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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~
200/2773

真打、登場

200話、突破!

でも、内容的には前話の方が盛り上がっている気がします。

『おや~?』


 赤い手袋から聞こえたのは、どこか間延びした声。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 手袋がわたしを掴もうとした瞬間、わたしの腕が強く横に引っ張られる。

 そして……、気が付けば、わたしの身体を隠すように広く大きな背中が目の前にあった。


「っ! おせ~ぞ! ()()()()!!」


 先に我に返った九十九が赤い手袋を両腕で掴みながら言った。


 どうやら中身はないらしく、ひらひらとしている。


「そのおかげで助かっておいて何を言うか、この愚弟が」


 そう言われては、九十九も口を(つぐ)むしかない。


『もう一人、いたのですね』


 その場に声だけが響く。


「分かっていると思うが……」


 そう言いながら、雄也先輩は九十九の方へ足を向ける。


「声を出すということは居場所を知らせるということだ」


 そして、先ほどの九十九と同じようにその姿を消し、再び現れたときにはその腕の先に拘束された何者かがいた。


 左手は赤い手袋、右手は何もしていない。


『いくつかの魔気を残留させたのですが……、思ったより簡単にバレてしまいましたね』

「偽情報をバラ撒くにはアナタ自身が放つ魔気が強すぎる。体内魔気をもう少し抑えるべきだな。加えて中途半端な残留魔気は割と早く薄れてしまうので道具などを使って補助することをお勧めする」

『なるほど……、自身の魔気は自分では分かりにくい。そこを突かれてしまいましたか』


 捕らえた者と囚われた者。

 だが、そこに深刻さは一切感じられず、まるで世間話のようなノリで会話が交わされる。


「えっと……、雄也先輩?」


 そこに口を挟んで良いのか分からなかったけれど……、声をかける。


「一瞬でも怖い思いをさせてしまったね。未熟で底の浅い弟で申し訳ない」


 微笑を返してくれる雄也先輩。

 どこかのんびりした囚われた襲撃者の頭っぽい人。

 言葉を挟むことができない九十九。

 固まってしまった襲撃者の一人。


 なんとなく、不思議な雰囲気を漂わせた空間となってしまったのはよく分かった。


 その空間を断ち切ったのは……、それまでほぼ無言を貫いていた水尾先輩だった。


「どういうことだ?」


 そう言った水尾先輩の顔は、まるで苦いものでも食べたかのように妙に迫力ある顔をしている。


 でも、わたしも、多分、九十九も……、その言葉が誰に向けられたのかが分からなかった。


「事情があるからに決まっている」


 言葉に答えたのは、雄也先輩だった。


「先輩には聞いていない!」


 だが、それを水尾先輩は一喝した。


「お前たちに聞いているんだ!」


 そう言って、水尾先輩は雄也先輩に両腕を拘束されていた襲撃者の頭と思われる人に顔を向けた。


『ご無事で……、いらしたんですね』

「ああ、無事だったさ。お前らが問答無用で襲い掛かったこいつらに私は命を救われたよ」

『……ああ、なるほど。そういう事情だったんですね』


 この会話から察するに、どうやら、二人は知り合いのようだった。


「警告もなしに問答無用で通行人に……それも他国の人間に襲い掛かるなど、仮にも聖騎士団の隊長が進んでやることか?」


 あれ?

 聖騎士団?


 その心ときめくような単語は、どこかで聞いたことがある気がする。


「自分が仕えるべき相手が、素性の良く分からない人間たちといたら、大半は焦ってしまうと思うが……」

「申し訳ありませんが、先輩はもう少しの間、黙っていてくださいませんか?」


 露骨に温度を下げた水尾先輩の低い声は妙に迫力があった。


 わたしは思わず息を呑んでしまったが、雄也先輩はそれを気にした様子もない。

 凄い精神力だと思う。


「分かった。でも、このままじゃ会話もままならないだろうから、拘束は解くよ」

「兄貴、そこまでして大丈夫か?」

「大丈夫だろ。面識ある相手みたいだから、この場から逃げることはあっても暴れることは無いと思う」

「逃がすのかよ」

「俺にずっと拘束しておけと? そんな趣味はないな」


 そう言いながら、雄也先輩は相手の両腕を離した。


 その手になんか鎖っぽいものがちらりと見えたので、物理的にしっかりと捕まえていたのは間違いなさそうだ。


「さて……」


 改めて水尾先輩が向き直ったが、先ほどまでの迫力を感じない。


 拘束具を外された相手は、顔を覆っていた布を自分の手で外した後、水尾先輩の両手を取り、傅いた。


「本当によくぞ、ご無事で……」


 流れ落ちる栗色の髪の毛が、下げている顔を隠していたためその表情は見えない。

 でも、その搾り出されるように発せられた声と、震えている肩と背中。


 それだけでどんな心境なのかはなんとなく想像できてしまう。


「他の聖騎士団は?」


 そんな人に対しても、水尾先輩は表情を変えず、その両手を相手に差し出したまま問いかける。


「分かりません。私達のように分隊のいくつかは逃げおおせたと思いますが」

「……聖騎士団長もいるのか?」

「聖騎士団長は、城内におられました。ご一緒ではなかったのですね」

「……私だけ離れていたからな」


 そう言って、水尾先輩は視線を逸らす。


()()城を抜け出されていたのですね。儀式の日ぐらいは大人しくされているかと思えば……」


 栗色の髪の人は溜息を吐いた。


「そんなことはどうでも良い。それより、お前たちの隊は城門の警護担当だったはず。奇襲者を見たのか?」

「いえ、ヤツらは……、城門から離れたところより進入したようで、我々が気付いたときには、既に結界が一つ破壊された後でした」

「やはり、結界が狙われたいたのか。……今、お前たちは何人だ?」

「この場にいるのは、私を除いて全てそこの少年に倒されてしまいましたが、全部で22人です」


 つまり、九十九は21人も倒したのか。

 ……相手は大人で、それも、強そうなのに凄いね。


「後は、離れた所に待機している者たちが数名と聖騎士団以外の人間たちが30人ほどです」

「50人越えか……。思ったよりも多いな。」


 雄也先輩がポツリと呟いた。


「話に水をさすようで悪いが、俺もあなた方に聞きたいことがある」

「先輩?」

「先ほどの話から判断した限りだが、この連中はアリッサムからの民たちで間違いないかい?」

「ああ、こいつは聖騎士団四番隊の隊長だ」


 そう言って、水尾先輩は握られていた手をゆっくりと離した。


「四番隊の隊長……、バルディア=コーン=ジャスタさまか」

「はい。その通りです」


 雄也先輩の言葉に、栗色の髪の人は答える。


「……なんですぐに名前が出てくるんだよ?」

「ここ最近、アリッサムの書物を読み漁る機会が多くてね。」


 それでも、そうそう会ったこともない人の名前なんて出てくるものじゃないと思う。

 わたしなんて、未だに国名はおろか、6つしかない大陸名だって怪しいというのに……。


「アリッサムから逃げ出して、すぐこの国に?」

「はい。ユーチャリスへの輸送船を利用し、なんとかここまで」

「? つまり、輸送船は動いていたのか?」

「直後は。今は分かりません」


 その会話で、九十九があることに気付く。


「……兄貴、まさか……、今、船が使えないのか?」

「一国が襲撃されたというのにいつまでも暢気に他国へと船を動かすような阿呆な国は無いと思うぞ」


 言われてみれば、確かにそうだろう。


 わたしたちが城下から簡単に出ることができたのだって、普通に考えればおかしいことではないだろうか?


「つまりはジギタリスからストレリチアに行けないってことか?」

「暫くの間はな。だが、なんとかして手を考えるしかない」

「……先輩。こいつらに何を確認したいんだ?」


 苛立ったかのように水尾先輩が尋ねる。


「セントポーリアの王城へとある報告が上がっている。王妃殿下が遣わした兵たちを諌めようとする集団が、ジギタリスとの国境周辺に出没するようになったとか」

「え!?」

「それって……、こいつらのことか?」


 九十九が振り返ると、先ほどまで言葉を発せず固まっていた人が口を開いた。


『城からの兵たちはこの近くの村に乱暴狼藉を働こうとした。だから、我々が立ち上がったのだ』

「乱暴狼藉?」

『大きな声で村人たちを脅し、何かしらの命令をする。我が国では考えられないことだった。我が国の王族は皆、堂々として弱い者たちこそ守ろうとする。だが、この国とその頂点に立つ王は無能だ』

「陛下の命令ではないですよ」


 その人に雄也先輩はやんわりと否定する。


『王だろうと王妃だろうと関係は無い。この国の王は自分の妃すらまともに扱うことができないのだ。無能の極みとしか言いようが無いではないか!』


 何だろう。

 この人の言い方はなんとなく好きになれない。


 言っていることは確かに正論かもしれないけれど、どこかもやっとしてしまう。


 でも、なんでこんなにもやっとするのだろう?


 もしかしなくても、言い方かな?


 王が妃を「扱う」って表現や、単純に王に対して「無能の極み」って言葉とか?


 それとも……、他国の王族に対して敬意の欠片も感じない口調だから……、とか?


「その部分に関して、恐らく我らが陛下も否定はしないでしょう。あの方が王妃殿下を抑えることができていないのは本当のこと。ですが、この辺りで守人(もりびと)の顔をした野盗のような集団が出没するようになったことに対して、そのお心を砕いておられたのも事実です」

「なっ!?」

『守人の顔をした野盗だと……?』


 雄也先輩の言葉に周囲の雰囲気が変わっていく。


「報告の委細をお伝えしましょうか」


 そう言って、雄也先輩は笑顔を浮かべたのだった。

200話でようやく青年が合流しました。

これに関しては、狙ったわけではないのですが……。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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