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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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2000/2804

遠慮した理由は?

祝・2000話。

でも、説明回?

「どの国もあの建物の管理をご遠慮された最大の理由は、アリッサムの王族たちにあるという話も伺っております」


 恭哉兄ちゃんはいつもと変わらない表情と声色で、そんな言葉をわたしに告げる。


「それは、どうして?」


 それが、アリッサムの建物だから、アリッサムの王族に関わることになるのは当然だと思う。


 だけど、なんで、それが管理を遠慮することに繋がるのだろうか?


 アリッサムの王族は、まだ、公式的には発見されていないのに。


「栞さんは、自分の住んでいた家から理不尽な理由で追い出された後、その理由とも自分とも何の関係もない方々が勝手にその家に住み始めたならどう思われますか?」

「それって、わたしの今の状況?」


 わたしは、割と納得できない理由でセントポーリアの王子殿下に追いかけられている。


 セントポーリアの王子殿下は魔力が弱いらしい。


 どれくらい弱いのかと言われたら、それを認識できる時には会っていないので、はっきりとは分からないのだけど。


 少なくとも、同じ城という建物にいた時も、その存在がちょっと希薄なのかなと思うぐらいには弱いのだろう。


 国王陛下は離れていても、結界で気配が遮断されている地下や自室にいない限り、その存在はよく分かるし、貴族が集中していると言うセントポーリア城の北の塔にも、それなりに魔力の強い人はいたことは感じていた。


 セントポーリアは血族主義だ。


 だから、北の塔には魔力の暴走を封じるための結界はあるけど、気配を断つ結界は張らず、内外に魔力の強さを誇示をしているらしい。


 その北の塔に魔力吸収の装飾品(魔石)が付いた魔道具をあちこちに置いて、そこで暮らしている人たちの体内魔気を問題ない程度に吸収して、大気魔気の調整に役立てているそうな。


 それを知らされていない人たちは、気付かないうちに、勝手に体内魔気を吸収され、利用されていることになるが、魔力の強い王族や貴族の義務である大気魔気の調整をやろうとしていないのだから、文句は言えないだろう。


 大気魔気が暴走するのは、個人の体内魔気の暴走を遥かに凌駕する災害に繋がるらしいから、ある意味、国やそこでも暮らしを護っていることになる。


 だが、そんな北の塔で一番、気配が強そうなのは、多分、国王陛下よりずっと年上の男性だった。


 直接会って確かめたことはないから、断言はできないが、恐らくそこまで大外れではない。


 少なくとも、魔力に若さは感じないから、そこにいる強い魔力を持っている見知らぬ人の年齢は、カルセオラリア国王陛下ぐらいだろうと勝手に思っている。


 だが、それは本来、不思議な話なのだ。


 この世界のほとんどの人間は、魔力、魔法力を自らの意思で魔法を使うなどして育て(鍛え)ない限り、その頂点に位置するのは、即位の儀を行い、大陸神と契約を交わして神に認められたとされる国王陛下である。


 その次ぐらいが、その直系血族を含めた親族の王族と呼ばれている人たち。

 国にもよるが、主に三親等ぐらいまでがその王族として扱われることが多い。


 国王に近しいほどその魔力は強く、魔法力も多くなりやすいが、それを維持するために本来は、肉体的にも精神的にも魔法的にも、相応の努力も必要とすることになる。


 ここまでは大体、魔法国家以外は同じようになるらしい。


 だから、魔力が弱すぎると国によっては、一族からこっそり外されたりすることもあるそうだ。


 この世界の闇の一つであるが、生まれつき魔力が弱くても、環境による成長過程で変化する可能性もあるので、大半は、魔力や魔法力の著しい成長が見られる25歳までは様子を見ることが多いそうだけど。


 そんな世界なのだから、血筋とか、魔力とかの大切さが分からないわけではないけれど、これまでそんなものとは無縁の世界で十年以上生きていた身としては、憎々しく思っている相手の娘だと気付いていながら、捕まえて妻にしてやるという流れはよく分からない。


 それに常に追われている感は周囲のおかげで全く感じないので、そこまで気にしていないのが現状である。


「栞さんは理不尽な理由で追い出されたわけではないでしょう?」

「まあね」


 理不尽かどうかはともかく、理由としては分かりやすいものだ。


 単純に相手にとって、わたしと母の存在が邪魔だった。

 だけど、わたしは利用価値があるから捕まえちゃおう……という理由だ。


 特に後半部分は納得できないけれど、理屈としては、理解することはできなくもない。


 そして、追い出されたと言うよりも、厄介事に巻き込まれる前に逃げ出したという方が近かった。


「えっと、つまり? アリッサムの王族がそんな状況ってこと?」


 話の流れからそうなるのだろう。

 身近なアリッサムの王族の二人を思い出す。


 城がいきなり襲撃されて、住む場所を失った。


 うむ!

 確かに理不尽である。


「そう思う方々もいるということです」

「でも、アリッサムの王族たちは、他国が管理することを受け入れると思うよ?」


 少なくとも、水尾先輩と真央先輩はその覚悟をしていた。


 上のお姉さんについては分からないけれど、今の自分では管理できないと言う点においては同じだと思う。


「そう思えない方もいるということですね」

「ふむ……。つまり、管理した人たちが、アリッサムの王族にとっては乗っ取られたような印象を受けるってこと?」

「アリッサムの王族だけではなく、アリッサムの国民全て……、でしょうね」


 アリッサムは城自体が国のようなものだったと聞いている。

 結界都市だったらしい。


 九十九が言うには、アリッサム城だった建物に城下と思われる部分は見当たらなかったらしいけど、全ての人たちがそれを知っているわけではない。


 アリッサム城だった建物が発見されたと言うことは、自分たちが住んでいた城下も一緒に見つかったと思い込む人だっているだろう。


 王族が見つかっていない以上、アリッサムの国民だった人たちがその所有権は主張できないだろう。


 この世界は王族あっての国なのだ。


 どこかの戦国武将は、「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」と、道歌(どうか)を詠んだらしいが、この世界において、その言葉は半減する。


 例え、戦場に百人……、いや、千の人間がいても、そこにいるのがたった一人の「王族」という存在だけで、それらを圧倒してしまう。


 たった一言で戦況をひっくり返してしまう「魔法」という奇跡がこの世界に在る限り、王族たちの優位は揺らがない。


「つまり、万一、姿を隠しているアリッサムの王族に恨まれたくないから、公表者であり、中立でもある大聖堂に押し付けたってこと?」

「アリッサムの方々に、円滑な方法で所有権や管理権をお戻しするための措置と言うことですね」


 言葉は変えられたが、間違ってはいないらしい。


「代わりに管理して、アリッサムの王族が現れた時に、貸しとして恩に着せた方が良いと思うけどな~」


 王族に貸しを作ることの重要さは、雄也さんから十分すぎるほど聞かされている。


 その「貸し」の重さが自分の目的に合致する、あるいは上回れば、多少の無理を聞き入れてもらえるようになる……と。


 流石、あちこちの国で自分の能力を見せつけ、貸しを作り、恩を売りまくっている労働者は、考えることが違う。


 下手すれば、不敬ともなる考え方。

 王族という相手に握りつぶされてもおかしくない。


 だが、大物に手を出す前に、自分の能力の有用性を見せつけてから行動しているために、容易に潰されることもない。


 もしくは、貸しを作る前に相手の弱みを握っている可能性もあるのだけど、そこは雄也さんだ。


 絶妙なバランス感覚で立ち回っていると信じたい。


「それはアリッサムの王族が確実に生存していると確信できなければ難しいですね」

「生存しているかどうかは、アリッサム城自体が『餌』になると思うのだけど……」


 水尾先輩はそこで一度、怖い思いをしたはずなのに、九十九と共にその建物へ向かう決意をした。


 真央先輩はそこに誰も残っていないと知っていたはずなのに、それでも我が目でその建物を確認したかった。


 誰もいない無人の建物にそれだけの価値をアリッサムの王族たちは見出していることになるのではないか?


「広大な建物の維持管理は、多大な手間と費用、人手を必要とします」

「おおう」


 現実的な話がきた。


「しかも、他国の城です。そこにどんな仕掛けが施されているのかも分かりません」


 ああ、そう言えば、九十九が何か言っていたな。


 建物の至る所に魔石を使った仕掛けがあったって。


 そして、魔法ではなく魔石で仕掛けを作られていたなら、人がいなくなっても、まだ動く可能性が高いのだ。


「何より、あの建物がいつまであの場所に浮いているのかも分かりません。ある日、突然、地上に落ちれば、その損害賠償は、一時的とはいえ、管理していた国へと向かうでしょう」

「あ~」


 それは面倒だ。

 善意だけでは限度がある。


「その辺りからお話をさせていただいた所、畏れ多くも各国の方々より、公表した大聖堂にこそ建物の維持管理する任に相応しいとご理解いただけました」

「……あれ?」


 なんとなく、言葉のニュアンスがおかしかったような?


 その辺りから話をさせていただいたってことは、恭哉兄ちゃん自らが、その話した相手に対して、そう考えるように仕向けたともとれる。


「こちらとしても、あまり、あの場に他国の王族たちによる紐付きや子飼いの者たちを立ち入らせたくない事情もありまして、このような形での手打ちとなりました」

「ああ」


 その建物内で現役神官職にある者たちの行っていたという行為の内容を考えれば、大聖堂の根幹を揺らがすことも考えられる。


 それぞれの落としどころとしては、互いに深い部分については突っ込まず、突っ込ませず……、ということになったのだろう。


 それはともかく……。


「教えてくれてありがとう」


 本当は簡単に口にして良いことではないだろう。


 それでも、教えてくれたことに感謝したい。


「そして、お疲れさま、恭哉兄ちゃん」


 アリッサム城の建物を護ってくれたこと、そして、これから護ってくれることも簡単ではないだろうに、尽力してくれたことにも感謝、感謝なのだった。

毎日投稿を続けた結果、とうとう2000話となりました。

計算していなかったために、説明回というつまらない話で申し訳ないです。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、最近ではいいねをくださった方々と、何より、これだけの長い話をお読みくださっている方々のおかげです。


まだまだこの話は続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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