神子たちは知っている
目の前に映っているのは、過去の映像だと思う。
そこに映し出されているのは、七人の少女であり「救いの神子」たち。
そして、彼女たちを護るように立つ美形の殿方たち。
さらに……。
「何故……?」
その姿に疑問の言葉を茫然と呟くしかできない。
その七組の男女の前に姿を見せたのは、導きの女神ディアグツォープさま。
わたしの祖神でもあるその女神さまがいたのだから。
『導きだから』
「わけが分かりません」
唯一、状況を解説できそうな方は決定的に言葉が足りない。
『案内人』
「理解しました」
でも、わたしの心の声には律儀に反応してくれる。
『導きはうるさい』
心の声の話ですよね?
それなら、長耳族の血を引くリヒトからも心の声が大きいと何度も言われたことがある。
決して、口うるさいとかそんな意味合いではないことを祈りたい。
その導きの女神ディアグツォープさまが現れたことによって、神子たちにも変化があった。
リアンズさまを除いた神子たちが全て、ラシアレスさまを見たのだ。
それも、横にいたアルズヴェールさまも含めて。
そのことから、彼女たちは導きの女神ディアグツォープさまとラシアレスさまに何らかの関係を見出したことになる。
でも、何故?
ちょっとラシアレスさまのお顔に似ているから?
だけど、その髪と瞳の色合いは明らかに違う。
自分も経験があるから分かるのだが、髪の色と瞳の色が違うだけでも随分、その印象が変わってしまうのだ。
しかも、わたしがカルセオラリア城で薬によって祖神変化をした時に感じたが、導きの女神ディアグツォープさまは、わたしよりも背が高かった。
それも、日本人女性ならば平均的な身長だと思われるぐらいの高さだったと思う。
それに対して、アルズヴェールさまと向き合っていた時のラシアレスさまは明らかに低かった。
円卓を囲んでいる状態でも、周囲の神子たちと比べても、小柄だとはっきりと分かるぐらいである。
胸は、その……、かなり大きそうだね。
いやいやいや、そこではない。
身長の話だ。
間違えてはいけない。
胸囲の話ではないのだ。
胸の大きさなど、座っている時には関係ない!!
つまり、何が言いたいかと言えば、ラシアレスさまと導きの女神ディアグツォープさまは、パッと見ただけでは似ていると思えないのだ。
よく見ると似ている、ぐらいでしかない。
それなのに、導きの女神ディアグツォープさまが現れた瞬間、神子たちが一斉に、タイミングを計ったかのように、ラシアレスさまに注目を集めた。
『あの場にいたラシアレス以外は知っていた』
「何を、ですか?」
『ラシアレスの源が導きであることを』
ぬ?
祖神の話?
でも、神子たちの肉体は創られたものではなかったっけ?
『身体の源は神との親和性を考え、連なるモノを模型とした。導きは風に連なるモノ』
つまり、導きの女神ディアグツォープさまをモデルに、ラシアレスさまの身体が創られているってことかな?
それは分かった。
理由としても、相性が大事って言うのも理解した。
風の神に系統があるディアグツォープさまが、風の神子のモトとなるのは自然でもある。
あの場にいる救いの神子たちは女性ばかりだから、女神がモデルになるのもおかしくはないだろう。
「でも、それを他の神子たちが知っているのは何故でしょうか?」
そこが分からない。
中身として選ばれているのは神ではない。
別の場所から呼び寄せられ、突っ込まれた異なる世界の魂だ。
それなのに、何故、そのことを知っているのか?
そして、彼女たちは慌てることなくあの場にいることを受け入れいていることもかなり謎である。
『あの場にいるモノたちは、それぞれ、知っている。ラシアレスとアルズヴェールに関しては、少し知識が欠けていたけれど、それは問題ない範囲』
ああ、その二人の神子は魂を探すのに手間取ったと言っていた。
しかも、アルズヴェールさまの方は、中身が殿方とか。
よく彼女……、彼? は受け入れたものだ。
わたしが、殿方の身体に意識が乗り移ったなら、多分、あんなに落ち着いていられない。
いや、まずは絵のモデルとして隈なく観察はする可能性があるか。
『知っていることが条件の一つだった』
全く知らない人を連れてくるよりは、その方が説明も少なくて済むと言うことだろうか。
それでも、巻き込まれても文句を言わないというのは、あの神子たちの中に入った人たちの度量が大きすぎる気がする。
『異世界転生、転移、憑依は珍しくない』
それはない。
いや、わたしが知らないだけで、実は珍しくない?
実際、わたしの母は異世界転移をしているようなものだ。
あれ?
わたしの常識がおかしい?
『時間旅行、時間跳躍もまた然り』
そんなの映画や小説、漫画の世界だけだと思うのだけど……、違うの?
一般的なの?
『そんな知識を持つモノを集めた』
ああ、そうか。
その辺は虚構でも知識として持っていれば、受け入れやすいのか。
確かにそれらは夢みたいな話だけど、実際に起きたら、「本当にあった!!」とも言えるのだ。
そういった話、漫画やアニメ、ゲーム、小説が好きな人間ほど、すぐに受け入れてくれるかもしれない。
自分が主役の新たな物語が始まるだけの話。
言われてみれば、わたしも似たようなものか。
わたしが全く、魔法を信じないような人間だったら、この世界のことを受け入れられたかも分からなかった。
確かに非現実なことを目の前で見せられたけれど、それらも理屈をつけて、完全否定することはできなくもなかったのだ。
もしくは、自分に怒ったことの全てを夢だと思い込むことで、自分の身と心を護ろうとした可能性だってある。
でも、実際のわたしは否定も拒絶もしなかった。
これらの偶にホラー要素のあるファンタジーな世界を受け入れたのだ。
それは、もともと漫画や小説、ゲームが好きだったからある程度、順応できた部分はあっただろう。
漫画やゲーム好きもそう考えると悪くなかったのかもしれない。
「む?」
わたしがそう考えていた時、少しだけ、肩が震えた気がした。
「どうされました?」
『問題ない』
先ほど、わたしの肩にもたれかかっていた「神の影」さまの頭が少しだけ動いた気がしたのだけど、そう答えられてしまった。
映像が極端に変わったわけでもない。
相変わらず、救いの神子たちが円卓を囲んでいる状態でコマ送りされていた。
何より、この「神の影」さまにとっては、この映像は見知った光景で、今更、動揺するものなんて何もないはずだ。
そうなると、この件に関しては、あまり深入りをするなってことかな?
承知しました。
わたしは余計なことを伺いません。
ここで、下手に反応して、この時間が終わってしまうのも困る。
何らかの意味があって、わたしはこの救いの神子たちの姿を見せられているはずなのだから。
円卓を囲んでいる状態からはあまり変化らしい変化が見られず、何度も似たような映像が並んでいく。
あまりにも似たような場面ばかりで、なんとなく間違い探しをさせられている気分になる。
時折、アルズヴェールさまがラシアレスさまを見たり、ラシアレスさまが口に手を当てて深く考え込むような顔をしたり、他の神子たちが周囲の様子をそれとなく観察しているような違いぐらいしか発見できなかった。
この様子だと、導きの女神ディアグツォープさまが何かを説明していて、それを神子たちが聞いているっぽい。
円卓を囲んで会議をしているというよりも、指導する先生と、教えを乞う生徒たちという雰囲気だった。
導きの女神ディアグツォープさまの手が動く。
そして、それに合わせて神子たちが一斉に自身の背後を振り返って、それぞれの護衛っぽい人たちを見た。
本来、神の御羽は、一部を除いて黒であるはずだ。
それは導きの女神ディアグツォープさまも例外ではない。
それなのに、神子たちの背後にいる殿方たちの羽は真っ黒ではなく、濃淡があることから、色が付いている見える。
でも、背後にいる神々は大陸神たちではない。
それは言い切れる。
「御羽の……、貸与?」
何故か、わたしの頭にはそんな不思議な言葉が浮かんだのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




