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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1962/2805

半日経過

「腕、大丈夫?」

「おお」


 それまで抱き抱えていたシアを、下ろした後、心配そうに覗き込まれたが、オレは本当になんともなかった。


 城下の森の入り口から、この湖がある広場まで、近くはないが、遠くもない。

 オレ一人なら、半刻(30分)ほどで走破できるような距離である。


 そして、彼女を抱えたところで、身体強化をするためにそんなに差はない。


 それだけ、シアは軽いのだ。

 もっと食え。


 まあ、行きのように、彼女のペースに合わせて二人で手を繋ぎながら歩くのも楽しかったが、抱えて進む方が、やはり良いものだと思った。


 早い遅いの問題ではない。


 まず、柔らかいのだ。


 軽いのに、あまりにも柔らか過ぎて、ちょっと力を入れただけで壊してしまう気がするほどに。


 そして、温かい。

 生きているシアの熱を感じられる距離と言うのは、本当に幸せだと思える。


 すぐ下に彼女の恥じらう可愛い顔が目に入るのも眼福だった。

 めちゃくちゃ可愛い。


 しかも、今日はオレのために、可愛い服を着て、可愛らしい髪型になっている。


 その服も以前、オレが一緒に選んだ物だったし、その髪にはオレが渡した魔力珠付きの(独占欲の証が付いた)ヘアカフスが付けられていた。


 さらに、普段は付けない色付きのリップまで自分で付けてくれているのだ。


 これで喜ばない男がいるだろうか? いや、いるまい。


 それが、「一日限定恋人」という名目の元であっても、彼女が、オレのために、()()()()()()()に行動してくれているのだ。


 そこが最重要。

 それだけで、オレはかなり浮かれそうになる。


 勿論、シアの反応は、男に慣れていないためだ。

 だから、相手がオレじゃなくても、同じような反応を返すのだろう。


 それが分かっていても、今だけ、本当に今だけは、オレだけの彼女だと思える。


 おお、錯覚だ。

 分かっている。


 明日になれば、いつもと同じ関係だ。


 大丈夫だ。

 それも理解している。


 だから、オレは全力で愛でてやる!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 思いっきり、シアを可愛がってやる!!

 今日だけは、それが許された。


 そこで、手を抜く理由などない!!


「無理しないでね?」

「お前を抱えたぐらいでどうにかなる腕じゃねえよ」


 そんなやわな鍛え方をした覚えはない。


 身体強化無しでも、シアを抱えてこの森の中を走り回ることができるぐらいの筋力はあるのだ。


 いざという時、あの「音を聞く島」のような結界のある場所や、魔封じをされた時に、全く動けないのでは話にならないからな。


「これからどうするの? コンテナハウスに戻る?」


 昼食を済ませて、既に今日という貴重な時間は半日を経過している。

 だが、すぐにコンテナハウスに戻るつもりはなかった。


「シアは動けるか? 疲れてないか?」


 抱き抱えられる方も、意外と体力を使うし、彼女の様子だと緊張していたようだから、精神的な疲弊もあるだろう。


 それが分かっていても、シアを横抱きにして歩きたかったのだから、仕方ない。


 今日のオレはいつもより、少しだけ欲望に忠実な行動をとることが許されているのだ。


 そんな機会を逃すほど、無欲な人間ではなかった。


「ヴァルに抱えられていたから平気だよ」


 そう笑ってくれる。


 その笑顔を見ると、思わずこの場で押し倒したくなる。

 いやいや、ここでそこまで欲望に忠実になったら、駄目だ。


 自重だ。

 我慢だ。

 抑制だ。


「また魔法勝負するの?」

「いや、今度は別のことをする」


 あの魔法勝負は、彼女の素直さを利用できたから勝てたのだ。


 いや、シアの性格と性質上、普通の勝負ならオレが負ける可能性は格段に低い。


 オレに怪我をさせたくないという彼女の強い意思が常に働く以上、かなり精神的な動揺を狙われない限りは簡単に負けることはないことを知ったから。


 だが、それはシアの理性と感情が働いている時のみだ。

 完全にブチ切れたら、オレは危ないだろうなと思っている。


 彼女をあまり怒らせないようにしたい。


「今度は、コレでどうだ」

「ふわっ!?」


 オレが差し出した物を見たシアの緑色の瞳が、翡翠輝石(ジェダイト)のように輝く。

 これだけで、今から何をするのかが分かったからだろう。


 今日は午前中、この場所で彼女と魔法勝負をすると決めていた。

 遠出をするならともかく、近場ならこれ以上の景色など望めない。


 それにシアの望みが「普通の女の子扱い」だというのなら、目の前にいる人間が護るべき相手だという意識を薄くできる魔法勝負は、オレにとっての最善だと思えたのだ。


 少なくとも、連続で魔法を繰り出し、相手からも繰り出されれば、余計なことを考える暇はなくなる。


 彼女の魔法精度が格段に上がっているからできたことだ。


 普通に考えれば、情調(ムード)を解さない男だと思われるだろう。


 だが、人間界で言えば、デート中に卓球や、テニスなどをするようなものだ。

 身体を動かすこと自体は悪くない。


 まあ、オレとシアの模擬戦闘となれば、かなり激しい運動ではある。

 結界があるこの城下の森でなければ許されないほどに。


 風属性魔法に限定したと言うのに、シアも随分、魔法が強く、多彩になったものだと勝負しながら思っていた。


 そんなオレの我儘に付き合ってもらったのだ。

 だから、午後からは彼女が好きな行動にしようと思っていた。


 案の定、オレの提案に浮足立っているのが見て取れる。


「服装はそれで大丈夫か?」


 一応、確認する。


 今のシアの服装はスカートではないが、スカートのように裾が広がるワイドパンツだ。


 だから、城下に出る時は問題なかった。


 どちらかと言えば、閉鎖的で保守的な人間が多いこの国の者は、まさか、そんなタイプの服が他国にあるなんて思わないだろう。


 普通に歩けば、ただの長いフレアースカートに見えるし、実際、見咎められてもいない。


 その服装で魔法勝負をしたが、魔法勝負中の彼女はオレのように動き回ったり飛び回ったりするタイプではなく、どっしりと身構えて相手の攻撃を受け止めた後、確実に反撃してくるタイプだ。


 だから、魔法勝負の邪魔にもならなかった。


 だが、今からの行動は違う。

 オレよりもシアは動き回りたくなるだろう。


 それなら、いつも穿くようなパンツスタイルの方が良いと思ったのだが……。


「ああ、ヴァルは()()()()()()()()()()()()

「慎みを持て」


 咄嗟の言葉に思わず、素で返してしまった。


 しまった。

 今日一日は、欲望にやや従う形で良かったのに。


 だが、ミニスカートなんかで運動されたら、気が散って集中することなどできない!!

 足しか見ない自信がある!!


 恐らく、テニスのようにアンダースコートのような物を穿くだろうと分かっていても、ひらひらと短いスカートが揺れたら、男の視線はそれしか捉えないだろう。


 見えるか見えないかが問題ではない。


 悲しいけれど、それが習性なんだ!!

 男の(サガ)なのだ!!


「そうだね。流石にそれはないか」


 シアの方も冗談だったようで、笑いながらもあっさりと引き下がる。


 少し、残念だが、集中できないよりはマシだ。

 ここからは、彼女を楽しませる方向に全力を尽くす!!


 だから、集中できないなんて無様を晒す気などさらさらねえ!!


「このままで大丈夫。制服でやったよりはずっとマシだからね」

「ちょっと待て? お前、制服でやったことがあるのか?」


 彼女の中学時代の制服を思い出す。


 今より髪がかなり短くて、そして、今よりも少しだけ小さくて、何より今とは別方向で可愛かった。


 ……違う。

 いや、今にして思えば、オレは栞のことをそう思っていたらしい。


 ちょっと、今、自分の思考に驚いた。


 そんな彼女の制服姿は、スカートの長さが膝下と、今の時代に珍しい長さではあったのだが、広がりやすいプリーツスカートだった。


 あれで動き回れば、いろいろと危なかったのではないだろうか?


「あの時、周囲は女の子ばかりだったからな~」

「そこじゃねえ」

「逆に、そこで一人だけジャージに穿き替える方が、場の雰囲気を壊さない?」


 そう言われて考える。

 オレには分からない女子文化ってやつだ。


 だが、周囲が皆、制服姿の女子中学生しかいない状況なら、一人だけジャージ姿になれば、確実に浮くことは間違いない。


 それでも、スカートなんかで運動するなよと常識的なことを言ってやりたい。

 どこで、誰が見ているのかなんて、誰にも分からないのだ。


「まあ、もう戻れない過去のことだよ。気にしない、気にしない」


 シアは笑いながら、そう言うと……。


「ヴァルは、今を楽しませてくれるのでしょう?」


 さらに挑戦的な表情をオレに向けたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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