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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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未知との遭遇

「それでもやっぱりよく分からないことがいっぱいあるんだけど……」


 彼の話を聞いた後、最初にわたしが口に出来た言葉がこれだった。


「そうだろうな。オレが答えられる範囲でなら答えるよ」

「それって答えられないこともあるってことだね」


 含みを持たせた九十九の言葉をわたしはそう解釈した。


「そういうことにはなるな。悪いが、物事には段階というものがある。昨日のことでさえお前の頭は混乱したんだ。いきなり全てを話してもすぐには信じられねえだろうし」


 まだアレ以上に驚くことがあるのか……。


 わたしは軽く眩暈を起こしかけたが、なんとか気を取り直す。


「でも、オレは嘘をつかない。これだけは約束してやる」


 そう言いながら、九十九は真っ直ぐわたしを見た。


 彼のその視線と言葉の強さをわたしは信じるしかない。

 今のわたしは、彼を頼るしかできないのだ。


 だから、最初の質問はもう決まっていた。


「『魔界人』って何?」


 多分、これが全てのキーワード。


 あの三人組や紅い髪の男の人。

 そして……目の前にいる少年を繋ぐ物のような気がする。


「そのまんま」


「は?」


 拍子抜けするほど彼はあっさりと言った。


 でも……。


「ど~ゆ~こと? 『そのまんま』って」


 ちょっとよく分からない。


 もう少し説明してもらわないと、ちゃんと頭が働かないみたいだ。


「だから『まんま』なんだよ。『魔界人』といえば、『魔界人』。『人間』がなんで『人間』って言うのか?って聞いたようなもんだ」

「それでも、説明が足りないと思うんだけど」


 頼むから、もっと分かりやすい言葉を使って欲しい。


「もっと分かりやすく言えば、『魔界に住むもの』ってとこかな」

「ま……かい?」

「そ。魔界に住むから魔界人。地球に住むから『地球人』って言うだろ?」


 何故か、一気にファンタジーな世界の話になった。

 いや、昨日からおかしな世界に入り込んでいた気はするんだけど。


 でも、「魔界」……、「魔界」ってあの「魔界」?


「やっぱり悪魔ってこと?」

「……確かに似たような存在もいるが、どちらかというと『魔法使い』って言葉が一番しっくりくるかな」

「魔法使い?」


 さらなるファンタジーワールド!?

 わたしとしては、「悪魔」より、こっちの方がビックリだよ?


「アイツらも魔法、使ってただろ? 宙に浮いたり、炎出したりとか」

「あれが……」

「オレもちゃんと言ったじゃねえか。魔法って……」

「確かに言ってたけど……」


 だが、あの状況で言われたあの言葉を「言った」と言っても良いのだろうか?


「お前がショックを受けないようにとちゃんと言っておいたつもりではあったんだけど、結局、ショックを受けちまったな」


 どうせなら、もっと分かりやすく言ってほしかったとも思ったけど……、彼なりに気遣った結果なんだと思う。


 ……というか、彼はかなり無神経な発言をする割に、変なところで気を遣っちゃう人だよね?


「いや……、えっと……その……九十九も?」

「そうじゃなきゃ、いろいろと辻褄が合わないだろ?」

「魔法使い?」

「そう。魔法使い」


 わたしの言葉に、九十九は頷きながら答える。


「どんなことができるの?」

「まあ、状況に応じていろいろと……」

「ああ、だから光ったりできたわけか」

「そういうことだな」


 本当にちゃんと誤魔化しもせずに答えてくれているようだ。


「じゃあ……、あの紅い髪の人はなんで昨日わたしを狙ったのかは分かる?」


 これは分かるわけがないとは思いつつも聞いてみた。


 しかし、彼の答えは意外なものだった。


「その辺については、なんとなく……?」

「え?」

「あいつ、本人に聞いたわけじゃないから本当にそれが正しいかは分からんがな。それに、お前は一部の『魔界人』から狙われる理由もあるにはある」


 わたしに、あの「魔界人」たちから狙われる理由がある……?

 なんで?


 もしかして、知らないうちに、わたしはその「魔界人」って人たちに何かしちゃったの!?


「どういうこと?」


 心当たりがあるのなら、ちゃんと聞いておきたい。


「その前に、オレからもお前に聞きたい」

「何を?」


 今度は、九十九の方から問いかけられた。


「お前はどうして忘れてるんだ?」

「いや、それは……、あまりにも現実離れしすぎてて……」

「それじゃねえ」

「え?」


 彼がわたしを見た。


「オレが聞きたいのは……」


 そう言いかけて彼は口を噤んだ。


「九十九が聞きたいのは……?」


 わたしはその先が気になって尋ねる。


 彼は俯いて、暫く黙っていたけど……。


「お前、小さい頃ってどれくらい覚えている?」

 

 顔を上げ、唐突に先ほどと繋がらないような問いを返した。


 もしかしたら、先ほど言っていた「物事には段階がある」って話につながるんだろうか?


 でも、急激な話題転換すぎて、ちょっと反応に困る。


「小さい頃……? あんまし、覚えていないな~。小学校の頃からなら結構覚えているんだけど」


 思い出そうにも、写真すら残っていないのだ。


「3歳ぐらいの頃は?」

「さっぱし」

「4、5歳の頃は?」

「覚えていないね~」

「なんで覚えていない?」

「なんでって……、なんでだろう? 忘れっぽいからかな?」


 改めて、言われてみれば、小学校以前の記憶がない。


 その頃の写真がないことに疑問は持ったことはあっても、自分自身の記憶に関してはこれっぽっちも気にしたことはなかった。


 あれ?

 自分の記憶がないから、写真を捜したんだっけ?


 あれれ?


「普通、小さい頃の記憶って……、そこそこあるもんじゃねえか?」

「悪かったね。物覚えが悪くって……」


 そんなことを言われても、覚えていないものは思い出しようもない。


「いや、お前のはなんか違う気がするんだ」

「なんか違うって……、まさか痴呆症とか言うんじゃないでしょうね?」

「ド阿呆」

「阿呆なのは認めるから、さっき言ってた『わたしが狙われる理由』ってなんなの? そっちのほうが気になるんだけど」


 昨日はたまたま彼がいたから良かったものの、もし一人でいるときにあんな異常な連中に遭遇したら、わたしは今度こそ(かどわ)かされてしまうかもしれない。


 せめて理由を知って、対策を練らねば!


「……お前が覚えていない部分……、その忘れている過去に答えはあるんだよ」

「……忘れてる過去?」

「思い出せば、全てが分かるはずだ。……多分な」

「つまり、思い出せなければ何も分からないままってこと?」

「そう言うこと」

「そんな~」


 そうは言われても困る。


 わたしは全く覚えていないんだから。


 唯一、わたしの過去を知っているであろう母親に聞いたところで、例のごとくはぐらかされるのは目に見えている。


 何よりも、昨日のことを母親に説明したところで理解してもらえるはずもないし、理解させる自信もない。


 わたし自身、まだ、半分は信じ切れていないぐらいだし。


「あ!」


 わたしは唐突に閃いた。


「どうした?」

「九十九も魔法使いなんだよね?」

「ああ。それが……?」


 不思議そうな顔をする九十九。


「じゃあ、わたしを過去に連れていってくれればいいんだよ!」


 我ながらナイスなアイディアだと思う。

 そうすれば、全てが分かるんだし……。


 しかし、彼は変な顔をしていた。


「どしたの?」

「『どしたの?』って、お前……、あほか――――っ!!」


 何故か、九十九は叫ぶ。


「なんで? 確実だし、良いと思うんだけど?」

「どこかの猫型ロボットじゃあるまいし、そんなことが簡単にできるか!」


 ぬ?

 ……ってことは……?


「できないの?」

「当然だ。大体、そんな因果律を歪めるようなこと、アクアが許すはずもない」

「あくあ? 水?」

「違う! 惑星の名だ」

「惑星って……、水星はマーキュリーだよ?」


 アクアって確か「水」って意味だけど……。


「誰が、()()()()()()()()()()?」


 九十九は呆れたようにそう言った。


「惑星アクアはオレたち魔界人の生まれた惑星。オレは宇宙の理論とかについては研究してないから、その辺については詳しくはないが、今現在の地球の技術ではその惑星の存在までは見つけきれないらしい。魔法の力を超える技術を確立すれば可能性はあるけどな」

「え……? 魔界人って……、まさか異星人ってことなの? 別の世界にいる異世界人じゃなくて?」


 なんと、魔法使いは人間が異能の力に目覚めたわけでもなく、異世界から現れたわけでもなく、遠い銀河の彼方からやってきた異星人説!


 ……これもある種のロマンってやつじゃないのかな?

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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