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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1956/2804

【第103章― 際会を前にして ―】デートの始まり

この話から103章です。

逢引の章。

いつもとちょっとだけ違う二人をよろしくお願いいたします。

 いつもと違う朝。

 いつもと違う服。

 そして、何より、いつもと違う名前。


 それだけでいつもと違う日になった。

 そんな気がしたのに……。


 やはり、九十九はどこまでも九十九だったことを、わたしは思い知るのだった。


***


風魔法(Wind)

「突風!!」


 互いの風属性魔法が打ち消し合う。

 やはり、ただの風では彼の基本魔法にもまだ勝てないらしい。


風刃(Wind )魔法(blade)


 見えない刃がいくつも飛んでくる気配。

 だけど、その魔法は九十九……、いや、ヴァルの魔力でできている。


 それなら、わたしは、見えなくても分かる。


「竜巻!!」


 わたしの周囲に風の渦がいくつも発生する。


「いっけ~!!」


 その風の渦が、そのままヴァルに向かっていったが……。


「甘い!!」


 彼は、魔法を使うことなく、耐えきってしまう。


「ず、ズルい……」


 いくらなんでも、規格外すぎる。


「この程度の魔法で、オレを倒せると思うなよ? シア」


 分かっている。

 相手は、わたしの魔法に耐性がある護衛。


 だけど、勝負する以上、負けるわけにはいかない。


「分かった。威力をもっと上げるよ」


 わたしはヴァルに向かって構える。


 彼なら、わたしが多少、威力を上げても耐えきってしまうことを承知で。


「おお、楽しみだ」


 ヴァルも好戦的な笑みを見せた。


 さて、どうして、こうなったのか。

 話は、一刻(一時間)ほど前に遡る。


***


「ほ~」


 いつ来ても、いつ見ても、見事なまでの景色に自然と声が出た。


 特に今日は気分が違う。

 だから、見える景色も違う気がした。


「いつも見ているだろ?」


 だが、ここに連れてきた当人は何の感慨もないような言葉。


 うん。

 彼はもっと情緒的な面を伸ばすべきだと思うのです。


「いつも見ているけど、それでも、綺麗な景色だと思うから仕方ない」


 湖の畔でミタマレイルが咲き誇る光景。

 それは確かにいつも通りだ。


 朝と昼は、木々の間から光が降り注いで水面がキラキラし、夜はミタマレイルの花の光で幻想的な風景を映し出す。


 これを見て、「いつも通り」と思えるのも、ある意味、幸せなことなのだと思う。


「それじゃあ、()()()()

「へ?」


 いきなり、銀髪碧眼の美形はそんなことを言った。


「何を?」

「魔法勝負」

「はい!?」


 驚いてそう問い返したわたしは悪くないと思う。


「ここなら結界があるから、大丈夫だろ?」


 さらに言葉を続けられても、その意味を理解しても、どこか納得できないものがある。


 せっかく、いつもよりお洒落して、浮き立つ気持ちのまま、綺麗な景色を見た後に、魔法勝負。


 これって、この世界の普通なのだろうか?


 あれ?

 世間一般のカップルは常に魔法勝負をしている?


 いやいやいや、そんなの魔法国家ぐらいだと思う。


「本当は少し前に利用させられた契約の間を使えたら一番良かったんだが、流石にそこなら家主が首を突っ込んでくる気がしてな」


 それはセントポーリア城のことですね。

 そして、家主って……、この国の国王陛下のことですよね?


「ここのところ、書類と向き合ってばっかりだったし、筋トレとイメトレぐらいしかできていなかったから、オレに付き合って欲しいと思ったが、嫌か?」

「ぐぬっ!?」


 確かに、少し前まではセントポーリア城で暴れさせてもらったけれど、最近の運動らしい運動と言えば、ちょっとキャッチボールをしたり、遊泳をしたぐらいだ。


 どんなに記録が得意でも、いろいろ調べることが大好きでも、同じことばかりの繰り返しでは、九十九……、いや、ヴァルがストレスを抱え込んでいてもおかしくはないと思っていた。


 しかも、ストレス解消だとしっかり理由を言ってくれた上で、それに付き合う相手として自分を選んでくれたなら、断るのはちょっと違う気がする。


「ハンデは?」


 いくら何でも何もなしでは、わたしが辛いことは分かっている。

 まだまだ実戦経験が足りていないのだ。


「互いに」

「ほへ?」

「今回の魔法勝負は風属性の魔法限定っていうのはどうだ?」

「それだと、わたしの方がかなり不利じゃない?」


 彼はわたしの風属性魔法にかなり強いのだ。


 しかも、わたしの一言魔法は、風に限定してしまうと威力が落ちる気がする。


「そうか? 魔法力、魔力的にはお前の方が有利だぞ?」

「どんなに威力のある攻撃も、当たらなければ意味がないのです」

「それならば、当たらない攻撃を当てるための練習だと思え」

「うぬう……」


 確かに、当たらないから当たってくださいと相手に願うのは何か違う気がする。


 でも、全く当たらないのは、逆にわたしにとって、ストレスになりかねないのではないだろうか?


「それに互いのガス抜きだからな。当たらないぐらいが丁度いい」

「いや、当ててやる」

「シアは勇ましいな」


 そう言いながら、ヴァルは柔らかく笑った。


 いつもよりもずっと、温かくて落ち着く瞳と優しく低い声。

 それが、わたし(シア)に向けられているのは妙な気分になる。


 その雰囲気に、同じ年齢の青年ではなく、ちょっとだけ年上男性にも思えてしまう。


 護衛ではない彼はこんな風に笑うのか。

 普通の女の子にはこう話しかけるのか。

 恋人にはこんな視線を向けるのか。


 そんないろいろな発見と、様々な感情が混ざり合って、なんだか変な感覚だった。


 だから、気分を別方向に集中させることができる魔法勝負は、ある意味、わたしが望むところである。


 魔法勝負中なら、余計なことを考えない。

 そして、目の前の強敵(ヴァル)を倒すことだけを考えられる。


 そのために、魔法勝負を受けることにしたのだが……、案の定、互いに決定打を与えられない状況が続くことになる。


 いや、思ったより、わたしの魔法はヴァルに当たっているのだ。


 だが、ノーダメージ。

 服どころか、その銀髪(かつら)を吹き飛ばすことすらできない。


 そして、彼からの攻撃はわたしの身体に当たらない。


 自分が対応し損ねても、「魔気の護り(自動防御)」が反応してしまうのだ。


 そう、()()()()()()()()、わたしは「魔気の護り(自動防御)」が発動する。


 この違いはかなり大きい。

 つまり、これだけ実力の差があるということだ。


 ヴァルの「魔気の護り(自動防御)」は一切、働かない。

 それはつまり、当たっても害がないということ。


 そして、わたしの「魔気の護り(自動防御)」は仕事している。

 言い換えれば、当たるとそれなりに怪我をする可能性があるということになるのだろう。


 わたしの「魔気の護り(自動防御)」は、自分が身の危険を感じる時に発動することが多いのだ。


「悔しい!!」

「それはオレの台詞だ」


 そう言いながらも、彼は攻撃の手を緩めない。

 この辺りの感覚もわたしよりずっと優れていると言えるだろう。


 わたしは次の行動に出る時、思考が遅い。


 だは、ヴァルは戦闘慣れしているだけあって、次々に手を変えていく。


 風刃魔法だけでなく、風弾魔法で無数の風の弾丸を撃ち込んでくるし、風槍魔法なんか出された時には全力で風の盾魔法を使うことになった。


 これが通じなければ、次はこれ。

 それも通じなければ、同時にいくつも魔法を使ったりと、魔法を同時に行使してくるのだ。


 その一つ一つの威力が笑えないのだから、どうしても後手に回るしかなくなる。

 後手に回ると、自分の攻撃に繋がらない。


 さらに、彼の方は、身を護る必要もなく、次々に魔法を繰り出してくる。


 なかなか酷い話だ。

 一方的な展開にならないのが不思議なぐらいに。


 まるで、水尾先輩を相手にしている気分だった。


 風属性魔法のみと、使える魔法が限定されているというのに、これだけの技術の差を見せつけられているのだ。


 魔法制限がなければ、どれだけ彼との差が開くのだろうか?


 いや、待て?

 ヴァルは勝負前に、「魔力、魔法力だけみれば、わたしの方が有利」と言ってくれた。


 そして、彼は絶対にわたしに対して嘘は言わない。


 それなら……?


 もっと強く思う。

 彼をふっ飛ばすイメージを強く持つ。


「勝負!!」


 目の前に撃ち込まれてくる風弾魔法。

 それらを呑み込むほどの暴れる風。


 わたしの「魔気の護り」乱れ撃ちよりも、もっと強く、強く、強く!!


「爆風大砲!!」


 わたしの全身から、セントポーリア国王陛下が使う「暴風魔法(Tempest)」によく似た荒れ狂うような風を纏った竜巻魔法が発射される。


 これで駄目なら……。


 わたしがそう思った時……。


(wind)属性防壁(protective)魔法(wall)


 低い声が響き渡り、ヴァルの周囲に橙色の薄い膜が張られたのが分かった。


 これまで何も対策をしなかったわたしの魔法に対して、彼が今回、初めて防御魔法をしたと気付く。


 そして……。


「遅い」


 さらに続く無情な声で、自分の意識が遠のいていく。


 そして……。


「今日は、オレの……勝ちだ」


 そんな言葉を意識の上部で聞いた気がした。


 そこはもうちょっと勝ち気な感じで言って欲しい。

 こう拳を上に突き上げながらの決めポーズなら最高だ。


 違う!!

 仮にもデート中だというのに、そんなことを言う恋人ってどうなのか?


 そんなことを薄れゆく意識の中で思ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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