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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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2064/2805

己の心が導くままに

『貴女は、マルカンデやシルヴィクルの子孫たちがいなければ、「神扉(しんび)()り手」の手を取った?』


 そんな、唐突な「神の影」さまからの問いかけに対して……。


「…………?」


 わたしは首を傾げるしかなかった。


 えっと?

 これって、どういう意味なのだろう?


 恐らくは地の神子マルカンデさまの子孫であるワカや、光の神子シルヴィクルさまの子孫……、多分、九十九や雄也さんのことだろうけど、彼らがいなければ、恭哉兄ちゃんの手を取ったかって話だと思う。


 これは深読みするべきもの?

 そこまで深く考えない方が良い?


 でも……。


「どの意味かは分かりませんが、あの方から伸ばされた手を振り払うようなことをするつもりはありません」


 恭哉兄ちゃんはずっと助けてくれている。


 人間界で会って助けてもらった時のことはさっぱり覚えていなくても、わたしの魔力を封印して、暴走の危険性を減らしてくれた。


 もし、あの時、あの人に会っていなければ、わたしは卒業式前まで持たなかった可能性がある。


 そして、その後も封印を解いたり、いろいろな場面で助けてくれているし、今も、尚、未熟なわたしの手を引いてくれているのだ。


 そんな恩人に等しい人の手を振り払うようなことはしない。


『言葉を変える。(つが)いの()()()()()()()()()()()のは何故?』

「……」


 ああ、そっち方面のお話でしたか。

 いや、ちらりと思ったけれど、まさか、本当にそうだとは思わなかった。


 でも、正直な所、恭哉兄ちゃんをそういった相手として見たことがないというのが理由だ。


 そこにワカや、護衛兄弟は全く関係ない。


「あの方に対して、恩を覚えても、そういった対象として見たことがないというのが理由ですね」


 確かに凄い人だと思う。

 孤児の身でありながら、努力を重ね、自分の能力だけで世界の頂点に近い位置にいる。


 勿論、法力や神力という持って生まれた才能があったこともあるだろうけど、それでも、たった二十年の人生でその場所に立ったのは、他ならぬあの人の成果だ。


 その点は人として尊敬している。


『嫌いではないのにそう見ることができない理由はある?』

「尊敬しているけれど、()()()()()()()()()()()と思うからでしょうか?」


 凄すぎて、どこか遠い存在に感じてしまうのだ。


『貴女も、十分凄いのに?』

「わたしの才能はわたしが磨いた結果ではありませんから」


 なんとなく、貰い物の印象が強すぎるのだ。


『「神扉(しんび)()り手」の才も親の影響が大きい』

「それを磨いたのはあの方自身です」


 そして、わたしはそこまでの努力はしていない。

 する気が無いのではなく、できる気がしないのだ。


 確かにわたしも親から受け継いだ才能はかなり大きいだろう。


 セントポーリア国王陛下という存在を父親に持ち、「創造神に魅入られた魂」と言われる母親から生まれた導きの女神ディアグツォープを祖神とする娘。


 だけど、わたしの力なんて、水尾先輩や真央先輩どころか、九十九や雄也さんにも遠く及ばない。


『それなら()()()()神扉(しんび)()り手」の()()()()()()()()()()()()()?』

「思いません」


 恭哉兄ちゃんの横に立つと決めたワカほどの高熱も持てない。

 そこまでの熱い感情を向けるほど、わたしは恭哉兄ちゃんを愛せる気はしなかった。


 恐らく、向こうもそうだろう。


 恭哉兄ちゃんの中では、わたしは今でも出会った時と同じように、十歳の女の子のままだと言われても納得してしまう。


 それぐらい男女の距離としては遠い。

 少なくとも、わたしの方はそう思っている。


『人類は本当に面倒』

「自覚はあります」

『「神扉(しんび)()り手」の手を取れば全部、()()()()()()()のに』


 ぬ?

 押し付けられる?


『ずっと護られる。人類の面倒な(ことわり)、規則や、勝手な神たちの手から』


 恭哉兄ちゃんは大神官である。

 だから、あの人を頼れば高位貴族どころか王族からも簡単には手が出せなくなるだろう。


 わたしの手配書も跳ね除けるどころか、ダルエスラーム王子殿下に直接交渉して取り下げさせることも可能だと思う。


 そして、神々のことにも明るい。

 傍にいれば、ずっと護られる。


 それこそ、今よりもずっと強靭で隙のない庇護を受け、わたしは護られるのだろう。


「でも、それはわたしが望むことではないのです」


 過保護なだけなら良い。

 その中でも好きにさせてもらえるから。


 だけど、「聖女」となって大神官に護られる道を選んだのなら、わたしは恐らく()()()()()()()()()()()()()()


 ―――― 描くだけならこの世界でもやれるんじゃねえか?


 そう言ってくれた人がいる。


 わたしが「昔から漫画を描くことに興味があった」と言ったら、やってみれば良いじゃないかって言ってくれた人が。


 この世界には娯楽がなく「漫画家」という職業もない。


 だけど、「本気で努力すれば、受け入れられる可能性はある」と応援してくれた人がいるのだ。


 だけど、「聖女」になれば、それは許されない。


 これまでのように絵を描くことはできるかもしれないけど、恐らくは「漫画家」にはなれなくなるだろう。


 一度は無理だと諦めた夢だった。


 あの世界にいた頃から、自分には無理だ、自分にはなれないと、いろいろなことを理由にして、全てなかったことにしようと思っていたような小さな思いだった。


 ―――― やってみればいいじゃねえか


 ―――― 少なくとも、オレは応援するぞ


 そんな言葉を聞いて、屈託なく笑う人を見た。

 わたしなら「漫画家」になれると、信じきった顔で。


 そうなると、再び、絵を描きたい気持ちが走り出した。

 そのまま、もう、()()()()()()()()


 そして、更に協力者を得て、「もう戻ることのできない得難い宝物のような日々を形にした」漫画が完成したのだ。


 あの時の嬉しさは今でも胸に残っている。

 それを手にした時は、この世の全ての罪を許せるほど寛大な心になってしまったことも。


 だから、人間界にいた時よりも、ずっと絵を描くようになったし、描くことそのものに対して真面目に取り組むようになった。


 それらの気持ちを今更、捨て去ることなんてできない。


『なるほど』


 ふと「神の影」さまは、何故か、納得したかのようにそう言った。


 心の声を呼んだ上でのことだと思うけれど、どの辺りが「なるほど」なのかはわたしには分からない。


『導きのラシアレスが、「神扉(しんび)()り手」を()()()()()()()()()()()()()()()


 分かられてしまった。


 いや、恭哉兄ちゃんのことが嫌いなわけではないのだ。

 寧ろ、好きだと思う。


 でも、それを一人の男性として見ることができないって話である。


 恭哉兄ちゃんは優しくて頼りになる大人の男性だ。

 そして、誰よりもワカのことを大事にしていることもわたしは知っている。


 あの日、大聖堂で迷いもなく立てられた証。


 普段は自分の感情を表に出すことをしない人が、周囲に見せつけるように示された行動と、熱く激しい高熱に、疑う余地もなかった。


 なんで、あそこまでされても、その気持ちを信じられないのかが、謎だよね?


『確かに「神扉(しんび)()り手」では、「()()()()()()()()()()()()()


 さらに「神の影」さまは頷いている。


『結局は、「()()()()()()」の方が()()()()()()()()()()()()

「え!?」


 ここで、まさかモレナさまの名を聞くことになろうとは。


 いや、あの方も「暗闇の聖女」だ。

 だから、知られていてもおかしくはないのだけど……。


 先ほどから話題になっている「神扉(しんび)()り手」と呼ばれる恭哉兄ちゃんの生みの親だしね。


『いずれにしても、「神扉(しんび)()り手」に護られるだけの神子ではなかったから、導きのラシアレスをここに呼んだ』


 ぬ?

 それでも、恭哉兄ちゃんからは結構、護られている気がするけど?


 だけど、そうだね。

 わたしは護られるだけの存在にはなりたくない。


 背中に庇われ続けるよりも、横に立つことを、並んで共に歩くことを許してくれる人が良い。


 大事な人が傷付かないように、護って共に戦える方がずっと良い。


 暴走しないように身体を張って止めつつも、わたしの生き方を認めてくれる人がずっと良い。


『導きのラシアレス。貴女のことはよく分かった』


 「神の影」さまは、わたしにそう声をかける。


『貴女は確かに「導き」であり、「ラシアレス」でもあった』

「それはどういう意味でしょうか?」

『「どちらも思い通りにならない」』


 謎かけかな?

 この場合の「どちらも」はどこに……、いや、何にかかっている?


 まあ、わたしがこの「神の影」さまが知る「導きの女神ディアグツォープ」さまに似ていて、さらに「風の神子ラシアレス」さまにも似ているということなのだろう。


 わたしはどちらの方もよく知らない。


 ただ、わたしに似ているなら、傍にいる人は大変だろうな~となんとなく、黒髪の護衛青年が疲れている顔を思い出す。


 うん、苦労をかけて申し訳ない。


『分かっているようで何より』

「周囲を振り回している自覚はありますので」

『そう』


 わたしの答えに満足されたのか、「神の影」さまが微かに笑った。


『では、そろそろお別れ』


 「神の影」さまがそう言うと、再び、その姿が薄れていく。

 今度こそ、本当にお別れのようだ。


「ありがとうございました」


 わたしは頭を下げる。


『礼を言うのはこっち』


 かなり、薄れている「神の影」さまに両手で、顔を上げさせられた。

 吸い込まれそうな綺麗な紫の瞳が目に入った。


『導きのラシアレス』

「はい」


 呼びかけられて、反射のような返事をする。


『己の心が導くままに』


 そんな言葉と、()()()()()()()()()()を感じ、そのまま、わたしの魂はあるべき場所へと還っていったのだった。

この話で106章が終わります。

次話から第107章「再び会するために」です。


そして、同時に「救いの神子」編も終わります。


このままでは消化不良!! の方のために、補足をこちらに書かせていただきます。


ここまでの「救いの神子」たちの物語の一部、動きと台詞付については、下記のリンク「別作品(その1)」の方で明らかになります。


完結している作品ですが「異世界(恋愛)」ジャンルであるため、ご存じない方もいるかと思い、改めて、宣伝させていただきました。


尚、「別作品(その2)」の方は、まだ完結していないどころか更新停止中なので、ご注意ください。


「別作品」の設定を起こした時から、当作品といずれは繋がる予定でした。

「別作品(その2)」の方も、いずれ、もっと深く繋がりますが、それはあらゆる意味で、未来の話です。

気長にお待ちください。


こんな所までお読みいただき、ありがとうございました。

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