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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1974/2805

最強の盾と矛

 ―――― 夢を見た。


 だけど、それがどんな夢だったのかはほとんど覚えていない。


 それもいつものことだ。


 それでも、少しだけ覚えていることはあって、ああ、()()()()()と思ったのは確かだった。


 ―――― そして、夜が明けた。


****


「ふにゅ?」


 目が覚めて早々、ぼんやりとした目に入ったのは、九十九の広い背中だった。


 背を向けて机に向かっているらしい。


 そういえば、夜に彼の部屋にお泊りしたんだっけ。

 そんなことをまだ寝起きで纏まらない思考の中でなんとか思い出す。


 勿論、そこに九十九の意思はなかった。


 基本的に護衛としても、男としても、真面目すぎるほど真面目な彼が、そんなことを許すはずがないだろう。


 つまりは、わたしの独断である。


 だが、言わせていただきたい。

 ここには、深くて濃い事情があるのだ。


 夜、わたしを眠らせようとした九十九の魔法を跳ね返した。


 実はかなり警戒していた。

 これまでの経験から、わたしは彼の動きをすっごく警戒していたのだ。


 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、行動に移される気配があったので、思い切って、「誘眠魔法返し」にチャレンジしてみた。


 普通の「魔法返し」だけでは漠然としすぎて、彼の魔法を跳ね返せない気がしたのだ。


 そして、似たような「導眠魔法」は、九十九自身が、あまり成功率は高くないと言っていた覚えがある。


 もっと上位の「昏倒魔法」は攻撃魔法だから、わたしの「魔気の護り(自動防御)」が発動する可能性があった。


 だから、あんな状況で使うなら「誘眠魔法」だと山を張って、見事に跳ね返したらしい。


 わたしの目論見は成功した。

 ゆっくりと倒れる九十九を見て、そう思った。


 彼の方はわたしから魔法を弾かれることは考えていても、跳ね返されることは考えていなかったようだ。


 そして、思ったよりもしっかり、魔法の効果が出たらしい。


 以前、自分の魔法で怪我することはないと言っていたが、それは攻撃魔法に関してだということなのだろう。


 今回は「誘眠魔法」、補助魔法である。

 だから、自分自身の魔法で彼の意識は深い眠りへと落ちてしまった。


 どれだけ()()()()()()()()、わたしを眠らせようとしたのか?


 精神的に強すぎる彼が、全く抵抗することもできないほど簡単に眠ってしまうほどの魔法だった。


 最強の盾と矛。

 そんな言葉が頭を(よぎ)ったが、この際、そこはどうでもいい。


 今回、わたしとしても、毎回、毎回、眠らせられるのも、その対策を考えないといけないのも頭にきていたところがあった。


 毎度思うが、護衛が一番、手強く、そして危険だってどういうことだ!?


 いや、昨日限りでは、護衛じゃなかった。

 一日限定の恋人さまである。


 そして、特に何もないと分かっていても、わたしにしては珍しい寝間着を着てその一日限定恋人さまの前に立った。


 期間限定とはいえ、恋人と呼ばれる立場にある女がそんな姿になれば、九十九がどんな反応をするのかが気になったのだ。


 大きな好奇心と、小さな悪戯心。

 少なくとも、彼の何かを刺激するだろうなと、ちょっとした期待。


 その可愛らしい寝間着(ネグリジェ)は、胸元のリボンで締め付けて、その下から広がるゆったりとしたワンピースタイプだった。


 裾は長かったが、本来は膝丈らしい。


 うん、そこは仕方ない。

 わたしの足が短いのは今更だ。


 そして、それを提供してくれたワカが「夜の勝負服」と言っていたが、そこは気にしないことにした。


 わたしの友人は時々、不思議な感覚を持っている。


 だが、そこまでいろいろ考えた上でのわたしの行動に対して、特に九十九の方に変化らしい変化は見られたなかったのだ。


 確かにその姿を見た時に、少しだけ体内魔気が変化したような気がしたけど、すぐに落ち着いた。


 少しばかり薄い布地だったので、もしかしたら、はしたないとお怒りになったのかもしれない。


 それでも、透けて肌や下着が見えるようなものではないから、そこまで過敏に反応しなくてもいいんじゃないかな?


 しかも、その上、強制的に眠らせようとか、なかなか酷い恋人さまもいたものだ。


 いや、その辺りはちゃんと予測していたから、行動もしやすかったのだけど。


 ああ、そうか。

 いつもと違って、妙に下半身がスースーするのは、このためらしい。


 スカートで寝るって、落ち着かないんだね。


 これはもしかしなくても、布団の中で裾がド派手に捲れあがっている気がする。


 九十九に見られていないことを願おう。

 まあ、見られていたら、その時は仕方ないね。


 神足絆(ストッキング)も穿いていないノーガードだ。

 いや、いつもより少しだけ可愛い下着を身に着けているから完全に無防備ではないだろう。


 彼から見られることを想定(期待)していたわけではないけれど、可愛い下着は妙に気合が入るから勝負どころとして身に着けていただけだ。


 うん、勉強になった。

 やはり寝間着はゆったりとしたズボンが良い!!


「ああ、起きたか」


 九十九が振り返った。


 だけど、その顔は酷く疲れているように見える。

 もしかして、眠れなかったのかな?


 あれ?

 わたしが彼を追い出しちゃった?


 考えてみれば、一人用の寝台だ。

 そこに二人が寝るのは狭かったのかもしれない。


 添い寝をしたのは、わたしを眠らせようとした彼に対して仕返しと言うか、ちょっとした悪戯目的な意味があった。


 そして、()()()()も存在した。


 彼の傍は本当に安心できるし、ちょっとだけ甘えたくもなったのだ。

 昨日ぐらいは許されると思って。


 少し前に一緒に寝ていた時は、本当にぐっすりと眠れたから。

 それも遠い昔のことのような気がするが、まだ半年と経っていない。


 セントポーリア城で仕事をさせられていた時も同じ部屋を使わせてもらったけれど、その時は、流石に寝台は別々だった。


 だから、たまには、安心できる空間でゆっくりと休みたかったのだ。


 それを甘えと言えばそうなのだろう。

 これは、熱を出している間、母と一緒に寝たからかもしれない。


 仮にそのことで九十九から何かを言われたとしても、「一日限定恋人だから」と言い逃れをしようかと思っていた。


 仮とはいえ、恋人なら、一緒の寝台でも問題はないはずだから。


 でも、そんな自分勝手な思いが、彼の貴重な睡眠時間を邪魔していたなら大変、申し訳ない。


「おはよう」

「ああ、おはよう」


 身体を起こしながら、わたしが声をかけると、彼は同じように言葉を返しつつも、ふいっと目を逸らした。


 あれ?

 何故?


 まさか、この可愛らしい寝間着はわたしが着ると見苦しい?

 胸がささやかな人間が、胸元で絞るタイプの服を着るなと?


 それは酷い。

 ある種のセクハラだ!!


 いや、落ち着け。

 誰も、そんなことは言っていない。


 言っていないけれど、目を逸らされたのが気になった。


 わたしは、スカートの裾に気遣いながら、ゆっくりと立ち上がる。


 ぬ?

 寝る前はそこまで気にならなかったけれど、ぐっすり眠った今は、少し、この格好は恥ずかしいかもしれない。


 なんとなく、防御力が低いような、身を護る効果が薄いような、そんな心許ない感じもする。


 正直、早く着替えたい。


 でも、今更、そんなことはできないから、近くにあった掛布団を引き寄せ、そのままそれに包まる。


 うん、落ち着く。


「何、やってるんだ?」


 心底、呆れたような声。

 そこには、昨日までの甘さは全くなかった。


 そうだね。

 彼との一日限定恋人期間は眠っている間に終わってしまった。


 気付けば、夜が明けている。

 だから、わたしたちはいつもの関係に戻っただけ。


 だけど、後悔はない。

 反省はいっぱいある気がするけど……。


「このお布団、安心する」


 凄く、護られている感があった。


「お前の部屋にあるものと同じ材質のはずだがな」

「そうなの?」


 確かに色も同じだし、軽さも似ているけど、なんとなく違う気がした。


 自分の部屋の布団との違いは、匂いかな?

 このお布団には、()()()()()()があった。


 だが、それを口にする気はない。

 流石にわたしでも、その言葉が変態染みていると分かっているから。


「ところで、なんで、お前がこの部屋にいるのかを聞いても良いか?」


 わたしが九十九の布団の気配と感触を楽しんでいると、そんな問いかけをされた。


 彼の怒号が響き渡るまで、後数分。

まあ、怒られますよね?


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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