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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 剣術国家セントポーリア編 ~

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識別魔法の検証結果

 あれから、結構な量の物を検証した。

 正しくは、栞に識別魔法を使ってもらった。


 傍から見ても、拡大鏡を使っての識別行為は、彼女の魔法力をそこまで減らさないことはよく分かる。


 いや、それだけ、この場所の魔法力の回復量が多いだけなのかもしれないのだが。


 その際、栞の識別魔法に関していろいろなことが分かった。


 ほとんどのものは、彼女曰く青いふきだしに白い文字でその識別結果が表示されるらしい。


 表示時間は、物による。


 加工物、誰かの手が入った物は短いもので5分(十二分刻)ほど。

 長くても10分(六分刻)はもたない。

 自然物、天然物に関しては、平均10分(六分刻)


 但し、口にする程度なら良いが、その結果を何かに書きつけた後は、割とすぐに消えることが多いらしい。


 あと、拡大鏡を対象から外すと、次の瞬間には消えているらしい。


 だから、本人に記録させようとすると、栞の可愛い焦りっぷりを見ることができる。


 さらに栞を焦らせたミタマレイルと「神装」のような表記は、天然の魔石、それも、栞に視てもらった限りでは、オレが持つ中でも極上の、最高級と呼ばれる種類の物でなければ現れなかった。


 ああ、後は、栞の左手首を護っている「御守り(アミュレット)」か。

 予想をしていたけれど、とんでもない物だった。


 オレが持つ最高級の魔石が霞んでしまったのは、分かっていたけれど、かなり悔しい。


「【導キト恩恵ノ守護〔白〕】導キノ女神ト恩恵ノ女神ノ守護ヲ得タ装飾品。身ニ着ケタ魂ニ神力ヲ分ケ与エ、神扉ヲ開ケル資格ヲ得ル。神扉ノ護リ人ヨリ選バレシ神子以外ガ持テバ()ノ怒リヲ買ウ」


 本当に、なんてものを栞に渡したのですか? 大神官猊下。


 思わず、そう遠い目になったことは許されても良いはずだ。


 その結果を書きつけた後、栞は「何度もパワーアップしちゃったからね」と笑っていたが、そんな簡単に済む話ではないだろう。


 特に「白」の表記。


 時々ある、色の表記が神を差しているというオレの予測が正しければ、「白」に該当する力に該当する神など、一神しかいない。


 この時点で、オレは考えることを放棄したかったが、栞が記録した以上、現実は追いかけてくる。


 兄貴に伝えた上で、大神官にも「識別魔法」を隠しつつ、確認するしかないだろう。


 実際、栞の「御守り(アミュレット)」は、彼女以外触ることもできないし、そう言い含められている。


 その辺りから、問うことは可能だろう。

 尤も、あの大神官に隠し事などできるはずもなく、すぐにバレそうな気はするが。


 栞の話では、あの方、精霊族の血を引いているっぽいからな。


 読心術に近い能力を持っているんじゃないかと栞が言っていたのも、彼女の表情が読まれやすかっただけではないらしい。


 ただ意外だったのは、神力関係のことは書かれていたが、護りとしての効果が全く書かれていなかったことだった。


 護るために、どんな効果が出るかは分からない。

 ただ神の守護があるということだけ。


 それでも「加護(助け)」ではなく、「守護(護り)」だ。

 普通では考えれない効果があるだろう。


 オレが気付かないところでも、何度も、栞を護ってくれていると思われるあの「御守り(アミュレット)」は、既にオレが贈った時の面影など、それらを繋ぐ銀色の鎖ぐらいしかなくなっている。


 それが、少しだけ淋しかった。

 だから、まあ、魔力珠が付いた装飾品を彼女に贈る気になったのだが。


 しかも、それを思い立ったのは無自覚だった時期だ。


 どれだけ自身の感情を押し込め、そして、同時に、自分の気持ちに鈍かったのかと今なら思う。


 加工物についての識別結果は、加工の仕方やその効果によって、いろいろ文面が変わるらしい。


 栞が笑いながら教えてくれた。

 だが、その結果が表示されるたびに、ふきだすように笑うのはどうかと思う。


 特にオレが作った薬や菓子を含めた料理、酒はいろいろ興味深い結果が出ているようだ。


 料理については、そのほとんどに具体的な名称がなく、オレが一度口にしたとおりの名前で表記されることは多いと栞は言っていた。


 具体例を挙げるなら、「クッキーのような焼き菓子」である。


 自分で言うのもあれだが、もう少し、マシな名称はなかったものだろうか?


 その次に、「ツクモが作った焼き菓子」という文字が続き、そこに味と、たまに使われた食材が追加され、さらに最後に「人間界の焼き菓子を参考にしている」などと書かれている。


 事実だが、なんとなく、複雑だった。


 そして、他の菓子や料理に関しても、「~のような」、「~に似た」、「~を模した」、「~っぽい」などの表記から、オレのオリジナルは意外と少ないことも気付く。


 それはちょっと悔しい。

 特に菓子類にその傾向が強い。


 この世界にそれだけ菓子と呼ばれる料理が少ないためだろう。


「あなたが名付けたら、名称が固定されるかもよ?」

「馬鹿言え。人間界で考案された菓子を勝手に別世界で再現して、堂々とその名前を付けられるかよ」


 創作者に申し訳ない。


 オレがそう言うと……。


「材料も、工程も違うのだから、誰も咎めないと思うし、十分、あなたのオリジナルってことで名付けても良いと思うのだけど」


 栞が少し考えてそう口にした。


 そこで何度目かの実験。


 既に「クッキーのような焼き菓子」となっている名称の菓子に、「小さな焼き菓子(ティクシブ)」と名付けてみる。


「頼んだ」

「了解!!」


 栞が元気よく返事をして識別をする。


「クッキーのような焼き菓子。ツクモが作った焼き菓子である。様々な形を模している。口当たりがよく甘さは控えめ。食べると適度に固く、さっくりとした食感が楽しめる。人間界の『型抜きクッキー』と呼ばれる焼き菓子を参考にしている」


 さっきも思ったが、適度とは誰の適度だろうか?


「名前は変わらなかったな」

「ふむ。今度は、新たに作った直後に名付けてみるとか?」


 栞がそう提案する。


 確かに出来上がった菓子に「識別魔法」をかけて結果が表示されているのだ。


 そこから、さらに、未加工のまま、名付けても遅いのかもしれない。

 だが、そんな都合の良い菓子は流石に存在しない。


「それか、まだ誰にも公開していない試作品のお菓子を名付けて、今からわたしに御馳走してくれるとか?」

「お前が食いたいだけだろう?」

「そうとも言う」


 栞がにっこりと笑う。


「完全に試作状態の菓子をお前に出せるか」


 栞の前に出すのは、ある程度、自信を持てる状態にしてからだ。

 完全な試作品を他人に出す予定はない。


「菓子を食いたいなら、この『クッキーのような焼き菓子』を素直に食らっとけ」

「それが、御馳走してくれる人の言葉かな?」


 そう言いながら、栞は既に手を合わせている。


 だから、オレは肩を竦めながらも、手を拭くおしぼりを出した後、「クッキーのような焼き菓子」を改めて、皿に乗せ、それにあうお茶とともに差し出す。


 栞はそれを見て、嬉しそうに手を拭き、改めて手を合わせながら、「いただきます」と一礼した。


「美味しい。この程よい固さが人間界のクッキーを思い出して嬉しいんだよね~。しかも、あなたが作るのは甘すぎないのも良いよね。人間界の手作りの型抜きクッキーって、たまに砂糖の塊みたいに甘いのもあるからさ」

「手作りの型抜きクッキーで砂糖の塊みたいな甘さって、結構、難しいぞ?」


 市販のクッキーの素を使っても、基本のプレーンクッキーを作っても、ある程度、レシピ通りに作れば、そこまで甘くはならない。


 まあ、型抜きクッキーでも、アイシングクッキーやシュガークッキー、ジャムサンドクッキー、ステンドグラスクッキーのように外からさらに糖分を足して甘さを増すことは可能だが、栞が言っているのは普通のプレーンクッキーのことだと思う。


「そうなの? でも、中学時代の友人は、妙に甘すぎるクッキーを作って持ってきたよ。砂糖の見た目はごく普通のクッキーなのに、砂糖のジャリジャリ感が凄かったの」

「それは分かりやすい砂糖の入れ過ぎだな」


 その分、保存は長くできそうだ。

 人間界での砂糖は防腐効果があり、品質を安定させる効果がある。


 だから、昔は高かったらしいが。


 それでも、限度はある。


 見た目は普通のクッキーなのに、砂糖の食感を楽しめてしまうというのは、恐らくかなり大量に投入した結果だと思うが、それでも、ちゃんと焼きあがっているということは、絶妙なバランスで作られているのだろう。


 人間界でもレシピに逆らう菓子作りは、失敗の原因になる。


 砂糖を通常の二倍にしたぐらいでは、まだ砂糖の食感を楽しむことはできないはずだが、どれだけ砂糖を投入して、さらには見た目を普通に焼き上げることに成功したのだろうか?


 謎である。


「あのクッキーこそ識別したいかも」


 クッキーを口に入れながら、オレの気持ちを代弁するかのように栞はそう笑うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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