表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1986/2805

大神官の見解は?

「栞さんはお茶を淹れるのがお上手ですね」


 恭哉兄ちゃんはわたしの淹れたお茶を口にしながら、穏やかな声でそう言った。


 但し、持っているのはカップではなく、湯呑みである。

 基本的には洋風な世界にこの違和感。


 だが、それでも優雅に見える恭哉兄ちゃんは凄い。


「いや、それでも九十九からの評価が低くて……」


 七十点は取れるようになったが、それは身体に害のない飲み物ということだ。

 お茶として飲める味と評価される八十点も毎回、届くわけではない。


 いつか、九十九に「美味い」と言わせるのが、わたしの密かな夢なのだ。


 変質しやすい料理では無理だろうが、変化の工程が少ないお茶ならば、いつか、なんとかなる気がしている。


「九十九さんは厳しいですね」

「そうでもないよ。評価としては『飲めれば80点』って言うぐらいだから」


 寧ろ、甘い評価だと思っている。


 もっと上手に淹れられる九十九の味を知っている身としては、その評価を複雑に思えてしまうのは仕方がないだろう。


「他者が口にできるようなお茶を淹れられることは凄いと思います」


 ワカから「新たな生命体を生み出す黒魔術師」と言われてしまうような大神官さまはそう微笑んだ。


 何でもできるように見える恭哉兄ちゃんは実は、料理がかなり苦手らしい。

 世の中に完璧な人間などいないと言うのがよく分かる話だ。


「それで、栞さんの話とは?」

「ほへ?」

「先ほどおっしゃられたでしょう? 少し、話がしたいと」


 なるほど、確かに改まって言ったから、普通に考えても、息抜きとか雑談の申し出とは思わないよね?


 それなら、話が早いか。


「大神官さまにいろいろ伺いたいことがありまして」

「そうですか」


 恭哉兄ちゃん……、いや、大神官さまは、持っていたカップ……、いや、湯呑みを置き、わたしを見た。


 だから、わたしも背筋を伸ばす。


 それでも、目の前にいる背の高い御仁と同じ高さにはなれないけれど……。


「どのような話でしょうか?」


 大神官さまは、わたしに話の続きを促してくれた。


「まずは、先ほどの創造神の彫像について、大神官さまの見解を伺いたいと思います」


 先ほどは、同時にモレナさまの話をしようとしたために、遮られたのだ。

 でも、それは彼らの関係を考えると当然の反応なのかもしれない。


 どんなに大神官であっても、彼は人間なのだ。


 普段は、大人で多少のことに動揺を見せない人ではあるが、あの方が関わった時だけ、少し反応が人間らしくなる。


 それをわたしは知っていた。


 あの方に対して複雑な心境になることは予測できていたのに、口にしようとしてしまったことはあまり良くない行いだった。


 それに、割と重要な話だと言うのに、雑談ついでに話したこともあまり良くない。

 本気度が足りないと思われても仕方がないことなのだ。


 だけど、この部分において、神官最高位の方の意見はちゃんと聞いておきたかった。


 多分、九十九や雄也さんも尋ねるか、既に確認済みのことかもしれないけれど、「聖女の卵」であるわたしにしか話さないことだってある気がするのだ。


「それでは、栞さんが、どんな状況でその()の神にお会いしたかを聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「先ほどお話したように、リプテラの町でお会い……したといって良いかは分かりません。その彫像は、簡単には手が届かないような高い位置にあり、近くではっきりとお目にかかったわけでもないので」


 見上げるしかないほどの高さにあって、しかも初めて見たものなのに、それでも何故か、創造神を模したものだと分かったのは、今でも本当に不思議である。


 少なくとも、恭哉兄ちゃんが嵌められて何度か触れることになった……という言葉よりは、優しい措置だったと言えなくもない気がしなくもないような?


「なるほど……。接触狙いではないようですね」

「ただ、とある方が言うには、『聖女の卵』との接触狙いだとは言われました。運良く触れていたら、神力が強まっただろう、と。あるいは、連れの……、護衛たちに加護の押し付けが目的だったかもしれない……とも言われました」


 わたしの「とある方」という言葉に一瞬だけ、大神官さまの肩が揺れた気がするが、気のせいだろう。


「恐らくは違います」

「え?」


 そして、あっさりとそう口にされた。


()の神が、本当に栞さんたちに接触を願うなら、確実に手が触れる所に現れます」


 あれ?

 そうなの?


「具体例はありますか?」

「私の例で恐縮ですが、部屋に一つしか置かれていない筆記具に姿を変えていたことがあります。それ以外では、至急と置かれている書類の一つに姿を変えていたこともありますね」

「ちょ、彫像ですらない……」


 思わぬ事態に、敬語が抜け落ちた。

 創造神が無機物に姿を変えるってありなの?


 いや、彫像も無機物と言えばそうなのかもしれないけど、何かが明らかに違うよね?


 ギリシャ神話には石とかに姿を変えた神さまもいた気がするけど、それとも違う気がするし。


「寝入った後に、使用している寝具に成り代わられると、もう回避のしようもないですね」


 なんと!?

 それは、絶対、回避できない!!


「つまり、油断も隙も無い……ということでしょうか?」


 出てきた具体例が一例、二例の話ではなかった。


 ああ、この方の神力が強いわけだ。


 恐らくは、この具体例以上に接触させられている回数があるのだろう。


 でも、寝ている時に寝具に変わられるのは本当に困るな。


「相手の都合など考えないのが神という存在ですから」


 おおう、辛辣。

 だが、そう言いたくなるほどの害はあることは分かる。


「でも、眠っている間の寝具に変わっているのは分かるのですか?」

「布団の気配がなくなり、抗いたいほどの神気に包まれるので、すぐに分かります。その時は既に接触後なので、飛び起きても間に合いませんが」

「寝込みを襲われちゃうわけか……」


 確かにそれは逃げきれない。


 そして、「抗えないほど」や「抗いがたいほど」ではなく、「抗いたいほど」の神気とは一体……。


 この方は神さまに仕える神官であるはずなのに。

 いや、神さまのことが嫌いなのは知っているけどね。


「話を戻しましょうか。つまり、栞さんとも、お連れ様との接触が目的ではないでしょう。本来、神力がないお連れ様では、その彫像すら見ることができません。見ることができなければ、その場に手を伸ばしても触れることはできないのです」

「その連れたちも、彫像を見れる状態であれば如何でしょうか?」


 少なくとも、雄也さんはあの場であの彫像を見ることができている。

 そして、後から来た九十九も見たらしい。


「栞さんは本当に九十九さんと雄也さんと仲が良いということですね」

「え?」


 何故、そんな結論になった?

 しかも、いつも近くにいる九十九だけではなく、雄也さんも?


「先ほどの言葉は、お二人とも、()の神を模した像を視ることができたということでしょう?」

「そうだけど……」

「もう既にご存じかもしれませんが、神力は、僅かながら他者に分け与えることができます。栞さんに触れる機会が多い方や近くにいる時間が長い方は、少なからず栞さんが持つ神力の影響下にあると言えるでしょう」


 モレナさまもそんなことを言っていた覚えがある。


「でも、わたしが持つ神力ってそんなに強くないですよね?」

「この場合は、強さよりも、その神力の源が、どの神が元になっているかが重要となります。そして、栞さんの神力は、導きの女神と()の神によるもの。そのため、九十九さんと雄也さんもそれらの神に関しては、強く魂が反応させられる可能性は否定できません」


 大神官さまが言う「強く魂が反応させられる」という言葉や、それ以外の部分にいろいろと引っかかりを覚えたが……。


「それならば、何故、創造神さまの彫像はわたしの前に現れたと思われますか?」


 そんな疑問の方が先に出た。


 接触できればラッキーと言っていたモレナさまの見解とは明らかに違う言葉を期待して。


 そして、大神官さまは笑みを携えて、わたしに意外な答えを告げるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ