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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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1989/2805

壮大な歴史?

 ああ、もう!!

 どうしよう!?


 大神官さまにいろいろと聞きたいことがあって、自分の方から話を切り出しておきながら、さらに聞きたいことが増えてしまうこの不思議!!


 いや、それだけ今のわたしが無知だってことだ。

 惑星の歴史も、世界の歴史も、自国の歴史すら全て中途半端。


 ああ、そう言えば、この世界に来る前に、雄也さんが言っていたね。


 ―――― あの壮大な歴史は短時間では語りつくせない


 確かに、壮大すぎる歴史だ。


 惑星ができてから、人類誕生の期間までが地球よりもずっと短いから余計にそうなるのだろう。


 だから、知らなければいけないと分かっている。


 でも、優先順位はどれ!?


「風の神子ラシアレス様の記録については、もう少し後でお話をしましょう」


 だが、わたしの混乱と迷いを察してくれた大神官さまは、そう言ってくれた。


「後で本当にお話してくれますか?」

「勿論。栞さんはそれらの書物を見る権利があります」

「見る権利?」

「実物をお見せしながら話した方が早いですから」


 つまり、ラシアレスさまが残した文書を見せてもらえるってことか。


 風の神子という肩書だけでなく、知識の神子とも言われている「ラシアレス=ハリナ=シルヴァーレン」さま。


 この世界と人間界の一年は少し日数が違うのに、「置換歴」という不思議なモノを作って違和感なく変換してしまうような人。


 ……あれ?

 その知識は誰から習ったんだっけ?


 雄也さん?

 いや、違う気がする。


 でも、思い出せない。


 雄也さんと似ている人だったような気がするから、情報国家の国王陛下だったかな?


「ただ、少々、長くなるために、お待ちいただくことになってしまう九十九さんには、大変、申し訳ありません」


 確かに資料を見ながらの説明となれば、時間がかかるのは仕方ない。

 しかも、ここでの話が一段落してからとなるのだ。


 でもそこは、わたしの護衛のことだけでなく、王女殿下の方も気にしてください、大神官さま。


「それらの記録が全て持ちだし禁止の上、収められている場所が()()()()()()()()()()()()()、あなたの大事な護衛であると分かっていても、九十九さんを入れるわけにはいかないのです」

「それなら、仕方ないですね」


 そんな事情があるのなら、九十九には遠慮してもらうしかない。


 だが、わたしは後に悔やむ。

 その特別な部屋のことをもっと詳しく聞いておくべきだった、と。


 何故、この時点で何も気付かなかったのかとも。


 だけど、そこが特殊な条件がある部屋だとも思っていなかったのだ。


 せめて、先ほどの大神官さまの言葉が、「九十九が入れない」ではなく、「九十九を入れるわけにはいかない」という時点で、気付けば良かったと思う。


 そこで気付いていたら、もっといろいろなことにも気付けたことだろう。

 でも、全ては後の祭り。


 気の遠くなるほど過去から、割と近い未来のことを全て知っていた大神官。


 わたしがそのことに気付くのは、こんな会話からさらに数年後のこととなる。


 だけど、それを知る時は、わたしも既にいろいろな事情や思惑を知った後だったので、彼を責めるに責められない心境になってしまったのは、言うまでもない。


「それは、お話を続けましょうか」


 なんだろう?

 その微笑みが少しずつ妙な迫力を増してくる気がする。


 気のせい?

 違うな。


 さっきから、わたしは大神官さまにここまでやらかしてきたアレやコレを話しているのだ。


 つまり、懺悔の時間?


 いやいやいや!

 そればっかりじゃないのです!!


 あの「音を聞く島」から、ここまで来るのにいろいろあったことを順番に話しているだけだから、決して、やらかしの記録の数々ではなく、さらに言えば、後にとっておきの罪を話すわけでもないのです!!


「先ほどの話ですが、セントポーリア城下のように、大気魔気が濃いと思われるところでは、栞さんはあまり歌わない方が良いとは思っています。ですが、自然に歌いたくなる気持ちまで止めることもできませんね」


 ……ああ、話の続きか。

 そう言えば、その相談だった。


 それ以上の衝撃が強すぎて、いろいろ吹っ飛んでいたよ。


「それは、銀製の装飾品でも防げないということでしょうか?」

「普通なら、それで神力がかなり抑えられるはずなのですが……。恐らくは、歌は体内から出る(もの)なので、銀製品で完全に防ぐことができないようですね」


 うぬう。

 確かに声は体内(口内)から発生するものだ。


 普通に手や指から神力を行使するならともかく、声なら……。


「口に銀のマスクを着けた方が良いでしょうか?」


 なんとなく、抗菌効果がありそうだね。


「耳と首には既に着けていらっしゃる。そうなると……」


 ぬ?

 わたしの言葉に気付かないほど、大神官さまが何やら、考え込まれている。


 だから暫し、待つことにした。


 今のうちにお茶を淹れなおそう。

 やはり、ティーポットよりも急須の方が使いやすくて好きだ。


 緑茶(ニルギス)、万歳!!


「栞さん、少しご無礼をしてもよろしいでしょうか?」


 そして、それから暫く経って、大神官さまは顔を上げた。


「ご無礼?」


 なんだろう?


「少し、栞さんの神力に触れても構いませんか?」

「……触れ?」


 わたしの神力は基本的に声だ。

 つまりは見えない。


 そして、触れるって……息?

 いや、声と息は別物だ。


 プロとなれば、ロウソクを揺らさずに歌を歌えるとかなんとか?


「先にどうやって触れるかを確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


 喉に手を突っ込むのだろうか?

 それは怖いし、かなり苦しそうだ。


「未婚女性にこのような申し出は少々心苦しいのですが、全身を包ませていただいた上で、私に向かって歌って欲しいのです」

「……全身を包む? 布か何かで?」


 それなら、九十九で慣れているけど……。


「いいえ、この両腕で」

「ほげ!?」


 とんでもないことを言われた。


「それは、大神官さまに抱き締められながら歌えと言うことでしょうか?」

「有り体に言えば、そうなります」


 これが、他の御仁からの申し出なら断固拒否する場面だ。


 だが、相手は清廉潔白だと謳われる大神官さま。


 時々黒いから、「潔白」はちょっと違う気がするけど、基本的にはこの世界の誰よりも、いや、わたしの護衛の方が不純さは薄いような?


 いやいやいや!

 わたしの護衛だって時々、潔白じゃない!!


 でも、アレは不純というよりも揶揄いとか、悪戯とかそんな範疇であって……。


「それ以外の方法は?」

「一番、感度が良いのがこの方法と言うだけで、普通に歌うだけでも大丈夫です」


 こんな状況で「感度」とか言わないで欲しい。

 ますます、困るじゃないか。


 でも、どうする?

 この様子だと、この大神官さまは明らかに邪な気配はない。


 まあ、当然だ。


「普通に歌うだけとの違いは?」

「神力を受ける感覚が大幅に変わりますね。私の神力はこの全身から発し、そして受け止めることができます。ですが、普通の神官ならともかく、未婚女性である栞さんに願うことではないということも重々承知です」


 神力の受信装置が大幅に違うのか。


 でも……。


「……男の人相手にも抱擁?」


 そっちが気になってしまった。


 それはそれでどうなのか?


 いや、背の高い美形の殿方からの抱擁なら、男の人でもご褒美に?


「最近では、リヒトさんで確認させていただきました」


 よりにもよって、想像しやすい人間の具体例が出てしまうとか。


 いや、美形同士だから、一部の人たちは大喜びしそうな絵面であることは認める。

 そして、わたしも絵の参考として気になってしまった。


「ぐぬぬぬ……」


 既に取り繕う余裕などない。

 だけど、迷う。


「やはり、嫌ですよね」


 大神官さまは困ったように笑った。


 いや、嫌とかではないのだ。

 わたしの中では、どちらかと言えば、申し訳ないという感情の方が強い。


 この人はワカの想い人だから。


 でも、わたしは正しい情報(知識)が欲しい。


 歌うだけでも分かると分かっていても、少しのずれで何かが変わるとも言い切れないのは、これまでの経験でよく分かっている。


 やるからには全力!

 できる限りのことはしよう!!


 そう思う自分の方が強い。

 それでも、頭にちらつく影がある。


 それはワカではない人。

 怒っている顔ではないけれど、少し困ったような顔をしている。


 ―――― なんで、そんな顔をしているの?


 自分の想像の中の顔ぐらい笑って欲しいのに。


 だけど、今はそんなことを考えているような時間ではなかった。


「分かりました。大神官さま」


 わたしは一礼する。


()()()()()()()でお願いします」


 そう力強く言い切ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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