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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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1953/2805

デート前日

 自分が阿呆な申し出をしてから、六日が経過した。

 つまり、明日が、九十九との約束の日となる。


 だけど、不思議なほど、今までと何も変わらなかった。

 わたしが拍子抜けしたのは言うまでもない。


 あの時点で九十九が持っていた物のほとんどは識別が終わっていたということもあって、あまりわたしが頑張る必要もなくなっていた。


 さて、改めて考える。

 わたしは何故、あんなことを言ったのかと。


 よくよく考えてみれば、わざわざ「一日恋人」扱いって必要なくない?

 普通に「貴重品扱い止めて」って頼むだけで良くないかな?


 後からになってそんな考えが次々と思い浮かんでしまうのだ。


 でも、あの時はそう言うのが一番だと思ってしまったのだ。

 どうあっても、九十九はわたしを「貴重品扱い」することは止められないだろう。


 だけど、それはわたしが嫌だった。


 だから、妥協案として提示したつもりだったのだけど、よくよく考えたら、アレもおかしいよね?


 ある意味、彼が逆らえない立場であるのを良いことに、無理矢理、関係を迫った女だ。


 これは酷い!!

 最悪だ!!


 だけど、あの時は本当にそれ以外、考えられなかったのだ!!

 だから、仕方ない!!


 それに、もう約束してしまった。

 わたしの申し出に九十九は笑顔で答えてしまったのだ。


 それに一日だけだ!!


 あの笑顔が気になるところだけど、まあ、承知されたのだから、大丈夫だろうと無理矢理、思い込む。


 でも、恋人って普通、何する?

 いや、デートしてって自分から言っているのだから、明日は一日デートなのだろう。


 そうなると、城下に出ることになる?

 それが多分、一般的なデートだよね?


 でも、リプテラのような見どころ満載の町と違って、セントポーリア城下にそんな恋人同士がイチャイチャできそうな場所ってあったっけ?


 いやいやいやいや!!

 イチャイチャする予定などないけど。


 城下の商店街は、体育大会に日除けとして使うようなテントに似た簡単な作りの店が立ち並んでいて、元気な店員さんたちが大きな声で営業をしているような場所だ。


 どう考えても、恋人たちが行くような場所ではないことは、経験がないわたしにだって分かる。


 そうなると、書物館?

 いや、それだと、いつもとあまり変わらないよね?


 しかも、わたしは本を読みだすと、完全に集中してしまう。


 それでは、恋人っぽくない。


 あれ?

 わたし、よく考えていなかったけれど、九十九にかなりの無理難題を強いた?


 わたしが知る限り、九十九も異性との交際経験はあまり多くない。


 人間界にいた時は付き合っていた人がいたことは知っているけど、ここは娯楽が多い人間界ではないのだ。


 恋人たちのお約束、遊園地、水族館、動物園、映画館、ゲームセンターなどのアミューズメント施設などない。


 この世界の人たちってどうやってデートしている?


 ワカは恭哉兄ちゃんと交際と言うか、婚約状態にあるけど、あの二人は特にどこへ出かけるでもなく、城内で会っている。


 いや、会っていると言うよりも、恭哉兄ちゃんが家庭教師のような役どころにあるままなので、会わざるを得ないというのが正しい。


 つまり、人間界で言う「お(うち)デート」というやつ?

 そうなると、わたしたちの場合、いつもと変わらないよね?


 しかも、毎日の食事の時間を約束しているところがデートと言えなくもないような?


 いや、唸れ!!

 わたしのマンガ脳!!


 数々の少年漫画、少女漫画を読んできた中に、家のデートだって結構、ある……、が、それらのほとんどって、やたらと距離を離すか近付けるかの二択である。


 そして、わたしと九十九は、少女漫画や少年漫画の付き合いたてカップルがやるような行動はほとんど日課だ。


 お互いに本を読み合ったり、勉強をしたり、手料理をしたり、食事をしたり。


 あれ?

 わざわざ、デートする意味、なくない?


 いつもと変わらないのだから。


 いやいやいや、目的は「貴重品扱い」を避けることだ。

 だから、家でも、外でも、どこでも問題ない。


 だが……。


「服……」


 前にも悩んだことがある。


 あの時も頭を抱えた。

 そして、今回も頭を抱えることになった。


 化粧とかもどうしよう?


 必要な時は、いつも、九十九か雄也さんにやってもらっているが、流石にデート相手にそれをお願いすることはできないだろう。


 化粧なし?

 デートなのに?


 女性として、いろいろなものをぶん投げすぎていない?


「うぐぐぐ……」


 何よりも、わたしが提案したのに、わたしが悩むってどういうこと?


 そんな風に、一晩中、わたしはぐるぐるしていたのだった。


***


「さて、どうしたものか」


 ここ数日。

 オレは頭を悩ませていた。


 明日、栞と約束した日ではあるが、いまだにオレは迷っていたのだ。


 この世界の一般庶民がするデートと呼ばれる行為は、共に出かけることか、共に家で過ごすことである。


 人間界でも同じか。

 違うのは、娯楽施設の有無だが、この世界の人間はそれを問題としない。


 二人でいれば、どこだって楽しめるということか。


 その気持ちはよく分かる。

 オレも栞がいれば問題ないのだ。


 そして、この国の貴族は二人だけで出かけることもしないし、下手すると、結婚まで会うこともないらしい。


 貴族と呼ばれる血筋の人間たちは、ほとんどが政略結婚である。

 つまり、分かりやすく利益がある結婚をするのだ。


 そのために、結婚前から頻繁に会うことで、相手のことが嫌になっても簡単に破談……破約はできない。


 だから、できるだけ会わないという選択は間違ってもいないのだろう。


 オレとしては、いつもの状態が既に、似たようなものなのだから、それでも問題ないとおもっている。


 だが、栞は恐らく納得しない。


 顔を真っ赤にしながら「これじゃあ、いつもと変わらないじゃないか!! 」そんな台詞を吐くところまで、容易に想像できる。


 栞は人間界でも漫画が好きだった。


 そして、彼女自身、男女交際の経験は皆無だ。

 それは当人の口からも何度も語られている。


 つまり、「デート」と呼ばれるものに、妙な理想があるだろう、絶対に。


 そこが、オレの悩みどころだった。


 デートをする場所として、夜景を見下ろせるレストラン、海辺、丘の上の花畑などと一昔前の少女漫画のような夢を抱かれているとかなり困る。


 だが、現実的ではないと分かっていても、彼女の夢はあまり壊したくない。


 これが兄貴だったら、さらりとこなすだろう。

 それが分かっているはずなのに、何故、オレを相手に選んだのか?


 単純に、身近にいたということだろうし、オレの日頃の扱いもあるだろう。

 栞は「貴重品扱い」は嫌だと言っていた。


 兄貴も栞を大事にしているが、オレとは対応が違う。

 オレは兄貴ほど器用ではないのだ。


 大事だと思うからこそ、手元で護りたい。


面倒(めんど)くせえ」


 これが、本当の恋人なら迷わない。

 迷う必要もないのだ。


 好きなように行動ができる。


 だが、一日だ。

 たった一日なのだ。


 それでは、下手に恋人らしい行動もできないと思うのはオレだけか?


 そもそも、どこまで許される?


 キスやそれ以上の接触行為は無理だ。

 それは分かる。


 建前に「男慣れしていないからそのために」と付いていても、本物の恋人ではない以上、栞は嫌がるだろう。


 抱擁は、微妙だな。


 外に出れば、交通手段の一つとして、抱き抱えて崖の上を上がるしかないからそれは問題ない。


 だが、それ以上のことは駄目だろう。


 あれ?

 割と何もできなくないか?


 そして、そんな中で、「貴重品扱い」するなと?


 無理じゃないか?

 結局のところ、関係は何も変わらないのだから。


 本当に酷い女だ。

 何気ない言葉一つで、オレを大いに振り回しやがる。


 いや、これは識別魔法の礼なのだから、オレの方が振り回されるのは仕方ないのか。

 栞がそれだけ苦労したのだと割り切ろう。


 少し、いや、かなり納得いかないが。


 でも、まあ、なんとなく、方向性は見えたか。

 要は、栞を「貴重品扱い」せずに済む方法を考えれば良い。


 そして、同時に、日頃、我慢している部分を少しだけ解放すれば良いのだ。

 多少、いつもより接触が増える部分ぐらいは許してもらおう。


 これが「男女の距離」だと。


 そうと分かれば、栞に連絡だな。

 「デート」の基本は、待ち合わせ時間の設定からなのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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