕事をしただけの話なのだろう。

 しかも、誰かの仕事を替わりにやっただけで犯罪でもないのだ。


「兄貴の場合は実益も兼ねているだろう。普通は、自国の王族肖像画だけで、他国の王族肖像画は閲覧制限がかかっているはずだ」

「ほへ? そうなの?」


 でも、わたしも見せてもらったことがあったような?


 そう思いながら、声の方に顔を向けると、九十九がアックォリィエさまの子供であるシオンくんを抱っこしていた。


 ふわああああああっ!?

 羨ましい。


 そして、ワカからカメラを借りたい!!


「少なくとも、セントポーリアはそうだったな。王族、外務官、一部の政務官のみの開示だったはずだ」


 そう言いながら、九十九はアックォリィエさまの方へ行き……。


()()()()()()()()()()()、恐らく一般的なライノウイルスではなく、人間界で言うRSウイルスによる風邪だと思われます。いずれにしても、()()()()()()()()()()()()という認識で問題ありません」


 そう言いながら、シオンくんを手渡した。


「あ、ありがとう。それで、風邪と言うことなら、シオンは大丈夫なの?」

「現時点では症状は軽く、中耳炎等の合併症もないようですので、大丈夫でしょう。但し、室内を清潔に保ち、世話をする人間も手指の酒精消毒を心掛け、人込みを避けるようにお願いします。それでも、急変の可能性はあるので様子は常に気を付けてください」

「わ、分かったわ」


 シオンくんは、昨日から熱を出していたらしい。


 それを今日、知った水尾先輩が、ちょうど、わたしたちが戻ってきたのでついでに診てくれとなったようだ。


「医者がいる」

「素人診断って言ったはずだが?」


 それでも、そのライノウイルスとかRSウイルスなんて名称、わたしは知らない。


 ライノウイルスって言葉が、なんとなく、恐竜みたいな名前だと思ってしまうほどだ。


「良かった~、シオン……」


 そう言いながら、シオンくんを抱き締めるアックォリィエさまの姿は、間違いなく母親の姿で、わたしは自分の母親と重ねていたのだった。

風邪だと思っても、素人診断は危険です。

特に乳児期は医師の診断を受けるようお勧めします。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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