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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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2100/2804

魂を縛る行為

祝・2100話!

「それらの件に関して謝罪は不要です」


 ある程度、話を聞いた上で、オレとしてはそう口にするしかなかった。


 普通に考えても、人間の身で神に逆らうことなどできない。

 そして、ヤツらの思考は、人間と全く違う。


 倫理も、論理も、感情も、オレたちとは別の生き物なのだ。


 どんなに研究しても、言葉を尽くしても、次元が違う存在に人間たちの道理が通じるはずもない。


「主人が、創造神によって『境界』に招待されたなら、遅かれ早かれ、そうなっていたことでしょう」


 既に、一度、創造神は栞と接触しようとした形跡がある。


 リプテラでオレと兄貴が見た白い彫像が本当に創造神の姿を模したものだったというのなら、恐らく、あの時点で、栞は創造神から誘われていたようなものだ。


 今回のことと、どこまでそれが関係しているのかは分からないが、少なくとも、前々から創造神は栞に会いたかったのは間違いないと思う。


「寧ろ、そんな状況の主人に付き添っていただいたことに感謝いたします」


 オレはそう頭を下げる。


 もし、大神官が言う通り、創造神が「境界」から栞を戻そうとしなければ、そのままでいた可能性もあるのだ。


 一番、分かりやすいのは、栞の母親である千歳さんの例だ。


 あの方は、自分の意思と関係なく創造神の手によって、地球から遠く離れたこの惑星(ほし)まで連れて来られた。


 それと似たようなことをされてしまえば、オレたちに手立てはほとんどない。

 しかも、千歳さんの時と違って、今度は完全に世界が違うのだ。


 移動魔法は論外だし、転移門や聖運門でも、次元(時間の流れ)が違うような異世界にまでは行くことができないだろう。


 夢が繋がりやすいとはいえ、頻繁に訪れているという栞が異状なのだ。


 なんでそんな才能を持っているんだろうな? あの女。


「それでは、この件に関してはここまでと致しましょう」


 どうやら、まだ用件はあるらしい。


「創造神アウェクエアによって、栞さんの意識が『境界』へ引き込まれることになりましたが、その前に、私はもう一つ、貴方方にお詫びをしなければならないことをしました」

「もう一つ?」


 何のことだ?

 それこそ、心当たりがない。


 栞が「境界」に連れ込まれるきっかけになったのは確かに大神官だったらしい。


 だが、それは創造神が仕掛けたものだったというのなら、どんなに逃げようとしても回避することは不可能だったことだろう。


「九十九さんは、『境界』に栞さんの意識が引き込まれた時の状況についてはどこまで伺っていますか?」


 先ほどから時々確認が入る。


 いや、情報共有が大事なことはオレにも分かっている。

 だが、少し、そこが引っかかった。


 恐らく、大神官は自分にとって不利だと分かることを隠そうとしているのだろう。

 それでも、大神官の知識と見解が分け与えられるだけでも情報提供としては十分だ。


 下手に藪を(つつ)くわけにはいかない。


「性急な主人が止める間もなく行動に移したために、大神官猊下の準備が間に合わず、意識を繋げることしかできなかったと聞いています」


 それはそれで凄いと思うけどな。


 そもそも、他人と意識を繋げるってどうやったらできるのか?

 しかも、それは碌な準備もなく、咄嗟にやったことだという。


 オレなら……?

 栞が「境界」に招待されると気付いた時に何かできたか?


「そのことを聞いた時、九十九さんは、どう思われましたか?」


 そのことを聞いて?


「主人はどうしてこうも短絡的なのかと思いました」


 いくら相手を信頼しているからと言って、何の前置きもなく、すぐに行動に移してしまうのは阿呆だと思った。


 しかも、いつもそうなのではなく、時々、そんなことをするから厄介なのだ。


 常時、そんな行動力がある相手ならば、逆に警戒できる。

 常に何かやらかさないかを見張るだけで良い。


 だが、たまにそんな行動を起こす相手は読みにくいのだ。

 行動を起こすタイミングが、全く予測できなくて困る。


 本当にどこからどこまで手強い(面倒な)女なのだろう。

 大神官の前だというのに、ドでかい溜息を吐きたくなる。


「本当ならば、意識ではなく、魂を繋ぐ予定でした」

「何も考えていない主人が行動に出たため、それができなかったのですね」


 意識を繋ぐというのは兄貴が他人の夢に入れることから、なんとなく、想像はできる。


 アレと似たようなものだろう。

 オレにはできないが。


 だが、魂となれば想像もつかない。

 つまりはどういう状態だ?


「勿論、栞さんの許可を得た上で行う予定ではあったのですが、その……、あまりにもあの方の決断が早く、許可も注意も何もできない状態だったので、無許可で意識を繋がせていただきました。本当に申し訳ございません」


 珍しく歯切れの悪い言葉を言いながら、深々と頭を下げられた。


「いえ、この場合は、主人が悪いと思います」


 オレからすれば、そうとしか思えない。

 そんな状況で、オレがいても栞を止められる気がしない。


 魂を繋ぐ意味とやらはよく分からんが、それでも、咄嗟に意識だけを繋ぐことができただけでも凄いと思うぐらいだ。


「それでも、栞さんの許可を得ずに私は意識を繋ぎました。それは許されることではありません」

「主人は許したのでしょう?」

「栞さんは、大らかなので気にされなかったことでしょう。それでも、本来は、互いの意思の下、已む無く使う手段となります。互いの魂を縛ることになりますから」


 已む無く?

 つまり、それは大神官としても不本意な行いと言うことか?


 そして、魂を縛る?

 やはり、分からない。


「不勉強で申し訳ありませんが、それはどんな意味を持つのでしょうか?」


 恐らくは神官世界では通用するのだろう。


 だが、オレは一般人だ。

 はっきり言って、それだけでは分からん。


「魂の結びつきは、嘗血(しょうけつ)、いえ、血縁関係以上の、縁が結ばれるようなものです」


 つまり、オレと栞以上の縁ということになるのか。

 それは確かに少しだけ引っかかるものがある。


「それも一度魂を結んでしまえば、一時的なものではなく、一生涯となります」


 血縁関係以上ならそれでもおかしくはねえな。


「それは、互いの存在が常に身近に思えるほどだと伺っております」

「…………」


 それはムカつく。


 いや、うん。

 オレにそんな資格はねえと分かっていても。


 それは確かに許可が要るというのは理解できた。

 そして、栞のことだ。


 それが必要だと思えば、恐らく、深く考えずに承諾したことだろう。


「それを、行おうとした理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


 ああ、オレは本当に未熟だ。


 ある程度、気持ちに整理を付けているはずなのに、それでも、たったコレだけのことで精神が激しく搔き乱されてしまう。


「栞さんと縁を繋ぐためですね。恐らく、『境界』へ魂が連れ出されるとは思っていたので、その対策となります。勿論、拒まれれば、それ以外の手段を使うつもりでした」


 ああ、「境界」へ魂が連れ出される時は、仮死状態になるからか。


 その説明を碌に聞かず、栞の先走った行動の結果、魂を繋ぐことなく、意識だけを繋ぐことになったらしい。


「意識を繋いだ状態というのも一生涯なのでしょうか?」

「いいえ。今回は不規則な形ではありましたが、意識だけならば断つことは可能です。それだけに、縁としては弱いものとなり、神々が栞さんを戻さないと判断した場合、引き寄せることが難しくなります」


 ああ、縁で手繰り寄せる力が弱くなるから、綱引きで負けるってことか。


「私が立ち会うことは、できなかったでしょうか?」


 少なくとも、オレは栞と縁がそれなりにある。

 だから、大聖堂で栞が仮死状態になった時も繋ぎ役となったはずだ。


 いや、あの時は水尾さんや兄貴もいたけれど。


「……『寵児の間』は、神力の所持者と、王族以外は立ち入れない場所です。そして、同時に大神官と王族の許可が要ります」


 王女殿下である若宮は、大神官がどこにいるのか分からなかった。


 そうなると、ストレリチア国王陛下か、グラナディーン王子殿下のどちらかに許可を頂いたことは間違いなさそうだ。


 そして、その条件ではオレは立ち入れない。

 大神官の判断はやむを得ないということにはなるが……。


「それでも、主人をそこに連れて行く前に、先にその話だけは伺っておきたかったです」


 それが、どうしても避けられないことならば、せめて、事前に心の準備だけはしておきたかった。


 そうすれば、こんな気持ちにはならなかっただろうに。

毎日投稿を続けた結果、とうとう2100話です。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、最近ではいいねをくださった方々と、何より、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげです。


まだまだこの話は続きます。

頑張らせていただきますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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