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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~

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【第12章― 類は友を呼ぶ ―】買い物の目的

ここから第12章となります。

 雄也先輩から、母が無事に城内へ潜入することができたという報告を聞いた後、わたしは彼と共に元々の目的だった買い物をした。


 店に見えないこの村の商店は、言われなければ一般住居と思い込んでしまうだろう。


 そこの店長曰く、行き交う行商人が減ってしまったため、看板を一時的に下ろしていたらしい。


 加えて、看板を出したままにしておくと、近くに出没していた野盗っぽい人間たちに目を付けられる可能性があったということだ。


 確かに盗みを働くならあるかどうか分からない一般家庭に押し入るより、確実に商品や金銭を取り扱っている店を狙うという考え方は分からなくもない。


 ただ、野盗の脅威が去ったと伝えられているはずの今も、看板は下ろされたままだった辺り、ここの店長はそこまで商売熱心と言うわけでもないのだろう。


 まあ、この村の人たちは、ここが店だって知っているわけだから、特に問題もなかったのかもしれないのだけど。


 そこで、ちょっとした食材や、調味料、雑貨などをいろいろ購入した。


 結構な量になったと思ったけれども、九十九と同じように、雄也先輩はどこかにその荷物を収納していく。


 やはり、わたしは荷物持ちとしてここにいるわけではないようだ。

 そして、彼が購入した物の中からわたしに手渡された物は、一つだけだった。


 買い物を済ませた後、少しだけ、村の外へ出て、国境へと向かう街道についても少し教えてもらった。


 魔界の国境には、立て札などの看板、杭や石、塚など、その境界の目印となるようなものは特にないそうだ。


 それでも、魔界人ならその国境線という境界線を通過するだけで、国が変わったことは分かるらしい。


 大気魔気と呼ばれている大気中に含まれている魔力の変化によるもので、文字どおり空気が変わるとのことだ。


 ただ、それを感じるはずの魔力が封印されているため、大気魔気の流れと言うやつもよく分かっていないわたしにその変化が分かるかどうかは今のところ謎ではあるが。


「通常の封印なら、大気魔気の変化は分かるはずだけど、栞ちゃんの封印はちょっと特殊なもののようだからね。どんな反応が出るかは俺にも予想ができない」


 雄也先輩もそんなことを言っていたので、本当にどんな状態になるかは分からないようだった。


 封印の種類がはっきりしない以上、出たとこ勝負になってしまうのは仕方ないのかもしれないね。


 そして、その帰り道。

 村の宿に向かって直進するため、街道から少しだけ外れた時だった。


「さて、ようやくお出ましのようだ」

「え?」


 ポツリと呟いた雄也先輩の言葉の意味が分からなくて、わたしは思わず聞き返してしまった。


 だが、どうやら彼は先ほどの言葉をわたしに向けて言ったのではなかったらしい。


 基本的には話し手の目を見てしっかりと話す人が、前を見据えたまま、その涼しい表情を崩していない。


「ゆ、雄也先輩?」

「心配しなくても大丈夫だよ。そこにいる兵に声をかけているだけだから」


 そう言うが、わたしにはやっぱり見えない。

 そこにいるってどこにいるのだろう?


 九十九と一緒にいる時もそうだけど、魔界人の感覚ってちょっとばかり鋭すぎると思う。

 見えないものが何故見える?


「よく気付いたな。おかげで話が早く済みそうだ」


 そう言いながら、わたしたちの前に姿を現したのは、アリッサムの人だった。


 確か、バルディア隊長さんに対して、結構、近い位置で話をしている人だったと思う。


 アリッサムの人たちは隊長さんを除いて、わたしたちとあまり話をしようとしないからその認識が間違っていないのかは自信がないのだけど。


 でも、わたしは本当に気付かなかった。

 全然、気付かなかった。

 全く気付かなかった。


 木の陰からその人が姿を見せるまでそこにいたことに。


「あの村で顔を合わせているというのにわざわざ、このような場所で私達に接触するとは……。まさかと思いますが、バルディア殿のご指示でしょうか?」

「隊長とは関係ない。自分が勝手に動いたことだ」

「つまりバルディア殿はご存じない……と?」

「そうだ」


 きっぱりと答える相手に対して、雄也先輩が少し目を細めてこう言った。


「それは嘘ですね。少なくとも隊長には話を通したことでしょう。ご自分のお考えに信念があるようですから」

「それについては答える義理はない」

「それもそうですね」


 そう言って雄也先輩は口元に笑みを浮かべる。


 ああ、うん。

 この人は本当に敵に回って欲しくない。


 特に何かしたわけでもない自分でもそう思ってしまう。


 優しげに笑っているけど、なんとなく怖いのだ。

 こう背筋にゾクゾクっとしたよく分からない気配がしている。


 気温は温かいのに、なんとなくそこだけ空気が冷えているような不思議な感覚があって、少し震えてしまう。


 冷気を仕切る壁はなくても、この空間だけ何かに囲まれ、冷蔵庫になってしまったような冷え冷えとした空気があった。


「それで、私共に何の御用でしょうか? あまり表沙汰にしたくないことだとは思うのですが」


 確かにちょっとした会話をするとか、用事があるというのなら、村の中でも良いとわたしも思う。


 しかも雄也先輩の言葉から、ずっと後を付けてきたと考えるべきだろう。

 そこまでしなければいけないなんて、ちょっと普通の用事ではない気がする。


「自分も荒事にしたくはない。が、お前たちの態度次第ではそれも分からん」


 いや、その言葉と態度が、既に荒事にしたくない人間がとるべき行動ではないのではなでしょうか?


 でも、それを口にして火に油を注ぐようなことをするほど命知らずもでもないので、とりあえずお口にチャックをしておく。


 相手はわたしと常識が違う魔界人だ。

 何がきっかけで魔法を使われるかも分からない。


「用件は? 内容が分からなければこちらも話のしようもありません」

「大した話ではない。あの御方から、お前たちの自身の意思で、という形で離れろ。話はそれだけのことだ」


 雄也先輩の問いに相手はそっけなく答えた。


「あの御方って……、水尾先輩のことですよね?」

「多分ね」

「元々、この村でお別れするつもりでいたのですが……」


 わたしは雄也先輩に視線を向ける。


「その辺りはお互いしっかりと話し合ってなかったからね。彼らが不安に思う気も分からないでもないかな」


 雄也先輩にそう言われて気付く。


 改めて考えてみれば、九十九には自分の意思を言っていたけど、肝心の水尾先輩とはその辺りの話を一切、していない。


 本来なら真っ先にしなければいけないはずなのに。


 向こうからしたら、こちらがこの先どうするかなんて知らないし、分からないのだから、心配になるのも分かる気がする。


 尤も……、わたしたちが一緒に行きたいと口にしたところで、水尾先輩自身が断る可能性だってあるのだ。


 共に来て欲しいと願った所で、わたしたちには、それを彼女に無理強いする権利もないのだし。


「それは、こちらよりあの方にお伝えするべきではありませんか? 素性の知れない輩たちと長く付き合うのは感心しないと言えば、納得されるでしょう」


 ああ、確かに。

 雄也先輩の言葉で妙に納得した。


 アリッサムの人たちからすれば、わたしたちは正体不明の変な連中なのだ。


 水尾先輩の身分が高いのはあの扱いから分かっている。

 そうなると、このまま交際を続けて欲しくはないと思うのが普通かもしれない。


 良家のお嬢様に悪影響を与えそうな庶民に対して、これ以上付き合うなって従者が迫ることなんて、少女漫画のお約束だよね。


 今の状況はそれとよく似ていた。


 自分の基準がいちいち漫画や小説の知識なのはしょうがない。

 魔界の常識、非常識なんて魔界人一年生のわたしが知るわけもないのだ。


「我々が言った所で、聞くような方ではない。だからと言って、このまま捨て置くこともできない」

「あの方を説得せずにこちらから離れろ……と。どうする? 栞ちゃん」


 雄也先輩が笑顔のまま、わたしに決定権を委ねる。

 わたしが返答して良いらしい。


 だから、わたしは……。


「お断りします」


 自分でもびっくりするぐらい、あっさりとその結論が口から出てきたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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