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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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1985/2806

神に嵌められる?

 わたしは、今、大聖堂の一室にて、大神官である恭哉兄ちゃんと二人だけでお茶しています。


 これはなかなか稀少なことである。


 ワカもいない。

 わたしの護衛である九十九もいない空間。


 本来なら、教育を施す教師でもなく、結婚が約束されている婚約者でもない間柄である未婚の男女が、二人っきりの密閉された一室でのんびりお茶をするなんて、この世界ではこの国に限らずどこの国でも目撃されたら眉を顰められてしまうような状況ではある。


 だが、それが許されてしまうのが、この大聖堂という領域と、神官職という恭哉兄ちゃんの立場なのだ。


 正神官以上の神官職にある者は、聖堂を任せられる。


 それは、正神官以上の神官には聖堂を運営する権限があり、同時に、信者を含めた世の困窮する人々を救済する義務があるということでもあるのだ。


 つまりは、正神官以上の神官なら人の話を聞くための相談室として、事前に管理者の許可を取って、大聖堂の一室を使うことができる。


 そして、相談者の中には、他者にその話の内容を聞かれては困ることもあるだろう。

 具体的には身内や上司の不正を訴えたりするような内部告発な話とかがそれに当たる。


 それらは外部に絶対漏らせない。

 だから、異性であっても、神官と一対一で密談することも可能なのである。


 そのため、「迷える子羊(救いを求める人間)」用の部屋は普通よりも結界が強めに設定されているらしい。


 話し合いが拗れたり、感情的になったりすれば、城下の結界の強化版が発動するようになっているそうな。


 このストレリチア城や城下にある結界は中にいる人間に悪意があれば、その魔力、法力を含めた様々な力を吸い取る効果がある。


 但し、この大聖堂の一部は神官たちの法力修行のために、その結界が無効化されている部屋もいくつかあるとも聞いていた。


 通路までは結界が有効だけど、結界が無効化されている部屋に引き込まれたらいろいろアウトということだ。


 そんな場所に連れ込もうとする人間が碌な思考を持つはずがない。


 尤も、管理者の許可なく勝手に大聖堂の部屋を使用しようとする形跡があれば、即、「裁きの間」という特別で素敵なお部屋にご招待されるよう、()()()()()()()()()()()()()()らしい。


 ワカ曰く、「当事者の意思を無視した身柄の移送を施している結界って、かなり高難易度のはずなんだけどね」とのこと。


 九十九も「他者を強制的に移動させる魔法は、相手がここに留まりたいと思うよりももっと強くはっきりした意思がなければできない」と言っていたので、かなり難しいのだとは思う。


 でも、恭哉兄ちゃんなら何の不思議もないよね。


 神官の中でも最高位の大神官さま。

 その座に至ることができるような人が、普通であるはずがないのだ。


「ああ、そう言えば、リプテラという町で、創造神さまの彫像を見たよ」

「白かったでしょう?」

「確かに、白かったね」


 その彫像は、確かに白かった。

 そう言うしかない。


「でも、恭哉兄ちゃんは疑わないんだね?」


 わたしは創造神の絵姿を見たことが無いことは、恭哉兄ちゃんは知っているはずだ。


 だが、勘違いとか、見ているはずがないとか決めつけることもなかった。


「栞さんは、()の神より接触される可能性はありますから」

「そして、その彫像が『白い』って知っているってことは、恭哉兄ちゃんも見たことはあるんだね?」

「誠に痛恨ながら何度かお目にかかったことがあります」


 笑顔なのに、「遺憾」より強めの言葉が来た。


「彫像に触れたことは?」

「今よりももっと若い頃に、何度か()の神に嵌められて、触れる機会はありましたね」


 恭哉兄ちゃんは大神官と言う名誉も権威もある地位にいる御方ですが、まだ二十代前半の青年です。


 そして、いつもは穏やかなのに、その口元の笑みにどこか毒々しい感じがします。


 ワカが恭哉兄ちゃんを「能面(無表情)」って言うことがあるけれど、それって、こんな黒い表情を隠しているだけなんじゃないかな?


 好きな人に見せたい種類の表情ではないとは思う。

 やっぱり、好きな人には少しでも良い顔を向けたいだろう。


 でも、わたしの前で時々見せてくれる。

 それは多分、わたしが「聖女の卵」だからだと思う。


 そして、大神官が何故、大神官と呼ばれる地位に立つことができたのかをある意味、正しく理解してしまっているからだろう。


 確かにこればかりは他の人間たちに知られることはできない。


 知っているのは、大神官と呼ばれる地位に在る者や、かつて在った者。

 それ以外には、うっかり知ってしまった者ぐらい……、だろうか?


「創造神さまって、奇策が好きな方?」

「ええ。直接、伺ったことはありませんが、かなり大好きなのでしょうね」


 ぬう。

 そんな神さまに魅入られてしまった母って一体……。


「ああ、その創造神さまの彫像を見たリプテラで、『暗闇の聖女』さまにも……」


 一瞬、名前を言おうかと迷ったけれど、一応、こっちの名称を言いかけて……。


()()()()()()()()()()()()


 恭哉兄ちゃん自身の強い言葉によって遮られた。


 こんな恭哉兄ちゃんは珍しいが、あの方との関係や事前に聞いていた話からは仕方がないとも思える。


 わたしよりも五歳も上なのに、意外と子供っぽいところもお持ちのようだ。

 それでも、言葉そのものは崩れていないところは流石だとも思う。


 だが……。


「あの強烈な方のことを忘れる?」

「無理ですね」


 どうやら、考えるまでもなかったらしい。

 わたしの問いかけに即答された。


 あの方との出会いは、忘れようとして忘れられるようなものではない。


 本当に忘れなければならないのなら、それこそ、記憶を封印する必要があるだろう。


「栞さんたちが、あの島から離れた後、暫くリプテラに滞在することは伺っていましたが、町そのものはどうでしたか?」


 そして、それ以上、あの方との話を続けたくもないようだ。


 その気持ちも理解はできるので、そのままその流れに乗っかる。


「赤ちゃんがふにゃふにゃだった」

「ああ、乳児に出会ったのですか」

「なんであんなに可愛い生き物がこの世に存在するんだろうね?」

「栞さんはほんとうに幼い子供がお好きですね」


 それだけ聞くとちょっと誤解されそうだが、恭哉兄ちゃんはそんな意味で言っていないことは分かる。


 わたしが子供好きなのは事実だからね。


「『教護の間』だけに就職するってできないよね?」

「現状では難しいでしょうね」


 教護の間は、聖堂内にある孤児院と学舎が併設されている乳幼児や児童の保護施設だ。


 尤も、その規模や質は聖堂や内部にいる神官や神女たちによって異なる。


 聖堂は上神官以上が建立し、その運営に関しては建立した神官自身やその部下である正神官以下の神官、神女たちが動かすことがほとんどである。


 その建立目的や立地条件など様々な要件を精査した上で、毎年、大聖堂から運営補助金も出るようになっている。


 だが、人員に関しては、建立した神官が派遣する必要があるため、大きな町から離れると、なかなか難しいところがあるそうな。


 この大聖堂ほどの規模なら人員は多く、なおかつ、お膝下ということもあって、点数稼ぎのためにお手伝いは十分らしい。


 加えて、近年では稀に大聖堂の「教護の間」には、「聖女の卵」が現れると言う噂もあって、お手伝いを希望する神官が多すぎるほどとも聞いている。


 だが、お手伝いが多いならば、神女でもない「聖女の卵」がわざわざ手を出す理由もなくなるので、わたしにお呼びはかからなくなるという不思議。


 そんな聖堂運営の片手間でやっているような業務だから、仮に聖女認定を受けて、正式な聖女となっても、「教護の間」の世話だけをしていれば良いはずがなく、今以上に面倒なお仕事が増えるのだろう。


 神官や神女たちだって、一つの仕事ばかりしていれば良いはずがない。

 幾つも仕事や役職を兼ねているのが普通だ。


 恭哉兄ちゃんも大聖堂で神に祈りを捧げ、神の言葉(教え)を伝えるだけではない。

 見ている限り、どちらかと言えば、雑務の方が多い気がする。


 頂点がそんなに大変ならば、仮に聖女認定されても、自分の好きなことだけするというのは許されないだろうし、自分自身もそれはどうかと思う。


 いろいろ難しいね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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