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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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1982/2805

突発お茶会?

「そろそろ本題に入っても良いか?」

「笹さん特製の美味しいお茶とお菓子が出るなら」


 オレの言葉に王女殿下は涼しい顔で答える。


 その高貴な人間が持つ独特な雰囲気は、先ほどまで阿呆な話題をしたがっていた女と同じ人間とは思えない。


 これはアレだな。


 この世界には娯楽が少ない。

 だから、高貴な人間ほど他人の恋バナとかを楽しもうとする。


 それと同じ感覚なのだろう。


 個人的には他人のそういった話を聞きたがるのは悪趣味だとしか思えない。


 特に友人同士などの仲間内のそういった話って、相手を知っているから想像しやすくて嫌じゃねえか?


 それなのに、楽しみたくなる感情というモノが、オレにはよく分からなかった。


「分かった。簡単な物で良ければ準備する」

「私のために凝ってくれても良いのよ?」

「厨房もないところで凝った物を期待するな」


 作り置きの菓子と冷めても飲める茶を用意する。


「いや、自分で注文しておいてなんだけど、なんで焼き菓子とお茶のセットがすぐに出てくるの?」

「常備しているから」


 栞のためにいつでも食えるようにしているが、基本的には水尾さんのためでもある。


 作り置きで日持ちするのは大事だ。

 まあ、マメに入れ替えてもいる。


 水尾さんは、すぐに食ってくれるから。


「ほほう。つまりは高田のためってことね?」

「オレの全ては高田のためにあるからな」


 オレがそう答えると、何故か絶句された。


 そんなに変なことを言ったか?


「大神官猊下もそれぐらい言うだろ?」

「ヤツは言わね~」


 そうか?

 言いそうだけどな?


「グラナディーン王子殿下も言うだろ?」


 あの方も言いそうだよな?


「兄から言われても嬉しくね~」

「さっきから言葉が酷いぞ、王女殿下」


 仮にも王女殿下なのに、本当に素だと口が悪い女だな。


「あ、笹さんが言ってくれる?」

「あ?」


 何か変なことを言われた気がする。


「『オレの全ては若宮のためにある』と言ってくれる?」

「……オレノスベテハワカミヤノタメニアル?」

「酷過ぎるぐらいの棒読み!!」


 うるせえ。


 そんな酷過ぎる棒読みの言葉でも、口にしただけでも()()()()()()()()にもなれ。


 今の言葉は嘘だとオレの眼に判定されてしまったらしい。


「でも、それを高田に言わないと意味はないわね」


 オレを揶揄うように王女殿下は言いやがるが……。


「言ってるぞ」

「え?」

「オレは、高田本人にも言っている」


 それも何度も。


「え? マジ?」

「そんなことに嘘ついて何か得があるのか?」

「それで高田は変化なし?」

「寧ろ、そういうのは止めてくれとはよく言われる」


 重いとか、そんな言葉要らないとか言われている。


「あ~、何? これって、天然同士の不毛な惚気?」

「先ほどの話のどの辺りに惚気要素があったかは分からんが、まずは茶を飲め。そして、落ち着け」


 このままではいつまで経っても本題に入れない。


 大神官にこの部屋を使う許可は取っているが、離れている栞のことが全く気にかからないわけでもないのだ。


「いただきます」


 そう言いながら、若宮は素直に茶に手を付けた。


「あら、美味しい。初めてのお茶だわ」

「シルヴァーレン大陸産のエカナライスという茶葉だ。セントポーリア国王陛下が愛飲しているお茶らしい」


 効果は主に疲労回復。


 そして、千歳さんでも淹れられるお茶ということもあって、セントポーリア国王陛下からかなり好まれているらしい。


 その中の一部を分けていただいた。

 城にあるものなので、城下に出回らない等級のものだと聞いている。


 ここに来る前に、試しに口にしてみたところ、確かに城下のものとは少しだけ味の深みが違う気はした。


 王女殿下に飲んでいただくには丁度良いだろう。


「ちょい待ちなさい」

「なんだ?」

「なんで、そんなものがここにあるの?」

「セントポーリア城でバイトさせられた後、褒賞としてもらったんだよ」


 ここに来る前にご挨拶した時、千歳さん自らが分けてくれたのだ。


 なんで、あの政務室に置いてあったのがこの茶葉ではなかったのかは、それで分かった。


 セントポーリア国王陛下は、エカナライスの茶については千歳さんが淹れたものしか飲まないのだ。


 だから、あの政務室には冷めると味が落ちる「ギルドラード」の方があったらしい。


 一途、健気と言えば、聞こえは良いが……、それで、栞が頭を悩ませたことを思うと、もっと公私の区別は付けた方が良いんじゃないかと思う。


「突っ込みどころしかない。なんで、セントポーリア国王陛下が好む茶葉なんかを……」

「大神官猊下のお使いついでに、事務仕事を頼まれたんだよ」

「突っ込みどころをさらに追加しないで。お茶やお菓子なら嬉しいけれど、そんなおかわりはいらない」


 そうは言われても、事実だから仕方ない。


 いや、細かく言えば、大神官のお使い……、挨拶は城に訪問する理由付けの面ではあったのだが、そのついでに仕事していけと言われただけの話だ。


「あ~、確認するけど、笹さんは文官仕事もできちゃう人なの?」

「二週間ほど続けて拘束される程度には」


 まあ、アレは栞のこともあったからだとは思う。

 そんな理由がない限り、いくらオレでもずっとあの城にいたくはない。


「ストレリチア城でもやってく?」

「却下だ。この城に長い期間、高田を滞在させるつもりはない」

「チッ!! 手強い」

「王女殿下が舌打ちするなよ」


 しかし、分かりやすい理由だった。


 オレを拘束すれば、栞がオマケで付いてくると思っていやがる。

 そんなことを許せるかよ。


「そろそろ良いか?」

「そうね。あまり長話していると、ベオグラが来るでしょうし」


 それはオレも同感だ。


 いくらあの方でも、自分が好きな女がいつまでも他の男と一緒にいるのを黙認してくれるとも思っていない。


「それで、何の話?」

「この服についてだ」

「ああ、高田から聞いた? ()()()()()()()()だって」


 悪びれることもなく、そう答えられた。


「やはり、コスプレ衣装か」


 栞の言動からそんな気はしていたが、しかし、「最愛」だと?


 どんなキャラだ?

 漫画か?

 ゲームか?


 そして、あの異様な食いつきは、そんな理由があったのか。


「おや、その様子だとコスプレ衣装だとは気付いていたけど、何のキャラかは知らないのか」

「知らねえよ」

「それならば、私の口からは言えないね~。高田に聞いて」


 若宮は猫のように笑いながらオレに向かってそう言った。


「聞けるか!!」


 しかも、それが栞の「最愛」と知った今。


 その相手が紙面上だろうが、画面の中だろうが、すっげ~、複雑な気分にしかならねえ。


「そういうところは分かりやすいままなのね」

「ほっとけ」


 それでも、伝えたい当人には全く、伝わらないままだがな。


「それで? それなら、何に対して興味があるの?」

「誰が作った?」

「……おおう」


 若宮は栞みたいな珍妙な声を出しやがった。


 まさか、オレがそこを気にするとは思っていなかったらしい。


「この私が夜なべして、その一針一針に愛を込めて……」


 光った。

 分かりやすい嘘だった。


「嘘を吐け」


 この王女殿下は、誤魔化しはするし、本音は隠すけれど、あまり嘘は吐かない。


 それなのに、咄嗟に嘘を吐いた辺り、出所を知られたくはなかったらしい。


「これは誰が作った?」

「なんでそんなことを気にするの?」

「高田がこの服の異常さに気付いたからだよ」

「あれ? もしかして、笹さん、この服を高田に触らせた?」


 ?

 栞が触ると、この服の異常さに気付く可能性があったのか?


 だが、栞はこの服に触れては、いや、触れたか。


 識別魔法を使う前に、一度、手渡した覚えがある。


「確かに触れたな」

「まさか、弾かれた?」

「いや、それはなかった」


 ああ、なるほど。


 この服には法力耐性と神力耐性がある。

 そして、栞には法力はなくても、神力はあるらしい。


 この王女殿下は、それを心配したのか。


「そっか。高田には無効だったか」

「何が無効なんだ?」

「これに触れた時、高田は何か言っていた?」

「これは凄い、と」


 嘘ではない。

 単純に「識別結果」を視た後で、栞はそう口にしている。


「なんで、こんなジョークアイテムみたいな服に、高級素材のリアダカルクの皮なんか使ってやがる?」


 オレはこの服の生地を引っ張りながら、確認する。


「ほう!? 笹さんってば、服の材質にも気付いたの?」


 まさか、素材に気付かれるとは思っていなかったのだろう。

 実際、オレは栞の「識別結果」を聞くまでは気付かなかった。


 いや、庶民がそんな高級素材を見る機会なんかねえ。


 だが、兄貴はどうだろう?

 この服を見せていないから分からない。


「付け加えるならば、()()()()()()()()()()()()()か?」

「何のことでしょうか?」


 目が泳いだ。

 この反応は大当たり(ビンゴ)だ。


 この女はあの効果を狙っていやがった。


「下半身限定で鎮静効果なんかわざわざ付けやがって」

「あっれ~? なんでそっちにも気付いたかな? まさか、笹さん、興奮しそうになって()()()()()()()()()()()?」

「今、切実にその効果を頭に求めている」

「あ~、笹さん。時々、短気だからね~」


 反省の色はないらしい。


「まあ、素材までバレているなら、仕方ない。せっかくだから、ちゃんと話しておきましょうか」


 そう言いながら、王女殿下は、姿勢を正す。


「それは、私から『聖女の卵』の護衛に対して心を込めた贈り物なのですよ」


 そして、嘘や誤魔化しのない真っすぐな言葉を告げるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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