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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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興味の違い

もう思春期から外れているはずの男女の会話がやっぱり酷い。

そして、念のために、主人公と護衛弟は18歳です。

もう中学生ではないのです。

ないのですけどね……。

「疑問の一部はなくなったかな」


 わたしが、九十九に向かってそう言うと……。


「それでも、一部だけなのか?」


 彼としてはそこが引っかかったらしい。

 眉を顰めながら、そう尋ねてきた。


「ん~、男性の第二次性徴についてはやっぱりよく分からないと思って」

「お前は女だから当然だろう? オレだって、女の身体のことはよく知らん」

「少なくとも、わたしよりは知っていると思うよ?」


 それはあの「音を聞く島」で、止血栓の話をした時に思った。


 わたしは女なのに、自分の身体のこともよく知らなかったのだ。

 生理でもないのに止血栓は無謀だった。


 そして、もう二度と使わないと学習もした。


「これって、医学の知識とかそんな違いなのかな?」

「単純に興味の違いだろ」

「ぬ?」


 興味の違いとな?


「お前が男に求めるのは外見。あ~、絵を描くために、日頃から視界に入る部分しか興味はねえだろ?」

「まあ、そうだね」


 殿方に求めるのが外見と言えば、聞こえは悪いけれど、九十九が言うように、絵を描くために必要なのはその部分だ。


 消化器官とか、呼吸器官とか、生殖器官などの身体の中身に興味はない。


 そんな作品を描きたいなら必要かもしれないが、今のところ、内臓が透ける系、飛び出る系の漫画を描きたいとも思っていない。


 対して、九十九はもともと医療に興味があったために、わたし以上に薬や人体を知っている。

 その違いは確かに大きいかもしれない。


「つまり、九十九は女性の身体の内部まで興味がある人ってことか」

「ちょっと待て? それだけ聞くと、オレがただの変態みたいじゃねえか」

「そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど」


 誤解させてしまったらしい。


「その辺りについては、男だからある程度は仕方ねえ」

「うぬ?」

「異性愛者で女の身体に興味を持てない男は、いろいろ不自然だ」

「ぬ? それなら、異性愛者なのに、殿方の身体に興味を持てないわたしはどこかおかしいの?」


 前々からそんな気はしていたけど、やはりわたしはどこか欠けているのだろうか?


「待て待て。野郎って言っただろ? 平均的に見て、男女で性欲……、肉体的な欲望が同じはずがねえよ」


 九十九が慌てて、わたしの考えを否定してくれる。


「つまり、男性の方が性欲過多ってこと?」

「過多って……。いや、過多なんだろうな。多分。人間界でも性的暴行系の罪を犯すのは、圧倒的に野郎が多かった」


 そこで彼は大きく息を吐いた。


「こんな話で、少しはお前の疑問は解けたか?」

「謎が深まった」

「そうか」


 九十九が肩を落とす。


「まだどんな謎があるんだ?」

「答えてくれるの?」


 さっきまでは気が進まないようだったのに。


「他所でぶちまけられたりするよりはずっとマシだと判断する」


 そして、頭をガシガシと掻いて……。


「但し! 当然ながら、オレにも答えられない質問はある。頼むから、()()を、超えるな」


 そう強い言いながら、強い瞳をわたしに向ける。


「ぬ? 限度?」


 この場合の限度とはなんぞや?


「お前は何も知らないのを良いことに、平気でとんでもない質問をするんだよ」

「それは何も知らないからしょうがないことなのではなかろうか?」


 その限度の範囲も分からない。


 いや、一応、他人に話すべきことではない範囲ぐらいは分からなくもないけれど、九十九なら大丈夫って思っちゃうんだよね。


 その結果、「痴女」とか、「オレの性別を考えろ!」って言葉を叫ばれてしまうわけだけど。


「だから、先に全ては答えられないと言っておく。オレが答えられないのはその限度を超えた時と思ってくれ」

「らじゃ!」


 わたしはそう答えた。


「ああ、でも、内容的に『発情期』のことにも触れて良い?」


 そう問いかけると、九十九の肩がピクリと動いた。


「例えば?」

「えっと、わたしのそういった知識は教科書等の書物からだけど、体験って、ご存知の通り、九十九から『発情期』にされたことがほとんどなんだよね」

「それで?」

「だから、その辺についてのアレやコレについても、少々、伺いたいことがあると言いますか……」


 わたしがそう言うと、九十九が俯いた。


「そんなこと言われたら、オレは()()()()()()()()()じゃねえか……」


 さらに、弱く小さな声でそんなことを呟かれる。


「いや、別に答えたくないなら無理に答えて欲しいとは言わないけれど」


 九十九にとって、あの「発情期」は忘れたくないことだって言ってた。


 それは、当人が言うように年頃の男性として異性の裸とかそういったものを覚えていたいという話なのではなく、もっと深い感情の反省、後悔、悔恨、とかそんな後ろ向きなものから来ている気がする。


 だから、話すことで彼の傷が深まるなら、わたしはそこに塩を塗り込む気はない。


 わたしの疑問は、単純に興味本位なだけだ。


 知らなければ知らないままでも問題はないし、九十九の言うように、未来の旦那さまに教えていただくというのもありだろう。


 まあ、未来の旦那さまがそんな会話をしてくれるかは分からない。

 異性とこんな会話を苦手とする人もいることは知っている。


「いや! オレのせいだって言うなら、ちゃんと話せ。お前に余計な疑問を与えてしまったのはこのオレだ」


 余計な疑問?

 はて?


「オレがやらかさなければ、お前がそんな疑問を抱くこともなかったってことだろ?」

「それはそうかもだけど……」


 確かに九十九から押し倒されなければ知らなかったことは多い。


 行為とか、感情とか、そういったものは知識として知っていても、そこに感覚はなかったから。


「オレも()()()()()()。だから、話せ」

「じゃあ、遠慮なく」


 そう促してくれるなら、遠慮はしない。


 わたしは向き合った方が良いと、九十九は言った。


 それならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ―――― ゴンッ


 本日、何度も机に伏していた九十九だったが、これまでになく良い音が響き渡った。

 多分、おでこをぶつけた音だと思う。


「つ、九十九?」

「オマエハ、ナニヲ、イッテルンダ?」


 顔を伏せたまま、何故か、片言で問いかけられた。


「いや、この辺りは女性として気になるんだよ。あの反応って『発情期』だったからなのか。それとも、そんなことに関係なく、反応するのか? ……って」

「ちょっと待て? その反応というのはもしかしなくても……」


 九十九が顔をゆっくりと顔を上げようとしている。

 多分、直接的な言葉は避けた方が良いよね?


「えっと、殿()()()()()()()()()()現象?」


 ―――― ゴゴンッ


 九十九が上げかけた顔をもう一度強打した。

 いや、音からすれば連打かもしれない。


「何故、そんな疑問を持った?」


 その声は震えている。


 だけど、顔は見えないし、体内魔気は見事に抑え込まれているために、それがどんな感情なのかが読めない。


「えっと、『発情期』の時が、その……、硬くて……」


 本当に驚いたのだ。


 あの時、自分の太ももに当たっていた硬いモノのは、深く考えたくなかったけれど、そういうことだったって。


「そんな状況で硬くならねえ男がいるかよ」

「いや、思った以上の硬度でびっくりしたんだよ」

「硬度とか言うな」


 そんなこと言われても、人間界で料理に使っていた麺棒を仕込んでいるのかと思ったほどだったのだ。


 因みにこの世界で麺棒は下手に使うと食材が大変なことになります。

 九十九は器用に使うけどね。


「それで、通常でもあんな状態になるのかと疑問に思った」

「それは、オレの状態の話か? それとも、お前を見て反応するのかって話か?」

「ぬ?」


 問いかけられて考える。


「九十九の状態の話……かな? でも、わたしを見て反応するのかっていう点も確かに気にはなる」


 可愛いと何度も言われて、そこに嘘がないことも理解したが、それが女性としてのそういう方面の魅力かは別の話だと思う。


 小動物や赤ちゃんのように、小さい生き物は可愛いからね。

 自分で小さいことを認めるのはちょっと嫌だけど、事実だから仕方ない。


「オレの状態は冷静に比べたわけではないから、多分、通常よりは硬かったとは思う。あの時は、血の集まりがいつも以上だったからな」

「ぬ? 血?」

「陰茎海綿体は血が集まることで硬さが増す」

「筋肉じゃないの?」


 硬いから筋肉だと思っていた。


「骨盤底筋の中に球海綿体筋と呼ばれるものはあるが、ソコが硬くなる理由は血液だな」

「ふおおおっ!! 初めて知った!!」


 あの硬さが血?


 え?

 でも、血は固まるけど、それとは何か違うよね?


「もう一つの問いについてだが、それは肯定させてもらう」

「ぬ?」


 肯定?


「何度も言ってるが、オレは男だ。同じ年代の可愛い女が扇情的な姿をしていたら、多少の反応はする」

「ふ?」


 ああ!

 わたしに反応するかって話か。

 いやいやいや?


「扇情的って?」

「薄着とか、肌が見えるような姿だな」

「わたし、あまりそんな恰好しないよね?」


 多分、セントポーリア城下の森で水着代わりに着た神衣(かんぎ)ぐらいだ。

 それもパーカーで覆って、まあ、足ぐらいの露出である。


 そして、どんなに頑張っても、九十九の「発情期」の時ほどの露出はあり得ない!!


「そうだな。その点は本っ気で、助かっている」

「……と言うことは、ここでチラッと肩でも見せたら、反応しちゃう?」

「止めろよ? 『発情期』にはならなくても、男としての機能が無くなっているわけじゃねえんだ。オレの理性が吹っ飛んで、うっかり、何かあっても責任は持てん」

「いや、そこはある程度、責任は持ってよ」


 今更、わたしが肩をチラリとしたぐらいで九十九が反応するとも思えない。

 仮に反応したとしても、いつもの「お父さん魂」に火が付くぐらいだろう。


 それに、今、彼は完全に顔を上げない。


 顔を上げると、怒りそうだから、我慢してくれているのかもしれないね。


「悪戯心から、わざと男の感情や情欲を煽るような女にどんな責任を持てと?」


 さらに、そんな正論を言う。


 だけど、先に忠告してくれるから、これは本気じゃないんだろうなとも思うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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