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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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過去を視た後で

 恭哉兄ちゃんは、わたしを後ろから抱き締めたような態勢のまま、こう言った。


「私はただ過去の事実を知りたかっただけです。この世界の犠牲(人柱)となった神子たちは、本当にそれを自ら選んでくださったのかを」


 それは、恭哉兄ちゃんにとって、長年の疑問だったのかもしれない。


 何千万年という気が遠くなりそうなほど昔の話。

 人類の過去というよりも神話と呼ばれる形で歴史が残っているほどのもの。

 今となっては事実を知る者もいないほど古い時代の物語。


 どんなに人類が過去に起きたことを夢に視ることができたとしても、その時代には辿り着けなかったことだろう。


 だけど、それを知りたかった。

 人類の創生……、いや、再生の歴史。


 その答えは既にある。

 そして、恭哉兄ちゃんも知っているはずだ。


 あの世界に招待されたわたしと、意識や感覚の共有をしていたのだから。

 わたしが見たこと、聞いたことを全て体感したはずなのだから。


 同じ物を見て、同じ言葉を聞いて、その時のわたしの気持ちも感じていたはずなのだから。


「栞さんは、どう思われますか?」


 それを知っていても尚、わたしに問いかける。


「女性である貴女の方が、彼女たちの気持ちをより深く理解できたのではないでしょうか?」

「ん~? どうだろう?」


 結局は違う人間だ。

 あの時の彼女たちの気持ちを想像しても、完全に理解ができるとは言い切れない。


「わたしはアルズヴェールさまではなくて、『ラシアレス』だからね。神さまを受け入れた神子たちの気持ちは分からないよ」


 あの日、アルズヴェールさまはラシアレスさまの元へ行くために、神さまと交渉して、さらに受け入れた直後に、その場に乗り込んだという。


 そんなことは多分、並の人間ではできない。

 抵抗を諦めてしまったマルカンデさまはある意味、人間らしいと思う。


 ラシアレスさまは運が良かったとも言えるが、抵抗をしなかったわけでもなかったのだろう。


 あれを見て、そう説明された時は、真っ暗な中、一緒にいたアルズヴェールさまが裸だったことを知ったから驚いたのだと思った。


 でも、今は違う。


 ―――― 見られたくなかったのだ


 外見はどうであれ、アルズヴェールさまの中身は男性で、しかもラシアレスさまの好きな人だった。


 そんな人の前で、別の男性に抱かれ……、いや、襲われかけた後の自分の姿など見て欲しいはずがないだろう。


 無事だったかどうかなんて関係ないのだ。


 そして、真っ暗な状態では、互いに身なりを整えることもできなかったと思う。


 この世界の人間ならば、一瞬で早着替えをすることができるだろうけど、神子たちは皆、自分で着替えたり、侍女たちに着替えさせられたりしていたから魔法で着替えることもできなかったと考えるべきだろう。


 彼女たちは一度も魔法を使うことができなかったようだ。


 身の回りのお手伝いをしてくれていた侍女さんたちは、召喚魔法や収納魔法をあれだけ使っていたのに。


 恐らく、肉体に魔力はあっても、魂は別人だから魔法が使えなかったのだと思われる。


 ラシアレスさまやリアンズさまを除けば、魔法契約のようなこともしていたから、契約していなかったというのは考えられない。


 それ以外は真央先輩のように魔力が強すぎて、使えない……、か。

 そっちの方が考えられるかもしれない。


 神子たちの中には、何度か魔法の練習をしているのだろうなと思う仕草をしている人たちもいたから、彼女たちも魔法は使いたかったのだと思った。


 でも、ラシアレスさまは一度も魔法を使おうとしなかったな。

 その違いはなんだろうね?


「でも、神子たちは自分たちでどうするかを決めたとは思った。神さまたちを受け入れることも、拒むことも、利用することも」


 利用したのは勿論、アルズヴェールさまだ。

 事前に神さまと取引を持ち掛けた上で、本当に護りたいものについては護り切った。


 神さま相手にそんな立ち回りは普通の人間にはできない。


 利用されると知っていてもその取引に応じた神さまも普通の神さまとは違ったのだろうけどね。


 そして、拒んだのはラシアレスさま。


 アルズヴェールさまの手を借りていたとはいっても、明るくなった後に見たあの姿からは、彼女も相当、抵抗したと思われる。


 いや、もしかしたら、暗闇の中でアルズヴェールさまから悪戯されていた可能性もあるけれど、そこは深く突っ込んではいけない部分だろう。


 リアンズさまは拒んだというか、あの方だけは世界観もその立場すら違っていた。

 もともと相手をする気すらなかったらしい。


 それならば、あの方に手を出そうとするような命知らずな神は、ヤンチャな気質を持った神さまぐらいだ。


 真っ当な感覚を持っていれば、あの方の前すら立つことができない。

 まあ、神さまの真っ当な感覚ってわたしたちとは異なるものだと分かっているけど。


 それ以外の神子たちは受け入れた。

 そこには、それぞれも感情、思惑があるだろう。


 マルカンデさまはかなりお気の毒ではあったが、その後に、前向きにとらえることができたなら、良いとは思っている。


 尤も、知ってはいけない部分まで知ってしまった気がしてすごく複雑だけど。


「だから、その恩恵によって今を生きているわたしからは何も言えない」


 勿論、勝手にいろいろな想像をすることはできる。


 音がなく、白黒写真でパラパラ漫画にしたようなコマ送り映像は、わたしに想像の余地を残した。


 下手すれば、それだけで壮大な漫画が描けそうだと思ってしまうぐらいに。


 いや、内容的にはいろいろよろしくない。

 特に「闇陽(あんよう)」については、大衆受けしないだろう。


 どの神子たちに焦点を当てても、それまでゆっくり育んできた愛情のごり押しになるか、否定するかのいずれかになるから。


 でも、わたしがあの中から一人だけ主人公を選ぶなら、アルズヴェールさまかラシアレスさまかな?


 アルズヴェールさまなら、間違いなく戦う主人公だ。

 どんなこんなにも負けない、折れない主人公。


 そうなると、ヒロインではなくヒーローになってしまう気がするけど、それはそれで面白いものが描ける気がする。


 ラシアレスさまなら、真面目だけで基本的には強いけれど、実は脆い部分もある主人公になりそうだ。

 一番、共感されるかもしれない。


 だけど、今のわたしではどちらも描けないとも思ってしまう。

 どう描いても、本物には勝てない。


 もっと頑張って、表現力を上げる必要があるだろう。


 そのラシアレスさまは神さまを拒み、そして、アルズヴェールさまが間に入ることで三カ月の猶予をもらえたらしい。


 その直後に、それまでラシアレスさまの中にいた魂は本来の場所へと戻ったのだから、その三カ月後には魂が異なるラシアレスさまが、神さまを受け入れたのだと思う。


 そうでなければ、わたしがこの世にいるはずがないのだ。


「でも、恭哉兄ちゃんは何か言いたいことがあるの?」

「いいえ。全ては済んだことです」


 過去に起きたことだからね。


「それでも、知りたかったというのは罪でしょうか?」

「罪ってことはないと思うよ。知りたいと思う好奇心って、簡単に止められるものでもないからね」


 身近にいる好奇心が強い人間たちを見ているとそう思う。


 一度、気になったことは、とことん突き詰めたくなるどこかの国の気質を色濃く持っている兄弟。


 あれ?

 そういえば、モレナさまも実は光の大陸……、ライファス大陸出身とか言ってなかったっけ?


 そうなると、王族とか関係なく、あの大陸の血が流れているとそうなっちゃうのかな?


 でも、恭哉兄ちゃんは多分、ここ地の大陸、グランフィルト大陸出身者だとは思う。


 法力や神力もあるけれど、この世界の人間らしく魔力もちゃんとある。

 そして、その体内魔気は地属性が主だ。


 つまり、九十九や雄也さんのように流れる血筋と生まれた場所の違いってことになるのかな?


 もしかしたら、出自隠蔽するためにわざとそうした?


 ライファス大陸で聖女認定を受けたモレナさまの子が、まさか、地属性だとは思わないだろう。


 そんな風にいろいろと考えていると……。


「確かに、知りたいと思う気持ちは容易に止められるものではありませんね」


 背中にそう響く声があったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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