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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 友人関係変化編 ~

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1981/2804

確かな自信?

 黒髪の青年に先導されて行った先は、やはり大聖堂の一室だった。

 確か、迷える子羊用の部屋だったと記憶している。


 確かに、この部屋なら邪魔は入らない。


 本来、未婚の王族女性が一人で異性に会うなんて、許されることではないのだけど、この部屋は大聖堂の中でも重要な場所である。


 ここで無体を働けば、大神官自らが動くほどに。


 迷える子羊……、様々な形で傷を負った人間の保護に使うための部屋だ。

 さらに傷を負わせることなど、許されるはずがない。


 そんな特殊なこの部屋は大神官直轄であり、大神官の許可が無ければ使えない部屋でもある。


 大神官であるベオグラが、「聖女の卵」である高田と会話のために動けない時間帯を狙うから、通用門を使って外に出るかと思えば、よりによって、ヤツの管轄に連れ込まれるとは思わなかった。


 その手際の良さから、恐らくは()()()()()のだろう。

 そして、既にベオグラとも打ち合わせ済みのようだ。


 今回のお呼び出しの原因は、まあ、着ている服かな?

 分かりやすいお誘いだ。


 これは、高田の口からバレたのか。

 もしくは、ベオグラに気付かれたのか。


 エスコートという名目で既に手を取られていた私に逃げる術などあるはずもなかった。


 せめて、彼の向かう先を聞いてから、この手を差し出すべきだったと後悔しても、もう遅い。


 仕方ない。

 観念するしかないか。


 いや、悪意はない。

 寧ろ、善意100パーセント!!


 だけど、黙っていたという負い目は少なからずある。


 でも、まさか、()()()()()()()()()じゃない?


「この部屋なら、余計なモノを交えず、存分に語り合えるな」

「あら? 私と愛を語り合うの?」

「それを王女殿下が望むなら」


 そう言いながら、余裕のある笑みを向けられた。


 ……くっ!!

 簡単には誤魔化されてくれないか。


 随分、鍛えられたものだ。

 まあ、あんな可愛い主人を持てば、否が応でも成長するしかないか。


 護衛としても、男としても。


 だが、これはこれで良い。

 この青年と愛について語らうなら、私にとっても悪い話ではないのだ。


「じゃあ、愛を語り合いましょうか」


 まずは、舞台を整えようか。


 貴方だって、私が簡単に料理できるとは思ってないよね? 笹さん。


「どんな愛をお望みでしょうか? 王女殿下」

「真面目な話、現在、笹さんは高田とどうなってるの?」


 まさか初っ端から自分の恋バナについて望まれるとは思うまい。


 だが、手強い黒髪の青年は考える仕草すらせずに……。


「護衛と主人の関係だが?」


 そう返してきた。


 しかも、素の返事。

 先ほどまでの恭しさなど感じさせなかった。


「いや、もっと、こう! ハラハラドキドキ! ドキドキワクワク! な関係にはなってないの?」

「……ドキドキが被ってるぞ」

「考えて返事するところはそこじゃないよね?!」


 突っ込み体質すぎる!!


 誰が、彼をこんな方向性に育てたのか?


 ボケ体質の主人だ。

 そうに違いない。


「ハラハラはしてるな~。あの女は目が離せない」


 そして、真面目に答えてくれるらしい。


「目が離せないほど大好きってことでおっけ~?」

「嫌いでも護衛対象から目を離すのって無能じゃねえか?」

「それは確かに」


 選り好みをしている時点で仕事人ではない気がする。


 そして、彼の感覚は職人気質だ。

 感情に左右されずに仕事を(まっと)うしようとする心は強いだろう。


「若宮はどうだ? 大神官との仲は進んだか?」

「進むわけね~わ」


 私がそう答えると、苦笑しやがった。

 簡単に想像できたのだろう。


「あの堅物が、婚儀も行っていない女に手を出すはずがないでしょう?」


 あの男は、大聖堂で私に愛の証を立てた後も、そこまで大きな変化はない。

 いや、積極的に私を揶揄うようになった気がする。


 だが、私に持ち込まれていた縁談の類は全くなくなったために、一部の人間たちは知っているのだろう。


 だが、私が降嫁するにしても、ヤツが大神官のままなのか。


 それとも、早々に大神官を引退して先々代大神官であるヤツの義父のように聖爵を賜るのが先かという話は全く出ていない。


 そのために、今後、私はどうすれば良いのか分からない状況にある。

 さらに言えば、ヤツは私に文字通り、手を出さない。


 先ほど、この黒髪護衛青年にも言ったように、エスコートのために手を差し出すことすらしないのだ。


 そして、相変わらず「禊」の期間は設けられている。


 そこまでは、この護衛青年も知っていることだった。


「このまま、ボヤボヤしていたら、私はあっという間にオバサンになってしまうわ」

「まだ18歳だろ?」


 同じ年代の護衛青年はそう言うが……。


「女の盛りは短いのよ」


 私は溜息を吐く。


「人間界ならそうかもしれんが、この世界はそうじゃねえだろ?」


 この世界の人間は、病気にならない限り、基本的に長生きらしい。


 そして、二十歳過ぎてからの成長は止まっているんじゃないかと思うぐらい緩やかになる。


 実際、ベオグラは既に23歳。

 もうすぐ24歳だというのに、若返っている気さえする。


 ヤツは精霊族の血が入っているんじゃないだろうか?


 異常なまでの法力の強さや神力まで持っている辺り、それも見当違いではないと思っているけれど、ベオグラは本当の母親も父親も分からないから、それを私が知ることはないのだろう。


「あのね? 笹さん」


 だが、それはそれとして言いたいことは言わせてもらうことにする。


「女は次世代のことを考えなければならないの。だから、早いうちに婚儀を行った方が良いの。分かる?」


 この辺りの事情は、男側はあまり考えまい。

 だが、女にとっては割と切実なる話である。


「十代は推奨しない。身体が未成熟だからな。それに、この世界なら100歳を越えても出産は可能だと大神官猊下が言っておられた」


 だが、人間界の知識を備える男は怯まない。


 ああ、うん。


 十代の妊娠、出産は危険だと私も新聞で読んだことはあるが、真顔で返されると、こっちが困る話題でもある。


 彼の羞恥の基準が時々分からない。


 脳裏に、眉を下げて困ったように笑う友人の姿を幻視する。

 あの友人はこの青年のこんな部分でかなり苦労している気がした。


「そんなどこかのビール会社が編纂した世界記録に載るような人間とか弱い私を一緒にすんな!!」


 そもそも、あの世界って、なんでビール会社が世界記録を編纂しているのだろうか?


 今更ながら、謎である。


「そのどこかのビール会社の記録なら、確か自然妊娠での出産は57歳。体外受精と帝王切開を使ったものなら、63歳という記録があったはずだ」


 てっきり「か弱い」に対してツッコミが入るかと思ったが、思いのほか真面目な返答が帰ってきた。


 これはボケなの?

 私は遠慮なく突っ込めば良いの?


「なんで、そんな雑学知識があるの!?」


 そんな常識的な言葉を返すのがやっとだった。


 だが、出産の世界記録を覚えているなんて、変態か?

 変態でしかない。


 私も雑学は好きだけど、そんな細かい話をいちいち覚えていないわ!!

 だから、変態認定してやる!!


「そんなことを言われてもな……」


 そこで困った顔をされても私の方が困る。


「どちらにしても、大神官猊下にも何らかのお考えがあるだろう。だから、我慢しておけ」

「笹さんは、目の前に可愛らしい高田が、無防備な姿でチョロチョロしていても我慢できる人?」

「それは()()()()()だ」


 ……日常なのか。

 しかも、「可愛らしい高田」を否定しやがりませんでしたよ、この男。


 割とビックリなんだけど。


「可愛らしい高田を否定しないのね」

「否定して欲しかったのか?」

「否定すると思っていた」


 少なくとも、誤魔化すかとは思っていた。

 ストレリチア城で生活していた時や、この大聖堂にいた時はそんな感じだったのだ。


 だが、あれから数カ月。


 よくよく見れば、この青年も妙な落ち着きと言うか、余裕を感じるようになったのは何故だろうか?


 確かに彼も18歳。

 男が短期間で落ち着く理由とは……。


「笹さん、ついに高田と結ばれた?」

「唐突に何を言い出すかと思えば、高田を袋に詰めたことはあるが、まだ紐で結んだことはないぞ」


 凄く嫌そうな顔でそう返答された。


「ああ、結ばれているのは赤い糸じゃないかな……ってそうじゃなくて、その……」


 確かに、高田が連れて来られた時は、彼に袋詰めにされていた覚えがある。


 だが、私が聞きたいのはそんな物理的な話ではない。


 どちらかというともっと精神的な……いや、ある意味では、肉体的な話であって、それをどう確認したものか。


 私が思案していると、黒髪の青年は観念したのか、自分の髪の毛をぐしゃっと握って、大きな溜息を吐く。


「王女殿下が下世話な話題を選ぶなよ」


 意味は通じているらしい。


「いや、だって、気になるじゃない!!」


 少し前はもっと余裕がなさそうだった青年が今ではドッシリとしている。

 そこにあるのは確かな自信だ。


 そして、短期間で男が自信を持つのってそういうことが多い。


 大聖堂や城下をうろつく神官たちがそんな感じだし。


「ご期待に沿えず申し訳ないが、高田とそういうことはしていない」

「……そうか」


 それはちょっと残念なような、ホッとしたような不思議な感じだった。


 私が好きなこのコンビが結ばれることは本当に悪くないと思っている。

 その気持ちに偽りはない。


 だけどそれは、()()()()()()()()()()()()()ようなそんな感覚があったのだった。

今回の補足として、作中のビール会社の記録は、作中の時代である過去の記録です。

今は66歳と358日となっております。

70歳を越える出産情報はありますが、年齢の証明ができないため記録認定されてないかと思われます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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