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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1978/2805

理解しがたい

「ここでの生活は楽しめたかい?」

「それはもう!!」


 雄也さんの問いかけに、わたしは力強く答えた。


「あなたの弟さん、いろいろ反則でしたよ」


 とにかく、いろいろ尽くされた。


 料理だけでなく、彼自身もいろいろやりたいことがあったはずなのに、わたしに手をかけることも忘れなかったのだ。


 実にマメな護衛である。


 いや、食事の支度とか、主人の生活を支えるのは、本来、護衛の仕事ではないよね?


「ああ、アイツの()()()()は随分とお気に召したようだね」


 そっちの方でしたか。


「よくぞ、あの色を九十九に指示してくれました!」


 はい。

 彼が銀髪碧眼に身をやつすハメになったのは、夢の中で()()()()()()()()()のである。


 それが、「高田栞(わたし)」の影響なのか、それともシオリ(ワタシ)の思考なのかは分からない。


 ただ、「セントポーリア城下に行く際、ヤツの髪と瞳の色を変えさせるけど、リクエストはあるかい? 」と雄也さんから尋ねられたので、「是非、銀髪碧眼でお願いします!! 」と食い気味に返答させていただいただけの話だ。


 そんな裏事情を知らない九十九からすれば、迷惑な話だっただろう。


 尤も、高田栞(わたし)はそれを覚えていない。


 全ては夢の中のこと。


 だから、高田栞(わたし)がはしゃいでいる姿を見て、もしかしたら、彼の祖神である努力の神ティオフェさまと重ねられている気がして不快に思った可能性もあるかもなと今更ながら思う。


 だが、勘違いされるのは困る。

 わたしの中の全ての意識体が満場一致となり、それを全力で推しただけだ。


 何も考えずに口から出たというのがそういうことだろう。


 以前、薬で変化した努力の神ティオフェさまとしての姿。


 そして、ワカによってコスプレさせられた彼自身の銀髪碧眼姿も見ている。


 更には、過去視で何度も視せられている封印の聖女の恋人であるディドナフ王子殿下の姿にも似ているのだ。


 それらを総合して出た結論の可能性も、わたしは否定しない。

 どちらにしても、似合うから良いよね?


「まさか、栞ちゃんがそこまで銀髪碧眼が好きとは思わなかったよ」


 あれ?

 引かれた?


 だが、これだけは伝えておく。


「いや、九十九なら、黒髪黒い目の方が好きですよ?」


 これも事実だ。


 確かに銀髪碧眼の彼も魅力的であることは否定しないが、九十九は出会った時からずっと黒い髪、黒い瞳である。


 やはり、生来の色が一番良い。


「どうせなら、お互いに本来の色で過ごしたかったです」


 高田栞(わたし)も、濃藍の髪、緑色の瞳で過ごしていた。

 それは、高田栞(わたし)の色ではなく、「聖女の卵」の色である。


 セントポーリア城下はどこよりもダルエスラーム王子殿下による手配書の数が多い。


 城からの公示物を貼る掲示板や、人が多く立ち寄る書物館や商店街などの各所にある掲示板にも貼られているぐらいだった。


 だから、黒髪、黒い瞳の見慣れない女が城下にいれば、すぐに城に密告されていただろう。


 そんな理由から、高田栞(わたし)はセントポーリア城下において、本来の黒髪、黒い瞳で歩くことができなくなっている。


 それでも、高田栞(わたし)は、黒髪、黒い瞳のまま、九十九()の横にいることを望んでいた。


 特に「一日限定恋人」期間中に。


 まあ、九十九が銀髪碧眼の姿だったから「ヴァル」なんて呼び名も似合ったとは思うけれど、その辺りは複雑な乙女的な思考が絡んでいるから仕方ない。


「セントポーリア()()殿()()()()()殿()()()()()()()()()()、それも、叶うよ?」

「悪魔のお誘いですか?」

「事実だよ」


 まあ、確かに。


 わたしの平穏な生活を邪魔しようとするのは、あの二人とその取り巻きたちの手によるものだ。


 それは()()()()()()()()()()

 性懲りもなくという印象が強すぎるほどに。


 せめて、自分たちだけならともかく、どうして、関係のない人間を巻き込もうとするのだろうか?


 そこが理解しがたい部分だ。


 尤も、シオリはあの二人を意識しすぎて萎縮していた。


 そして、高田栞(わたし)はあの二人のことを全く考えもしないから、ややこしくはなっている気もする。


 だが、覚悟を決めれば、高田栞(わたし)の味方たちは全力で手伝ってくれることだろう。


 高田栞(わたし)は全く利用することを考えていないが、高田栞(わたし)に利用されたがっている……もとい、頼られたがっている人間は決して少なくない。


 そして、それを願う人間が、国の上位に位置している人が多いために、高田栞(わたし)が望めば、一国の頭を挿げ替えることも、一国を叩き潰すことも容易にできてしまう気がしている。


 それは客観的に見ていれば分かることだった。


 いや、あれほどの厚意や好意に対して、全く気付かない高田栞(わたし)という人間は、どこかおかしい。


 それが芝居でもない限り、鈍すぎるにも程があるだろう。


 それでも、お人好しでどこか日和見な部分がある高田栞(わたし)が積極的に動こうとしないから、この国の表面上の平和が保たれているのかもしれない。


 だが、自分の身を護るためでも、全く動こうとしない点においては本当に阿呆だと思う。

 力を持ちながら、それを思うがままに振るおうとはしない。


 独善的ではないため、独裁的な人間にはなりえないが、それは力ある人間の思考と立場の放棄に近いものがある。


 その辺りの感覚は間違いなく、この世界の人間としても、人間界の人間としても異質だろう。


 だから、流されるまま、他国の貴族の嫁入りの話に安易に乗ろうとしてしまうのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()のに。


 そして、それは高田栞(わたし)の母親にも同じことが言えるところが救えない部分に拍車がかかっている。


 いろいろなものを護るためには自分だけが我慢すれば良いとか、そんな自己欺瞞による自己犠牲など、自分を想ってくれている人たちに対しての侮辱だとは思わないのだろうか?


 思わないのだろう。

 だから、何度も同じことを繰り返す。


 全く、母娘揃って、変な所で頑固で救いようがない阿呆だなと自嘲するしかない。


 それでも……。


高田栞(わたし)の意見としては、正妃殿下と王子殿下はそのままで良いと思っています」


 あの二人の排除を高田栞(わたし)は望まない。


「本当に?」

「王位継承権の話が複雑化して面倒になるでしょう?」


 だから、関わりたくない。

 逃げられるものなら逃げたい。


 シオリからも、そんな思いが伝わってくる。


 高田栞(わたし)は、この世界に来てから、三年もの間に、戦うだけの力も立場も手にした。


 誰の目にも見えるほどの結果を出し続けている。

 それでも、高田栞(わたし)もシオリと同じように望まないのだ。


「俺としても無理強いする気はないよ」


 それでも、夢の中とはいえ、定期的に話題にすると言うことは、雄也さんの望みはそちらなのだろうなとも思っている。


 これは洗脳に近い。


 無意識の部分への働きかけは、間違いなく遅効性の毒だ。

 じわりじわりと高田栞(わたし)の意識に浸透していくことだろう。


 今は駄目でも、次なら、その次ならと確実に影響を与えていく。


 そんなとんでもない手法を笑顔で使うような厄介な人間に高田栞(わたし)は魅入られているらしい。


 知らぬは当人ばかりである。

 お気の毒に……と言っていいものか。


 単純な意識体としては、いろいろ複雑な気分である。


「でも、雄也や九十九から本気で請われたら、多分、高田栞(わたし)も考えますよ?」


 お人好しの高田栞(わたし)が自分の意思を揺らがせる存在。


 お世話になっている彼らが、それを本気で望むなら、彼女はその道を選ぶ可能性は否定しない。


 尤も、考えるだけで、結局、選ばないという可能性もある。

 こればかりは、そんな選択肢を与えられた後でなければ分からないのだ。


 それだけ、高田栞(わたし)という人間は理解しがたいのだろう。

 明らかに独自のルールで生きている。


「それでは意味がないな」


 雄也さんは肩を竦めた。


「俺はできる限り、()()()()()()()()()()()()()()と思っているからね」


 ここで、「どの道」を選んで欲しいのかを言わない辺りが、実に雄也さんらしいと思えた。

 多少、思考の誘導をさせつつも、肝心な部分を隠し、決定打は与えない。


 少しでも、高田栞(わたし)が迷えば、その分、思いは弱くなるからだろう。


 高田栞(わたし)の真の力は、その激しいほどの思い込みにあるのだ。


 それを弱める理由はない。


 だから……。


「それならば、あなたたちは、ずっと高田栞(わたし)を助けてくださいね」


 雄也さんが容易に断れないことをあえて口にするのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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