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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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1996/2805

何故、伝えなかったのか?

「この『神袿(かんけい)』、『神衣(かんぎ)』、『神足絆(かんそくはん)』の名称も興味深いですね」


 恭哉兄ちゃんは、さらに続ける。


「ああ、『双月宮』シリーズの方だね」


 これらは、「導きの~」ではなく何故か「双月宮~〔橙〕」となっていた。


 この違いも分からなかったのだ。

 同じ「神装」セットとして渡されたはずなのに、何故、異なるのだろう?


「こちらは、私が用意した法糸(ほうし)を『聖堂衣料品管理協会』にお渡しして、誂えた物です。その際に、着用者について『生誕月宮』と『主属性』の確認があったために、これらの名称が付いたのだと思われます」

「聖堂……、衣料品、管理、協会?」


 なんか、今までになく、庶民的な響きがする言葉が出てきた気がするのは気のせいでしょうか?


「本来、上神官以上となれば、法糸(ほうし)を自分で織り、自分で儀礼服を仕立てることが一般的です。しかしながら、自分で仕立てることができない方も少なからずおります」

「それはそうだろうね」


 誰もが器用なわけではない。


 そもそも、糸から布を織るというのが既に難しいのに、その上、周囲に恥ずかしくないような儀礼服を作るとか、型紙や作り方があっても、かなりの才能が必要となるのではないだろうか?


「そのような方々のために設立されているのが、『聖堂衣料品管理協会』です」


 なんだろう?

 人間界のテレビショッピングを思い出した。


 別にその管理協会が取り扱っている商品を勧められているわけではないのだけど、なんとなく。


「『聖堂衣料品管理協会』はその名前のとおり、聖堂に関する衣料品に関する企画、製造、流通、販売事業の総括をしております。あの時は私の方も手が足りず、その『神袿(かんけい)』、『神衣(かんぎ)』、『神足絆(かんそくはん)』の仕立てをお願いしました」


 いや、それ以外の「神御衣(しんぎょい)」、「神帯(しんたい)」、「神表衣(しんひょうい)」が、実は恭哉兄ちゃんのお手製だったってところに驚きを隠せないんだけど!?


 忙しい大神官さまが、何をされているのでしょうか?!


「本来ならば、私が全て引き受けたかったのですが、不甲斐ないことです」

「いや、わたしはあの時、水着で良いって言ったのに、恭哉兄ちゃんと雄也が反対したんじゃないか」


 あの時は「湯成(ゆなり)の儀」という儀式のつもりだった。


 雄也さんとお風呂で行う儀式だって思っていたから、他に誰も見ないし、濡れても良いように水着で……と言ったら二人に猛反対され、気付けば、「神装」を作る流れになっていたのだ。


 一応、わたしにとっては初の「神装」だったわけだが、その経緯は実に情けない話であった。


「仮にも儀式の形を取る以上、最低でも『神子装束』となるのは当然でしょう?」


 笑顔だと言うのに、ちょっと冷ややかな視線。

 大神官さまは、室温まで操れるらしい。


 そして、「仮にも」の言葉で、やはり、恭哉兄ちゃんはあの儀式の本来の意味と、雄也さんの目的も知っているんだろうなと思った。


 あの後、恭哉兄ちゃんは雄也さんにもわたしにも何も確認はしなかったのもそういうことなのだろう。


「それに『聖女の卵』である栞さんが行う初めての儀式となったわけですから、やはり相応のモノを身に着けていただきたいと思いました。それは、私の我儘でしょうか?」

「いや、恭哉兄ちゃんはいっつも! 忙しいんだから、全部、その『聖堂衣料品管理協会』ってところにぶん投げちゃって良かったんだよ?」


 気持ちは嬉しいけど、わざわざ仕事を増やしてしまったことは申し訳ない。


「栞さんの初めての『神装』は是非、私が作りたかったのです。これも私の我儘ですよ」

「我儘で仕事増やして、どうするの?」

「この点において、仕事とは考えなかったので、苦にはなりませんでした。それに、雄也さんの積極的な協力もありましたからね」


 ああ、うん。

 素材にかかる費用とか、その他諸々は雄也さん担当だった。


 そして、最初にその計画が持ち上がった時点では、雄也さんはまだ病床の身のようなものだったので、ちょっと焦った覚えがある。


 だが、過ぎたことを言っても仕方がない。

 零れたミルクを嘆いても無駄なのだ。


「つまり、この『神装』は、『神御衣(しんぎょい)』、『神帯(しんたい)』、『神表衣(しんひょうい)』が恭哉兄ちゃんで、それ以外が別の人の手によるものだから、いろいろと違ったってことで良い?」

「この分析結果を見る限りではそのように考えられますね」


 神さまが関わった時だけ、あの識別結果の表記が変わると九十九は考えていた。


 そして、「神装」の識別結果の違いと名称の謎もなんとなく解けた。


「あと、もう一か所だけ、個人的に気にかかった点があります」

「何?」

「先ほど、私は雄也さんに説明はしていると言いましたが、この分析結果にはあの方にお伝えしなかったことが書かれています」

「伝えなかったこと?」


 なんだろう?


「この『双月宮の神足絆〔橙〕』のことなのですが……」


 恭哉兄ちゃんが口にした「神足絆」……。

 その言葉で九十九が気にしていたことを思い出す。


「その『神足絆』に()()()()()()()()()()()()()()って話?」


 わたしがそう答えると、恭哉兄ちゃんは難しい顔をする。


「やはり、お気付きになりましたか」

「いや、わたしは気付けなかった。それ以外の『神足絆』にも同じ効果が付いていたみたいで、九十九が気付いてくれたんだよ」


 ―――― 着用者の許可なく脱衣することは不可。


 ―――― 損壊の意思を持って触れれば応報あり。


 その二つの文章が示しているのは、そういったことだと。


「九十九さんが……?」


 さらに恭哉兄ちゃんが険しい顔をする。


 あれ?

 まさか、誤解された?


「九十九が実際に試したわけじゃないよ?」


 そこはちゃんと主張しておく必要がある。


「それは承知です。しかし、これに気付かれたとは……」


 良かった。

 九十九が誤解されてしまうことだけは避けられたか。


「この部分を雄也に伝えていなかったことと、九十九にも言っていなかったということは、彼らもその対象ってことだよね?」

「そうですね。そして、当然ながら、私も対象となります」

「へ?」


 あれ?

 恭哉兄ちゃんも対象って、どういうこと?


「この『神足絆』は九十九さんが気にされたとおり、栞さんの身に危険が迫った時の防衛機能の効果があります。この文章に書かれているように、栞さんの許しがなければ脱衣の手伝いもできません」

「いや、『神足絆』ぐらい、自分で脱ぐことはできるよ?」


 上に着る構造が複雑な服に比べれば、そこまで難しくはない。


 要はただのストッキングだ。


 慣れるまでが大変だったけれど、慣れたら割とするすると穿いたり脱いだりすることはできるようになる。


 それでも汗ばんだりすると、ちょっと、いや、かなり難しいけどね。


 だから、手伝いの必要性はよく分からない。


「許しがなければ脱衣の手伝い……、補助ができないのは『神足絆』を纏う神女や女性の神子たちのために元からある効果です。誰もが常に五体満足というわけではありません。この世界には病院と呼ばれる施設はなく、治癒魔法や癒しの法力も、病には勝てませんからね」

「あ……」


 言われてみればそうだ。


 わたしは健康体だから介助は要らないが、病気とかになれば手伝いを必要とすることになるのは当然だろう。


 そのことは雄也さんの時にも見ていたのに、思い至らなかった。

 自分だけは大丈夫だと過信しているってことだ。


 そんなはずはないのに。


「そして、『神足絆』の効果については、神官たちが知る機会はほとんどありません。『聖堂衣料品管理協会』を通して作られた物か、神女自身が自分で作る際に自衛のためにその効果を付けるようにするかのどちらかになります」


 そういった意味なら、確かに身近にいる神官たちこそ、神女たちの敵になりやすい。

 そんな相手に伝える意味がないというのはよく分かる。


「でも、その雄也に伝えなかったのは何故?」


 そこはちょっとだけ納得できない。


 もし、雄也さんがその効果を知っていたら、九十九が言ったように、わたしは常にあの「神足絆」のどれかを身に着けるように指示されていたことだろう。


 それがなかったいうことは、雄也さんも知らなかったと思っていたのだけど、やはりそうだったのか。


「神官たちが知らないことと同じ理由ですね。栞さんの身近にいる男性には伝えないようにしていました」


 つまり、それは、雄也さんも九十九も、わたしにそういったことをする可能性を否定できないってことか。


「それは二人も疑っているってこと?」

「いいえ。『発情期』などの抗い難い事情がない限り、あの御二方が栞さんの意思を無視することはほとんどないでしょう」


 恭哉兄ちゃんも彼らを疑っているわけではないらしい。

 そのことに少しだけホッとする。


「それでも、あの御二方は、栞さんへの()()()()()()()()ます。貴女の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それはあるかもね」


 九十九は、時々、わたしの扱いが酷いし、雄也さんはわたしを囮にすることすら迷わない。


「そのための保険のようなものだと思ってください。何もしなければ、何も起こり得ないものです」


 恭哉兄ちゃんはそう静かに頭を下げるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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