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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~

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道連れにはしたくない

「意外に状況が見えているんだな」


 九十九はわたしを見ながら、心底意外そうにそう言った。


「ど~ゆ~意味?」

「いや、本音を言うと安心した。オレはどう説得しようかと思っていたからな。ただあっさりしすぎて拍子抜けもしている」


 九十九はそう言いながら、肩を竦める。


「……この国の王子さまと会話したからかな。同じ言葉で話しているはずなのにどこか微妙に通じてないような変な感じだった。今までの考えでいたら通用しない気がする」


 それは言葉だけじゃなかった。


 肌で感じたその不思議な感覚をどう表現して良いかは分からないのだけど、ここはやはり、今までの場所とは世界が違いすぎるのだ。


「あの日から、ふらふらどこか行くこともなくなったしな」

「この状況でふらふらしたら間違いなく迷子だよ」


 明確な境界もないような土地で独り歩きとか、勇者にしか許されないだろう。


「通信珠はあっても万全じゃないからな。城下の森のような自然結界じゃなければどこにいてもお前を探し出す自信はあるが」

「それも凄いね」


 その探索能力ってかなり凄いよね。 


「魔界だからな。人間界にいたときよりは感覚が鋭くなっているのは分かる」

「その探す力も探索魔法みたいなものなの?」

「いや、お前限定」

「は?」


 ど~ゆ~こと?

 意味が分からなくて短く問い返す。


「なんでか分からないけど昔からなんだよな~。血の繋がった兄貴よりも、何故かお前の居場所の方が分かるんだ」

「……そうなのか」


 それがどういった理由によるものなのか分からないと九十九は言っている。


 過去に何かあったのか、単にわたしの気配が分かりやすいのか、特殊事例なのかは今の段階では分からない。


 わたしの記憶とやらが戻れば、その謎も解けるのかもしれないけど。


「何、締りのない顔、してんだよ?」

「ふえ!?」


 九十九の言葉で緩んでいた口を思わず押さえる。


「体調でも悪いか? 少し顔も紅い」

「……疲れだよ、多分」


 そ~ゆ~ことにしておこう、()()()()()()()


 いや、「どこにいてもお前の居場所が分かる」って、少しばかりストーカーちっくではあるけれど、ちょっとときめくよね?


 え?

 わたしの感覚って、ちょっとおかしい?


「で、お前の立ち位置としては、積極的に誘いはしないってことで良いか?」

「へ? な、何が!?」


 自分の思考に没頭していて、反応が遅れた。


 積極的に誘う?


 え?

 何が?


「水尾さんのことだが?」

「あ、ああ、そうだね。巻き込む確率100パーセントだからな~」

「巻き込まれる確率も高いようだがな」


 九十九は溜息を吐く。


「……そうだね。でも、水尾先輩なら、大丈夫そうだよ。あの人たちを跪かせる立場にいるみたいだし」

「そこなんだよな~。かなり高位の貴族だろうけど……、彼女が王族なら、単独行動はしないしさせないと思うんだよ」

「……セントポーリアの王子さまは単独行動してた気がするけど」


 そうじゃなければ、わたしと会うこともなかった。


「同じ王族でも男と女じゃ意味合いが違うんだよ。基本的にどの国でも王族の女は一人で城から出すことはないはずだ」

「それって……、男女差別?」


 やはりこの世界にもあるのか。


「男女区別だよ。特に我が国のような血縁主義のとこはそうなりやすいな。貴族が出世のために王族の女性を襲うって話もあったらしい」

「襲うって……、殺すってこと?」


 上の人間がいなくなれば自分がその地位に就けるってことだろうか?


 まるで戦国時代のようだ。

 立身出世というやつだろうか?


「……出世のために殺してどうするんだよ? あ~、王族の女に自分の子を産ませるって言えば伝わるか?」

「……なんで?」


 襲うってそっちの方か。

 でも、それはそれでかなり嫌だ。


「だから出世のために? 人間界で言う身売り結婚が近いかな」

「平安時代みたいな話だね。女性を道具みたいに……」


 女性の人権とかそんなものがないってことなんだろう。

 現代日本で生きていた自分にはどちらにしても馴染めない考え方だ。


「それだけ血というものが強いんだよ。自分は駄目でも子に託すようなもんだ。ああ、今のお前の状況もそんな感じだろ?」

「おおう。そう言えば……。でも、わたしの封印の解除をした所であの王子さまよりも強いとは限らないのにね」


 言われてみれば、この旅が始まったきっかけもセントポーリアの王子さまから気に入られたからだった。


「そんな風に厄介なヤツに目を付けられないよう、貴族でも高位だったり、魔気が強い女はほとんど単身で行動しないもんだ。だから、ほとんど城から、与えられた場所から出ない」

「……ってことは、その考え方に当てはめるなら、水尾先輩は王族ではありえない、と?」


 九十九の言葉通りの考え方ならそうなるだろう。


「通常規格ならな。たまに規格外の王族もいるから絶対とは言い切れない。……ていうか、個人的には王族であって欲しい」

「なんで?」


 彼は時々、不思議なことを言う。


「あんな魔法の遣い手がゴロゴロしている国。それ以上の遣い手もいるとあっては、自信をなくす」


 九十九は苦笑する。


「確かにこの前見たのは凄かったね。七色の炎!」

「魔法に対する考え方がまったく違うのは分かった」


 自信を失くすと言っている割に、彼にはそこまで消沈した様子はなかった。


「で、九十九はどうしたいの?」

「何が?」

「わたしは水尾先輩を一緒に行くのは難しいと思ってるけど、その話しぶりだと、九十九はなんか、一緒に行きたがっている気がする」


 それは本当になんとなくなのだけど……。


「……そうか?」

「妙に意思確認するあたりがそんな感じ」


 本当にダメなら、何度も確認する必要はないだろう。


「……少しはあるな。あの時見たのが全てじゃないだろうから。できれば、魔法をもっと学びたい」

「雄也先輩からでも学べるんじゃないの?」


 兄だけど、九十九の先生でもあるんだよね?


「……兄貴は情報を小出しにする。そして、オレが知りたいことじゃなく兄貴が伝えたいことしか教えてくれない。それじゃ、今より成長できないんだよ」

「なるほど……、魔法の先生として、水尾先輩がいてくれると良いってことね」


 学べる場が増えるのは良いことだよね。


「もう一つ、水尾さんがいてくれると助かることがあるんだよ」

「そうなの?」

「お前のお()り」

「なんでやねん!」


 彼は、わたしをいくつだと思っているのだ?


「同じ女の方が都合が良かったりするんだよ。実際、行動するまで意識してなかったけど、こんな宿とかでオレたちが同室になるのはお前が抵抗あるだろ」

「ぐっ! た、確かに」


 大丈夫だと分かっていても、同室はちょっと落ち着かないかもしれない。


 大丈夫だって分かってるけどね!!


「風呂とか含めて、四六時中見張っておくわけにはいかない」

「うぬぅ……。覗かれるのは嫌だね」


 護衛が異性だからこその問題点。

 それが、同性が一人加入するだけで一気に解決するってことか。


「……他にも理由があるけど、大まかにはそんな感じだな」


 他にもまだあるのか。


「……数日で随分、変化があったもんだね。城下を出る前は渋々だったのに」


 それがちょっと不思議だった。


 九十九は、簡単に意見を変えるような人には見えないのに。


「状況が変わった。……というか、問題が分かりやすく浮き彫りになったと言うべきだろうな。兄貴がどこまでその辺りを含めて考えていたか分からんが」

「信用とかそう言った点では?」

「口は悪いし、やや暴力的ではあるけど、悪い人間ではないってことは分かった。ズバッというところも嫌いじゃない。人の話を聞いてくれない部分は少し困る時もあるが、まあ、許せる範囲ではあるかな」

「……ふ~ん」


 九十九には悪いけど、少しだけもやっとした。


 水尾先輩が良い人間ってのはわたしだって知っていることだ。

 それを改めて言われたことが、少し腹が立ったんだろう、多分。


「因みに水尾先輩と一緒に行くことで、水尾先輩の方にメリットはある?」

「ヤツらと別ルートで情報収集できるのが最大のメリットだな。我が身可愛さに双子の……、真央さんだっけ? を忘れて目立たぬよう大人しく生きてくなんてことできるような人じゃないだろ?」

「ああ、要するにここでじっとしていないと」


 なんとなくそんな気はする。


「ヤツらはヤツらで情報収集するとは思う。だけど、今回のことから分かるようにヤツらのやり方が必ず良いこととは限らない。それに水尾さんも意外と世間知らずなところもある。そういった意味では目的に辿り着くにはかなりの時間がかかるだろうな」

「九十九と一緒なら真央先輩の所に辿り着けるってこと?」

「オレ……、というより、兄貴と一緒ならな。お前が望むなら水尾さんと共に行くことも、真央さんを見つけ出すことも可能にしてしまうだろう」


 確かに雄也先輩なら何でもできそうな気がする。


「でも、それが本当なら水尾先輩にとってはかなり良いことだよね」

「だが、あの様子ではヤツらが手放すとも思えん。水尾さんにとっても、ヤツらといた方が危険は少ないし、護られるわけだからな」

「さっきも言ったように危険に巻き込むのはわたしも嫌だ」


 それだけは譲れない。


「どちらにしても、オレたちはお前の意思に従う。後で迷うことのないのを選べ」

「うん、分かった」


 でも、そんな自分の意思だけで簡単に決定できることではない。

 それに……、やっぱり、わたしは別れて進むのが正解なんじゃないかなって思うんだ。


 九十九が言うように、ここ数日、水尾先輩には何度も助けられた。


 九十九と二人だけだったらもっと色々な問題もあったかもしれない。

 何より、水尾先輩と一緒なのは楽しかった。


 それは確かに本当のことだ。

 その気持ちに嘘はない。


 でも……、自分のせいで目の前にいた人がいなくなることに、自分が耐えられるとは到底思えなかったのだった。

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